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枝野幸男 ·立憲民主党・無所属

衆議院憲法審査会(2025-11-20)での発言

第219回国会 ·第第2号号 ·7,580字
○枝野委員 衆議院英国・EU・ドイツ憲法及び国民投票制度調査議員団を代表して御報告申し上げます。  私たちは、去る九月十四日から二十一日まで、イギリス、EU及びドイツの憲法及び国民投票制度について調査をしてまいりました。  この議員団は、本審査会のメンバーをもって構成されたものでありますので、この際、団長を務めました私から調査の具体的な内容について御報告をさせていただき、委員各位の御参考に供したいと思います。  議員団は、当時本審査会の会長を務めておりました私を団長に、会長代理の船田元さん及び現会長の武正公一さんが参加し、合計三名の議員をもって構成されました。  なお、この議員団には、衆議院憲法審査会事務局、衆議院法制局及び国立国会図書館の職員が同行し、調査をサポートしていただきました。  本調査団では、中心的な調査テーマとして、「国民投票における偽情報対策及び外国勢力による介入への対応、政治広告規制」を設定いたしました。これは、二〇〇七年の国民投票法制定時には想定しなかったネットに関する様々な問題が発生し、特にSNSの進展に伴ってより問題が複雑化していることを踏まえたものです。現状では、憲法改正国民投票の場面で、外国勢力による介入や偽情報の影響を防ぐための対策が十分には講じられていません。そこで、一つの参考として諸外国の取組を調査テーマといたしました。  あわせて、議会の解散権や調査権、さらには最近行われた憲法改正の背景など、憲法本体に関するテーマについても調査をいたしました。  まず、「国民投票における偽情報対策及び外国勢力による介入への対応、政治広告規制」を中心に、二つの国、一つの機関における主な調査結果を報告いたします。なお、ドイツを始めEU加盟国には国民投票制度を有しない国もあることから、選挙の場面における偽情報対策等も調査をしています。  最初の訪問国であるイギリスでは、選挙委員会の最高執行責任者及び実務担当者、国家安全保障等の観点から情報を分析、監視している国家安全保障オンライン情報チーム、NSOIT、偽情報対策の中心的な法律であるオンライン安全法を執行するオフィス・オブ・コミュニケーションズ、OFCOM、英日議員連盟の共同代表である貴族院議員、議会改革に取り組んでいる庶民院議員などからヒアリングし、質疑応答、意見交換を行いました。  これらを通じて、ネットにおける偽情報や外国勢力による介入について、イギリスでも日本と全く同じ問題を抱えていることが確認できました。  イギリスでは、これらの問題に対応するための法制度として、オンライン安全法や政治広告規制に関する二〇二二年選挙法が制定されています。ロンドンでのヒアリングの結果、次のような現状と課題があることが分かりました。  偽情報対策等において最も重要な論点は表現の自由とのバランスですが、イギリスでも、表現の自由との関係で様々な考慮が払われています。具体的には、プラットフォーム事業者に課する法的義務の内容がポイントです。  まず、コンテンツの内容ですが、オンライン安全法の対象は主に違法なコンテンツであり、偽情報については、外国干渉罪に当たるものに限られます。その上で、事業者への義務づけの態様は、リスク評価やシステムを通じたリスクの最小化など、システムに焦点を当てたものにとどまっています。  また、NSOITは、ネット上の偽情報を発見しても、事業者に削除や修正を命じる法的権限はなく、事業者に任意で削除や修正を依頼するしかありません。  すなわち、公的機関は、原則として、コンテンツの内容の正しさに直接介入するものではありません。これらは、オンライン上の安全確保と表現の自由とのバランスを意識したものだとのことでした。  表現の自由とのバランスに関し、次に注目すべきは、政治広告についてです。  政治広告については、二〇二二年選挙法により、デジタルインプリント表示義務が導入をされました。これは広告主の氏名及び住所を明示させるものであって、広告内容の規制ではありません。このような仕組みは、当審査会においても委員各位から既に提案があったところです。  イギリスのインプリント表示義務の主な対象は有料広告であり、無料広告は、政党によるものなどを除いて対象外となっています。