○伊藤孝恵君 国民民主党・新緑風会の伊藤孝恵です。
私は、会派を代表し、ただいま議題となりました法律案について、反対の立場から討論を行います。
少子化は問題なのか。もちろん問題であり、経済の衰退や地域の支え手、労働力不足を招き、社会保障を含めたあらゆる既存システムの維持を困難にする。国力を低下させる静かな有事である。
政治家が当たり前のように述べるこのような認識に、うんざりする人たちがいます。子を産み育てられる、産み育てたい、そんなふうに思える環境をつくってこなかった政治家たちが今更何をのたまうか。国や社会のためでなく、自助を殊更振りかざさず、一人一人の選択、個々人の人生の営みとしての子育てに伴走する政策が今、求められています。
少子化が最大の病なのではありません。実質賃金の低下、非正規雇用の増加、長時間労働の容認、就職氷河期世代や奨学金世代の放置のみならず、性別役割分担意識の再生産と固定化、多様な性や家族の形を認めてこなかったことなど、ほかにもっと大きな病があって、少子化はその合併症です。
一九九〇年の一・五七ショックから三十四年、一九九四年のエンゼルプランから三十年、少子化担当大臣は二十六代目を数えるにもかかわらず、我が国の少子化対策が空振りし続けているのは、政策ターゲットやペルソナ分析が曖昧で、KGI、KPIといった評価指標が設定されず、ゆえに効果検証はなされず、改善もなく、的外れな政策を量産し続けても、大臣の一人とて責任を取らされることはない、その程度の危機感だったからにほかなりません。
我が国に第三次ベビーブームが起こらなかったのはなぜなのか。将来子育てをしたいと思っている若者はどうして四割にとどまるのか。国際意識調査で、自分の国は子供を産み育てやすいと思うかと問われ、とてもそう思うと答えたスウェーデン国民は八〇・四%もいたのに、日本はたったの四・四%。この七六%の著しい差は一体何によるものなのか。学ぶことなく、思考を深めず、本質的な課題を直視せず、EBPM、証拠に基づく政策立案でないばかりか説明も尽くさない、そんな政府の姿勢に賛同することは到底できません。
以下、法案の足らざる点について具体的に申し上げます。
反対の第一の理由は、少子化対策の要諦を理解されていない点です。
政策ターゲットが子育て世帯及びこれから子育てし得る世代だとするならば、最重要視すべきは可処分所得です。
実質賃金と出生数の相関係数は〇・九三、税や社会保険料など国民負担率と出生数の相関係数はマイナス〇・九五、奨学金利用者と出生数の相関係数はマイナス〇・九〇。つまり、賃金を上げ、税負担を下げ、社会保険料負担を下げ、控除、給付、無償化などの公的支援を充実させる可処分所得対策こそが少子化対策の要諦であるにもかかわらず、政府は子ども・子育て支援金制度を新設し、社会保険料の増額に乗り出すと言います。
労使折半の社会保険料が上がれば、労働者の可処分所得は減り、企業の賃上げ原資は削られ、給料を上げるディスインセンティブになります。控除を削るのももちろん可処分所得を減らす悪手ですが、政府は現在、高校生の扶養控除縮小を検討していると言います。
少子化対策に逆行する制度を少子化対策財源を確保するために新設するとは、一体全体何をしたいのか分かりません。ましてや、支援金制度は医療とは無関係な政策財源を医療保険の枠組みの中に求めるものであり、社会保険の目的を逸脱しています。受益と負担の関係が成り立たない保険料の目的外使用を容認するわけにはまいりません。
反対の第二の理由は、国民への説明が欺瞞的である点です。
支援金制度について、政府は実質的な負担は生じないと繰り返し強弁してきました。しかし、それには大幅な賃上げと社会保障の歳出改革という二つの前提が必要です。
今日現在、実質賃金は二十五か月連続でマイナスです。加えて、歳出改革によって社会保障負担率は下げる代わりに、医療費の窓口支払額が増えることや、介護保険の利用料が増える可能性は否めません。つまり、法の立て付け上は実質的な負担が生じることに何ら歯止めが掛かっていないのです。
また、支援金制度の負担額として当初示された四百五十円は、実際に保険料を支払っているいわゆる被保険者一人当たりの金額ではなく、加入者全員、つまり支払能力のないゼロ歳児も入れた人数を分母に置いて算出した金額であることが後に判明しました。しかして、年収によっては毎月の負担額が千五百円を超える人もいることが衆議院における法案審議の最終盤で明らかになりました。
