○公述人(遠藤久夫君) 学習院大学の遠藤と申します。
本日は、このような発言の機会をお与えいただきまして、感謝申し上げます。
私は、社会保障、とりわけ医療や介護の問題を研究しておりますが、本日は時間の制約もありますので、医療や介護とも深い関係があり、社会保障制度の持続可能性に重要な意味を持つ少子化対策についてお話をさせていただきたいと思います。
医療や介護について、必要に応じて質疑応答あるいは意見交換の中で議論をさせていただければと思います。
御案内のとおり、我が国は少子高齢化に加えて、人口減少時代に突入しております。まず、少子高齢化の状況を振り返ってみたいと思います。
資料の二ページを御覧いただければと思います。
一般に、大きな戦争の後、出生率が高まる傾向がありますが、我が国では、一九四七年から四九年に第一次ベビーブームが起きました。一九四九年の出生数は約二百七十万人でした。その後出生数は低下しましたが、団塊の世代が子供を産む年齢に達した七一年から七四年に出生数が再び増加しました。いわゆる第二次ベビーブームでございます。第一次ベビーブームの出生数の二百七十万人には及びませんでしたが、七三年の出生数は約二百九万人に達しました。しかし、その後は基本的には出生数は減少し続けて、団塊ジュニア世代が結婚、出産を迎える年齢になる二〇〇〇年前後に出生数が大きく増えるということはありませんでした。つまり、この間、出生率が低下していたため、母親になれる年齢の人口は多かったにもかかわらず、第三次ベビーブームは起きなかったわけであります。
一人の女性が一生に産む子供の数である合計特殊出生率の推移を見ると、第二次ベビーブームの一九七三年は二・一四でしたが、二〇〇〇年は一・三六に低下しておりました。さらに、二〇二二年は一・二六まで低下しております。最近で、直近である二〇二三年の出生数は、速報値ではありますけれども、七十五万八千六百三十一人と過去最低の水準であります。
このように、第二次ベビーブームである一九七三年以降、出生数はトレンドとして減少し続けているのですが、資料三ページから分かりますように、全人口は増加しております。それは言うまでもないことですが、平均寿命の延伸、すなわち長寿化による高齢者数の増加が少子化による出生数の減少を上回っていたからです。
しかし、その転換点が二〇〇八年に訪れます。この年の人口は一億二千八百八万人ですが、これをピークに、少子化による人口減少の影響の方が長寿化による人口増加の影響を上回り、全体としては人口減少に転じて現在に至っているわけであります。
このことから分かりますように、我が国では、六十五歳以上の全人口に占める割合、すなわち高齢化率、これは一貫して上昇しております。具体的には、一九七三年の七・一%から、二〇二二年は二九・一%に上昇しております。
この傾向は今後も続きまして、国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、二〇七〇年には総人口は八千七百万人に減少し、高齢化率は三八・七%へ上昇する見込みであります。
付け加えますと、これからは七十五歳以上、すなわち後期高齢者ですね、後期高齢者の人口が増加しまして、六十五歳から七十四歳までの前期高齢者の人口は増えません。このことは、今以上に介護サービスの体制整備であるとか認知症対策が求められることを意味していると思います。
また、少子高齢化の影響は地域によっても異なります。団塊の世代が多く居住する大都市やその周辺部では、これからは八十五歳以上の高齢者が急速に増加します。一方、地方は急速な人口減少が進みます。ちなみに、二〇五〇年の人口が二〇二〇年の半数未満となる市区町村は全体の約二割、また、二〇五〇年に高齢者の割合が半数以上となってしまう市区町村は三割を超えるという見込みも出されております。
こうした急速な人口減少に歯止めを掛けなければならないわけでありますが、もうそうしないと、高齢化によるサービス需要が拡大する社会保障制度において、経済的あるいは身体的に支え手となる人たちの深刻な不足が懸念されるわけであります。もちろん、社会保障に限らず、これからも続く超高齢社会は、我が国の経済社会システムの維持に当たって様々な問題を生じさせております。
このため、少子化、人口減少の流れに歯止めを掛けることは必要ですが、この人口政策には悩ましい問題があるのも現実です。まず、対策が遅れれば遅れるほど対策の効果が出にくくなり、先延ばしができないということです。
子供の出生数は出生率と子供を産むことができる年齢の女性の人数で決まるわけです。これまでの少子化により子供を産むことができる年齢層の女性は毎年減少しているので、仮に出生率が一定に保たれたとしても、対策が遅れれば遅れるほど子供の出生数は減少することになります。
実際に、二十歳から三十九歳の女性の人口は、一九七〇年は千八百十九万人でしたが、五十年後の二〇二〇年では千三百十七万人と五百万人減少しております。さらに、資料五ページに見られますように二〇四五年は千五十万人と、二〇二〇年と比較しても二百六十万人減少することが予想されております。この予想ですけれども、二〇四五年の三十歳の女性というのは二〇二五年時点では十歳の少女ですから、既に生まれているわけであります。
したがって、この予測の精度というのは非常に高いわけであります。したがって、いろいろ課題があったとしましても、少子化対策を先延ばしにしないということが極めて重要なわけでございます。
少子化対策の難しさのもう一つは、特効薬がないということであります。
少子化の原因を挙げるとするならば、次の三つが考えられます。
第一に、未婚率の上昇です。これは少子化の最大要因で、一貫して上昇しています。
資料の六ページを御覧ください。
五十歳時の未婚率は、一九七〇年と二〇二〇年を比較しますと、この五十年間で男性は一・七%から二八・三%、女性が三・三%から一七・八%、それぞれ上昇しております。
