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高橋基樹 ·京都大学名誉教授/神戸大学名誉教授

参議院政府開発援助等及び沖縄・北方問題に関する特別委員会(2025-05-09)での発言

第217回国会 ·第第5号号 ·5,780字
○参考人(高橋基樹君) 高橋でございます。  アフリカの経済の研究を始めましてから三十六年になります。その経験に基づきまして、事務局から御連絡をいただいた御下問について、私なりにお答えをさせていただきたいと思います。  お配りしました資料の一枚目の下段にございますように、意見陳述の内容は、アフリカの開発課題の現状、それからTICADの今日的な意義と評価、そして三番目に日本に期待される役割等、そしてTICAD9に向けて私なりの御提案と申しましょうか、それを言わせていただきたいというふうに思います。  めくっていただきまして、まず、アフリカにおける開発課題ということですが、本当にアフリカには多くの多面的な開発課題がございまして、全てをお話しすることは到底不可能ですから、二つに絞って、最も重要なことというふうに私が考えることを御説明をしたいと思います。  第一に、経済成長の不安定さと構造転換の遅れということでございます。  依然としてアフリカは、植民地時代につくられたような鉱物資源あるいは農産物などの一次産品に依存をしておりまして、それが引き続いているために非常に不安定な経済が現状としてございます。その一方で、その依存が続いている理由は、やはりほかの国と比べて工業化が停滞をし、場合によっては深刻なことに相対的に縮小しているという事実がございます。余りこれまでの議論で振り返られてこなかったことですので、この点を詳しくお話をしたいと思います。  二番目は人口増加です。  これはポジティブなこととして触れられることが多いですが、先生方御案内のとおり、これは、子供を扶養する、教育し、医療保健を施す、負担にもなりますし、また、若者が失業のまま育てば社会政治的不安の拡大になります。これについては、後ほど日本の役割と連動させながら御説明をさせていただきたいというふうに思います。  それでは、アフリカにおける開発課題の現状ということで、四ページ目を御覧いただければと思います。  よく、アフリカは今成長しているよねということを一般の方から言われます。ですが、この図ですね、これは一人当たりのGDPの推移を見ておりますけれども、二〇一三年辺り、これはTICADⅤがあった年ですが、その頃から世界的な資源ブームが終えんするとともにアフリカは停滞をし、むしろ一人当たりのGDPは米ドルでいえば停滞をしております。  この図ではなかなかコロナ禍とウクライナ侵攻等のアフリカ経済に深刻な影響を与えている事態の影響が十分分かりませんが、全体としてはアフリカは必ずしも成長していない、ここにアフリカの問題がある、一端が表れているというふうにお考えいただければと思います。  次に、五ページ目に行っていただきまして、これは何を見ているかといいますと、アジアの二か国、タイとバングラデシュ、それとアフリカの代表的な製造業が発達しているというイメージのあるケニア、それの製造業の全体のGDPに占める比率を比較したものであります。  これは、皆様の御期待のとおりというか、御想像のとおり、タイの製造業の比率というのは大変高く、二〇一〇年辺りには三〇%ございました。むしろ富裕化のためにサービスの比率が上がっていって、やや低下をしている。先進国的な経済のサービス化が起こっているという事態がありますが、それに比べてまだバングラデシュやケニアの製造業の比率は低く示されております。ただ、バングラデシュは、御案内のとおり、世界のアパレル工場という異名を取るほど工業化が進んでいると言われていまして、製造業の比率はかなり順調に上がってきています。  大変ショッキングなのはケニアでありまして、製造業の比率はむしろバングラデシュと対照的に下がっているという事実があります。これは必ずしも絶対的にケニアの製造業が成長していないということは意味しませんが、ほかのサービス業や農業に比べて製造業が十分伸びないという状況があるわけです。こういうものはアフリカで広くほかの国々でも観察をされていまして、早過ぎる脱工業化ということで世界的に開発経済学者の注目を浴びている事態であります。  今までのイギリスから始まり日本を経て中国に至る世界の工業化の歴史に照らしてみれば、やはり、安定的な外貨を獲得し、雇用の創出を広範にできる製造業の発展をアフリカでも将来的に図っていくということが今後重要になるというふうに思います。  