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礒崎初仁 ·中央大学副学長、法学部教授

衆議院総務委員会(2024-05-21)での発言

第213回国会 ·第第20号号 ·3,487字
○礒崎参考人 中央大学の礒崎と申します。本日は、貴重な機会をいただき、ありがとうございます。専門は地方自治論、行政学ですが、特に最近は地方分権の成果と今後の展望について考えております。  下の二ページを御覧いただきたいと思います。  まず、枠で囲んだ生命等の保護措置に関する指示等の規定についてですけれども、この指示権には特徴がありまして、第一に、現行自治法では指示は法定受託事務に限定されていますが、改正法では自治事務についても指示が可能になること、第二に、現行自治法では違法な事務処理等があった場合にそれを是正させる事後的な指示だけが認められていますが、改正法では違法な事務処理等がなくても将来に向けてこうしなさいという事前の指示が可能になること、この二点で従来の指示より踏み込んだ幅広い指示権が定められていることに注意が必要だと思います。こうした指示権を制度化することが果たして妥当なのか、五つの問いに分けて検討したいと思います。  三ページですけれども、一つ目は、こうした指示権が地方自治の本旨や自治法の原則に反しないかという問題です。まず、地方自治の本旨には団体自治の原理が含まれており、これは自治体が地域の運営に対して自己決定権を有すること、したがって国は必要な範囲を超えてこれに介入してはならないという原理とされています。改正法のように法的拘束力を伴う形で包括的な指示権を制度化することは、この必要な範囲を超えるおそれがあるというふうに思います。  次に、自治法の一般原則に反しないかですけれども、関係するものとしてそこに三つの原則を挙げましたが、私が特に強調したいのは役割分担の原則でございます。この原則では、国は国が本来果たすべき役割を重点的に担う一方、住民に身近な行政はできるだけ自治体に委ねることが求められています。例えば防災、防犯、公衆衛生など国民の生命、健康の保護はまさに住民に身近な行政ですから、自治体の役割だと考えられます。もちろん国も安全保障、災害救助など国民全体の安全を守るための基盤を担っているわけですが、一人一人の国民はいずれかの地域で暮らしているわけで、その安全をどう守るかは自治体の責任、役割でございます。改正法は、それが自治体の役割であることを前提として、そこに国が強制的に介入しようということですから、役割分担の原則に抵触すると思われます。  下の四ページですが、二つ目は、自治事務に対する関与として認めてよいかという問題です。  自治法では、国等の関与は必要最小限でなければならないと規定した上で、八つの基本類型を掲げています。図表一は第一次分権改革の際に自治省が提示した表ですが、法定受託事務では同意、指示、代執行など法的拘束力のある権力的関与が認められていますが、自治事務では基本的に権力的関与は認められていません。これは、国と地方を対等、協力の関係に転換するという理念を反映した分かりやすい表だと思います。  私は、大学の講義や職員研修でいつもこの表を示して、自治事務については自治権が保障されていて権力的関与は認められないんですよというふうに説明しているのですが、もしこの6の欄に緊急事態の指示権ありなどと記載しなければならないかと思うとがっかりしてしまいます。  釈迦に説法ですが、法律では立法の精神ないし制度論理というものが重要です。特例といいながら、わざわざ第十四章を作ってこうした規定を置くのは、自治法の整合性を崩し、その精神をゆがめるものではないかと思います。  五ページですが、三つ目は、緊急事態に指示権が必要か、逆効果にならないかという問題です。  そもそも緊急事態において適切な措置を講じられないケースには三つの場合が想定されます。1そもそも何が適切な措置かが分からない場合、2必要な措置は分かっているが、そのための財源、人材、情報がない場合、3必要な措置を取りたいが、関係機関の合意が得られない場合でございます。1の場合は、国も何をすべきかが分かっていないのに指示権は行使できません。2の場合は、国は財源、人材、情報を提供するよう努力すべきであり、指示は不要です。