第二は、夫婦間の子供の数の減少です。
資料七ページを御覧ください。
結婚持続期間が十五年から十九年の初婚同士の夫婦の子供の数のことを完結出生児数といいますが、この推移を見ますと、一九七〇年から一九九〇年代までの約三十年間は約二・二人で安定していたのですが、二〇〇〇年代に入ると減少に転じて、二〇二一年には一・九人と過去最低の水準になっております。
第三の要因は、先ほどお話ししました、少子化の影響で子供を産む年齢層の女性が減少しているということであります。
現在は、未婚率が上昇し、完結出生児数が減少しているので、出生率が低下している。さらに、それに子供を産む年齢層の女性が減少しているということが加わって、子供の出生数が非常に減っているという状況であります。
ただ、以上の要因は言わばその表面的な少子化の要因でありまして、なぜ未婚率が上昇したのか、なぜ完結出生児数が、児童数が減少したのかが分からなければ、出生率を引き上げる対策は打てません。これまでの研究で未婚率や完結出生児数には経済状況が大きく関与していることが分かっています。しかし、結婚や子供をつくるということは多様な要因が絡んでおり、経済的支援だけでは不十分です。少子化対策には、狭義の経済政策だけではなく、より幅の広い社会政策が求められると思います。
このような課題を持つ少子化対策ですが、私も参画しましたこども未来戦略会議で議論し、昨年末に閣議決定されたこども未来戦略においては、少子化への危機感が、社会全体で共有し、構造、意識を変えていく必要があるとしています。
この加速化プランには様々なメニューが盛り込まれております。それらはいずれも重要な取組ではありますが、強調させていただきたいのは、共働き、共育ての推進であります。これは、これまでの価値観を変えるという試みであり、社会を変える試みであります。
我が国はこれまで、男性は仕事、女性は家庭という性別役割分担意識の下で家庭が成り立ってきた部分があると思いますが、今では全世帯の約三分の二が共働き世帯となり、そうした中で子育てをするという状況にあります。
女性の社会進出が進んでいますが、性別役割分担意識はいまだ根強く、子育て家庭にあっても、男性が主に仕事をし、女性は、育児休業や時短勤務、あるいは出産を機に退職し、子育てが一段落して非正規やパートで仕事に戻るという状況が依然として存在いたします。
また、女性が希望する仕事や責任あるポストへ昇進するには男性と同じような働き方をする必要があり、女性の社会進出は、男性的な働き方を前提とした上で子育ては引き続き女性が行うという、仕事と育児、家事の二重の負担を強いられている状況になっているのではないかと考えられます。
加えて、民間の調査によりますと、大卒のフルタイムの女性が出産後に退職し、非正規やパートで再就職した場合には一億三千万円以上の生涯賃金の差が出るとの推計結果もあります。いわゆる子育て罰ということが指摘されております。
こうした状況を変えるためには、社会全体の意識の変革や働き方改革を正面に据えた対策を行うことが不可欠であります。このため、男性が育児や家事を担えるよう、男性を含めた働き方改革を徹底して進めるとともに、職場の文化、雰囲気を抜本的に変える必要があります。その上で、性別に関係なく育休や時短勤務を始めとした柔軟な働き方を選択できるような社会としていくことが非常に重要です。こうした視点から、共働き、共育てを推進することは大変意義のあることであり、政府として加速化プランに盛り込まれた取組をしっかりと進めていただきたいと考えます。
また、こうした加速化プランでは、これまでの財源規模では対応できなかったものも多く含まれております。例えば、子育て世帯に対する経済的支援を強化する視点から行う児童手当の抜本的拡充や、妊娠、出産時の十万円の給付の制度化、全ての子ども・子育て世代を切れ目なく支援する取組として、こども誰でも通園制度の創設などです。
これらの施策について、ゼロ歳から十八歳までの子供一人当たりの給付拡充の額は平均すると約百四十六万円であるとの説明がこども家庭庁からありました。これはあくまでも平均的な数字であり、全員に当てはまるものではありませんが、これは支援金制度の創設により初めて実現される子育て世代の確かな受益の姿であると考えております。
そして、このような施策を通じて子育て世帯を支援する支援金制度は、単なる拠出の枠組みとしてではなく、高齢者を含めた全世代、企業を含めた全経済主体が子育て世帯を支える新しい分かち合い、連帯の仕組みだと捉えることが重要だと思います。その際、子育て世帯でない人の受益は何なのかという論点がありますが、子育て世帯への施策の拡充により、危機的状態にある我が国の少子化のトレンドに歯止めを掛けることは、労働力の確保や国内外、国内市場の維持を通じた経済社会システムの維持、地域社会の存続、あるいは社会保障制度の持続可能性の確保といったことを通じて、我が国の社会の構成員であれば誰もが利益を受けるものであると考えます。
また、医療保険は、生まれてから亡くなるまで全てをカバーしているという点で他の社会保険にはない特徴を有しております。その意味で、広く多くの国民に拠出をいただく支援金について医療保険の枠組みを活用するということには、一定の合理性があると考えております。
このように、少子化、人口減少に歯止めを掛ける上でこの支援金制度の構築は重要な意味合いがあります。支援金は、支援金制度は、高齢者や子供のいない方を含めた全世代、企業を含めた全経済主体に拠出をお願いするものであり、政府においては、支援金制度の意義やその重要性、仕組みについて国民の皆様に分かりやすい説明を続けていただきたいと思います。
以上でございます。
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