○参考人(鍵本芳明君) 皆様、おはようございます。岡山大学の鍵本と申します。
本日は、このような機会を与えていただき、誠にありがとうございます。
私は、現在、教職大学院に勤務しておりますが、これまで、教諭として学校現場に勤務した後、昨年の三月まで岡山県教育委員会事務局に二十年余り在職し、最後の六年間は県教育委員会の教育長として勤務いたしました。また、中央教育審議会の質の高い教師の確保特別部会にも臨時委員として参加させていただきました。
こうしたことを踏まえ、私からは、県教育委員会の教育長として学校現場の先生方とともに働き方改革を進めてきた立場から、本日は意見を述べさせていただきたいと存じます。
それでは、資料に沿って説明させていただきます。
申し上げるまでもありませんが、我が国の教員は、児童生徒の状況を総合的に把握し指導することで、知徳体を一体で育む全人的な教育を実現しており、このことは諸外国からも高い評価を得ているところであります。そして、教員自身も、我が国の未来を担う子供たちを育てるという崇高な仕事にやりがいと誇りを持ち、子供たちのためにという思いで献身的に取り組んでおります。
しかし、学校が対応する課題が複雑化、困難化する中、学校や教員の担う業務の範囲が拡大し、その負担が増えてきたのも事実であります。
この度の改正案に示された内容は、中教審答申に示されております働き方改革の更なる加速化、指導、運営体制の充実、教師の処遇改善といった三つの柱を一体的、総合的に推進していく上で是非とも必要な改正であり、その着実な実施によって、教員が自らの崇高な仕事に誇りを持ち、子供たちと向き合っていけるよう、また、教職が魅力ある仕事として学生から認知され、引き続き優秀な人材が確保していけるよう、その成立を強くお願いするものであります。
さて、私からは、中教審答申に示された一体的、総合的に推進すべき三つの柱に基づいて、本改正案の評価について述べたいと存じます。
まず、働き方改革の更なる加速化についてであります。
この度の改正案では、働き方改革を一層着実に推進していくため、各教育委員会に対して業務量管理・健康確保措置実施計画の策定、公表、そしてその実施状況の公表、さらには総合教育会議への報告が義務付けられております。
私が勤務しておりました岡山県教委では、服務監督権者である市町村教委と連携しながら学校の働き方改革を進めてまいりました。県教委と県内の市町村教委が方向性を共有して取り組んでいけるよう、協議に基づき働き方改革緊急宣言を連名で県内の教職員に対して示すとともに、市町村教委からの意見に基づき、保護者や地域の方々に学校の働き方改革について理解と協力が得られるようリーフレットを作成、配付したり、PTA総会や学校運営協議会等で見ていただける動画を作成し、活用できるようにいたしました。
また、働き方改革として取り組んでいる効果的な取組の例、例えば、欠席連絡や学校からの文書のデジタル化、デジタル採点システムの導入、給食費の公会計化などを市町村教委に示し、助言を行いながらその進捗状況を確認してまいりました。
しかし、働き方改革の取組の状況は市町村教委によって差があるのが残念ながら実態であります。服務監督権を持つ市町村教委の各学校への関わりが働き方改革の進捗にも大きく影響することは言うまでもありません。その意味からも、この度の改正案の中で、各教育委員会に対し、計画の策定、公表や、その実施状況の公表を義務付けた点は、働き方改革の取組内容とその進捗状況を見える化し、PDCAサイクルを回して更なる改善を図っていく上で是非とも必要な改正であり、大いに評価しているところであります。さらに、総合教育会議への報告を義務付けたことは、学校の働き方改革について重要な関係機関である首長部局も巻き込んで議論を進めていく上で重要な改正だと考えます。
その上で、都道府県教委は、見える化された市町村教委の進捗状況を踏まえ、計画の確実な実施が図れるよう、必要な指導、助言、援助を当事者意識を持って行っていかなくてはならないと考えます。
また、校長が学校運営協議会の承認を得ることとなっている学校運営の基本的な方針に業務量管理・健康確保措置の実施に関する内容を含めるよう改正することは、学校の働き方改革の内容やその進捗状況を保護者や地域の方々にも知ってもらい、これからの学校をどうしていくのかを共に考える上で重要な改正であると考えます。
本県におきましても、学校が働き方改革を進める中、学校運営協議会でその実態を知り、地域の方から、先生方がそんなに大変なんだったらできることは自分たちもやるよという声が上がり、それまでの学校行事を地域主体の行事に変更したり、学校支援ボランティアに多くの地域の皆さんが参加してくださるようになった学校も見られます。