誰がどれだけ負担する制度なのか、社会全体で支え合う仕組みとして適切かどうかを判断するには基礎的なデータが必要です。それがあって初めて国会において建設的な議論と裁定がなされ、歴史の検証に堪え得る議事録を残すことができます。
この際、政府が喧伝してきたスウェーデン並みのトリックについても指摘をいたします。
総理は、施政方針演説などで、少子化対策が画期的に前進することの根拠として、家族関係支出がOECDトップのスウェーデン並みに達する水準であるGDP比一六%になることを挙げられました。しかし、この数字は、国際社会で使用されている計算式にのっとったものではなく、日本独自の計算式で取り繕ったものです。
まずは、分母をGDPから国民一人当たりのGDPに変更し、分子は家族関係社会支出額の総額ではなく、日本の十八歳以下人口、およそ二千万人で割ったものに変えました。なぜそんなことをする必要があるのか。
二〇〇〇年には世界二位だった日本の一人当たりのGDPは、今年三十八位に転落する見込みです。諸外国と比べて低い数字を分母に置き、子供の数が減れば減るほど大きくなる数字を分子に置けば、世界における日本のポテンシャルが高見えする数字ができ上がります。まさにトリック、張りぼてのスウェーデン並み一六%です。
不可解なのは、昨年二月時点では、総理は、日本独自ではなく国際社会で使用されている計算式による数字を国会答弁されておりました。議事録をそのまま読みます。「家族関係社会支出は二〇二〇年度の段階でGDP比二%を実現しています。そして、それを更に倍増しようではないかということを申し上げている」。
家族政策先進国スウェーデンでもGDP比三・四%ですから、本当に倍増するのであれば、それはまさに異次元です。しかし、二%を四%にするための財源、およそ十兆円を確保することは結局かないませんでした。今回の加速化プラン三・六兆円では、GDP比二%が二・四%になるだけで、スウェーデン並みには遠く及びません。これが真実です。
もしも、既に喧伝してしまったスウェーデン並み、倍増、異次元、これらの言葉の帳尻合わせのために日本独自の計算式を生み出したのであれば言語道断。欺瞞的、詐欺的とのそしりを免れません。
反対の第三の理由として、時代認識、女性認識の更新の必要についても指摘をいたします。
五月十七日の本会議において、岸田総理のみならず、加藤大臣までもが、固定的な性別役割分担意識、いわゆるアンコンシャスバイアスについて、持たないように心掛けていますと御答弁されたことに驚きました。
バイアスは脳の仕組みとして避けられないもので、誰の中にも必ず存在します。大切なのは、それ自体を悪だと決めず、自身の中にもある偏見を自覚し、自認した上で、偏りを是正するための仕組みや制度を取り入れていくことです。
心掛けでなく、声掛けをしてください。子育て、両立支援を議論するとき、脳内で母親だけを主語にしていないか。地方の人口減少を考えるとき、若年女性人口の流出に真っ先に着目するのは正しいことなのか。児童手当加算や高等教育無償化が三人目からであることに、結局、多子礼賛かと現役世代や次世代は閉口していないのか。
時代認識、女性認識をアップグレードするとともに、子供の数や有無を分断要素とせず、親の収入で線引きをせず、生まれた子供たち全員を全力で育む政策を政府には強く求めます。
以上、本法律案に反対する主な理由を申し述べました。
最後に。昨年自死をした小学生、中学生、高校生は五百十三人。我が国の最大の課題は、子供が生まれないことではありません。せっかく生まれた子供たちが、これから何にでもなれる子供たちが自ら命を絶っていくことです。
孤独、孤立の中から抱き締められたいと両手を伸ばす子供がいる一方で、助けてほしいと誰にも言えない子供たちもいます。我々はそこに分け入って手をつながねばなりません。
今回、自治体間格差がかまびすしいヤングケアラー支援に法律上明確な根拠規定を設けるとともに、児童福祉法でなく、子ども・若者育成支援推進法の改正によって、十八歳未満と規定されがちだったヤングケアラーを十八歳以上も支援対象としていただいたことに心の底から感謝を申し上げます。
多くの心ある官僚、法制局の皆さん、そして報道で、研究で、提言で子供たちに伴走し続けた大人たちの思いの総和であるこの法案が、今日も踏ん張る日本中のヤングケアラーたちを照らすともしびにならんことを切に願い、私の討論を終わります。(拍手)
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