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本田由紀 ·東京大学大学院教育学研究科教授

参議院文教科学委員会(2025-06-03)での発言

第217回国会 ·第第11号号 ·6,068字
○参考人(本田由紀君) 東京大学大学院教育学研究科で教授をしております本田由紀と申します。  本日は、意見陳述の機会を与えてくださり、ありがとうございます。  全国の公立学校で必死に勤務を続ける多数の教員の思いを背負う状態で今意見を述べたいと思います。  タイトルとして、今回の改正案では是正されない給特法の問題点というふうに書いてあります。一ページから二ページにかけて要点を六点にわたってまとめております。要点は六つあるんですけれども、大きく分ければ三つのことを申し上げたいと思います。  その三つといいますのは、この要点と書いてあるところの一、二、三、これがまず第一点目になりますけれども、これは、根本的なその法律の立て付けに関する問題について指摘しております。二つ目の論点が、要点の四に当たるところですけれども、これは調整額の問題です。三つ目の論点が五、要点の五に当たりますけれども、主務教諭の問題になります。六は全体のまとめです。そういった流れでお話ししていきたいと思います。  まず要点の一のところですけれども、黄色で塗ってありますけれども、時間外在校等時間という言葉が、今回の法案の附則の第三条にも、法律で初めて記載されたことになりますけれども、この時間外在校等時間というものの性質に関して述べておりますが、これは明らかに労働時間であるというふうに言えます。  なぜかというと、そもそもこの時間外在校等時間という言葉が、教員が自発的に取り組んであるあたかも時間であるかというような、そういう印象操作のために使われている言葉になっているわけですけれども、実態としましては明らかに労働時間であると。  その根拠は、一つは過労死等における裁判において労働時間というふうにみなされているということが一つ。もう一つは、勤務実態調査の結果におきましても、時間外在校等時間の内実というものが自発的どころか完全に本来業務として仕事がされている時間であるということが明らかになっており、やはりこの点からも労働時間に該当するということが言えます。  これにつきましては本資料の四ページから五ページにかけて示しておりますけれども、使わせていただいているのは、まずは勤務実態調査のデータですけれども、これを見ますと、小学校、中学校とも在校等時間は一日当たり十一時間ぐらいになっているわけです。  これに対して東京大学名誉教授の小川正人先生がその四ページの下から五ページにかけてこのような分析を示されているんですけれども、こちらは、連合が二〇二三年に開催された学校の働き方改革の実現に向けたシンポジウムというところでの資料ですけれども、要点を申しますと、小川正人先生の分析は、もうこの十一時間というものの内部、中身の構成を見ますと、全部が教員としての職務に必要な時間であると。授業に関する事柄であったり、あるいは生徒指導に関する事柄であったり、経営若しくは校内研修などを足し合わせても、前半の授業や生徒指導に関わる不可欠な業務だけでもう勤務時間が超過してしまうというですね。  ですから、勝手にやっているといったようなニュアンスがある、その自発的といったような言葉は当てはまらないものであるということが既に教員勤務実態調査からも明らかになっています。まずこの点を押さえておく必要がある。これが要点と書いてあるところの一点目です。  次に、要点と書いてあるところの二点目ですけれども、このような時間外在校等時間の労働時間としての性質に照らしたときに、文部科学省の見解というのは非常に大きな矛盾というか、破綻、そごというものが見られる状況になっております。  資料の一ページ目のその要点のところに基づいて申し上げますと、文部科学省のガイドラインには、既に上記の時間外在校時間というのは実質的には労働時間であるという内実というものを認めております。それにもかかわらず、所定の勤務時間外に行われる超勤四項目以外の業務は教師が自らの判断で自発的に行っているものとする立場に固執しています。  このような立場の論拠となっているのは、時間外勤務命令は超勤四項目以外に出せない、そして時間外勤務命令が出ていない在校時間に関しては労働時間ではないという、そこにずっとこだわり続けているわけですけれども、既に、こうした論理、つまり時間外勤務命令が出ているか否かということによって労働時間かどうかということを判断するというような理屈というものは、既に労働の分野においては覆されているということが重要です。  本資料の六ページ辺りに詳しく書いておりますけれども、最高裁判決及び厚生労働省のガイドラインにより、明示的な時間外勤務命令が出ていなくとも黙示的な指示があれば労働時間と既にみなされるようになっております。  