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守島基博 ·学習院大学経済学部経営学科教授/一橋大学名誉教授

衆議院厚生労働委員会(2024-04-09)での発言

第213回国会 ·第第10号号 ·4,181字
○守島参考人 皆さん方、おはようございます。学習院大学の守島と申します。  本日は、雇用保険の一部を改正する法律案に関する私の意見を申させていただきたいと思います。このような機会を与えていただき、誠にありがとうございます。  まず、総論から入りたいと思います。  雇用保険制度が雇用に関する総合的機能、総合的なセーフティーネット機能を果たしていることは、皆さん方も御存じのとおりだと思います。端的に言ってしまえば、雇用が失われたときに、新しい雇用に転換できるまでの生活支援をするのが雇用保険の基本的な意義でございます。  そうなんですけれども、最近少し変わり始めているなというふうに私は感じております。  一つには、雇用を守るという言葉の意味が少し変わってきたのではないかなと思っています。  もちろん、これまでは、この言葉の意味は、雇用契約を守るということであり、一人の人間の雇用を続けるということにあったわけですけれども、それについては、もちろんこれからも重要だというふうに私は考えております。  だけれども、皆さん方御存じのように、現在、いろいろな意味での経済環境の変化であるとか、あと、大きな点としては、ITであるとかAIであるとか、最近いろいろな議論がされていますけれども、技術革新によって仕事の内容が変化する時代に入ってきました。そうなってくると、これまで一人一人の人間が持っていたスキルであるとか培ってきた能力が、役に立たないという言い方はちょっときついかもしれませんけれども、陳腐化するということが起こってきて、新たな仕事のスキルであるとか能力を身につけて、今の雇用契約がなくなったとしても、仮にそこの企業で雇用されなくなったとしても、新たな雇用契約に転換する力を労働者は持たなければならない、そういう時代に入ってきたんだと思います。  そうなってくると、労働者を守る、若しくは雇用を守るという意味合いが今までとは少し変わってくるのではないかなというふうに思っています。  結果として、雇用保険にも、単に、雇用がなくなったときにセーフティーネット、生活支援をしていくということだけではなくて、失業若しくは失業の可能性に対して、新たな仕事に支障なく移動できるための新たなスキルであるとか能力を持たせるための支援も重要だというふうに私は考えております。  最近はやりの言葉で言ってしまうと、いわゆるリスキリングという言葉になってしまうんですけれども、リスキリングという言葉は後でまたお話があるかもしれませんけれども、そういうふうなことに対する、リスキリングに関する支援というのが重要になってくるのではないかなというふうに私は思っています。  そう考えると、今回の教育訓練給付関係の拡充、まあ今回の雇用保険法の改正の中にいろいろなものが入っておりますけれども、そういうふうな意味でいうと、今回の教育訓練給付関係の拡充というのは正しい方向へ進んでいるのではないかなというふうに私は思っております。  例えば、給付率の上限アップであるとか、自己都合退職者への支援拡充、それから在職中の労働者の教育支援のための休暇への給付金創設などが、そういう意味では、今回の法改正というのは当てはまってくるのではないかなというふうに思っております。  もう一つ、一つの大きなポイントとしては、現在の仕組み、まあ労働法制全体ですけれども、仕組みが、比較的、正社員を守る、まあ正社員という言葉は法律的に裏づけられた言葉ではないんですけれども、俗語として使っている言葉をそのまま使用させていただきますと、いわゆる正社員の雇用を守るということに大きな力点があったというふうに思っています。  日本の労働法制というのは、今申し上げたように、正社員、非正規社員というふうに分けた場合に、正社員に対して比較的厚く、かつ非正規社員に対してはそれほどの保護を与えていなかった、そういうふうなことが実情としてあったのではないかなというふうに思っています。雇用保険も例外ではなくて、二十時間という制限を設けて、短時間労働者、短時間労働者というのは御存じのように非正規労働者の代表選手であるわけですけれども、彼ら、彼女たちの支援というのを制限していたわけです。  一般論として、例えば、最近いろいろなところで議論されている同一労働同一賃金等があるように、いわゆる非正規社員への格差是正支援というのは、比較的重要な労働政策の一つの大きなポイントではないかなと思っています。  もう一つ、皆さん方御存じのように、現在、正社員の労働者というのが、全労働力の約四割になっています。したがって、ある意味では非正規という形の言葉でくくってどこかの隅に押しやっていく、そういうことはもうできない状態になっていますので、そういうふうな人間たち、非正規で働いている人たちに対して、安心して働ける環境であるとかセーフティーネットを用意するということは、今後も日本経済全体にとって重要なものではないかなと思っています。  