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嶋田洋徳 ·早稲田大学教授

衆議院地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会(2024-05-16)での発言

第213回国会 ·第第19号号 ·7,856字
○嶋田参考人 失礼いたします。早稲田大学の嶋田と申します。  本日は、このような貴重な機会をいただきまして、誠にありがとうございます。  私は、臨床心理学、特にその中の認知行動療法という心理療法を専門としておりまして、現在は公認心理師の立場で活動を行っております。  私の方からは、性犯罪の加害者に対する治療的支援のあらましについてお話しさせていただきたいと思っております。  スライドの二番を御覧ください。  現在のところは、性犯罪加害者に対する再犯防止としては、先ほども出てまいりました認知行動療法に基づく治療的支援が最も有効であるとされています。これは、心理療法、非薬物療法の一つでありまして、行動科学に基づいた、広い分野にわたって比較的エビデンスの蓄積が多い心理療法になっています。  我が国におきましては、二〇〇四年の秋に発生した事件を背景とした法改正が行われておりまして、主に法務省の方で、カナダあるいはイギリスの実践を先例としながらプログラムが策定されまして、刑務所や保護観察所で認知行動療法に基づく再犯防止指導が行われているところです。  次のページのスライド三番を御覧ください。  これらの国の取組を背景としまして、民間の方にも大きな影響がございまして、民間の医療施設等においても認知行動療法に基づく治療的支援が行われるようになってきました。それまでは、クリニックや相談施設における個別の心理相談や、いわゆる自助グループと呼ばれるグループミーティングが重立ったものでしたけれども、国が採用した認知行動療法に基づくものが有効であるということが民間にも徐々に伝わりまして、医療施設で行われるに至っています。ただし、全国的にはこの治療が行われるのはまだまだ少ないというところがございます。  諸外国におきましては、いわゆる、性欲をコントロールするために薬物療法、ホルモン療法と言われるようなものも認知行動療法と併用することがあるようです。  我が国におきましては、人権的側面などからこういったことを懲罰的に利用することは余り現実的ではないと考えられておりまして、薬事承認等の問題もありまして、一部の医療施設等で任意の治療法の一つとして紹介されるにとどまっています。また、元となる何らかの疾患や障害があって結果的に性加害を行っている場合には、その元の疾患や障害に対する薬物療法が用いられることがあるようです。  また、諸外国におきましては、治療的支援の効果として、プレシスモグラフィー、ファロメトリックといった、体の膨張等を計測する機器等を用いることがあります。例えば、大分以前の話にはなるんですけれども、私がカナダの刑務所等で視察してきたものの中には、男性の陰茎にゴムのようなものをはめまして、女児がプールで水着を着て戯れるようなほほ笑ましい映像を見せて、それによって陰茎が勃起するかどうかというのを測定して、本当に対象者が安全な状態であるのかということを測るような仕組みも導入されているようです。  しかし、我が国におきましては、質問票、御自身が評価したり、あるいはその方をよく知る他者が評価する、あるいは専門の心理技官等が評価する等にとどまっているというところでございます。  スライドの四番を御覧ください。  性犯罪加害におきましては、その心理的機制を考慮した働きかけというのが行われておりまして、一般に思われているように、性欲の充足という側面は確かに共通しているんですけれども、認知行動療法に基づく支援の場合には、性加害行動がどのような機能を有しているのかというアセスメント、そして、それに見合った治療的支援を行うことが重要だと言われています。すなわち、性的加害は、性欲の充足のためだけに行われているのではなくて、生活の中でその方にもたらされる様々な刺激や環境が影響しているというふうに考えます。この点に関しましては後ほどまた例示いたします。  また、性犯罪者に対しては一般に厳罰をもって処遇を望む声が強いのですけれども、厳罰で再犯が抑止されるというエビデンスが残念ながら余りないというのが現状です。そこで、現在では、対象者の特徴に見合った手続が用いられていまして、これはこの領域では比較的有名な考え方なんですが、RNRの原則というのに従っています。これは、ごく簡潔に申し上げますと、重症度の程度が軽い方には相対的に軽い処遇を、重たい方には密度の濃い処遇をといったように、その方に合った密度、回数に従うように処遇を決定するという考え方です。