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稲葉剛 ·一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事

参議院厚生労働委員会(2024-04-11)での発言

第213回国会 ·第第6号号 ·5,259字
○参考人(稲葉剛君) 一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事の稲葉剛と申します。  本日は、国会の場において意見陳述をさせていただく機会を与えていただき、ありがとうございます。  私からは、住まいを失った生活困窮者への居住支援を進めてきた立場から、厚生労働省が進めてきた生活困窮者自立支援制度と生活保護制度の一体的な見直しを私は注視してまいりました。今回、この二つの法律が一体として改正されるに当たり、その法案のそれぞれが持つ課題と私が抱いている懸念点についてお話をさせていただきます。  資料の方を御覧ください。  二〇二〇年春以降のコロナ禍は、日本国内で住まいの貧困が拡大していることを顕在化させました。  日本学術会議は、昨年九月二十二日に発表した見解、コロナ禍で顕在化した危機・リスクと社会保障・社会福祉において、居住支援、居住保障の重要性を強調、ハウジングファーストの理念が示すように、まずは適切な住まいを確保することが、生活の再建や貧困の予防を図り、危機を回避する前提条件となる、そのためには、住居確保給付金を就労や年齢要件と切り離した普遍的な制度とし、あわせて、個々人のニーズに寄り添う伴走型の居住支援を充実させることが重要であると提言しています。  しかし、今回の法改正案では、居住支援の強化がうたわれてはいるものの、生活保護の手前で家賃を補助する住居確保給付金については、低廉な家賃の住宅への転居費用補助が追加されただけで、極めて小さな小幅の改正にとどまっております。居住支援のための対人サービスを充実させ、単身高齢者がアクセスできる住宅ストックを増やしたとしても、それぞれの家計の家賃負担のハードルが高ければ住宅の確保維持はできません。住まいの貧困を解決するためには、住居確保給付金を大幅に拡充し、普遍的な家賃補助制度に改変するしかないんではないかという考えは、今や住宅政策、生活困窮者支援に関わる人の共通認識になっています。国はこの課題から逃げないでください。  生活保護と生活困窮者支援の一体的見直しを議論してきた社会保障審議会の専門部会は、昨年十二月二十七日に発表した最終報告書の終わりににおいて、制度をより良いものにしても、支援が必要な人に適切に利用されないと意味を成さない、必要な人に的確かつ速やかに支援を届けることができるよう、生活困窮者自立支援制度や生活保護制度の周知、広報等が必要だと強調しています。  しかしながら、昨年来、必要な人に的確かつ速やかに支援を届けるどころか、役所の窓口に来た住民を制度から遠ざけることに注力し、制度につながった住民にも職員が暴言、恫喝、ハラスメントの限りを尽くし、短期間で制度から締め出すことに躍起になっていた自治体の存在が明らかになりました。群馬県桐生市です。  桐生市福祉事務所では、生活保護費を一日千円のみ、ハローワークで求職活動をしたことを確認した上で手渡しで行い、国が定める生活保護基準額の半額程度しか渡さない、ケース記録上は保護費を全額支給したことにした上で、実際には支給していなかった残金を職員が手提げ金庫で保管していた。数十年にわたって生活保護世帯から預かった印鑑を計千九百四十八本保管し、本人の同意なく押印していた、その中には恐らく稲葉という名前もあったんだと思いますけれども、同じ名字の判こを押していた、職員が本人に確認せず押していた。また、生活保護申請から五十日以上たっても保護費を渡していない事例があった、税金で飯を食っている自覚はあるのか等、職員による暴言、恫喝が日常的に行われていた。二〇一一年からの十年間で生活保護利用者が半減していた、母子世帯については二〇一一年の二十六世帯から二〇二二年には僅か二世帯まで急減していた、人口約十万人の都市で生活保護を利用している母子世帯が僅か二世帯しか存在しない、そういう状況になっていました。