学校の抱える様々な課題を教員だけで何とかするのではなく、この改正により、学校運営協議会などを活用して、多くの関係者の皆さんと一緒に学校の在り方を考えていけるよう、今後の取組が進んでまいりますことを大いに期待いたしております。
このように、学校の働き方改革は、国、都道府県、市町村、各学校など教育に関わるそれぞれの主体がその権限と責任に基づき主体的に取り組むことが何より重要であり、そのためには、計画を明らかにし、その進捗状況を見える化した上でPDCAサイクルを回していくことが必要であり、その基盤をつくる今回の法改正は是非とも実現すべきものと考えております。
次に、学校運営体制の充実についてであります。
現在、本年度予算において、教員の担当授業時数の多い小学校で教科担任制を拡充し教員数を計画的に改善していただいていること、また、不登校等生徒指導上の課題の大きい中学校に生徒指導担当の教員の配置拡充を進めていただいていることは、学校の指導、運営体制の充実を図っていく上で誠に有り難く、感謝いたしております。また、学校現場に学校支援スタッフの更なる配置拡充のための予算措置を講じていただいていることにも感謝申し上げます。多様な支援スタッフが学校に入り、学校がチームとして機能することは、教員が教員にしかできない業務に集中できるとともに、多様な専門性を有する質の高い教職員集団となっていくために必要であると考えます。
こうした中、この度の改正案では、主務教諭の創設が示されております。申し上げるまでもなく、近年、大量退職、大量採用によって若手教員が増加しております。
教員という仕事は、経験年数の少ない若手教員のときからベテラン教員と同様に子供たちと向き合っていかなくてはならない責任ある仕事です。教職を目指す学生の中にも、十分な指導、支援が得られるか、この点に不安を抱く者も少なからずおります。こういった不安を解消しつつ、若手教員が学校現場での学び合いを通して資質、能力を向上させ、学びに関する高度専門職として成長できるよう、これを組織として支援することの重要性が中教審の部会でも多く指摘されました。
主務教諭の創設は、学校がこういった若手教員へのサポート機能を強化するとともに、子供たちが抱える課題や学校横断的な取組への対応について、学校内外の連絡調整機能を充実させることを目的として行われるものであると理解しております。主務教諭が職として設置されることは、学校がいわゆる鍋蓋型と言われる組織体制から脱し、組織的、機動的なマネジメント体制を構築していく上でその意義は大きいと考えており、是非実現をお願いするものであります。
最後に、教師の処遇改善についてであります。
これまで申し上げてきたように、学校の働き方改革を着実に進めると同時に教員の処遇の改善を図っていくことは、未来を担う子供たちを育成するという極めて複雑で困難な職務を日々献身的に行っている教員に対して敬意を払い、その職責に報いることであり、教員に尊敬と憧れを持ち、教職を志す優秀な人材を引き続き確保していくためにも是非とも行うべきと考えます。
こうした意味からも、この度の教職調整額を四%から一〇%まで引き上げるという改正は、現状の中で高度専門職としてふさわしい処遇の実現を図ろうとするものであり、その実現を強く願うものであります。
この点については、時間外勤務手当にすべきという御意見があることも承知しております。仮に時間外勤務手当とした場合、教員が行う個別具体の職務について管理職が時間外勤務命令を発することができるかといえば、実務上難しいと考えます。
申し上げるまでもなく、教員の職務はその自発性、創造性によるところが大きく、多様な子供たちがいる状況の中で、個々の子供に応じた指導や支援を各教員がその場その場で判断しながら進めているのであり、管理職がその内容を把握し、時間外勤務命令の判断をすることは極めて難しいと考えます。それをあえて行えば、管理職と教員の間にあつれきを生じさせ、学校現場に混乱を起こすことを危惧するものであります。
また、県教委の教育長をしていた立場から申し上げます。時間外勤務手当化することによって、民間企業のように時間外勤務手当を削減しようとするインセンティブが働き、結果として時間外勤務を減少させる方向に機能するのではないかという御指摘もございます。しかしながら、この点については、御承知のように、小中学校の大半は市町村立の学校であり、その服務監督権は市町村の教育委員会にありますが、給与は県費負担教職員制度により都道府県の教育委員会が負担をしております。こうした構造の中では、仮に時間外勤務手当となった場合においても、民間企業のようなインセンティブは服務監督権者である市町村教委に対して直接働かないと考えます。
