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橘幸信 ·衆議院法制局長

衆議院憲法審査会(2025-03-27)での発言

第217回国会 ·第第2号号 ·5,506字
○橘法制局長 衆議院法制局の橘でございます。  本日も、枝野会長を始め幹事会の先生方の御指示により、冒頭の御報告をさせていただくことになりました。  前回同様、枝野会長のおっしゃる因数分解の御趣旨に沿って、先生方の御議論の分岐点を的確に抽出した論点整理となるよう心がけまして、御報告申し上げたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。  本日は、お手元に、衆議院憲法審査会事務局の皆さんが、衆議院の事務方として公平、客観的な観点から、かつ、これまでの本審査会での御議論を踏まえた実務的な観点から、学説等を整理した力作、衆憲資百二号の補訂版を配付させていただいております。百二号というのは、二〇〇〇年発足の衆議院憲法調査会、いわゆる中山調査会以来の資料の通し番号でございます。ちなみに、第一号は、日本国憲法の制定過程に関する資料でございました。併せて、本日の御報告用にパワポスライドの資料も配付させていただいております。本日は、こちらに基づいて御報告をさせていただきたいと存じます。  それでは、早速ですが、表紙と目次をおめくりいただきまして、資料一ページを御覧ください。  まず、憲法五十四条の制定経緯について御報告申し上げます。  GHQ草案の提示を受けて日本側が用意した三月二日案では、緊急事態における措置として、明治憲法八条の緊急勅令や七十条の緊急財政処分に倣った緊急閣令、今でいえば緊急政令の制度が七十六条に定められておりました。すなわち、衆議院の解散その他の事由により国会を召集することあたわざる場合において特に緊急の必要あるときは、法律又は予算に代わるべき閣令を制定することを得といった条文です。  これに対して、GHQは、そのような事態への対応については事前に法律で授権しておけばよい、どうしても駄目な場合には内閣のエマージェンシーパワー、すなわち、不文の緊急措置権限で対処すればよいとして、七十六条を全文削除いたしました。  これに対して、日本側は一貫して、不測の災害等に備える必要があること、エマージェンシーパワーのような不文の超憲法的な運用はかえって弊害が大きいこと、国会召集が不能な場合にはどうしても内閣による対応が必要なことを主張いたしましたが、GHQはあくまでも国会による対応を主張して、最終的に、参議院による国会権限の代行、すなわち、参議院の緊急集会で対処することとされたのでした。  資料二ページを御覧ください。  このことについて、当時の憲法担当大臣金森徳次郎は、憲法制定議会で次のように説明しております。緊急勅令は調法だが、国民の意思を無視できる制度とも言える、民主政治の徹底と国民の権利保護からすれば、非常の場合の暫定処置は、やはり、行政権ではなく国会が行うべきだ、衆議院は解散後七十日間は開けない状況にあるが、参議院は万年議会だから、衆議院が解散され、議会を開くことができない特殊な場合においては、国民代表である参議院の緊急集会という方法で対応することとしたといった趣旨の答弁です。  以上の制定経緯からは、次のようなことが指摘できるかと思います。  まず、災害等の緊急事態においては、内閣ではなく国会で対応するという国会中心主義の発想が明確に意識されていたこと、その際、解散後七十日程度不在となる衆議院に代わり、万年議会たる参議院に緊急事態への暫定処置を任せる方策を選択したこと、この二つでございます。  次に、資料三ページを御覧ください。  以上のような経緯で制定された憲法五十四条と、これに関連する国会法の条文を掲げております。  まず、憲法五十四条第一項は、「衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。」として、衆議院解散後の速やかなる総選挙の実施と速やかなる特別会の召集を規定し、衆議院不在期間ができるだけ短くなるようにしています。  これを受けて、第二項では、まず、「衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。」