したがって、インフルエンサーに資金提供をして発信してもらう場合は、基本的には対象外となります。  現在、政府内で、インプリント表示義務の対象となる広告の範囲を拡大する方向で検討中であるものの、表現の自由とのバランスが難しい問題であり、簡単には結論が出ないとのことでした。  次の訪問先であるEU本部では、欧州議会の憲法問題委員会の委員、EUの外務省に相当する対外行動庁、デジタル政策を所管する欧州委員会通信ネットワーク・コンテンツ・技術総局、政治広告規制を所管する欧州委員会司法・消費者総局、そして欧州議会対日交流議員団長からヒアリングし、質疑応答、意見交換を行いました。  EUでは、二〇二二年に制定されたデジタルサービス法、通称DSAがネット上の安全確保のための法制度の骨格となっています。  例えば、DSAでは、大規模なプラットフォーム事業者にリスクの評価、軽減措置を義務づけており、選挙への介入、影響もそのリスクの一つと位置づけられています。また、事業者は、毎年、報告義務を負っています。DSA違反には、年間売上げの六%を上限とする制裁金が課せられます。  具体的にどのような措置を取るのかは事業者が決める仕組みとなっていますが、それは表現の自由と関わるからであるとのことでした。  また、偽情報による個人の権利侵害があり、その個人がプラットフォーム事業者に削除を求めた場合でも、削除をするかどうかは事業者の判断次第です。個人と事業者の紛争の際、EU当局はどちらが正しいかの判断はしないとのことでした。  政治広告に関しては透明性確保策が講じられており、具体的には、政治広告の透明化及びターゲティングに関する規則、通称TTPAにより、政治広告である旨、広告主、ターゲティング技術の使用の有無の明示義務などが設けられています。ただし、無料の政治広告は規制の対象外です。  また、ターゲティングについては、一律の規制ではなく、情報の種類や対象者の年齢に応じたきめ細かな規制を設けています。  ティックトックでは既に有料政治広告の掲載を中止しており、TTPAの制定により、グーグルやメタも同様の方針を決定しているとのことでした。  ブリュッセルにおけるヒアリングでは、一様に、EUにおいてはロシアなどを拠点とする外国勢力から偽情報を用いた介入があると明言していました。  外国勢力による偽情報を用いた介入に関して、対外行動庁では、ロシアによる偽情報に関するデータベースを構築しており、そこには一万九千件のケースが蓄積されているとのことでした。  また、緊急警報システムを有しており、偽情報の発信に限らず、閲覧数の増大により人々の注目を集めるという形態での介入に対しても注意喚起をしているとのことでした。  EUでは、ファクトチェック団体の育成も行っています。ファクトチェックだけでは事業が成り立たないため、金銭的サポートを行っているものの、団体の活動方針などには介入せずに独立性を確保することがポイントであるとのことでした。  最後の訪問国であるドイツでは、デジタル政策を所管する連邦デジタル・国家近代化省の政務次官、外国勢力による介入に対処している連邦内務省、政党系シンクタンク、憲法を専門とする大学教授及び最近の基本法改正を担当した連邦議会の法務・消費者保護委員長などからヒアリングし、質疑応答、意見交換を行いました。  まず、偽情報やSNSに関する問題状況は、ドイツでも日本と同様であることが確認されました。  現時点では、外国勢力の介入によって選挙結果が左右されたことはないものの、今年二月の連邦議会選挙で過激主義政党であるAfDが二〇%もの票を取って躍進したことに明確に表れているように、SNSによって排外主義的な言動が広まり、政治状況が非常に大きく変わったとの認識は共有されているようです。  ドイツでも、表現の自由は、基本法、つまり憲法で保障されています。もっとも、ドイツでは、歴史的背景により、ナチス崇拝が表現の自由の対象外とされている点で日本と事情を異にします。とはいえ、それ以外の表現について、保障の外延がどこまでか、また、それを誰がどのように解釈して判断するのかという難しい問題はあります。その上で、国家は表現の内容に介入してはならないというのがドイツの基本原則です。これは、国家が介入すると、その時々の政権政党が何をどのように報道してよいかを決めることになってしまうおそれがあるためです。  なお、人を対象としない表現であれば虚偽でも構わないこととされ、この点は政治広告でも同様です。したがって、偽情報であっても、人を対象としない場合は許容をされています。