○公述人(横山英信君) 岩手大学の人文社会科学部で農業経済論を担当しております横山と申します。
このような機会を与えていただきましたことをまず御礼を申し上げます。
私の発言は皆様のお手元にありますレジュメに沿って進めたいと思いますので、お手元に資料を御用意いただければ幸いです。
まず一番目として、この間の岩手県農業をめぐる概況について、一応のことは記しましたけれども、こちらは先ほど高橋公述人の方から詳細な説明がありましたので割愛させていただきます。
一言で特徴付けると、規模の大きな農業経営体、法人も登場しているものの、岩手県農業は全体として加速度的にやはり衰退している、生産基盤も弱体化していると言わざるを得ないということです。そういう中では、日本と岩手県に農業が必要であるとするならば、早急な対応が求められることは言をまたない、これは皆様方同じ認識だろうというように思っております。
それを踏まえてなんですけれども、食料・農業・農村基本法改正案に対する私見を述べさせていただきます。時間の関係上、農村については先ほど畠山公述人の方からも詳しい御説明ありましたので、私の方からは食料と農業に限定した叙述をしたいというように思っております。
まず、改正案の提出理由と内容との関係です。
改正案の提出理由は私も拝見いたしました。これにはそれほど違和感はありませんけれども、問題はその内容が最重要理念たる食料安全保障の確保に対応するものになっているかどうかではないかというように思っております。
まず一番目、食料自給率の格下げということですけれども、以前の基本法では、基本計画の目標としては食料自給率のみだったわけですけれども、これが食料自給率に加えて食料安全保障に関する様々なものも盛り込むということになっております。
確かに、一つの指標だけで食料、農業に係る全ての状況を把握できないのは当然ですけれども、あれこれの指標を並列的に挙げるならば、食料自給率の目標がぼやけてしまうのではないだろうかと。はっきり言いまして、私は、これは現行基本法からの後退であるというように思っております。
食料安全保障の確保を掲げるのならば、やはり最重要視すべきは供給熱量だろうと。農水省の各資料でも、あちらこちらで世界の食料需給の不安定さが強調されているところです。そうであるならば、やはり指標として一番重要なのは供給熱量自給率だろうと、他の指標はそれを補完するものとして位置付けるべきだろうと、ここは曖昧にしてはならないというように思います。
二番目、関連してなんですけれども、第二条第二項では、国内の農業生産の増大を図ることを基本とするとともに、安定的な輸入という文言が入っております。しかし、これは、同じ第二項の中で、世界の食料の需給及び貿易が不安定な要素を有していることに鑑みとしていることとの間でやっぱり不整合、論理矛盾があるのではないだろうかというように思います。こういう中で、本当に国内の農業生産の増大を図ることを基本とするものに今回の改定案がなるのかどうなのかと。改定案の中では、第二十一条の第一項で輸入の相手国への投資の促進、いわゆる開発輸入が新設されていますけれども、やはりこれも輸入に傾斜する、そういうおそれを私は感じております。
ですので、第二条第二項については、国内の農業生産の増大を図ることを基本とするだけでいいのではないかと考えております。ここでは、基本とし、これと併せて安定的な輸入云々かんぬんとなっておりますけれども、併せてというこの言葉が入ることによって、国内生産の増大を図ることを基本とすると、その基本が曖昧になってしまうのではないかというように感じております。
めくっていただきまして、二番目、海外への輸出が強調されています。第二条第四項と第二十二条の関連です。
ここでの改定案の認識については、国内の人口が減少すると国内の食料の需要も減少する、だから農産物輸出によって日本農業の活路を開く、大体こういう流れになっていると思いますけれども、日本の人口が減少して国内の食料、農産物市場が縮小したとしても、供給熱量自給率を現在の三八%から大きく増加させていくならば国内における国産農産物の市場は拡大していくと当然考えられるわけです。輸出による活路というのは、自給率が一〇〇%に近いと、だから、これから人口が減少して市場が縮小して日本の農業の生産が影響出ると、だったらそのときに心配すればいいことであって、低自給率の現状で農政の基本に置くべき性格のものではないというように私は思います。
また、この間の農産物の輸出の伸長ですけれども、農水省の資料では、二〇一二年から二千六百八十億円、二〇二三年に九千五十九億円というのが示されていますけれども、しかし、やっぱり問題は、加工品、加工食品を含めた農産物の中で国産農産物がどのくらいの比重を占めているのかということです。
今日の私の資料の最後に、これも農水省の輸出・国際局が出している資料を付けておきましたけれども、見てお分かりのとおり、一番金額として大きいのは加工食品、その中でもアルコール飲料ということになっておりますし、米菓、あられ、煎餅もありますけれども、その他お菓子類については当然小麦粉が使われているということになります。また、穀物等のところで、米、援助米除くですね、これも掲げられていますけれども、例えば輸入小麦が一〇〇%を占める小麦粉の輸出もこちらに入っているということで、どのくらいこの中で純粋な国産農産物があるのだろうかということをやっぱりはっきりさせなければならないだろうというように思います。
先日の鹿児島の地方公聴会でも公述人から指摘がありましたけれども、輸入農産物を原料とした農産物の輸出が伸びても国内農業の生産拡大にはやっぱりつながらないと、ここはきちんと認識しておくべきだろうというように思います。輸出による活路を言うならば、最低でも農産物中の国産原料割合をきちんと算出、提示すべきだろうというように思っております。