3の場合は、関係機関がもし他の自治体であれば指示権を使えますが、合意しない自治体にもそれなりの事情がありますので、国が指示したからといって問題は容易に解決しないと思われます。  その下ですが、それどころか、指示権の行使は逆効果にならないでしょうか。  第一に、事件は現場で起こるわけですから、東京にいながら適切な措置を決めることは難しいですし、第二に、情勢が次々変化するのに一旦国の指示が出るとそれに縛られてその時々の最適措置が取れなくなるのではないか、第三に、通常、国も自治体も危機を乗り越えたいので指示権は必要ありませんが、もし必要だとすれば全国的な利害と地域的な利害が対立する場合と考えられます。例えば、放射性廃棄物の保管や処理をめぐって国と自治体が対立するようなハードケースであります。しかし、そうしたケースほど合意形成の努力が必要であって、指示権を行使して地域を黙らせるようなことはすべきではないし、やってしまうと、その後の係争処理や訴訟によって問題の解決がかえって遠のくという逆効果が懸念されます。国が指示権を行使すれば自治体が分かりましたと言って従うというような、楽観的な見方はできないというふうに思います。  七ページですが、四つ目は、新型コロナ対応の教訓に合致しているかという問題です。  私は、パンデミック対策では、図表二に整理したように、国と自治体がそれぞれの役割を責任を持って実行することが重要だ、集権と分権の合わせ技が大事だと主張しております。三年半に及んだコロナ対応では、ここに記載したように、どちらかといえば国の対応の方に問題があったように思います。政治家も行政官も個人としては奮闘されたと思いますが、国は行政組織が縦割りですし、現場から遠いために危機管理に向かない構造があるのではないでしょうか。  それに対して、八ページですが、自治体は首長に権限と情報が集まりますし、医療機関など現場にも近いため、コロナ対応でもおおむね期待される役割を果たしてきたと思います。  私は、ある学会で自治体のコロナ対応を検証する作業をしていますが、国が指示しなければならないような自治体があったとすれば教えていただきたいというふうに思います。  もちろん、例示したように、国と自治体の方針が対立した場面はありましたが、国の方針が常に正しかったわけではありません。人は危機に陥ると誰かのせいにしたくなるのかもしれませんが、自治体が国の言うことを聞かなかったからコロナ対応がうまくいかなかった、これからは指示権が必要だと考えたとすれば、奮闘してきた首長や自治体職員に失礼な話だと思いますし、事実に基づかない発想だと思います。  九ページですが、五つ目は、どういう形なら指示権の制度化が許されるかという問題です。私は指示権の制度化は必要ないという見解ですが、あえて言えば、緊急事態に直面した自治体から要請があったときに限定して関係する自治体に必要な措置を指示するという制度にすることは考えられるかもしれません。改正案に赤字で挿入したとおりでございます。  さて、十ページですが、大きく二つ目の規定として、自治体間の応援に関する指示の規定についてです。緊急事態に人材や物資などの応援は不可欠ですので、都道府県をまたがる応援の調整を国が行うことは意味があると思います。実際には災害時などの自治体の応援は既に様々な形で実践されていますので、応援の求めはよいと思いますが、指示の規定は必要でないと思います。さらに、都道府県の指示権も定められていますが、自治法で都道府県と市町村は対等とされていますので、これは避けるべきだと思います。  最後の十一ページですが、三つ目に、指定地域共同活動団体の規定が注目されます。今後コミュニティー団体等の役割は大きくなりますので、指定制度を設けることは意味があると思いますし、自治の多様な担い手を位置づけることは自治法の目的にも合致いたします。本来は自治基本条例などの条例で定めることが望ましいと思いますが、随意契約、行政財産の貸付けなど、法律による規律の例外を設ける点で、自治法に規定することは意味があると思います。  御清聴ありがとうございました。(拍手)

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2024-05-21 · 衆議院総務委員会
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