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市原麻衣子 ·一橋大学大学院法学研究科教授

参議院外交・安全保障に関する調査会(2025-02-26)での発言

第217回国会 ·第第3号号 ·7,225字
○参考人(市原麻衣子君) ありがとうございます。  一橋大学の市原麻衣子と申します。本日は、機会を頂戴いたしましてありがとうございます。  私は、民主主義と国際政治に絡むところの研究をしておりまして、主に民主主義を擁護する動きと、それから民主主義に対する攻撃の動き、両方とも見ております。それですので、民主主義外交、民主化支援ですとか、あるいは権威主義国の影響工作、民主主義社会に対するものですね、そういったものを見ておりまして、その観点から、自由、法の支配、人権などの規範をベースにつくられている民主主義規範というものを重視する国際秩序、国際規範というものが今どういう状況になっていて、今後どういうふうになっていくのかということを少しお話をさせていただきたいと思っております。  基本的に、お二人の参考人の先生方とかなり重複するところがございます。  まず、前提条件として、昨今、トランプ政権が発足してから、それが与える民主主義に対するダメージというものが大きく報道されることが多いかと思います。しかし、民主主義に対するダメージというのはそれ以前からかなり深刻なものとなっていたというところをまず初めに御提示させていただきたいと思います。  一ページ目を御覧いただきますとお分かりいただけるかと思いますが、点線で示されているところが民主化の動きというものを示しています。二〇〇〇年代に入りますと、この民主化の動きというのが非常に弱まって弱体化をしてきたということが分かるかと思います。また、他方、実線の太い線の方ですね、これは権威主義化の動きですけれども、それに反して権威主義化の動きというものが非常に加速をしてきたというのが背後にございます。  次のページの方で、より新しいところをカバーしたデータをお示しさせていただきましたが、自由主義規範というものが良くなっている国というものが青で示されておりますけれども、そういった国の数が二〇〇六年頃から極端に減ってまいりました。このトレンドは現在も続いております。そういうわけで、西欧民主主義国においても民主主義の制度と規範というものが弱体化し、民主主義への信頼も弱まっているというものが現在のトレンドです。  そういうふうにお話をさせていただくためには、そもそも民主主義とは何なのかということを一旦踏まえておく必要があるかと思います。  例えば、最近、選挙で選ばれたリーダーというものは、結局その民主的な選挙を経ているわけだから、民主主義的に選ばれた、民主主義に即した動きなのであるという議論も見られますが、ここで気を付けておかなければいけないのは、自由、平等、そして定期的な選挙を行うためには市民的自由というものが根底として必要だということです。つまり、これは、様々な報道の自由、言論の自由、集会、結社の自由、信念の自由など、様々な自由権というものを守らなければ真の民主主義というものは達成できないということです。  それに対して、例えばアメリカでは報道の自由が近年弱体化をしてきておりまして、そして、トランプ政権が例えば選ばれてからマイノリティーに対する権利の侵害ですとか制度への攻撃というものはやはり強まっているということは踏まえておかなければいけないと思います。そういったことで、市民的自由に対する攻撃というものはアメリカにおいても非常に深刻であるということを指摘せざるを得ません。  そして、次のページに移りまして、その根底として世界的にポピュリズムの波が底流に流れているということは御承知のとおりかと思います。グラフだけ示させていただきました。  六ページ目の方に参りますけれども、そのポピュリズムの波を引き起こしている前提条件として、やはり国民の間に存在している不満というもの、それからそれにプラスしてSNSに対する中毒症状というものが一つあって、それがフィルターを通さない声の発出と、表出という形になったときに、かなり現状に対して問題のあるような声というものも残念ながら出てきてしまう傾向があるといったことが言えるかと思います。  特に、経済格差などその他の格差によって比較対象がある中、ある状態で不満を抱えている、国民の中で、彼らよりは私たちの方がずっと苦労しているんだという感覚がある方々というのが、現実逃避の願望を持って、その現実逃避願望がSNSの持つ関心経済モデルと合わさったときに、刺激に対して中毒性を持っているその動きから、例えば偽情報ですとか、あるいは極端な感情を惹起させるような情報というものに飛び付いてしまうという傾向につながっています。  そして、全体として、世界的に、例えば移民ですとかトランスジェンダーの方々ですとか、マイノリティーの権利がこのポピュリズムの波の中で侵害されるという傾向が強まっていますが、これはマイノリティーがスケープゴートになりやすいということです。実はこれは、選挙で多数派を形成するために大勢の人たちを動員できるアイデンティティーカテゴリーがあるならば、それをどんな形でも容易に使い得るというわけですので、必ずしも移民やトランスジェンダー、LGBTQなどでなくても、様々なマイノリティー性というものが利用されてしまう可能性があり、どんな人でもこのスケープゴートになりかねないということを示しています。  そして、こうした底流に流れる動きに加わって、ここ数年で見られるようになった言説上の問題を二点指摘させていただきたいと思います。一つは、権威主義国に起因する言説上の問題、そしてもう一つは、民主主義国側に起因する言説上の問題です。  