では、どこにアフリカの製造業の問題があるかということで、六ページ、ちょっと見にくいですが、ピラミッド型の図がございますので、これを見ていただければと思います。  アフリカの、特にケニアなどの統計に従って概念的に図を作成したものでありますが、企業は規模が大きくなればなるほど、日本でもそうですけれども、数が、企業の数は少なくなります。ただ、日本と違うのは、ここに働いている人々の数というのはかなり少ない、少数の労働者しかそこにはいないということです。  日本では、非常に強い中堅の企業、中小企業でも大きめの企業がたくさんあって、これが経済を支えていると言われていますが、アフリカでは、英語でミッシングミドルと言いますけれども、中間の企業が非常に弱い。この二つ、大企業と中企業はフォーマル、政府にきちんと登録をしている企業ですが、このような非常にいびつな、日本から見ればいびつな形をしています。  では、大多数の労働者はどこで働いているかというと、その規模が非常に小規模で零細で、インフォーマル、すなわち政府に登録をしていない、税金を払っていないことも多いインフォーマル部門というところで働いていますが、アフリカの現場をケニアを中心に歩いてみると、実はこの部門は非常に活発になっている。アフリカに行かれた先生方はよく目にされると思いますが、路肩とか空いている空き地とかで非常に盛んな小規模零細の方々の活動が若い人たちの受皿になっているという事実を目にされることだと思います。  ちょっとまためくっていただきまして、私の一つの研究課題として、都市インフォーマル部門に最近は出入りをして歩き回っております。写真で見えますのはソファーを売っている場所なんですが、準幹線道路のようなところに、路肩に、一見非常にきれいな立派なソファーが並んでおります。八ページの下の写真を見ていただくと、非常に立派で日本の家にも余りないようなソファーをこのインフォーマルな、野外で仕事をしている人たちが作っている、そういう事実がございます。九ページの写真などを見ていただくと分かるとおり、非常にデザインも凝っていて、かなりたるみとかそういうものがなく、カバーと中の枠組みがぴったり合っているような緻密な設計。しかも、多くのソファーというのは、野外でインフォーマルの人たちが作っていても極めて規格化されています。  これを何回も通って見ていますと、新しいデザインが年々歳々生まれている。あるいは、作り方に工夫が、また進化していく。さらに、彼らが、インフォーマルの野外の物づくりをしておられる方の中で自分たちで機械を発明するといった数々の創意工夫が見られます。  九ページの下、十ページですね、これは、本当に東京のちょっと良さげなバーとか、そういうところで見られるような立派なソファーを作っている場合もあります。学生にこれを買いたいかと言ったら、家が小さいので入らないと言っていましたけれども、アフリカの中間層では大きな家を持っておられる方がたくさんおられますので、こういう大きなソファーを買って帰られる。しかし、こういうソファーも半分野外で作っています。  めくっていただきます。キリンが見えますが、このキリンは、実物大ですが、金属でできています。非常に写実的にできていますし、ちょっと右の方にこれを作った職人さんたちがいるんですけれども、人間と比べて見ていただければ分かるように、大変大きなものです。あるいは、その右側に非常にすてきなこれバーベキューセットなんですけれども、こういうものを意匠として作れる技術を野外で働いている人たちが持っているということです。多くの場合、これは政府に登録をしていない。  さらに、十二ページ下を見ていただくと、これは、アフリカにとっては、特にケニアは土葬ですので、人を弔うということはとても大事なんですけれども、棺おけ、とても凝ったすばらしい棺おけを作ることができます。皆さん、半分野外で営業しておられるインフォーマル部門に属しています。  このインフォーマル部門の経済活動がなぜこれほど活発になっているかということを私なりに考えてみますと、十三ページに書いておきましたように、都市人口の増加、これによって、彼ら、所得の低い人も含めて、非常に消費が拡大、都市で拡大している。彼らのために物を作る人たちが当然必要とされるわけですね。  一方で、最初に申し上げたように、若年の方々がどんどん労働人口に入っていきますから、彼らの大量の流入が見られる。さらに、きちんとしたソファーを、先ほどお見せしたとおりのものを作るためには、非常に最低限の算数の教育などが必要になります。基礎教育の普及というのは、実は物づくりの盛り上がりに役立っている。