また、辞退届による廃止が異様に多い等々、数え切れないほどの違法かつ異常な制度運用が行われていました。詳しくは、桐生市の公文書を分析した桐生市生活保護違法事件全国調査団の要望書を、資料の一、五ページから、ちょっと長文になりますけれども付けましたので、是非御一読いただければと思います。  桐生市は、相談者を水際作戦によって制度に寄せ付けない、制度につながった人も恫喝、暴言、ハラスメント、日常生活への過度な介入、辞退届の強要などの手法を駆使して短期間で締め出すという排除と監理のシステムを築き上げました。その責任の一端は厚生労働省にもあります。以下にその理由を述べたいと思います。  全国調査団は桐生市で生活保護利用者が半減した要因を調査してまいりましたが、情報公開で明らかになった公文書から、桐生市は国の補助金を活用し、最大時四名の警察官OBを福祉課に配置していたことが明らかになりました。  厚生労働省は二〇一二年三月、暴力団関係者などの不正受給対策として各福祉事務所に警察官OBを積極的に配置することを促す通知を発出していましたが、桐生市ではこの通知を受けて二〇一二年度から警察官OBの配置を進め、近年は生活保護の新規面接相談のほとんどに警察官OBが同席し、家庭訪問にも同行する、就労支援相談員、生活保護世帯の就労支援相談員にも警察官OBが担当する、生活困窮者自立支援事業の窓口、生活保護の手前で相談を受ける生活困窮者自立支援事業の窓口にも警察官OBが配置されている等、明らかに趣旨を逸脱する運用を行っていました。情報公開によって明らかになった文書、資料の十四ページに出ております。御覧ください。  令和二年度、桐生市が群馬県警に提出した紹介のお願いについては、刑事課での暴力団対応経験者を希望ということで、いわゆるマル暴の警察官OBを群馬県警に紹介を依頼していたということも明らかになっています。  桐生市による数々の人権侵害は、窓口に相談に来る住民を保護や支援の対象として見るのではなく、排除や取締りの対象として見るまなざしが職場全体に浸透していた結果ではないだろうかというふうに私は考えております。  生活保護問題対策全国会議は、二〇一二年三月に厚生労働省が警察官OBの積極活用を打ち出した際、厚労大臣宛ての要望書を提出し、市民と直接やり取りをする現業に元警察官が社会福祉主事の資格もなく従事すると、警察目的が福祉目的に先行し、結果的に市民の生存権行使を阻害する事態をもたらす危険性、保護受給者あるいは保護を受給しようとする者を犯罪者視し、その人格権、生存権を侵害する危険性があると警告を発していました。この要望書は十七ページに記載しておりますので、是非御覧ください。桐生市ではまさにこのような事態が起こっていたんだろうというふうに思います。  資料三、二十一ページの資料三にありますように、厚生労働省は今年度より警察官OBの配置を更に進めようとしておりますが、自らが政策として進めた警察官OBの積極配置が支援を必要としている人を制度から遠ざけるツールとして利用されているということを重く受け止め、各自治体における警察官OBの活用状況を検証し、少なくともその役割を暴力団対応等に限定してください。警察官OBを面接相談、家庭訪問、就労相談などには同席させない仕組みをつくるべきです。  また、桐生市は、職員が保護費を手提げ金庫に入れて分割、減額支給していただけでなく、利用者に家計簿の提出を指導してレシートを百円近く、百円単位まで細かくチェックしたり、民間の金銭管理団体を活用した被保護者家計相談支援事業を実施する等、生活保護利用者の家計支出を徹底的に監督管理するシステムをつくり上げていました。  桐生市の家計相談支援事業は、市が選んだ生活保護世帯に民間の金銭管理団体を紹介するという事業です。奇妙なことに、市は各民間団体とは委託契約、一切の契約を結んでおらず、表面上は市が紹介した、市が生活保護世帯に紹介した民間団体とそれぞれの生活保護世帯が個々に任意で契約をするという形を取っております。二〇二二年度には、一般社団法人日本福祉サポートが二十六件、NPO法人ほほえみの会が二十九件、桐生市社会福祉協議会が十一件など計六十八件、桐生市の生活保護世帯の実に一三・九%が民間の金銭管理団体に金銭を管理されているという状況になっております。  