我が国においても、法務省においてこの考え方が採用されております。  次のページのスライド五を御覧ください。  先ほど申し上げた機能という側面の説明を簡単にさせていただきます。  行動科学の理解の仕方では、ちょうど中央の四角にございます、手を伸ばして触る、これは性加害行為、例えば痴漢等と思っていただければよいのですけれども、それがどのような状況で起きるのかという先行事象、そしてどのような結果が起きるのかという後続事象という、真ん中に行動と、時間的に前後する三つの枠組みから捉えることが基本になります。  したがいまして、例えば上下を見比べていただきたいのですが、左から、すぐ目の前に好みの女性がいるときに、手を伸ばして触るというところだけを取り上げるのであれば、上下同じですので加害者に対して同じ理解が可能かと思いますが、上でいいますと、手を伸ばして触るというときには、いつ騒がれるかのスリルがたまりませんという、快の状態の出現を経験する方がいますし、逆に、下でいいますと、いらいら感やストレスが解消する、不快の状態が消失することを経験する方がいます。すなわち、性加害行為を続ける理由、機能という側面は個人によって結構異なるということになります。  この時間的に後に生じる後続事象の方の分析を丁寧にやりますと、例えば、手を伸ばして触るということを別の行動に置き換えられないかと考えます。行動科学では、何々しないということは困難であると考えていますので、ある条件が整ったときに性加害行為をするという行動を、別の何々をするという、より適応的な行動に置き換えることを考えていきます。  したがいまして、例えば、上のパターンで理解される方は、別の行動、例えば、宝くじを買うですとか、勝ち負けがあるスポーツをしたりするなどの、生活の中でスリルを味わうといったような行動に置き換わる可能性が高いのではないかと考えます。下のパターンの例でいいますと、ストレスの解消する方法というのを性加害以外のもので身につけることができれば、性加害をする確率は下がっていくだろうという理解をしていきます。  一般に、犯罪はストレスによって生じるように言われていますけれども、それはこの絵でいいますと下のパターンに当てはまりますが、確かにそういう方が多い一方で、ストレスがなくても刺激を目にしてしまうと加害する方は多くいるように思います。特に性加害の場合はそれが顕著だと言ってもいいのかもしれません。  スライド六を御覧ください。  認知行動療法に基づく支援では、このような枠組みの理解を、性加害をする直前の行動だけではなく、生活のどのようなことに端を発して、どのようなプロセスをたどって性加害に至るのかということを一連のプロセスで検討することを行っています。  少し絵が小さくて、見にくくて申し訳ございません。丸の形の、右上から時計回りに、性加害に至る行動の連鎖を分析していきます。このような行動の連鎖でその方の性加害行為を理解することができれば、それを生活のどこかで断ち切ることによって性加害まで至らないようにすることができると考えます。  次のページのスライド七を御覧ください。  これが先ほど申し上げた先行事象と後続事象で理解する枠組みになりまして、前のスライドで説明いたしました不適切な行動を減らすということは、他の行動に置き換えるという中央の赤字のところになります。そして、先ほどトリガーと御紹介されていましたけれども、そのきっかけとなる先行事象を取り去ること、そしてそれに加えて、適切な行動を増やすという赤字のところが中心的な支援になっていきます。  一般に、不適切な行動を減らすという方向性だけではなかなか再犯防止につながりません。再犯防止のためには、この適切な行動を増やすといった支援を同時に行っていく必要があります。すなわち、事件と同じような状況に出くわした際に適切な行動が取れるようになれば、結果的に性加害を抑止すること、予防することができるのではないかというふうに考えています。  次のスライド八を御覧ください。  認知行動療法に基づく支援では、このように、再犯防止計画として、最終的には自分専用の計画を作ります。再犯防止計画は個人によって違いまして、ある方の自分のパターンに従ってこのようにやるといった行動の連鎖は別の方にも同じような行動の連鎖になるとは限りませんので、個々に違ったものを作るということになります。  その中に、先ほど申し上げたような、きっかけを減らす、トリガーを減らすという先行事象のコントロールをする、刺激を避けるという手続がありまして、性加害を行うに至るきっかけから遠ざかるという内容が元々治療的支援の一部に含まれています。