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梶田隆章 ·東京大学卓越教授/元日本学術会議会長(第25期)

衆議院内閣委員会(2025-05-07)での発言

第217回国会 ·第第18号号 ·3,455字
○梶田参考人 よろしくお願いいたします。  それでは、あらかじめ提出してあります資料に基づきまして発言をさせていただきます。  私の方では、学術会議法案への懸念ということでお話しいたします。  まず、二ページ目ですけれども、日本学術会議と各国のナショナルアカデミーという観点で見ていきたいと思います。  十七世紀以降、各国でアカデミーが設立されて以降、独立と自律を旨とする営みとしての学術を社会の中に備えてまいりました。政府などから独立し、自律的に発展する学術がもたらす多様な見解によって、我々の社会や世界の理解が豊かになり、そのことを通じて人類の福利への貢献が期待できる。そこに、学術、ナショナルアカデミーの役割があります。  各国のナショナルアカデミーを比較した際に、米、英、仏、独のアカデミーと比べると、日本だけが政府機関であることは確かですけれども、設置形態はそれぞれの国の歴史的経緯を反映しているものと考えております。  現在、各国のナショナルアカデミーは、その国の学者、科学者の代表として、科学的助言活動などとともに、様々な学術の国際活動に参加し、世界的に連携して世界の学術と社会の発展に貢献しております。  日本では、日本学術会議がナショナルアカデミーとしての役割を担っております。  なお、日本の場合、立法府への科学的助言のチャンネルがないということが、現状、課題といえば課題であります。法案に立法府への助言機能が明記されるということになれば法人化のメリットとなるというふうに考えております。  続きまして、三ページ目で、ナショナルアカデミーの五要件ということでお話をしていきたいと思います。  日本学術会議では、学術会議の設置形態を議論し、二〇二一年四月の二十二日の総会において、「日本学術会議のより良い役割発揮に向けて」を決定しました。その中で、ナショナルアカデミーが最低限満たすべき五要件を示しました。  それらは、学術的に国を代表する機関としての地位、そのための公的資格の付与、国家財政支出による安定した財政基盤、活動面での政府からの独立、会員選考における自主性、独立性です。  上記の文書では、現行の日本学術会議の設置形態は、ナショナルアカデミーの五要件を満たしており、それを変更する積極的理由を見出すことは困難と結論しております。  実は、この結論は、二〇一五年に科学技術政策担当大臣設置の、日本学術会議の新たな展望を考える有識者会議で検討された際の報告書における設置形態についての結論、すなわち、国の機関でありつつ法律上独立性が担保されており、これを変える積極的な理由は見出しにくいというものとも合致しております。そして、この報告書は当時の大臣も了承されております。  また、もう一言述べますと、政府が二〇二三年に法人化を検討するとした際に、政府も、学術会議自ら主張している五要件を満たし、G7参加国並みの制度、体制等を持った特殊法人などを検討とし、五要件の重要性を認識していただいております。  さて、そのような中で、今の法案に関して懸念があるんですが、ナショナルアカデミーの五要件との関係で、懸念ということを見ていきたいと思います。  まず、そもそも当事者の日本学術会議は、独自に、自律的改革の方策を議論し、「日本学術会議のより良い役割発揮に向けて」で公表するとともに、実行してまいりました。新しい日本学術会議法を求めたことはありません。  現行の日本学術会議法の前文は法案ではなくなり、その中にありました「科学者の総意の下」の文字も消えております。科学者の総意の下と言えない組織が、科学者の賛同を得て学術的に国を代表する機関なのか懸念があります。  また、日本学術会議との真摯な協議を欠き、同意を得ないまま、その独立性、自律性に多大な影響を与え得る組織、選考などを変更し、法定化すること自体が、ナショナルアカデミーの独立性、自律性を脅かす懸念があります。  現在の日本学術会議法では、「独立して左の職務を行う。」として、独立が明記されておりますが、法案では独立の文字は消え、「その運営における自主性及び自律性に常に配慮しなければならない。」との運営面における自主性、自律性への配慮義務にとどまっており、独立性への懸念があります。  続いて、五ページですが、現行の日本学術会議法では、学術会議が自律的に規則を制定して組織運営を行うことを保障しております。例えば、日本学術会議は、国立大学協会などとその役割発揮に向けた意見交換を行い、また自律的に外部有識者に毎年その活動を評価してもらい、その評価を次年度以降の活動に反映しております。  一方、法案は、幾重にも組織、運営に国が監督する仕組みとなっております。国からの独立性、自律性を制度的に保障することでその機能を有効に発揮することが可能となる日本学術会議には過重な監督であり、その独立性、自律性の観点から懸念があります。  それから、少し違う観点で、現行法では国庫負担の原則を定めておりますが、法案は必要と認める金額を補助金により補助することができるとするにとどまっており、すなわち、必要性の判断は政府の大きな裁量となっていて、国家財政支出による安定した財政基盤への懸念となります。  続きまして、六ページですけれども、会員選考に関してです。会員選考に関してもいろいろと自律的に改革を進めております。例えば、第二十五期学術会議では、選考方針を自律的に定め、新会員の選考対象者をより広くから求め、また選考には年齢、ジェンダー、地域などの多様性にも配慮するなどの改革を進めながら行いました。  法案で、新たな法人発足時の会員選考では、特別な選考方式が法定されております。発足時に特別な選考を行わなければならない理由はなく、極めて不自然な選考方式で、懸念があります。  また、法案での通常時の会員選考では、会員以外から構成される選定助言委員会が、選定方針のみならず、候補者選定についても意見を述べることができるとされ、候補者選定が特定の外部の影響を受ける懸念があります。  一方で、今まで述べてきましたけれども、他の先進国のナショナルアカデミーは、これらの五要件は満たしております。  なお、昨日、各国アカデミーの連合体と言える国際学術会議から、日本政府の、日本学術会議の運営と会員選考の手続に干渉しようとする度重なる試みに対し深い懸念を表明するとのメッセージをいただいておりますので、紹介させていただきます。  続きまして、七ページで、ナショナルアカデミーとして取り組むべき課題ということで、前出の「より良い役割発揮に向けて」の中で、我々は、ナショナルアカデミーとしての日本学術会議が取り組むべき機能強化の課題を挙げました。それらは、国際活動の強化、科学的助言機能の強化、これには立法府への助言機能創設にも言及しております。対話を通じた情報発信力の強化、事務局機能の強化です。  今回の法案作成の過程で上記の課題を議論した形跡がなく、また法案にもその方向での機能強化を目的としているように見えません。すなわち、ナショナルアカデミーとしての日本学術会議の機能強化に資するかどうかという点で、懸念が拭えません。  八ページでまとめます。  提案されました日本学術会議法案では、日本学術会議が求めているナショナルアカデミーの五要件の点で、また日本学術会議の機能強化に資するものかという点で、懸念が拭えません。  そして、二月の十八日に発せられました元学術会議会長六名の連名による声明を読みますが、「特殊法人という法形式の下に日本学術会議の運営と活動を政府が幾重にも管理するやり方は、日本学術会議の固有の発展を阻害し、七十五年余にわたって培われてきた学術に基づいて社会と政府に発信するという機能を弱体化させ、ひいては日本の学術の終わりの始まりとすることになりかねない。」というものでした。  最後。日本学術会議がよりよくその役割、機能を果たすことを可能とするという観点から、法案の再検討を強く求めます。性急な改革が学術に大きな混乱をもたらす懸念があるということは他国の例でも明らかになりつつあると思っております。  私の方からは以上です。ありがとうございました。(拍手)

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