また、本来、地域による給与面の格差をなくし、県内の人事交流の円滑化を図るための県費負担教職員制度でありますが、服務監督権者である市町村教委の時間外勤務の考え方や働き方改革の取組の差によって地域による給与面の差が生ずることも懸念いたしております。
こうしたことから、学校現場の混乱を避け、自発性、創造性に期待する面の大きい教員の職務の特殊性を考慮すれば、勤務時間の内外を問わず、その職務を包括的に評価した現在の教職調整額の在り方自体は維持しつつ、その水準を見直すことが適当であると考え、この度の改正案の実現を求めるものであります。
また、この度の改正案で、義務教育等教員特別手当について、学級担任の手当額を加算できるようにしていることは、学校現場の実態に即した御判断であると考えます。
学級担任は、日々、子供たちの学習や学級に関する業務、保護者への連絡、子供たちのトラブルの解決や個々の子供たちへの相談対応などに取り組んでおり、学級担任の負担が担任以外の教員より重いことは学校関係者の間では共通の認識であります。それでも、学校現場の教員は、子供たちのためにと学級担任を引き受け、日々子供たちと向き合っております。
こうした職務の重要性やその負担の大きさを踏まえ、学級担任の教員の苦労に報いるためにも、現在一律に支給されている義務教育等教員特別手当をその職務の負担に応じた支給に見直し、学級担任の手当額を加算する今回の改正は是非実現していただきたいと考えます。
以上申し上げましたように、教員が働きやすさと働きがいを感じつつその仕事に取り組むためには、働き方改革の更なる加速化、指導、運営体制の充実、教師の処遇改善といった三つの柱を一体的、総合的に推進していくことが重要であり、教育に関わる各主体がそれぞれの取組の進捗状況を見える化しつつ、自分事としてその権限と責任を果たしていくことが必要であると考えます。
そのためにも、この度の法改正の実現は是非とも必要であり、本法律案の成立を強くお願いいたしまして、私からの意見陳述とさせていただきます。
御清聴ありがとうございました。
鍵本芳明 の他の発言
2025-06-03 · 参議院文教科学委員会
○参考人(鍵本芳明君) ありがとうございました。
御質問ありがとうございます。
先ほど、その異なったシステムを使っているという、まあこれはシステム自体も当然、業者が違ってと…
2025-06-03 · 参議院文教科学委員会
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2025-06-03 · 参議院文教科学委員会
○参考人(鍵本芳明君) お尋ねありがとうございました。
三分類に関しましてですけれども、特にこの三分類の中で基本的には学校以外が担うべき業務というところが一番最初にございます。…
2025-06-03 · 参議院文教科学委員会
○参考人(鍵本芳明君) 御質問ありがとうございます。
時間数を制限することで行事等が削減されて子供たちががっかりするんじゃないかということもお尋ねかと思いますが、確かに、いろん…
2025-06-03 · 参議院文教科学委員会
○参考人(鍵本芳明君) 民間との競合というと、これは、私も今教員養成の学部におりますけれども、やはり学生たちも非常に迷っておるところでございます。やはり、教員になりたい者の多くはや…
2025-06-03 · 参議院文教科学委員会
○参考人(鍵本芳明君) 御質問ありがとうございます。
これはもう申し上げるまでもありませんけれども、人事評価につきましては、地公法に基づきまして、任命権者である各教育委員会が基…
2025-06-03 · 参議院文教科学委員会
○参考人(鍵本芳明君) いずれにしましても、やはり先ほど申しましたように、やはり教員の今の現状を改善していかなきゃいけないということはそうなのかなというふうに思っております。
…
2025-06-03 · 参議院文教科学委員会
○参考人(鍵本芳明君) 持ちこま数についての考えということでございますけれども、教員は、授業だけではなくてほかの校務分掌も全体で分担して、生徒指導でありますとか進路指導とかやってお…
API / MCP 利用
国立国会図書館 国会会議録 API を構造化
REST: /v1/diet/speeches/search?speaker=鍵本芳明
MCP: search_diet_speeches(speaker="鍵本芳明")