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田中明彦 ·独立行政法人国際協力機構理事長

参議院法務委員会(2024-05-30)での発言

第213回国会 ·第第15号号 ·5,861字
○参考人(田中明彦君) 独立行政法人国際協力機構、JICAで理事長を務めております田中明彦と申します。  本日は、このJICAの理事長ということではなく田中個人ということで、参考人として意見を陳述する機会をいただき、感謝申し上げます。  私は、長く国際政治、国際関係を専門として大学教員を務めてまいり、研究、教育に携わってまいりましたけれども、二〇一二年から一五年までJICAの理事長を務めさせていただき、それからその後、学界に戻りまして、また二〇二二年から再びJICAの理事長を今務めさせておるところでございます。  私は、先般、今回の問題というか案件に関連して、外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議の下に設置されました外国人との共生社会の実現のための有識者会議というものにおいて座長を務めさせていただき、そして、今般、技能実習制度の見直しに当たり、同じく関係閣僚会議の下に設置された技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議の座長を務めさせていただきました。有識者会議で提言する制度改革案というのは、私は、論理的に一貫し、できる限りシンプルで分かりやすいということが大事であると常日頃から考えてきておりました。今回もそのことを念頭に有識者会議における議論を進め、座長として取りまとめ作業に当たったところであります。  この技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議では、各委員の皆様方から、それぞれのお立場から、あるいはそれぞれの御見識の下、現行の技能実習制度及び特定技能制度に関する数多くの課題に真っ正面から向き合っていただいたと思っております。課題解決に向けて、豊かな御知見と非常に有意義な御意見を提示していただき、真摯かつ率直な検討と議論を行っていただきました。それらの成果として取りまとめられたのがこの有識者会議の最終報告書であると私は思っております。  今回の法案及びそれに先立って決定された政府方針は、有識者会議の最終報告書を踏まえて作っていただいたものと考えております。有識者会議の取りまとめに当たった者として、政府の御努力を高く評価したいと思います。  以下、具体的内容について私の意見を申し述べたいと思います。  まず、制度の目的について、有識者会議においては、現行の技能実習制度を実態に即して発展的に解消し、人手不足分野における人材確保や、基本的に三年間の就労を通じた育成期間で特定技能一号の技能水準の人材に育成することを目指す新たな制度を創設することを提言しました。本法案においても、人材育成と人材確保が法律上の目的として掲げられております。これはまさに最終報告書と軌を一にしております。  また、受入れ対象分野についても、有識者会議においては、受入れ対象分野は、現行の特定技能制度における特定産業分野に限定して設定し、受入れ対象分野ごとに受入れ見込み数を設定することや、受入れ見込み数等は、有識者等で構成する会議体の意見を踏まえ政府が判断するものと、そういうことという提言を行いました。この点についても本法案において提言の内容が踏襲されており、基本方針において、分野の選定に関する基本的な事項を定めた上で、分野ごとに定める分野別運用方針において各分野の受入れ見込み数を定めるというものとしており、これらの方針を作成する際には、育成就労制度に関し知見を有する者の意見を聞かなければならないということとされております。  次に、転籍の在り方について、有識者会議においては、まず、やむを得ない事情がある場合の転籍の範囲を拡大、明確化し、手続を柔軟化することを提言し、さらに、一定の要件を満たす場合には本人の意向による転籍を認めることを提言いたしました。このやむを得ない事情がある場合の転籍については、政府方針において、有識者会議の提言の内容に加えて、現行制度下においても速やかに運用改善を図ることが示されており、私としては大変結構な方向だと思っております。  また、本人意向による転籍の制限期間について、有識者会議においては、労働法制上、有期雇用契約でも一年を超えれば転籍が可能であるということなどを踏まえ、同一の受入れ条件での就労期間が一年を超えていることを要件とすべきであると提言いたしました。もっとも、転籍の制限緩和による人材育成への支障や人材を流出する懸念する声もございました。