したがいまして、性加害者を子供から遠ざけるということは、決して更生の機会を奪うものではなく、再犯防止の施策の方向性ともかなりの程度一致しているのではないかと考えています。  具体的には、子供に対する性加害を行った者の場合には、通勤手段や経路を変えたり、子供に関わる職業に就いている場合には転職等の勧奨をしたりします。これは、あくまでも加害者自身から、犯罪から遠ざかるための一つの選択肢として提案するにとどまっているのですが、実際に再犯するかどうかに関しましてはここのところが非常に大きなポイントとなっていると考えられます。  そして、いわゆる性的嗜好に関しましては、短期的変容、例えば小さな子供が好きであるといったようなことを短い期間で変えるということはやはり困難でありまして、性犯罪にならないように、すなわち社会的に容認される方法を用いて自分の特徴とうまくつき合っていきましょうということが当面の支援の目標になります。そして、当面の目標を続けていくうちに性的嗜好の長期的変容を目指していくというのが前提となる考え方になります。  次のページのスライド九を御覧ください。  被害者が子供である加害者の特徴は、大きく分けて二つございます。被害者が子供である場合には、十三歳以下の被害者がいる場合には医学的診断である小児性愛症を念頭に置いて関わることが多いのですけれども、これは医学的表現で余りよくない感じがするんですけれども、専従型あるいは非専従型というふうに言われています。専従型というのは子供だけを対象とするもの、非専従型はそうでなくて、子供も成人も対象とすることということになります。このような対象者の方の医学的な理解と併用して、先ほど申し上げた性加害行動の機能の理解を併せて治療プログラムが行われているということになります。  子供も対象の場合は性的嗜好が子供であるというのに加わりますけれども、私たちが留意していることはもう一つの場合で、性的嗜好は成人女性なのですけれども、通報等をされることを回避したり、心理的な優位な立場に立ったりするために、結果的に子供を加害対象としている場合が結構あるということでございます。  次に、スライド十を御覧ください。  これは再犯の可能性に関する考え方をまとめたものになります。再犯の予測ができるかということは研究も多く進んでおりまして、どちらかといいますと、上の静的なリスク、スタティックというんですけれども、その方の元々の属性や今からでは変容不可能な過去の履歴等に基づくと、その方の再犯の予測ができると考えられています。  もう一つは、二番目の、今からでも変容可能な動的リスクというところがあります。現在の認知行動療法に基づく支援は二つ目の方に働きかけておりまして、一つ目の変えられない過去の特徴を踏まえて、どのように二つ目の動的リスクに働きかけるのかということをもって治療的支援を行っていく、こんなことが行われております。  次のページのスライド十一を御覧ください。  もう一つ、私どもにいただく御意見の中には、再犯をしてしまった方の特徴を調べていくときに、この方はプログラムを受けたんでしょう、なのにどうしてというようなものがございます。  現時点では、先ほど申し上げました静的リスク、動的リスクの考え方に基づいて、現在、最大限の努力がなされておりまして、法務省の方で大きなサンプルの有効性の統計値を公表していただいているのですが、相応の効果は上げております。ただし、逆に申し上げますと、その方を十分に治してから社会内に出しているというわけではなく、決められた刑期、決められた支援回数の中で、その方にできる最大限の支援を行っているというふうに考えていただければと思います。  最も体系的に行われておりますのは矯正局のプログラムで、一回百分間が約七十回程度行われているものが最大のものです。民間の方では八回から十二回、十五回程度の支援になっています。保護局の方は五回という、ちょっと回数が少ないのですけれども、このようなものが混在して処遇プログラムを受けたと表現されています。  したがって、民間医療施設ですと、これを複数回、同じプログラムを繰り返すことなどもできますので、プログラムを受講したと同じように表現されても、実際にはかなりの中身の違いがあります。そして、何よりも、学校教育と同じように全員が満点で受講を修了するわけではありませんので、性犯防止プログラムを受けたからといって、その方が再犯しないということは残念ながら言い切れないというのが現状でございます。  次のページのスライド十二を御覧ください。  これが法務省によって公表されているプログラムの効果ということになりまして、おおむね再犯率は二〇から二五%程度下げられているとされています。