一点目の権威主義国側に起因するものは、七ページ目のところ、「対処すべき問題①自由主義規範の利用」というふうにタイトルを付けさせていただきました。非自由主義的民主主義国や権威主義国が、非常に自由主義の規範の中心である選挙、人権、法の支配、民主主義、こういった概念を恣意的に利用するというトレンドが非常に強まっています。  これは、統治の正当化に用いる道具として行われているわけですけれども、例えば、我が国では選挙が行われていて、選挙によって選ばれた指導者がこの方ですというふうに示すときに、これは日本のことじゃなくて一般的に示すときに、その選挙自体がそもそも不正選挙を経て行われた選挙であったり、あるいは野党を解党した状態で行われた選挙であったり、あるいはメディアが抑圧された状態で、政府の批判ができない状態で行われた選挙であったりした場合でも、選挙で選ばれた指導者であるという形で正当性を表していこうとします。  典型的に、ロシアが行っている選挙と、それからプーチン大統領がそれに基づく正当化をしていることはこの典型として見られるわけです。  そして、今、ウクライナに対してロシア側が、大統領選挙を経ないゼレンスキー大統領というのは正当性がないというふうに主張を強めているわけですが、これに関しては、ロシアが長年行ってきた選挙介入というものが非常に効果を現して、上げてきているという感覚を権威主義国側が持ってきているということを示していると言えると思います。そして、権威主義国も我こそが民主主義国であるという主張を行っています。  次のページ、八ページの方に行っていただきますと、これは大阪総領事の薛剣氏のツイッター上での言説を分析したものです。特に、民主主義という言葉との関連でどんな単語を使っているかということを分析しました。  ここの中で、黄色でハイライトさせていただいているところを見ていただきますと、ここから彼が作っているナラティブというものが出てくるかと思うんですけれども、つまり、西側の国々は民主主義や自由主義というものを主張しているけれども、それは真の政治体制ではなくて、そういった虚名、うその、まあ偽の概念を使ってそれを主張しているだけであると、人々はそれにうんざりしていて、民主主義というものは既に自壊しているんだと、民主主義という言葉を権力の維持のために使用しているんだというような議論をしているわけです。このようにして、我々の方がより民主的である、民主主義国と名のっている西側諸国は真に民主的ではないというナラティブを形成しています。  それに加えまして、九ページ目の方ですが、権威主義国も人権重視の姿勢を示しています。  次のページに行っていただきますと、十ページ目の方で、参考として、人民日報で人権という言葉とともに用いられた単語を二〇二三年の七月から二〇二四年の十月までの記事を取り上げまして、これを対応分析というものを行いました。  そこで示されている、単語で近い関係にあるもの、リンクが張られた単語というのはかなり強い関係性を持って使われた単語で、いずれの単語も人権という概念とともに使われた単語です。ここから読み取れることは、アメリカは人権に関して問題を提起してくる、けれども、中国にとっては発展というもの、社会の発展というものこそが本来の人権なのであると、そして中国は国家の安全を重視していて人々の発展というものを保護する権利を行使しているのだと、それなので、こういった行動を重視し、他国による内政干渉というものはするべきではないと、そういう主張をしていることがここから読み取れます。  このように、権威主義国側が自由主義規範を様々利用してきていることに加えて、民主主義国の中からも自由主義規範の恣意的な利用というものが見られているということが更に懸念されることかと思います。  十一ページ目に示させていただきましたように、例えばバンス副大統領がミュンヘン安全保障会議において、真の脅威は国内から来るものである、言論の自由に対する抑圧であるというような発言をされていました。これはプラットフォーマー規制を指摘して行われた発言ですが、実際、プラットフォーマー規制というものは事実に基づいた自由な言論空間というものを守るために行われているものであり、逆に、民主主義にとって重要な行動であるはずのところ、これを攻撃するという行動を取ったわけです。こうしたことは、民主主義という概念の偽善性が、まあ偽善的な概念であるという印象を付けてしまうという効果があります。  次のページに行っていただきまして、このようにして自由主義規範というものが恣意的に利用されてきたのは、逆にこの自由主義規範に国際的な正当性があるからです。しかし、こうした恣意的な利用によって自由主義的な価値の正当性が国際的に弱体化してきておりまして、この現在のアメリカからの言説というものはこの民主主義にとどめを刺す可能性もあると、かなり危険な動きだと考えております。  これに加えまして、民主主義諸国からの動きとして懸念すべきものを次に示させていただきます。「対処すべき問題②民主主義言説の安全保障利用」というふうに書かせていただきました。  民主主義という概念は、実は三つの要因によって構成されています。一つは規範です。民主主義を重視するという考え方そのものです。それは、人権を保護する大切さ、法の支配、自由を重視する考え方などです。そして、二つ目は制度です。それを実際に守るための、例えば三権分立ですとか、様々な人権保護のための法、法整備ですとか、様々な制度があるかと思います。それに加えて、民主主義にはイデオロギーの側面もあります。  このうち、イデオロギーの側面というものが残念ながら戦争の文脈で前面に出てきてしまっているというのが過去三年で見られている現象です。彼らとしての権威主義国から我らである民主主義国を守るという言説が形成されてきまして、これが戦争と対立の文脈で用いられてきました。