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白藤博行 ·専修大学名誉教授/弁護士

衆議院総務委員会(2024-05-21)での発言

第213回国会 ·第第20号号 ·3,758字
○白藤参考人 こんにちは。専修大学名誉教授の白藤です。よろしくお願いいたします。  今回は、地方自治法の改正案の中で、第十四章の国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と地方公共団体との関係等の特例、この陳述では特例的関与と申し上げますが、それについてのみお話をしたいと思います。  まず、改正法案の第二百五十二条の二十六の三でいわば特例的関与に係る意義が書かれております。その中でもちろん一番重要なのが国民の安全に重大な影響を及ぼす事態とは一体何だということなわけですが、この概念自体は、地制調の第十八回の専門小委員会で突然、事務局の側の整理としてタイトル変更で出てきたものでございます。非平時と言われてきたものをそういう表現をしたわけですが、委員の中でも非平時についてはかんかんがくがく、けんけんごうごうの議論があったと承知しております。したがって、そのままそれをその性質に着目して表現したこの概念自体にも、いろいろな概念的な曖昧さが残っていると承知しております。  同条の中身を少し整理しますと、国の関与だけに着目すると、各大臣は、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態の発生又は発生のおそれがある場合に、自ら生命の保護の措置を講ずるか、あるいは適切な普通地方公共団体がそれに対する同措置を講ずるか、その場合に必要とあれば意見の提出を求める、要求することができるという規定です。もちろんこれはこれに限ったことではなくて、同条の第二項の意見の提出の要求にも、あるいは、後で特権的指示という言い方をしていますが、生命等の保護の措置に対する指示等においても同様のことでございます。  まず、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態の概念の曖昧さということに関してなんですが、御承知のように個別法の規定では想定されていない事態が念頭に置かれていて、それは専門個別行政領域ごとの個別法でも想定できない事態ということであれば、地方自治法という一般法でも想定できるはずがございません。これに対処することはまるでUFOの出現や宇宙人の襲来に備えるような話だと私は思っております。備えあれば憂いなしということかも分かりませんが、備えの段階で身を滅ぼすような改正案の定義になっていないかということを危惧いたします。  地方自治法においておよそ想定し得ない事態を想定して、その事態に対する権限を一般的、抽象的に行政権に授権することはいわゆる白紙委任に近いものであって、行政の授権と統制の法としてできるだけ要件と効果を厳密に定めようとする行政法の世界では想定し難いことだと考えます。  ちなみに、地制調の専門小委員会ではこの非平時の範囲については自然災害、感染症、武力攻撃が同時並列的に議論されてきたところであって、この議論にのっとれば、当然に武力攻撃災害のような事態も非平時の範囲に含まれることになろうかと思います。  例えば、具体的に考えてみると、事態対処法に存立危機事態というのがございます。確かに存立危機事態は日本国が直接攻撃対象となる武力攻撃事態等とは区別され規定されておりますが、事態対処法において想定され対処することになっているというわけです。総務大臣が繰り返し答弁されているように、想定される事態については法律で必要な規定が設けられており、本改正案に基づくような関与を行使することは想定されていないということなのかも分かりません。  しかし、他国に対する武力攻撃の発生を契機として日本における武力行使が開始され、そのことにより日本が武力攻撃を受けた場合と同様の深刻で重大な影響が及ぶことが明らかになる状況が客観的、合理的に判断して認められるような場合があり得るとすれば、これは仙台高等裁判所の昨年末の判決からの引用ですが、そのような場合の存立危機事態は個別法である事態対処法で想定されていない事態ではないでしょうか。つまり、改正案における国民の安全に重大な影響を及ぼす事態の発生あるいは発生のおそれがある場合というのは融通無碍に広がるおそれがあるということです。  改正案では、大規模な災害、感染症の蔓延その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態の範囲は、大規模な災害、感染症の蔓延にとどまらず、被害の程度に着目した概念である限り融通無碍に拡大することになりましょう。