黙示的な指示といいますのは、実質的に義務付けられていたり、あるいはそれをすることを余儀なくされていた場合に黙示的な指示があったというふうに判断されるようになっているわけですけれども、先ほど要点の一のところで見たように、教員の勤務実態においては、全ての時間が、余儀なくされる、もう校務を遂行していくために必要な業務として行われているわけですから、黙示的な指示があるものというふうにはっきりとみなされます。  この点に関しましては、本資料の六ページにおいて、一つの例としまして文部科学省のガイドラインの本文を示しているんですけれども、ガイドラインにおいては、既に厚生労働省のそういった判断というものが実際にガイドラインにおいても書かれています。使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たるとされていますと書いてあるその直後に、ガイドラインにおいては、このことからと書いてあるんですけれども、この、このことからという接続詞は一切成り立ちません。教師に関しては、校務であったとしても、使用者からの指示に基づかず、勤務時間外に超勤四項目以外の業務を自発的な判断により云々と書いてあるんですけれども、明示的な指示に基づいていなくとも、黙示的な指示に基づいていると判断される場合には、それは労働時間です。ですので、自発的であり勝手にやっているので労働時間ではないという理屈はもう成り立たないわけです。このような点で、これまでの文部科学省のこの見解というのはもう破綻しております。  また、付け加えて言いますと、この時間外在校等時間というものが自発的な取組だというふうな解釈に文科省は固執しておりますが、それを勤務時間管理の対象とするとしています。すなわち、実質的な労働時間に当たる勤務時間と言い換えたり、あるいは在校等時間と言い換えたりしていますけれども、労働時間に対して、それを管理はするが、その時間に応じた報酬を支払わないという、完全に労働分野の規範から逸脱したような判断を取り続けているという点でも、今回の給特法というのは非常に大きな問題を含んでおります。  三のところに、この要点の一、二をまとめた見解というか、私の意見が示されておりますけれども、このように、ちょっと繰り返しになりますけれども、法案の附則第三条において時間外在校等時間というものを示し、かつ、それを労働時間とはみなさない立場を続けている現法案というのは、法体系としても公立学校教員の現状から見ても非常に破綻しているというふうに言わざるを得ません。既に、地方議会では、現状の公立学校教員の勤務実態が労働基準法に違反しているという認識が多数示されるようになっております。  このような破綻した法体系下での働かせ放題の固定化、在校等時間の短縮のための時短ハラスメントや持ち帰り時間の拡大などがこれから発生するおそれが強いわけですけれども、そういったことは、教員の士気の低下を招き、ただでさえ限界に達している学校現場が一層これから混乱、崩壊していくおそれというものが強いものです。  また、既に資料で示しておりますように、数々の訴訟が持ち上がっておりますが、今後、国、自治体、校長を被告とする訴訟が相次ぎ、国、自治体、校長は訴訟対応や賠償金の支払に追われ、学校現場の混乱が拡大していくおそれがあります。そのような法律を通してしまうということに関して国会の責任は極めて大きいものと考えております。  次の要点の四といいますのが、こちらは、これまで申し上げてきましたように、時間外在校等時間というものを労働時間として捉えたときに、今回、教職調整額を段階的に一〇%まで上げていくということがもう法案として組み込まれているわけなんですけれども、これが仮に一〇%まで上がったとしても、そしてまた、仮に、今回の法案の附則で示されている、時間外在校等時間を三十時間まで減らすということが目標として示されているわけなんですけれども、そもそも三十時間まで減らすことが可能かということについて、今回幾つも挙げられている対策では非常にその可能性は薄いと考えられますし、仮にですが、三十時間まで減らすことができたとしても、そしてまた、最終的に達した教職調整額一〇%というものは、三十時間に対する報酬として時間外の労働時間に対する適正な報酬額に達しておりません。  つまり、この点からして、現在の法案というのは、無報酬の労働を公立学校教員に要請というか強制するという点で労働関連法規にも規範にも違反しているというふうに言えます。  なぜこのように言い得るかということに関しましては、本資料の八ページに計算の仕方が書いてあります。八ページを御覧いただきますようお願いします。  元々、教職調整額四%というのは、一九六六年の教員勤務実態調査の結果を踏まえて制定されたものです。