生活保護の開始時に市の職員から民間金銭管理団体の利用を紹介されている方も多く、当事者には、その日初めて会う民間団体の関係者、名前も初めて聞く民間団体に家計を管理される、通帳と印鑑を渡すということがあたかも生活保護の利用の条件であるかのように受け取られています。民間団体活用の問題点は資料の二十一ページ、東京新聞の記事に詳しく書いてありますので、是非そちらも御覧ください。ここでは、この民間金銭管理団体の関与というのは経済的虐待に当たるのではないかという問題提起がなされております。  実は、この桐生市の家計相談支援事業も厚生労働省の通知が関わっております。厚生労働省は二〇一八年三月三十日に被保護者家計改善支援事業の実施についてという通知を発出し、各自治体に家計改善支援事業の実施を促してまいりました。桐生市はこの年、この通知を踏まえて、民間の金銭管理団体の活用という事業を始めました。  今回の生活保護法改正案には、第五十五条の十、三において、これまで予算事業、予算措置として実施されてきた被保護者家計相談支援事業を法定化するという内容が盛り込まれていますが、厚生労働省は、これまで各地方自治体が実施してきた家計支援を名目とする事業において人権侵害が行われていないかどうか検証すべきだというふうに考えます。具体的には、各自治体の事業を全て調査し、それぞれの事業において利用者本人の契約の自由が尊重されているのか、例えば、解約したいというときに解約できるような内容になっているのか、事業者と利用者との契約内容が適法、適切なものなのか、事業の利用拒否、停止、もうこの事業を解約したいと、民間団体との契約を打ち切りたいといったときに、それが生活保護の停止や廃止につながっていないか、そうした利用者の権利を不当に侵害するものになっていないかどうか、徹底した検証を行い、違法、不適切な行為を見付けたら直ちに是正する措置をとってください。  私は、過去三十年間、民間の立場で生活困窮者の相談支援に取り組んでまいりましたが、私たち支援者が支援だと思って行っている行為は、支援する側、支援される側という非対称的な関係性の中で、容易に支配やコントロールに転化し得るリスクを持っているということを常に痛感してきました。特に、公的機関が現金給付を伴って実施する支援は、本人の意思を飛び越えて日常生活やプライバシーの隅々に介入し、干渉するパターナリズムに陥りやすい傾向があります。  私は、生活保護や生活困窮者自立支援事業をめぐる国の事業で、国の議論で欠けているのは、支援が暴力になり得るという観点だというふうに思います。福祉事務所が、福祉行政が住民を虐待する加害者になってしまった桐生市の事件はそのことを私たちに警告してくれています。  自立支援の名の下に相談者、制度利用者の自己決定権が無視、軽視されていないか、本人の尊厳を傷つける対応が行われていないか、行政は常に確認、検証をしていく必要があります。桐生市の福祉課が切り刻み、粉々にしたのは保護費だけではありません。制度を利用する住民の尊厳が切り刻まれ、人間らしく生きるための権利が粉々にされたのです。  桐生市による違法運用、人権侵害は、現在、市が設置した第三者委員会及び群馬県による特別監査で検証が行われていますが、この事件は一自治体の問題にとどまらず、生活保護制度及び生活困窮者自立支援制度に対する住民の信頼を根底から揺るがしています。また、水際作戦や辞退届の強要などの違法行為はほかの自治体でも珍しくないということも指摘しておきたいと思います。  厚生労働委員の皆様、厚生労働省を始めとする政府関係者の皆様は、桐生市で起こった事態を重く受け止め、徹底した検証と再発防止策に取り組んでください。今回の一括改正案の審議においても、事件の教訓が生かされることを心から願っています。  最後に、桐生市の生活保護行政の問題は、長年群馬県で生活困窮者支援を続けてこられた司法書士の仲道宗弘さんが被害者の相談を受け、行政に働きかけ、社会に発信したことで世の中に知られるようになりました。誠に残念なことに、仲道さんは先月三月二十日に急逝されましたが、仲道さんの御活動に敬意と感謝を表して、この意見陳述を締めくくらせていただきます。  ありがとうございました。

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