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玉木伸介 ·大妻女子大学短期大学部教授

衆議院厚生労働委員会(2025-05-27)での発言

第217回国会 ·第第21号号 ·3,093字
○玉木参考人 大妻女子大学短期大学部の玉木でございます。  本日は、このような機会を与えていただき、誠にありがとうございます。  まず、出だしから申し上げます。まず、我が国の年金制度として、私としてこうあってほしいなと思う属性は数多くございますけれども、そのうちの三つをお話の出だしとして申し上げたいと思います。  第一は、労働市場に中立的であること。第二は、厚生年金保険制度が再分配機能を果たすこと。第三は、国民の常識と整合的であって、国民に信認されやすい制度であること。これらと関連づけながら、御審議中の法案に関して若干のコメントを申し上げようと思います。  まず、お手元に資料一枚紙がございますけれども、一の、労働市場に中立的という点について申し上げます。  労働市場に中立的とはどういうことでしょうか。労働市場は、労働者が、この仕事でこの賃金なら働こう、企業が、この人をこの賃金で雇えるなら働いてもらおうという意思決定を行う場です。その意思決定に当たって、年金制度が有利にも不利にも作用しないので、年金を気にして働き方、雇い方を変えることがない、したがって、年金制度が労働市場をゆがめることがない、これが中立ということでございます。  現実はどうでしょうか。決して中立ではありません。年収の壁の手前での就業調整と呼ばれる現象は、その一例です。労働市場のゆがみと言ってよいでしょう。  ある二人の方が同じように雇われて働いているのに、片方は、勤務先の企業規模が大きいために厚生年金保険などの被用者保険に入って給付が手厚く、もう一人の方は、勤務先の企業規模が小さいために被用者保険に入らず給付が手厚くないということが、今はあります。おかしなことです。  雇う側が支払う労働の対価については、同じ労働なのに、被用者保険の事業主負担分だけ異なっています。一物二価です。これもゆがみです。  今回の法案では、こうしたゆがみが減るよう、雇われて働く方々がより多く被用者保険に入るようにする適用拡大の措置が盛り込まれています。これは正しい方向です。可能な限り推進していただきたいと思います。  中立でないことのもう一つの事例は、在職老齢年金です。  経験知の豊かなベテラン技術者などの中には、高齢者になっても、企業が相応の処遇をしてでも雇いたくなるような方が少なからずおられるでしょう。  ところが、現行制度では、賞与込みの月当たりの勤労収入と年金の報酬比例部分の合計が五十万円を超えると、報酬比例部分が部分的に、又は全面的にカットされます。  ある程度の技術やマネジメント経験などがあれば、月当たりの勤労報酬が五十万円前後ということは十分にあり得ます。また、特に恵まれた超高所得者ということでもありません。しかし、年金カットが起き得るのです。  人によっては、カットされるぐらいなら勤労収入はほどほどでいいから、フルタイムで働くことはやめておこうという傾向が生じます。高齢者の勤労の意欲の抑圧でございます。これもゆがみです。  法案には部分的な対処が盛り込まれていますが、今後、在職老齢年金の廃止を含めた更なる検討が進むことを期待します。  次いで、お手元の資料、二の、厚生年金保険制度の再分配機能について申し上げます。  厚生年金の保険料が報酬に比例する一方、給付には基礎年金という定額の部分があります。この結果、大きな所得再分配が生じます。  例えば、月収十五万の方と六十万の方を比べると、払う保険料は月収と同じく一対四ですけれども、定額の基礎年金があるために、高齢者になってからの給付の差は一対四よりかなり小さくなります。十五万の方は、六十万の方と同額の基礎年金を、四分の一の保険料支払いで受給できるようになっているのです。  年金で暮らす高齢者の生活水準の格差が余り広がらないようにすべきという価値観を我々が持つとすれば、厚生年金の所得再分配機能は貴重です。  生活保護も所得再分配のルートの一つですが、どうしても施しというイメージがつきまとい、スティグマと言われる現象が生じてしまいます。再分配の受け手の方々が、肩身の狭い思いをなさってしまいます。  しかし、年金給付は、現役期の保険料支払いの結果ですから、先ほどの十五万の方は、自分は若い頃に保険料を払ったからこそ、この給付を受けていると胸を張っておられるでしょう。スティグマなどありません。  この意味で、基礎年金による所得再分配は貴重であり、それだけに、基礎年金にはある程度の大きさが必要です。  二〇二四年度のモデル年金の所得代替率は六一・二%で、そのうちの二五・〇%が報酬比例部分、残る三六・二%が再分配効果を有する基礎年金です。  今後はどうなるでしょうか。  現行制度が続くと、基礎年金の所得代替率は、二〇二四年度の三六・二%から、成長型経済移行・継続ケースでは三二・六%、過去三十年投影ケースでは二五・五%と、それぞれ少なからず低下します。基礎年金の再分配効果の後退は、現行制度のままでは避けられません。  しかし、再分配の縮小など、誰も意図していません。意図せざる再分配の縮小を止めるべく、何らかの適切なアクションが必要です。  今後、基礎年金の大きさを確保するための更なる検討、例えば、今、基礎年金は四十年加入で満額給付になるところ、四十五年加入として、満額が従来の四十分の四十五倍になるというように、拠出と給付が相似形を保ったまま制度を拡張するとか、マクロ経済スライドによる給付調整の早期終了を導入するとか、そういった施策について、国庫負担の増加を賄う安定財源の確保を含めて、議論していただきたいです。  最後に、お手元の資料の三の、国民の常識との整合性や国民の年金制度に対する信認について申し上げます。  人々の生活には常識というものがあり、これは時代とともに大きく変化します。僅か半世紀前、日本社会には、人は結婚し、男性が一家の大黒柱として働き、女性は家庭に入って生活を支えるという常識がありました。しかし、今の若者の間に、そんな常識は影も形もありません。  年金制度は、日々変化する国民の常識と整合的であり続けるよう、永久に適合を繰り返さねばなりません。その適合の一つが、法案に含まれる遺族年金の制度改正です。  かつては社会における男女の役割が大きく異なっていたために、現行の遺族年金には男女差があります。こういうものは、国民の常識と整合的でないので、国民は違和感を抱きます。人々が違和感を抱く制度は、国民の信認を得られません。これは困ったことです。今回の法案に男女差の解消が盛り込まれていることは適切と思います。  先ほど、在職老齢年金についてお話ししましたが、この制度も、恐らくは国民の常識と整合的でなく、また、人々の年金制度への信認にマイナスの影響を及ぼしていると思います。  年金制度の各分野において、将来にわたって人々の腹にすとんと落ちるものであるよう、国民の常識の変化への適合を繰り返していくべきと思います。  もう一点大事なことは、広報でございます。広報につきましては、皆様、大変御尽力いただいてございます。政府の姿勢が国民にとっては大事でございますので、是非継続していただきたいと思います。広報に対します私の希望を表明いたしまして、私の陳述を終えることといたします。  御清聴、誠にありがとうございました。(拍手)

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