○阪本参考人 本日は、災害対策基本法の改正という大切な場で発言の機会をいただきましたこと、心より感謝いたします。
私は、災害危機管理ですとか被災者支援について研究しており、その研究成果を生かした防災対策の推進、そして地域防災力の向上に取り組んでおります。
今回の災害対策基本法の改正は、能登半島地震の経験を踏まえて、当時明らかになった課題解決に向けた内容になっており、特に被災者支援においては大変意義の高い内容になっているものと思います。
本日は、冒頭に、能登半島地震等を踏まえて明らかになった災害対策の課題を整理するとともに、今後のそれらの問題の解決に向けた方策を大きく三点お伝えしたいと思います。
現在の災害対策の最大の課題は、災害関連死を減らすことが難しいという点にあります。
お手元の資料一ページ目の二番のスライド、左側の図を御覧ください。
この図は、近年発生した災害における直接死、災害関連死の割合を示しているものです。災害関連死の占める割合は、新潟県中越地震、熊本地震、そして昨年の能登半島地震においても直接死を上回っています。昨年の能登半島地震による死者五百四十九人のうち、災害関連死として認定された方は、三月十一日の時点で三百二十一人に上っております。新聞報道では、死者の九四%が七十歳代以上、既往症があった人は九三%となっています。つまり、高齢者、障害者が災害関連死に至るリスクは極めて高いことが分かります。
東日本大震災の後には災害関連死の原因分析が行われており、その結果を右側の図に示しています。それによると、災害関連死の最大の要因は、避難生活の精神的、肉体的ストレスとなっています。避難生活の生活環境を改善しない限り、災害関連死を減らすことは困難です。
避難所の問題については、阪神・淡路大震災以降、繰り返し問題が指摘されています。しかしながら、大地震が起こると、避難所の状況は劣悪です。
次のページ、三枚目のスライドに、能登半島地震で実際に私が撮った写真をお示ししています。
今回は、正月に地震が起きたこともあり、帰省されていた方や旅行者も避難し、それにより避難所はどこも大変混雑いたしました。物資が十分ではなく、滞在するスペースもなく、廊下も避難して寝泊まりする人であふれていました。直接床にシートや毛布を敷いただけの状況で寝泊まりしており、避難している方の中には近隣のグループホームから避難していた方もいましたが、介護サービス等もストップし、何ら支援が受けられない状況でした。
トイレの状況は特に劣悪でした。物資が届かない中、トイレの凝固剤、廃棄するものも十分ではなく、トイレには新聞紙が積み上げられて、排せつ物は新聞紙に吸わせて、それをビニール袋に入れて捨てる。けれども、ごみ収集の車も来ておらず、トイレは悪臭が漂っていました。
このような状況で生活を続けることがストレスになり、高齢者、障害者の中には体調を崩す方が相次ぎました。現在、高齢者や障害者を災害時に支援するため、個別避難計画の策定等が進められていますが、避難の支援だけではなく、避難後の生活における支援体制を整えることは大切です。
そのような状況で、助かった命を守るため、そして災害関連死を防ぐための対策として、能登半島地震では、広域避難を含めた多様な形の避難生活の支援が行われました。四枚目のスライドでお示ししています。
市町村が指定する指定避難所への避難を一次避難とすると、生活環境が整っているほかの都道府県や市町村への二次避難、さらには、医療・福祉サービスや子育て支援を必要とする要配慮者をこれらのサービスが得られる環境へつなぐための一・五次避難という避難支援が行われました。二次避難については、指定避難所だけではなく、ホテル、旅館、民泊、研修所などの民間施設を活用し、多様な形で避難支援が行われました。
このような取組は、南海トラフ巨大地震や首都直下地震でも必要になってきます。
政府は、三月末に南海トラフ巨大地震の新たな被害想定を発表しました。それによると、地震、津波により避難が必要な方は千二百三十万人と想定されています。災害関連死に至る可能性がある方は五万二千人となっています。さらに、必要な医療支援や社会機能の維持が困難になることにより、命は守られても死に至る可能性がある難病患者や停電することにより人工呼吸器が使えなくなってしまう方の存在も示されています。