よく職業訓練と基礎教育を分けて、職業訓練を優先するとかそういう議論をされることがあるんですが、これは一体だとお考えいただかなければならないと私は思います。  もう一つ、これは一部の方は問題に感じられるかもしれませんが、事実として、安価な器具あるいは中間財が新興国から、特に中国からたくさん輸入されるようになっている。中国の製品は、もう何十年も前に比べると質が上がっていますので、しかも安い。深刻なことは、これが国内の競合品を作る、ケニアの国内の競合品を作るものよりも安くて質がいいということです。ですから、この物づくりの、最底辺の物づくりの方々は、中国製品なり新興国の製品を選ぶ。十四ページ出ている巻尺もそうですし、のこぎりもそうです。さらに、めくっていただきまして、くぎですね、もう大量にくぎを木工細工をしますと使いますが、くぎも中国製です。そして、きれいなカバーでソファーを覆っているところも御覧いただいたと思いますけど、これも中国製品ですね。  どのように作られるかという、かいま見ていただければと思いますが、十七ページに、親方が、左側に親方がきちんとした巻尺でこのカバーの布を測っている、彼の指示で真ん中にいる職人さんたち、若い人たちがソファーをこしらえて、枠組みをこしらえて、それにカバーをきちんとたるみのないように付けているという場面です。さらに、クッションとしては中古になった布を使っている、こういったことが見られます。  TICADの履歴と今日的評価というところに移りますが、TICADは、アフリカが非常に孤立しているとき、一九九〇年代の前半に始まりました。アパルトヘイトに反対し、民主化が進み、平和構築が必要になっている、こういう時代に、日本は欧米が忘れようとしているアフリカに手を差し伸べて、TICADを始めました。その貴重さは今でも忘れてはならないと思います。  さらに、これは日本単独の開催ではなく、アフリカ、AUCと世界銀行、UN、そして国連開発計画等と一緒になってやってきた。この三十二年の歴史の中で、民間の人々がこのTICADのプロセスに参加をし、様々な次元で交流をしてきています。貧困削減の支援からビジネスの促進への領域が広がっている。そういったものがTICADのプロセスであり、これは日本の国家資産と呼んでいいと思います。  私、今後注目しなきゃいけないと思うのは教育研究であり、文化、芸術、スポーツの分野でも日本とアフリカの交流がTICADを中心に行われていくことが必要になるというふうに思います。  さらに、十九ページになりますが、ODAを通じてアフリカに対して日本がコミットメントをする、その基盤になってきたのはTICADでの議論だろうと思います。特に、アジアだけ日本が伝統的に支援をしていった場合には起こり得なかった様々な広がりを、アフリカへの支援をODAで行うことによってODAは獲得し、私は、いろいろ日本のODAにはアフリカ支援にも問題があったとしても、相対的に見れば世界に冠たる多面的かつ質の高い大規模のODAを日本の援助は供与していくことができると思っています。  さらに、例えばケニアの一般人の方と話しても、日本の支援を高く評価してくださる意見を聞きます。日本のパスポートはシンガポールと並んで世界最強と言われますが、日本人が犯罪を犯さないというような説明がありますが、明らかにアフリカにおいてJICAなり日本のODAというのは大変歓迎をされているし、それが日本のパスポートのアフリカにおいて通用する強みになっていると思います。  ちょっと時間がなくなりましたので、急いでまいりますが。  さて、今まで投資が非常に日本から停滞しているということが言われていますが、申し上げにくいんですけれども、これは元々産業構図が日本とアフリカでずれているので、これ自体はそんなに嘆くことでもないし、致し方のないことだと思いますが、ただし、一部の耐久消費財、自動車やエアコンや、あるいは資源採掘に用いられる制御機器等は大変アフリカでも歓迎されているところでありますし、こういったところから投資を進めていくことが重要であろうと思いますし、さらに、インドとか東南アジアにある日系の工場からの輸出というのはかなり多くございます。  スタートアップ志望の若者にケニアなどに行きますとたくさん会いますが、多くの場合失敗して帰ります。私の見たところ、十人のうち九人は失敗して帰る。ただ、彼らを鍛える必要があると思うんですね。日本とアフリカでは余りにも投資への環境が違いますので、彼らに訓練をしてもらう。  さらに、二十一ページ、二十二ページ……

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