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池上甲一 ·近畿大学名誉教授

参議院政府開発援助等及び沖縄・北方問題に関する特別委員会(2025-05-09)での発言

第217回国会 ·第第5号号 ·5,445字
○参考人(池上甲一君) 近畿大学名誉教授の池上でございます。  本日は、TICAD9に向けて開発協力の在り方に関する意見を述べる機会をいただき、大変有り難く存じます。  私は、最初に、一九八〇年代後半に海外渡航を、初めて海外渡航をしましたが、それはタンザニアでした。以降、ジンバブエ、モザンビーク、南アフリカ等で主に農業に関する調査を行ってまいりました。JICAの補助事業にも多少関与いたしました。本日は、これらの経験を基に得た知見に基づいて、特に農業を中心に開発協力の望ましい在り方について意見を述べたいと思います。  本日の意見の流れは、お手元の資料のスライドの二に示しましたように、おりますけれども、五番目の地方中小都市圏の重要性というところにつきましては、時間の都合上、六の目指すべきTICAD9の方向性の中で説明いたします。  最初に、最も基本的な問題であります開発援助の基本理念について私の考え方をお示ししておきたいと思います。  二〇一〇年代後半に小農、家族農業を重視する世界的な潮流が生まれましたが、開発援助分野はこの動きにきちんと応答してこなかったのではないかというふうに考えております。小農、家族農業による伝統的農業は時代遅れで生産性が低いと、そうみなす旧来の考え方を踏襲し、それを近代農業に変えることを使命としてきました。該当地の農民は開発客体であり、新しい技術の受容を迫られる主体でした。彼らにとって開発援助というのは天から降ってくるものであり、援助期間終了後何年かたつと元のもくあみに戻ってしまうと、そういう例が圧倒的に多かったかと思います。つまり、自分たちのプロジェクトではなかったために社会に根付かなかったと言っていいと思います。開発援助の農民像を客体から主体へ、つまり、最初の段階から伴走するパートナーへと転換することが一番基本的な課題だというふうに考えています。  この点は、最近のフードセキュリティーをめぐる議論でも明確に意識されています。従来はFAOの四側面論でしたけれども、これにサステナビリティーとエージェンシーという二つの考え方を追加すべきと、そういう認識が広がっています。特にエージェンシーに私は注目しておりますけれども、これはちょっと理解しにくい概念ですが、主体あるいは主体的能力のことで、その要点は、食の確保には個人や集団、地域社会の意思表明と行動が重要であり、文化的受容性と地域の供給源を優先するという点にあります。つまり、この考え方は、自ら作るもの、食べるもの、加工の仕方、運搬などを自己決定すると、そういう食料主権の考え方と共通しています。その食と農業の分野における今後の開発援助には、この視点をしっかり踏まえる必要があるというふうに考えております。  そのためには、経済合理性を過度に強調する開発モデルに依拠するのではなく、ホモエコノミカスという人間像を転換しなければなりません。過去の負のレガシーを抜本的に転換し、地域の歴史と風土性と主体性を尊重する方向にかじを切ることが大事だというふうに考えております。  次に、スライドの六ページ以降になりますが、ODA大綱又は開発協力大綱の変化に移ります。詳細は省きます。  ここで指摘したいことは、その六ページのスライドに記しましたように、ODAの批判には、ごく大ざっぱに言うと、リベラル的なものとポピュリズム的なものの二つがあって、その大綱の改定はその影響力の強さと対応していたのではないかということでございます。前者は、一九八〇年代、九〇年代に盛んだったんですけれども、最近は、もちろん国際NGOなど市民社会組織が健闘しておりますが、全体的には鳴かず飛ばずになっているというように感じます。後者は、例えば日本人の税金を途上国に流しているとか、なぜ中国に援助をするのかといったような排外主義的な日本第一主義に特徴があります。SNSで影響力を増加させていますが、私の見る限り、公式の場で余り意見を表明したということはないように思います。  現行の大綱とそれに基づく政府の説明は、特に最近では、後者のポピュリズム的批判を強く意識しているように思われてなりません。