南海トラフ巨大地震では、同時に複数の自治体が被害を受けます。さらに、地盤沈下や破堤等により浸水被害が長期化する地域も出てきます。災害関連死を減らすには、現在取組が進められているような個別避難計画の策定、あるいは、「ひなんさんぽ」、避難訓練などの避難のための実践だけではなく、多様な形の生活をできる場を整備し、被災者がどこへ避難しても支援が届く体制をつくらなければいけません。
この点、現行の災害対策基本法第八十六条の七では、避難所に滞在することが難しい被災者に対しても、必要な生活関連物資を提供するであったり、保健医療サービスを提供するであったり、情報を提供するであったり、必要な措置が必要なことを定めています。
また、内閣府は令和五年に、避難生活の環境変化に対応した支援の実施に関する検討会を設置し、これらの人々にどのように支援を提供するのかを議論しております。私も検討会の座長として必要な対策を検討し、現在の被災者支援は、避難所という場所に対する支援しか行っておらず、そうではなく、人への支援に切り替えることを提言として出しています。
また、検討会を行っている最中に能登半島地震が起きたため、地震発生直後から、内閣府より被災都道府県宛てに、避難所外に避難している方々へ支援を届かせるよう複数の通知が出されましたが、残念ながら、それらの方々への支援を届けるには至りませんでした。
災害対策法において制度が規定されているにもかかわらず、災害対応の現場で運用が難しいのは、以下の課題があるためだと考えています。
まず、災害対策基本法では市町村が被災者に支援を提供することになっていますが、市町村の職員もまた地域住民です。人的、物的被害を受け、マンパワーや物理的な問題から支援を行うことが困難な状況があります。また、避難所外に避難している方々の状況把握を誰がどのように行うのか、また、それらの情報をどのように集約していくのか、そのような体制は具体的には定められていません。実際のところは、状況把握には、保健師や福祉専門職、NPO等の民間のボランティア団体が関わることが多いけれども、行政が持つ避難行動要支援者名簿などが共有されないという問題もあります。また、被災された方の中には、平常時に福祉サービスを受けていない、行政とつながっていない方もおり、それら要配慮者の状況把握をするのは困難な状況です。
それでは、これらの問題にどのように対応していけばよいのでしょうか。人への支援を拡充するための方策として、三点提案させていただきます。
第一に、多様な場に避難した被災者の情報把握と、それらの情報を活用した避難先での支援の拡充です。
能登半島地震では、石川県の調整により、最大時には五千二百七十五人が二次避難しました。当初は、被災市町は避難した住民がどこにいるのか把握することが難しかったのですが、途中で石川県がコールセンターを設置する、あるいはLINEで登録をするというDXを活用した取組を行うことにより、被災者自らが情報登録をするという取組が進められました。これにより、住民がどこに避難しているのかが徐々に分かってきました。
とはいえ、元々市町が持っていた住民台帳との突合は後で時間を要しました。住民台帳や被災者台帳の情報は、それぞれの市町が独自に整備しているため、ほかの市町との情報共有、相互利用が難しい現状があります。この点については、マイナンバーカードを活用するなど、全国共通の住民データベースを整備し、それを活用して被災者支援を行える体制を整えていく必要があります。
このような取組は、既に海外では進められています。二〇二三年二月に大きな地震で被害を受けたトルコでは、内務省が持つ住民基礎データを活用し、緊急事態危機管理庁が被災者全てに支援金を提供するということが行われています。被災された方は、住民番号と電子サインを用いれば全国どこからでも支援を申請できる仕組みとなっていました。このような仕組みを今後日本でも整備していく必要があります。
第二に、福祉支援を支えるための体制の整備です。