したがって、今回の、二十時間という制限を十時間にして短時間労働者への支援をするというのは、極めて意味があるのではないかなと思っています。  もちろん、これは、ある意味では、私に言わせれば道半ばであって、これからは十時間という制限もなくして、全ての労働者に対して失業へのセーフティーネット、まあセーフティーネットという意味は、単に守るではなくて、先ほども申し上げたように、新しい仕事へと潤滑に移っていけるという部分も含むんですけれども、そういうものを提供することが必要ではないかなと思っています。  テクニカルな問題としては、マルチジョブホルダー、二つ以上の仕事を持っている人たちに関する総労働時間をどういうふうに把握するかという問題もあるんですけれども、令和四年より、六十五歳以上のマルチジョブホルダーについて、自己申告という形で総労働時間を把握する、そういう試みがなされておりますので、この方法の結果を見て検証しながら将来的に検討していくということが重要ではないかなと思っています。審議会でもそういう議論がされておりました。  また、こうした改正は、雇用保険のかなりの部分というか、雇用保険の性質を変える可能性があると思います、失業に対するセーフティーネットということから結構変えていく部分というのはあると思うんですけれども、先ほども申したような日本経済全体の動きを考えると、やはり合理的な改革ではないかなと思っています。  次に、育児休業給付に関してお話を申し上げたいんですけれども、我が国経済の、これは皆さん方まさに御存じのことだと思いますけれども、もう一つの大きな問題は、人手不足、人材不足でございます。企業が経営を続けて経済を回すためには人材の確保というのが極めて重要で、それがちょっと、今の状況だと危機的な状況になっていると思います。  人的資源の確保というのは企業にとっても重要なんですけれども、同時に、やはり国全体にとっても、経済成長にとっても重要な役割を持つものではないかなというふうに思います。したがって、国家戦略として、未来へ向けての人材確保ということを機動的に行う必要があるというふうに私は考えております。  その場合、人材不足への対応というのは、マッチングの精度を上げて労働市場の機能を高めるというのもありますし、さきに述べたリスキリング等を行って、現在いる人材をある意味では、再活用という言い方はいいかどうか分かりませんけれども、再活性化していく、そういうふうな動きもあるんですけれども、やはりもう一つの大きなポイントというのは少子化対策であろうというふうに思っています。やや長期的な解決法ですけれども、少子化対策というものが重要になってくるのではないかなというふうに思います。  したがって、育児休業給付というのは、これまで、出産による休業を失業状態と位置づけて、失業対策として始まった制度であり、かつ、その後の子育て中の所得保障という色彩も強くなってきており、そういう面では今まで十分機能してきたわけですけれども、さきに述べたような、人口減少、それに伴う労働力減少という中で、育児休業給付というのは国の経済政策としての意味合いが結構大きくなってきているのではないかなと思っています。  そういうことでいうと、今回、国庫による負担が八十分の一から八分の一という本則に復帰したというのは極めて重要なことであろうと思いますし、ある意味では当然のことであろうというふうに思っています。  ただ、これは皆さん方御存じのように、審議会では、保険財政の状況に柔軟に対応できるように、育休保険料率に弾力を持たせることも同時に含んでおります。  上記に述べたような点を考慮すると、育休というのは、仕組みの検討も含めて、やはり基盤を盤石にしていかないと、これからもたない。ある意味では、非常に現在の雇用保険財政の中では大きな部分を占めておりますので、基盤を盤石にするということが重要で、そのためには、国による積極的な財政面での支援というのが重要ではないかなというふうに思っています。  最後に、財政運営やその他についての幾つかの問題を指摘しておきたいと思います。  まず第一に、雇用保険の財政運営については、これも皆さん方御存じのように、コロナ禍により、やはりかなり状態が悪くなりました。国からお借りしてということもやっておりましたし、ある意味では非常に難しい状況に陥ったんですけれども、令和四年以降、コロナが明けるに従って少し上向いており、少しずつ前の状態に戻っております。  ただ、やはり現在、先ほども申し上げたように、様々な形で、雇用保険が担うべき役割というのは大きくなっておりますので、そういう意味では、一層の国による財政的な支援も含めた関与が必要になってくるのではないかなと思っています。  時間になりましたので、私のお話はこれで終わりにさせていただきたいと思います。どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)

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