さらに、考えなければならないのは、外国に対して日本産農産物の輸入拡大を求めるならば、外国からも当然のことながら外国農産物の輸入拡大を求めることになるだろうと、そして、そのことは国内の国産農産物の市場を狭めることにならないかと、ここもきちんと考えるべきだろうというように思います。
ですので、品質が高い、そういう国産農産物の輸出全てを否定するものではないですけれども、少なくとも、輸出による活路というのは食料安全保障の確保を図るための中軸的な施策にはなり得ないというように思っております。
次に三番目、生産者手取り価格についてです。こちらは第二条第五項、第二十三条、第三十九条関連です。一言で言って、日本農業、地域農業の衰退、生産基盤弱化の原因は、採算が取れない、これに尽きるというように私は思っております。
改正案が強調する価格転嫁は、採算性の改善にどれくらいの効力を持つのかと。先ほど、高橋公述人や畠山公述人からもこれに対する危惧が示されたところです。生産、流通関係の経済主体間に価格交渉力の差がある中で、生産者手取り価格が採算の取れる水準にまで達する保証はどこにもないだろうと。特に、実質賃金が現在のように下がっている状況では、価格転嫁による生産者手取り価格の引上げは困難と考えざるを得ません。
仮に、価格転嫁によって引上げができなかった場合に、頑張ったけれども駄目だったということで済ませるならば価格転嫁という方法もあるでしょうけれども、農業経営を安定させて国内の農業生産を増大させることを真剣に追求しようとするならば、生産者手取り価格を採算が取れる水準まで確実に引き上げるための措置がどうしても必要だろうと。ですので、かつての農業者戸別所得補償制度のような、市場価格と生産費の差額を補填し採算を保障する価格・所得補填措置を再構築すべきだろうと。現在も、麦、大豆等に畑作物の直接支払交付金制度はありますけれども、やはり補填水準は不十分だろうと。さらに、こういう価格・所得補填の措置をとる場合には、適切な輸入規制、抑制措置も必要だろうというように思っております。
改正案では、環境保全型農業やスマート農業の推進も強調されております。しかし、これも採算が取れなければ現実化しないわけです。新規就農者の増加も採算性が保障されてこそです。水田の畑地化、農地転用規制強化を進める上でも、採算性の確保というのは重要だろうというように思っております。
考えなければならないのは、なぜ自給率が低い中で米のみ過剰で減反が行われているのかと。これは、農産物の全般的な輸入自由化、関税引下げ、市場開放によって安価な外国農産物が流入し、国内の農産物の国内市場価格が低下して米以外の主要穀物の採算性が低くなっているために、採算性がまだましな米に生産が集中しているだろうと。ミニマムアクセス米もその過剰に拍車を掛けていると。ですので、価格・所得補填の充実で米以外の多くの作物の採算性が大きく改善すれば、米過剰の解消と自給率の向上を同時に図ることができるというように私は思っております。
四番目、多様な農業者の位置付けです。これについては、地域における協議とか、効率的かつ安定的な農業経営を営む者及びそれ以外の多様な農業者が位置付けられたと。これは現実に即したものであって、大いに評価することができます。
これは、昨年四月施行の改正農業経営基盤強化促進法や改正農地中間管理事業推進法の中でも取られた考え方です。しかしこれは、従来の政策が推進してきた企業の農業参入、農地利用集積、規模拡大が想定どおりには進まない中、地域農業衰退、生産基盤弱化が進行したことへの対応という側面を持っているわけです。
そうであるならば、追求すべきは望ましい農業構造ではなくて、家族農業経営を中心とした多くの農業経営体の維持及びそのための再生産の保障、具体的には、平均的規模の家族農業経営が採算が取れるような価格・所得補填の実施ですけれども、これを行うべきだろうと。そして、このような経済的条件が存在してこそ大規模経営の発展も見込めるというように思っております。特にも、第二十七条、家族経営の活性化を図るというのは旧二十二条の文言をそのまま踏襲しているわけですので、家族農業経営を再度重視すべきだろうというように思っております。
最後に、不測時における措置ですね。
これに関連して、現在、食料供給困難事態対策法案も審議されているところですけれども、食料供給の混乱が生じた場合に、これに対応することは当然です。しかし、具体的な効力として、買占め、売惜しみ等の排除のための出荷又は販売に関する要請等、これはともかくも、国内の食料供給量確保のための輸入に関する要請や農林水産物の生産に関する要請、こういったもの、生産転換の効力にはやっぱり大いに疑問符が付くと。
そもそも、世界の食料の需給及び貿易は不安定な要素を有しているのではなかったのかと。にもかかわらず、安定的な輸入を求めるというのはやはり論理矛盾だろうと。さらに、生産転換による特定食料の生産には一定の時間を要します。農林水産物の生産業者とか農林水産物生産可能業者という文言が出ますけれども、そういった想定されている方々はすぐに対応できるのだろうかということもやはり懸念としてあるわけです。
したがいまして、ふだんから供給熱量自給率を高めておくことこそが最大最良の不測時対応になるのではないだろうかと。自給率が高ければ、生産転換のような半ば強権的措置と言ってもいいような措置をとる必要も小さくなるというように考えます。
まとめですけれども、改正案が食料安全保障の確保を掲げるのならば、供給熱量自給率の向上を中軸に据えて、平均的規模の家族農業経営が採算が取れるような価格・所得補填を行う措置を農産物の輸入規制、抑制措置と一体的に打ち出していく必要があるというように考えます。
以上で私の発言を終わります。
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API / MCP 利用
国立国会図書館 国会会議録 API を構造化
REST: /v1/diet/speeches/search?speaker=横山英信
MCP: search_diet_speeches(speaker="横山英信")