当時の一九六六年における残業というのは約八時間でした。八時間に対して教職調整額は基本給の四%を定めているわけです。つまり、一時間の残業につき四%割る八時間ということで、〇・五%の補填が正しいということで、四%の教職調整額ということが定められたというのがこの法のそもそもの作られたときの理屈です。  だとすれば、これを適用しますと、二〇二二年度の教員勤務実態調査では、一月当たりの時間外在校等時間の推計は、小学校では約四十一時間、中学校では約五十八時間とされており、この調査結果に基づくものであれば、適正な教職調整額割合というのは、小学校であれば四十一時間に〇・五%掛けて二〇・五%、中学校、五十八時間に〇・五%掛けて二九%でなくてはならないという、そういう計算の結果になります。  これが実態ですけれども、今後この時間外在校等時間を仮に三十時間に抑えていくとします。そうしますと、三十時間に当たる、三十時間に対する調整額の割合は三十掛ける〇・五で一五%でなくてはならないということになります。それを一〇%というふうに現在掲げているということは、仮にそれが段階的に上がっていって一〇%になった時点においても既に五%分の搾取を組み込んだことを法律として定めるものであり、到底容認できるものではありません。  これは、国が、全国の多数の教員に対してただ働き、搾取というものを法律で定めるという、全くやってはならないことが今、目の前で進行しようとしているということについて是非認識を持っていただきたいと思います。  続けて、要点の五点目になりますけれども、こちらは主務教諭についての事柄です。  主務教諭ということが新たに設けられて、それに関して役職給を設定するというふうにされていますけれども、本資料の九ページの表、これは教員勤務実態調査ですけれども、を見ていただければお分かりのように、非常に長時間勤務の度合いが高いのは二十代の若手教員が多くなっております。  主務教諭というものの定義を見ますと、これも九ページに書いてありますけれども、中堅教員を対象とするというふうに書いてあります。児童の教育をつかさどる、及び命を受けて当該小学校の教育活動に関し教諭その他の職員間における総合的な調整を行うという、まあ管理職に当たるものであって、かつ、文部科学省の資料では中堅教員というふうに定義されておりまして、これが、二十代のいわゆる若手教員に対する、の長時間に対する対処策として主務教諭というものを幾ら設けても使えないという、対象がずれているということになります。  また、この主務教諭というものを設けたことによって、この主務教諭に仕事上の負荷が集中し、主務教諭において長時間労働が悪化するおそれというものがあります。  さらに、この主務教諭という新たな階層を設けることによって教員間に責任や賃金の階層構造を増大させるような施策は、互いの専門性や教育への思いに敬意を払いつつ、対等に意見を述べ合って運営に参加している、参加していくという学校の在り方を現在以上に阻害していくおそれがあるという点でも大きな問題があるというふうに考えます。  以上、五点にわたって要点を述べてまいりましたけれども、結論を申し上げますと、端的に言いまして、今回の、既にこれまであった給特法案もそうなんですけれども、それを改正する今回の法案も非常にその場しのぎといいますか、おためごかしというか、ものにすぎません。それがいかに国会の中だけで、いろんな省庁間の手打ちであるとか、そういうものによって決まっていたとしても、それがその場しのぎ、おためごかしであり、策術的なものであるということは全国の教員の目にはありありと見えております。労働に関する、これも別途はっきりと定められている法や規範を逸脱するような法律を全国の大量の教員に対して国が法として定めるということは恥であり罪であるという事柄にほかなりません。そのような事態を是非認識していただきたいと思います。  国立学校や私立学校の教員については既に残業代の支払による対応がなされていることを鑑みても、給特法であり、給特法や調整額という枠組みは法的に多数の矛盾や破綻を含んでおり、教員の長時間労働を延命させているような悪法です。このような法律が仮に今国会で成立したとしても、早期の、つまり調整額が一〇%に達するまでは何もしないといったような、そういう扱いは許されません。一〇%に達する以前に、早期の抜本的再改正と、勤務実態調査を繰り返し実施し、長時間労働がこれからも恐らくは改善されていかないということが次々に明らかになると思いますけれども、そういった実態を把握し、それに対する対策として教員の基礎定数、これは加配では全く対処になりません、基礎定数の大幅な増加というものが不可欠であるということについて申し上げたいと思います。  以上です。

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