例えば、首相官邸のホームページ、よくある誤解には、ODAは相手国や世界だけではなく、日本にとってもしっかりメリットがあるように政府が設計しているとか、日本企業がODAの事業を受注しているといった説明が並んでいます。開発援助の国益重視化と対応しているにしても、ちょっと過剰に迎合しているのではないかというふうに思われてなりません。もちろん、その短期の国益重視もありますが、地球益というやっぱりグローバルのインタレストにちゃんと応えるということが長期的な国益につながるということをきちんと併記していただきたい。是非、ヒュームの「貧しい人を助ける理由」のエッセンスを利用していただきたいなというふうに考えております。  ここで、スライドの九ページに移ります。  ここから、日本の開発援助の特徴を少し簡単に振り返っておきます。本日は、地域別の配分、アジアとアフリカの比較、手法別の内訳と贈与率、分野別配分を用意いたしました。詳細につきましては、このグラフと、その横あるいは下に付いている説明を御覧ください。  これらのグラフから分かりますように、アジア地域の重視とアフリカの地位がまた低下していること、円借款融資への極端な偏り、贈与率の低下と水準が低いこと、無償は技術協力が中心であること、経済インフラが中心で社会開発や人道支援が少ないということ、農林業開発の位置付けが産業面でも低下しているということなどを読み取れます。言うまでもありませんが、GNI比〇・七%目標には程遠い、そういう現状の下で、本当に援助資金の必要なLDC諸国、特にサブサハラ・アフリカに資金が届いているかというと、やややっぱり疑問があります。とりわけ、サブサハラ・アフリカのいわゆる脆弱層には余り恩恵が及ばない援助構造になっている、そういう点に大きな課題があるというふうに思います。  次に、本日の主要アジェンダであるアフリカに移りたいと思います。  スライド十三に示しましたように、私は、サブサハラ諸国にとっての最重要課題は、貧困と格差の是正、飢餓の克服だと思っています。これらはSDGsの第一ゴールと第二ゴールであり、両目標の改善にはサブサハラが決定的な役割を果たします。  伝統的な価値観である貧困の共有とか平等社会が崩れて格差が拡大中です。特に、その格差に拍車を掛けているのが天然資源に依存する経済ではないかと思います。もちろん、天然資源依存経済はGDPを短期的に成長させますけれども、一般的に裾野が狭いのでトリクルダウン効果は限定的で、大概はエスタブリッシュメント層の懐に収まってしまうと。一般の国民、特に農村住民にはほとんど縁がない。それどころか、ガーナのゴールドラッシュとカカオ農民の例に見られるように、希少資源の開発が農地の収奪と荒廃を引き起こし、農民の経済的地位の後退と食料不足を引き起こしています。GXを名目とした電気自動車関連の希少資源開発にも同じような観点からの注意が必要かというふうに考えております。  サブサハラの農業は、一般的に特定熱帯産品か原料農産物のモノカルチャーが支配的で、生産条件の良い農地はこういう作物に振り向けられてきました。一方で、食料生産は軽視され、食糧援助の積み重ねもあって、補助金で歪曲された安過ぎる国際穀物の輸入が常態化し、貿易赤字の原因ともなっています。輸入は個人の購買力と国の輸入用外貨準備高に左右されますが、少しの供給変動があっても価格が高騰する、あるいは失業や病気で購入できなくなってしまう、そういうリスクを抱えているので、輸入が食料確保の安定化につながるとは言えません。  サブサハラはもう頻繁に食料危機に見舞われています。  FAOの栄養不足人口のデータによりますと、最多の地域は南アジアですけれども、サブサハラはそれに次ぐとともに、絶対数でも相対的比率でも上昇しています。  それから、グローバルなフードガバナンスにとって、サブサハラは焦点の地域だと言うことができます。直近のハンガー・ホットスポッツ・レポートによりますと、二〇二四年に二十二か国がリストアップされました。そのうちの十六か国がサブサハラ・アフリカです。さらに、紛争国が挙がっておりますけれども、越境難民の存在ということも無視できない問題かと思いますし、気候変動に対して非常に脆弱な農業であるということに留意をする必要があります。  それでは、こういうホットスポットに該当しているような国は何を食べているのかということを見るためにスライド十五を用意いたしました。  スライド十五と、それからスライド十六を見ていただきますと、何を生産しているかというグラフでありますが、この二つの表とグラフから分かりますように、キャッサバなどの根茎作物が非常に重要で、米や小麦というのは伝統的な作物ではありません。