一方で、痴漢等の頻度の高い習慣的行動とみなせる場合や被害者が小児である場合などは、効果が少なかったため、支援方法を工夫する必要があると考えられています。そのほか、矯正施設収容中から出所後までの一貫性を持たせること、指導担当者のスキルアップの必要性などが提言されており、今現在もプログラムの改定が法務省で行われております。  次のページのスライド十三を御覧ください。  これは、さきに私どもが行った厚生労働省の厚生労働行政推進調査事業の研究結果の一部です。現在はあくまでも公表準備中ということになりまして、恐らくそのまま報告書に盛り込まれるのではないかというところの内容になります。  国内では、認知行動療法を中心とした心理社会的支援を軸にした治療的支援が行われていること、いわゆる薬物療法の適用には、多様な意見があり、十分なコンセンサスが得られていない状況であること、何をもって改善したと判断するのかについても意見が分かれておりまして、治療的支援の体系化は十分になされていないこと、社会的リソースとして支援の場が非常に不足しており、機能的な施設間の連携や情報共有に問題があることなどが確かめられています。  また、性犯罪加害者の連続的な支援の際に大きな障壁になっていますのが、法務省管轄の各施設と厚生労働省管轄の各施設の違いというところがあります。  最近は、法務省内の施設同士は様々な連携がなされるようになったと承知しています。しかしながら、あくまでも疾患かどうかという観点とは独立して再犯の防止を目指す法務省施設と、あくまでも再犯ではなくて疾患の治療等を目指す厚生労働省管轄の医療施設等とは、大分隔たりがあるように感じております。  スライド十四を御覧ください。  これは、法務省の大臣官房秘書課が策定いたしました性犯罪再犯防止に向けた地域ガイドラインの概要になります。この検討には私も参加させていただいておりました。  さきに述べたような施設内処遇と社会内処遇のつながり、特に、保護観察所の指導等を終えた後に、主に地方公共団体へのつながりを意識して、認知行動療法に基づくSTEPs―Rというプログラムを公開しています。  このような連携の際に最も懸念されるのは情報共有の問題なのですが、先ほども御紹介がありましたとおり、大阪府との間には特別な連携を行って運用しているという好事例もあるやに聞いております。このような仕組みが各地域で次第に整うようになれば、民間の医療機関等にも波及し、国を挙げての効果も期待できるのではないかと思います。  次に、スライド十五を御覧ください。  事前にいただきました若草色の参考資料、冊子の中で、主な論点につきまして、私の方で意見を申し上げられそうなものを挙げております。  まず、対象犯罪の類型に関しまして、量刑という観点から見ますと、どのような内容の性犯罪なのかを参照することは当然なことかと思いますけれども、認知行動療法の機能という観点から見ますと、その内容や手口が必ずしも一対一対応をしていないと考えられます。したがいまして、本件がどのような内容かに狭く縛られて理解して対応をしてしまうことには少し懸念を感じております。  被害者の年齢に関しましては、先ほど述べたような専従型、非専従型という考え方がありますので、年齢を問わないということは妥当なように感じております。  また、保護事件の扱いに関しましては、原理は成人か少年かに余り関係はございませんので、もしかすると、より年長の特定少年くらいには同等の手続を用いることもよいように思います。少年の性非行の支援の考え方にも、まずは刺激となるものから遠ざかり、別の生活上の出来事や楽しみに目を向けさせるというものがあります。  三の、その他の安全確保措置では、スライド十六にございますとおり、埼玉県の不祥事研修プログラムの策定に関わったことがあります。その際に、関連して多くの教員の意見を収集したのですが、学校の先生方の中には条例違反というのを刑務所等に収監されることのない軽犯罪のように捉えている方が結構多いということが分かりました。また、小学低学年の児童が先生の膝の上に乗ることが不適切であるということにも異論がある方も非常に多かったため、現在の子供に関わる際の考え方をしっかりと研修していく必要性はあるように思います。  四の、その他、再犯防止に関しましては、先ほど述べました、加害者の側のみに対しても、切れ目のない、シームレスな、包括的な支援の枠組みの構築が理想であるように思います。  長くなって申し訳ございません。私からは以上でございます。どうもありがとうございました。(拍手)

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