ただし、ネット上の表現に関しては、EUの法制度であるDSAによる規制の対象となります。  EU本部では、制度設計者としてのブリュッセル目線のDSAに対する評価を聞くことができましたが、ベルリンでは、DSAを各国で執行する立場からの評価を聞くことができました。  元々ドイツでは、二〇一七年から、ネット上の違法コンテンツ対策のための法律としてネットワーク執行法がありました。DSAは実質的にこれに代わるものですが、内容的には不十分な点があるとの評価が示されていました。  例えば、一、個人の権利を保障するものであるから、個人の権利侵害が発生しない場合、つまり被害者がいない偽情報については適切に機能しない、二、偽情報の拡散は非常に迅速であるため、削除時点では既に拡散している、三、アルゴリズムなどの技術やユーザーの行動様式の変化のスピードについていけないといった課題があり、いかに対処すべきかに悩んでいるのが現状であるとのことでした。  政治広告規制についても、EUの法制については、一、アルゴリズムを規制していない、二、無料広告が対象外とされているといった課題があるとの評価でした。外国勢力が資金提供する政治広告に対する規制という点では意義があるものの、アルゴリズムで操作された無料広告の影響力が高まるおそれがあるとの指摘もありました。  いずれにしても、ドイツでも、偽情報対策、SNS対策は始まったばかりであり、まだ終着点は見えない状況であるとのことでした。  続いて、憲法本体に関するテーマについて、調査の概要を御報告いたします。  まず、議会の解散権については、イギリスでは、議会任期固定法が廃止されたため、いつでも自由に解散できるようになりました。なお、恣意的な解散時期の選択により、政権与党の得票が三から四%増えるとの調査結果もあるとのことでした。  次に、議会の調査権についてですが、まず、イギリスでは、庶民院で過半数を占める政党が内閣を構成することからうまく機能しておらず、野党の議員は政府の情報へのアクセスが難しいとのことでした。  一方、ドイツでは、議会の調査権が機能しているとの評価でした。例えば、委員会では少数派にも議題提案権が与えられていることから、少数派は自らの提案を公開の場に持ち出し、世論の喚起につなげることができるとのことでした。  さらに、ドイツにおける最近の基本法改正についてです。  昨年、憲法裁判所に関する基本法改正が行われましたが、これは、勢力を拡大しているAfDが将来的に憲法裁判所に影響力を行使することを未然に防ぐために、従来法律で定められていた裁判官の人数、任期等を基本法に格上げしたものです。この改正は、当時の与党会派である社会民主党、緑の党及び自由民主党と、野党第一会派であるキリスト教民主・社会同盟の間での協議を経て合意に至ったものです。  また、今年の基本法改正は、国の起債はGDPの〇・三五%に景気の要素を加味した額以内に限られるという、いわゆる債務ブレーキ条項を改正するものであり、具体的には、国際情勢の変化に対応するために、一定の防衛費等は債務ブレーキ条項の適用除外とするものでした。  従来は、民主主義的な既成政党で基本法改正の要件である議会の三分の二を占めることが前提となっていましたが、この状況は、今年二月の連邦議会選挙におけるAfDの躍進で変わってしまいました。AfDがこの基本法改正に反対することが明白であったため、選挙結果が出た後、新議会が招集される前に急いで改正が行われました。  なお、総選挙後、新議会招集前であっても、選挙前の議員に任期、身分が残っていることは基本法に明示をされており、この間に改正を行ったことは法的には全く問題がないとのことでした。  最後に、以上を踏まえて、団長として若干の所見を申し上げます。  まず、偽情報対策などについてです。  今回調査した三つの国、機関のいずれにおいても、政治的な偽情報に対する強力な規制は表現の自由との関係で非常に難しいとの共通認識があり、現状では明確な答えは出ていないところです。特にドイツでは、ナチス称賛は表現の自由の範囲外であるというドイツ特有の事情を背景としつつも、なお表現の自由や国家の政治的中立と偽情報への対応との兼ね合いに悩んでいる点が率直に示されました。  日本でも問題状況は同様であり、今後、偽情報対策の議論を相当深掘りしていく必要があると考えます。  その際、EUの偽情報対策や政治広告規制の仕組みは、オーソドックスながらも時代の最先端を行くものが多いと受け止めました。  