災害発生直後の応急対応については、災害救助法を適用して支援が行われています。災害救助法は、昭和二十一年に起きました南海地震を経て整備された法律です。当時は、第二次世界大戦直後ということもあって、物資が不足している状況の中、さらに、地震、津波により物資不足は深刻化し、インフレとなりました。物価が高騰したために、現金給付を行うのではなく、現物給付によって被災者を支援しようとした仕組みです。けれども、法律が制定されてからかなり時間がたっており、現在の社会状況と合っていない部分があります。
災害救助法は、第四条において支援する項目を示しています。支援先としては、避難所、仮設住宅の記載はありますが、今回お伝えしているような在宅被災者への支援の仕組みというのは記載されていません。また、医療及び助産の支援については記載されているものの、福祉という言葉はありません。
災害関連死を防ぐには、福祉支援が何よりも重要です。災害救助法に福祉サービスを位置づけるとともに、場所を問わず、どこに避難しても支援が届く体制を整えることが必要です。
第三に、官民連携の促進と、そのための人材育成です。
被災した市町村だけでは被災者に支援を届けることが難しいことは、東日本大震災の経験から分かっています。二〇一三年の災害対策基本法の改正においては、国及び地方公共団体はボランティアの自主性を尊重しつつも連携に努めなければならないという項目が加えられました。さらに、防災基本計画も修正され、地方公共団体とボランティア団体との情報共有や連携の重要性が示されています。
能登半島地震においても、迅速にボランティア団体による支援が行われていました。十一枚目のスライドには、実際に地震発生直後、被災現場に駆けつけたボランティア団体の様子が示されています。一月一日、地震発生直後から、あらゆる交通手段を利用して被災地にはボランティア団体が駆けつけて、それぞれ行政と連携しながら被災者支援に当たっていました。
このように、地震発生直後から災害対応の専門性が高いボランティア団体がいたにもかかわらず、石川県知事は、災害発生直後の一月六日には、ボランティア活動を控えてほしいという見解を示しました。同様の発言は、令和二年七月豪雨のときにも熊本県知事から示されています。当時は新型コロナウイルスの感染拡大が見られたことから、地域外から訪れるボランティアではなく、県内ボランティアを優先するというコメントが出されました。
ボランティアを控えてほしいというコメントが出されたことにより、ボランティアによる被災者支援活動は出遅れました。それにより、被災地の復興や生活再建も遅れていきました。途中でその問題を強く認識したことから、ボランティアに来てくださいという発言に切り替えられましたが、その時点ではボランティアの参加者が減っていました。
このような発言が多々として見られるのも、自治体におけるボランティアに対する理解が十分ではないことによります。災害発生直後の早い段階から、避難生活にある人を支援するのもボランティアです。ボランティアがいち早く被災地で活動できる体制を整備していく必要があります。
一部の自治体では、ボランティアの専門性を生かした連携調整体制が整備されています。十三枚目のスライドには神戸市の災害時受援計画を示していますが、医師、看護師、通訳、建築士など専門性の高いボランティアについては、災害発生直後からそれぞれの関係部局が直接受け入れるという方針が示されています。
今回の災害対策基本法の改正では、被災者支援における専門性が高い団体をあらかじめ被災者援護協力団体として登録し、平常時から行政とボランティアが連携して支援を提供できる体制づくりを示しています。被災者援護協力団体と行政の持つ被災者情報を共有することや、災害救助法をこれらの団体による活動に適用することも示されています。官民連携による被災者支援は、被災した人の生活の質を上げ、早期の生活再建を実現するには重要です。
ただし、現時点で、災害対応に従事できる専門ボランティアの数はまだ限られています。今回の法案の改正をきっかけとして、これから専門性が高いボランティア団体を育成していくことが何よりも大事になると思います。今後、災害対応の人材育成などの仕組みづくりについても検討が求められます。
それでは、私の報告は以上で終わりにさせていただきます。
どうもありがとうございました。(拍手)
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