おのずと、かかる事態の発生等を要件とする国の指示権の発動の範囲も無限定に広がるおそれがございます。したがって、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態は厳しく要件を定義したというんですが、国の指示権等の発動要件を規定するには無内容な規定だと言わなければなりません。  かなり飛ばしまして、次に、改正法案の第二百五十二条の二十六の四の事務処理の調整の指示及び二百五十二条の二十六の五の生命等の保護の措置に関する指示について少しお話を申し上げます。  まず、第一なんですが、いわゆる補充的指示権と言われているものの必要性というのは個別法では規定できない、したがって個別法に基づく指示権の行使が不可能だ、それを可能にするために補充的に一般法たる地方自治法で定めるということなんですが、このような一般法主義の理解はおよそ地方分権改革そして九九年の改正地方自治法の趣旨とするところではございません。  地方自治法における一般法主義の原則というのは、関与法定主義といっても、それぞれの法律で関与をどれだけでも強化する規定を置いてしまえばどこまでも関与は強化される、それを一般法である地方自治法において直接定めることによってその関与の強化を法的に枠づける、そういう意味があったものでございますので、これは誤解あるいは濫用というふうに理解しております。  二つ目、自治事務と法定受託事務の区別がない特権的指示であろう。  これは礒崎参考人もおっしゃいましたことと重なるわけですが、本改正案では自治事務、法定受託事務の区別がなく規定されております。しかし、この自治事務と法定受託事務というのは、機関委任事務を廃止して新たにつくられた事務の区分として大変重要なものでございます。特に、自治事務に関しては国の関与を最大限抑制するということでありますので、その自治事務と法定受託事務を一緒にしてしまって規定するということは到底考えられないことでございます。  同様に、適法、違法の区別もなく、事前、事後の区別もなく特権的指示権が行使されることになっている。  こちらも自治法の二百四十五条の五、六、七、その辺の規定を見ていただくと分かるんですが、何らかの措置をまずは地方公共団体がする、事務処理をする、それが間違っていたときに初めて関与するという事後的関与の原則が取られております。したがって、事後的関与ではなく事前的にも関与できる、適法であっても関与できる。これは到底、分権改革、改正地方自治法の趣旨に合うものではございません。  次に、改正法案の二百九十八条、これはマイナーな規定なんですが、ここに法定受託事務とは何かということが書いてあります。  今回、第二百五十二条の二十六の四及び二十六の五第三項等で指示された事務は全て、都道府県の事務であっても、市町村の事務はちょっと限定されてはおりますが、あるいは自治事務であっても第一号法定受託事務になるというふうに規定されております。ということは、今回の特権的指示権が行使されればその対象となる事務は全て法定受託事務になる、こんなことが許されていいはずがないと思います。  そのことは、次の四のところの違法、不当な特権的指示に係る救済制度とも関係しております。  現在の関与が違法であるときの救済制度というのは、国地方係争処理委員会やあるいは場合によっては裁判所にも出訴できる、取消し訴訟ができるようになっておりますが、果たして違法な特権的指示が行われた場合にどのような救済制度が用意されているのか。もちろん現行の通例的関与のものがそのまま使えれば問題ないんですが、そうでなければどうなんだろうか。あるいは、使えたとしても、冒頭で申し上げたように、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態においてその救済制度をきちんと手続的に踏んでいくことができるのかどうかというのは、私、辺野古の訴訟でずっと八年間関わってきた結果、心もとないと思っております。法定受託事務ですから、最終的に代執行までされることが想定されているとすれば、大変な問題だろうと思います。  最後に、以上見てきたように、どう見ても改正法案は分権化という方向よりも逆分権化の兆候が見られます。憲法、そして憲法附属法である地方自治法を理念的、構造的、機能的に破壊するような改正案になっていないでしょうか。そうであれば異常事態であろうかと思います。緊急事態においてこそ徹底した分権化を図り、むしろ自治体が司令塔になって第一義的に事態に対処すべきであると考えております。緊要なのは危機管理の国化や集権化ではなく、危機管理の現場化、地域化ではないでしょうか。  以上です。ありがとうございました。(拍手)

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