偽情報に関しては、表現内容に直接介入するのではなく、プラットフォーム事業者などに違法な書き込み等に対処する義務を課し、その監督によって対応するという方法や、大規模な事業者に対して偽情報などのリスクの軽減措置を求めるといった方法が取られています。また、政治広告についても、広告主の明示義務やターゲティング技術利用の規制が設けられています。これらは、表現の自由との兼ね合いをしっかりと見据えたものと評価できます。  各国とも、ネット技術の急速な発展の中で、偽情報対策と外国勢力による介入への対応のどちらについても大変苦慮しているのが現状です。特に外国勢力からの介入については、これを断固阻止しなければならないという点では各国で共通認識があります。しかし、どのようにして早期段階で捕捉して排除するかという手法については簡単に答えが出るものではなく、いまだ悩んでいる状態です。憲法や国民投票制度という観点からの議論とともに、技術的な側面からの進展を促していく必要があると考えます。  また、偽情報対策の実効性確保にはまだ多くの課題があるように感じました。特に、直接的な被害者がいない偽情報、例えば失業率などの経済指標や政治的統計データに関する偽情報については、拡散して大きな影響を与えても直接の被害者がいないことから、被害者がプラットフォーム事業者に削除を申し出たり、訴訟を起こしたりするという手段が使えません。一方、公権力がこうした偽情報を取り締まれるようにすると、逆に正しい事実まで隠蔽される可能性すら生じてしまいます。対応策について、慎重さとバランス感覚が求められる状況となっています。  さらに、偽情報の拡散スピードへの対応も重要です。イギリスやドイツでは、人員の確保など態勢の強化を重視していると伺いました。日本でも組織や人員の面での対応を進めていく必要があるところです。  日本では、ターゲティング技術利用の規制について必ずしも議論が進んでいません。しかし、当該技術のもたらす影響力の大きさと、規制された場合に予想される効果、そして表現内容そのものへの規制でないことなどから、早期かつ優先的に議論を進めることを提起いたします。  これらはこれまでの表現の自由に基づく人権論だけでは解決できない新しい課題でもあり、この新しい課題への具体的な解決策を見出すことはいまだ難しい状況だという印象を強く持ちました。表現の自由が持つ優越的な地位を前提としつつも、ネット社会に対応した新たな憲法理論の模索が求められます。  なお、イギリスでは、オンライン安全法の執行機関であるOFCOMの政府からの独立性が特徴的でした。職員は公務員ではなく、幹部の任命や活動資金の面でも政府からの独立性が担保されています。さらに、説明責任は政府ではなく議会に対して負っています。  意見交換の中で伺った、OFCOMの幹部間で合意できることはほとんどないが、唯一の例外はOFCOMの独立性だとのジョークが忘れられません。  表現の自由に関わる規制機関の政治的独立性は、その権限行使の在り方とも関連する重要な論点であると理解しています。  次に、憲法改正の在り方については、最近のドイツの基本法改正に関して印象に残っている点があります。  まず、憲法裁判所に関する基本法改正については、現在、憲法裁判所は政治的中立性が保たれていて、国民の信頼が高いと評価されていること、そして、既成政党の間に、基本法に明記されている機関は我々にとって非常に核心的な機関であるから守らなければならないのだ、お互いの損得を一切抜きにして協調路線で進めようというコンセンサスがあり、既成政党間の信頼関係の下で改正が行われたとのことです。  また、今年行われた債務ブレーキ緩和に関する基本法改正についても、改正の議論の前提として、既成政党の間で、党派を超えて民主的な価値観を共有しているという共通了解があったとのことです。  日本とドイツでは政治状況が必ずしも同じではありませんが、私たち国会議員が憲法やその改正に関する議論を行うに当たり、参考になる点もあるのではないでしょうか。  ただいま御報告申し上げました調査の詳細については、現在、海外派遣報告書を鋭意作成中ですので、こちらも併せて御参照くださいますようお願いをいたします。  最後になりますが、今回の派遣に御協力いただきました全ての関係者の皆さんに心から感謝を申し上げ、私の報告とさせていただきます。  ありがとうございました。

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