そこで、有識者会議では、激変緩和の措置として、当分の間、受入れ対象分野によっては一年を超える期間を設定することも可能とするなどの必要な経過措置を設けることについても併せて提言いたしました。  提言に至るまでの議論では、各受入れ対象分野で二年を超えない範囲で期間を設定可能にするという具体的な案についても検討を行いました。  その際、これに賛同する意見もあったのでありますが、二年間の転籍制限が必要以上に広く認められることは望ましくないという意見も多く、また制度の複雑化は避けるべきだという観点もあり、最終的には、同一の受入れ機関での就労期間が一年を超えていることを要件として運用を開始した上、一定期間の経過後に、それまでの運用状況を踏まえて転籍制限期間について見直しを行うものとすることなど、制度全体において必要な経過措置を検討することが相当であると考えられました。この点について、政府においては、この提言を踏まえて検討を加えられ、転籍制限の期間については、人材育成の観点を踏まえた上で一年とすることを目指しつつも、激変緩和の観点から、当分の間、各受入れ対象分野の業務内容等を踏まえ、分野ごとに一年から二年までの範囲で期間を設定するものとされたというふうに理解しております。  さらに、本人意向による転籍時の日本語能力に係る要件について、有識者会議においては、特定技能一号への移行要件である日本語能力水準がA2相当であり、就労開始後一年経過時までに外国人に受験させる試験がA1相当の試験であることを踏まえ、日本語能力A1相当以上の試験に合格していることを要件とすべきと提言いたしました。この点について、政府方針においては、分野によってA1相当以上の水準の設定を認めることとしています。また、政府においては、A1相当からA2相当までの範囲内の水準で新たな試験の導入を検討することとしていると理解しております。そうだとしますと、転籍時に求める日本語能力水準も、各分野においてよりきめ細かく高い水準の要件設定を行うことも考えられるのだろうと思います。  このような方向性は、外国人の権利保護や、これによる制度の魅力向上という観点と、人材育成への支障や人材流出への懸念への対応という観点のバランスが取れたものとなっているものと考えております。  次に、転籍支援の在り方について、有識者会議においては、監理団体が中心となって行うこととしつつ、ハローワークが外国人技能実習機構等と連携するなどして支援を行うことや、悪質な民間職業紹介事業者等が関与することで外国人や受入れ機関が不利益を被ることがないよう必要な取組を行うこと、こういうことを提言いたしましたが、この点においては政府方針においても踏襲されております。  その上で、政府方針においては、有識者会議の提言から一歩進んで、当分の間、民間の職業紹介事業者の関与は認めないこととされております。この点については、有識者会議においては、民間事業者の参入を認めるべきではないという意見がありつつも、現に特定技能制度では民間事業者が活用されている状況があったことを踏まえて、関与を認めないというまでの提言には至っていなかったものであります。しかし、政府は、過度な引き抜き等が生じ人材育成という制度目的が阻害されることは、受入れ機関と外国人双方にとっては望ましくないと判断されたのだと思います。また、激変緩和という観点から見ても、当分の間、民間事業者の関与を認めないとすることにしたのだろうと私としては理解しております。その判断には一定の合理性があるものと考えております。  次に、監理、支援、保護の在り方について、本法案においては、監理団体における監理支援機関の要件について、最終報告書で外部者による監視の強化という提言を提言いたしましたので、これで政府方針では、外部監査人の設置を許可要件とするという形で具体化されております。また、外国人技能実習機構に代わる外国人育成就労機構について、最終報告書における監督指導、支援保護機能の強化や特定技能外国人への相談援助業務の実施を求める提言を行いました。政府もこれを踏まえて、育成就労外国人と受入れ機関との間の職業紹介やハローワークに対する情報提供、特定技能一号外国人への相談対応、こういうのを、これらを育成就労機構の任務とするという形で具体化されています。  次に、送り出しの在り方について、有識者会議においては、二国間取決め、MOCにより送り出し機関の取締りを強化することや、支払手数料を抑え、外国人と受入れ機関が適切に分担する仕組みを導入することを提言いたしましたが、この点については、原則として、政府案では、MOCを作成した国の送り出し機関からのみ受入れを行うものとするというふうに言った提言よりも踏み込んだ対応が盛り込まれています。政府方針は、報告書の基本的な方向性を踏襲した上で、更に一歩進めたものと理解しております。  