特に、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、そうした言説が最初に出てきたのがここ三年間の動きだったわけですが、これは、実際には、権威主義国、ロシアがウクライナに対して行ったことは、ウクライナの国家主権と生存への侵害でした。それを国家主権に対する侵害が見られているというふうに主張するのではなくて、民主主義が危機にさらされている、民主主義が侵害されているというふうにフレームを民主主義国側はしてきたわけですが、これは民主主義国間での共同戦線を張るために重要と考えられた動きでした。言い換えれば、民主主義の旗の下で結集するための動きだったわけです。  これは実際に民主主義国を結集するために非常に重要な役目を果たしたことは間違いありませんが、他方で、ポピュリズムによって規範と制度というものが弱体化していく中で取られてきた動きであるということ、それから、この概念利用の仕方自体が排他性を持っているということ、これが国際社会に非常に難しい問題を突き付けています。特に、グローバルサウスの非自由主義的な民主主義国、そして権威主義国にとっては踏み絵を踏まされているという感覚を強めざるを得ない状況になっているわけです。  十四ページ、十五ページ目、十六ページ目で示させていただきましたが、ウクライナのゼレンスキー大統領は民主主義のリーダーシップを必要としていると主張してきたわけで、実際にそれによって民主主義国の連携が強まってきたのは望ましい動きではあったのですが、このウクライナにとっての民主主義というのは親EUの動きであり、これが制度を強化する、思想ですとか規範を強化したいということというよりは、やはり主権を守るためにEUと連携をしたいということの言い換えであったということを意識しておく必要があるかと思います。  そういった形で、ウクライナ支援のための言説として、民主主義と専制主義、自由と弾圧、ルールに基づく秩序と武力による秩序との戦いですとか、あるいはフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長などからも独裁政治による民主主義への戦争というフレーミングが出てきて、これが二項対立の世界というものを強め、グローバルサウスにとって非常に難しい状況を形成、強めてきたというふうに言わざるを得ません。  それに更に歯止めを掛けてきたのが、イスラエル支援のための言説です。  アメリカ側からは、バイデン大統領が、イスラエルは民主主義国であると、それなので我々はイスラエルを防衛するのだというような言葉が十月十日にすぐに出てきましたし、また、ブリンケン国務長官なども、イスラエルは民主主義国であって、人間の命に最も高い価値を置くものであるというふうにフレームをしました。  こういったフレームにもかかわらずイスラエルのガザに対する攻撃があったということが、もちろんそれはハマスのテロに対する報復であったわけですが、この事実がグローバルサウスにとっては非常に民主主義を理解する上で居心地の悪い思いをさせているというのが現状です。  そもそも、十九ページを見ていただきますとお分かりいただけるかと思いますが、例えばASEANは民主主義という言葉を使うことを避けてきました。インド太平洋に関するASEANアウトルックなどでも、例えば開放性、透明性、包括性、ルールに基づく枠組み、グッドガバナンスなどの概念は使いますが、民主主義という言葉は使わないでまいりました。  次のページの二十ページ目に行きますと、こうした状況を踏まえて、中国はこれを利用しようとしてきております。これは言説上のことです。  例えば、チャイナ・デーリーで見られた言説をそこに一つ取り出しましたが、こんなことを言っています。G7は国連憲章についてほとんど触れず、代わりに民主主義やいわゆるルールに基づく国際秩序について語り続けている。しかし、G7諸国が国際ルールについて語るとき、それは西側諸国が設定したルールを意味し、小さなサークルのイデオロギーと価値観に基づいて線を引き、地域対立をエスカレートさせる可能性があると。  こういった言説は明らかにグローバルサウス向けに形成されているものです。元々これ、こういった言説が響きやすい対象に対して、中国側に歩み寄らせるための動きというふうに理解する必要があります。  このように、民主主義をめぐる言説が権威主義国側からも民主主義国側からも残念ながら弱体化させられている現状を踏まえて何をすべきかということで、最後、三点出させていただきました。  一つは、カウンターナラティブの国際的な醸成が必要だと考えます。特に、アメリカの中でも現政権に忖度する動きというものが非常に強化されてきたことに鑑みまして、民間アクターを前面に出した欧州と日本の協調というものが重要かと思います。  第二点目に、民主主義を国家間対立の文脈で語ることをやめて、あくまで制度と価値の文脈で語るということが必要かと思います。戦争同意の旗印としては、主権や国家の生存というものを使うということが重要だと思われます。  そして最後に、民主主義、自由、人権、法の支配を守る制度と、この規範を擁護しようとする取組への支援というものを日本としては拡大できるのではないかと思います。現在ある草の根無償支援を政治的なNGOにも例えば拡大するですとか、あるいは民主活動家に対する支援を行う、私の方が実はプログラムを立ち上げたんですけれども、そういったプログラムに御支援いただければ有り難いですし、また議員の先生方から民主主義の規範を強化するようなナラティブを形成される議員連盟などをおつくりいただけるといいかなというふうに考える次第です。  どうもありがとうございました。

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