ところが、栽培されていない大豆や小麦の輸入が急増するという現状になっています。こういうことが、例えばウクライナ・ロシア戦争の勃発後に指摘されたように、食料不安を引き起こす大きな原因となっているということをきちんと直視する必要があるかと思います。  こうしたアフリカの現状の下で、日本による開発援助はどのような意味を持ったのか、スライド十八と十九を御覧いただきたいと思います。  かなりはしょってまとめておりますけれども、大綱も強調している民間資金を含む海外農業投資については日本の場合にはかなり低調で、海外投資全体の一割弱を占めるにすぎません。投資は加工、製造に集中する傾向があって、農業生産はほとんどありません。アフリカはほとんど農業投資は行われていないということですね。政府がいろんな政策メニューを用意しましたが、その効果は今のところ余り現れていないのが実情かと思います。  ただ、二〇二五年、今年策定した新しい食料・農業・農村基本計画の中に、輸入の安定化、多様化ということを重要な領域に位置付けています。そこではグローバル・フードバリューチェーン戦略といったようなメニューの拡充を意図しておりますが、そこがそのグローバルサウスの批判する新植民地主義に陥らないようにする条件は何かということもちゃんと念頭に置きながら、期待半分、憂慮半分で注視したいところでございます。  それでは最後に、目指すべき方向性について述べて、私の意見をまとめることとしたいと思います。  第一に重視すべきは、アフリカ流の小農発展を目指すべき協力援助の模索です。  最初に申し上げましたように、農民を援助事業の客体ではなく、主体ないし主役として位置付けることです。まずは、オファーしたプロジェクトありきではなくて、共に調査し考えることを通じてそのプロジェクト自身を設定する、アジェンダを設定するところから始めるモデル事業を試みるということがあってもいいのではないかと思います。  その際のオファーの相手は、地方、その地に足を着けて暮らす地方の農民、農村住民で、政府や政財界、地方の官僚、有力者でもないということに注意をしていただきたいと思います。こういう社会的脆弱層の、いわゆるケーパビリティーアプローチによるファンクションの充実を目指すことで、広範な層が関与できる着実な経済成長、その定着、社会発展を実現させて、大綱の言う人間の安全保障に貢献し、質の高い成長を目指すことができるというふうに考えています。  二点目は、経済と社会と環境と文化の調和的発展を目指すことです。  詳細はちょっと省略いたしますけれども、サブサハラの責任ある農業投資原則を再評価すること、その際にインクルーシブでエクイタブルでソーシャリーな責任ということも組み込んでいくということが必要だと思います。言うまでもありませんが、ビジネスと人権に関する行動計画を踏まえて、それを政府や地方政府、ローカルビジネスとも共有していくことが重要だと思います。  経済的な発展については、地方中小都市の振興を重視することが大事だと。今、高橋参考人が説明されましたように、特に地方中小都市でもこのインフォーマルビジネスはかなり盛んになっていて、そこが地方農村の若者を吸収する場にもなっていますし、中間商人の収奪を回避するためにも、農産物加工や小さな商売、そういうのも盛んにできるような開発援助というものが実は大きな果実を生み出すというふうに考えています。  資料には書きませんでしたが、その小さな開発のための資金を、ODAの無償枠に制約があるとすれば、例えば円借款で生じた利息、これを利用するということも考慮に値するのではないかというふうに考えております。  アフリカにおける開発援助の要点は、内発性、永続性、多様性、着実性で、スワヒリ語で言うゆっくり、ポレポレの心構えと、関係性、人間関係を重視するラフィキ、友達ですね、の旗印を掲げることだと思います。脂ぎった国益重視はひんしゅくを買って、せっかくアフリカの人たちが抱いている……

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○参考人(池上甲一君) ありがとうございます。  今おっしゃられたように、私たちも大学で教えていて逆に教えられるということ、多々あることでございますね。  農業の場合の教える、…
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