家族帯同の在り方についてでありますけれども、有識者会議においては、現行制度と同様、育成就労制度及び特定技能一号により、入国、在留する外国人の家族帯同は認めないものとすることを提言いたしました。本法案においても家族帯同は認めないということとされております。  この点について、有識者会議においても、特定技能二号に移行するまでの間、家族帯同が認められないとすれば、外国人にとって日本で働く魅力に欠けるという意見等もございました。他方、外国人本人の扶養能力や、医療や子女教育といった受入れ環境の観点から、家族帯同を認めることには慎重であるべきだといった意見もございました。また、家族帯同は入国から十年経過後に認めるべきといったヒアリング結果もございました。そういうことを踏まえ、家族帯同は原則として認めないものとするのが相当とするのが有識者会議の結論となったものでございます。ただし、人権への配慮の観点から柔軟な対応が必要であるという意見も多く、今後、政府には個別の事情に応じて柔軟な対応を行うよう、私としては期待しておるところでございます。  最後に、日本語能力の向上方策について、有識者会議においては、継続的な学習による段階的な日本語能力向上の取組や、日本語教育支援に取り組んでいることを優良受入れ機関の認定要件にすること等を提言しましたが、この点については政府方針においても踏襲されております。  また、特定技能一号移行時の日本語能力要件について、有識者会議においては、在留の段階ごとに日本語能力が実際に向上する仕組みを取り入れるため、特定技能一号に移行する際に、技能検定試験等の合格とともに日本語能力N4以上の試験合格を必須とすべきであるという意見もございました。  他方、試験の受験機会及び教育環境が不十分であることを懸念する意見等もございました。そこで、試験の合格を基本としつつ、当分の間は、試験合格に代わり、相当レベル、時間の日本語教育の受講等も許容することを提言いたしました。この点について、政府方針においては、試験合格のみを要件としております。政府において、新制度を活用して新たに入国した育成就労外国人が特定技能に移行するまでには相当の期間があり、それまでに日本語教育の質を向上させるための環境を整備することが可能と判断したものと考えております。  これまで述べましたように、本法案は有識者会議の最終報告書を十分に踏まえたものだと考えております。最終報告書に記載されていない新たな事項が政府方針や本法案に盛り込まれている部分等もございますが、これらはいずれも最終報告書の内容と方向性を同じくするものであると考えております。  有識者会議の最終報告書においては、提言に先立って、見直しに当たっての基本的な考え方として三つの視点を掲げております。すなわち、第一に、外国人の人権が保護され、労働者としての権利性を高めること、第二に、外国人がキャリアアップしつつ活躍できる分かりやすい仕組みをつくること、そして第三に、全ての人が安全、安心に暮らすことができる外国人との共生社会の実現に資するものとすること、これを示しております。  私は、この有識者会議の前の外国人との共生社会の実現のための有識者会議においても、先ほど申し上げましたように座長を務めさせていただきましたけれども、そこでは、外国人との共生社会として目指すべき社会として、第一に、安全、安心な社会でなければいけない、それから第二に、多様性に富んだ活力ある社会でなければいけない、そして第三に、個人の尊厳と人権を尊重した社会でなければいけないという、この三つのビジョンが実現するような社会となることが望ましいと提言いたしました。今回の見直しに当たっての三つの視点は、この外国人との共生社会の実現のための有識者会議の意見書における三つのビジョンとも符合しているものと考えております。  引き続き、国会において充実した審議がなされるとともに、政府に対しては、国会の審議を踏まえ、具体的な施策、運用方法の策定等を着実に進めることを期待いたします。特に、日本語教育の充実は急務であり、また、外国人の人権保護のために育成就労機構が十分な機能を発揮する必要があります。そのための予算措置の充実を是非お願いしたいと、こう思っております。  有識者会議の提言に基づき、外国人材の適正かつ円滑な受入れが図られ外国人の人権がより適切に保護されること、我が国の深刻な人手不足が緩和されること、外国人との共生社会の実現に資すること及び外国人材の育成により結果として我が国における国際協力が更に推進されることを切に願い、私の陳述を終わります。  御清聴ありがとうございました。

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