として、いわゆる両院同時活動の原則、すなわち、衆議院だけが活動する、あるいは参議院だけが活動するというのではなく、あくまでも両院そろって活動するという二院制に由来する原則を定めています。  その上で、その例外として、「但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。」としているのでございます。  このただし書の文章上のポイントは、緊急集会を求めることができるのは内閣であり、かつ、国に緊急の必要があるときに限られるということです。この緊急性の要件はかなり幅のある概念ですが、集会要求権が内閣にあることから、その判断は第一次的には内閣に委ねられていることになります。  このように、緊急性の判断権と集会要求権が共に内閣にあることに関連するのが、その下に掲げている現行国会法の条文です。すなわち、九十九条で、緊急集会を求める際には、内閣は、集会の期日だけではなく、その審議対象となる案件を示すことが必要とされ、百一条では、この内閣が示した案件に関連のあるものでなければ、議員側から議案の発議はできないこと、さらに、百二条の二では、この緊急の案件が処理されれば、緊急集会はそのミッションを完了したとして閉会することが定められているということです。  最後に、第三項では、緊急集会で取られた措置は臨時のものであって、次の国会で衆議院の同意が得られなければ失効するとの効力の暫定性が定められております。  以上を踏まえて、参議院の緊急集会の射程に関する主な論点について、その議論の分かれ目を因数分解しながら、御報告をしてまいりたいと思います。  資料四ページを御覧ください。  まず、緊急集会が開催される場面については、五十四条一項、二項の条文上、解散時を想定した規定であることを前提とした上で、任期満了後の総選挙の場合に、一時的に衆議院は不在となるわけですが、このときに緊急集会は開催できるのかできないのかが議論されてまいりました。  これについては、衆議院解散と任期満了という原因に違いがあるとはいえ、現に衆議院議員が存在せず、国会が召集できないという状況においては何らの径庭はない、すなわち、違いはないことから、直接適用はできなくても、類推適用は可能であり、緊急集会の開催はできるとする説が唱えられております。  これに対して、類推適用を否定するものではないが、条文上は解散時のみと読むのが自然だから、むしろ任期満了時も開催できるように明文の規定を設けるべきとの意見も述べられております。  次に、資料五ページを御覧ください。  期間の問題については、一方では、先ほど見ていただきました憲法五十四条一項、二項の条文の連関構造、他方では、緊急事態の法理などを念頭に、幾つかの解釈が唱えられております。本日の議題に関する最大の論点と言ってもいいテーマかと存じます。  そこで、この論点に関する学説分布について、一部に若干の誤解が見られるようですので、正確に御理解いただくために、総選挙実施が見通せる場合と、それが見通せない場合とに分けて、整理して御報告いたしたいと存じます。  まず、これまでの多くの学説は、意識的か無意識的かは別として、総選挙実施が見通せる場合を前提にして、緊急集会の活動期間について論じてきたように思われます。資料五ページの(a)の欄や、衆憲資百二号の二十ページから二十二ページに掲げた諸学説です。  文字どおり、五十四条一項、二項の連関構造を前提にして、緊急集会の集会要求期間、活動期間は七十日とか四十日に限定されると説かれてまいりました。これがまずベースラインとなる解釈かと存じます。  これに対して、まさしく本審査会で先生方が御議論されてきたのが、選挙困難事態や議員任期の延長特例に関する御議論でした。これを契機として、憲法五十四条一項の定める期間内に総選挙実施がとても見通せないような場合においても、従来の学説が言うような期間限定がそのまま及ぶと考えるべきなのかどうかが論じられるようになってまいったと理解しております。これが、資料五ページの(b)の欄や、衆憲資百二号の二十二ページから二十七ページに詳細に掲げた諸学説です。  すなわち、一方には、あくまでも、一つ、五十四条一項、二項の連関構造に照らして、文理上、期間限定を想定した制度であることは明確であることから、総選挙実施が見通せない場合であっても、当然に期間限定は及ぶ、二つ、そもそも緊急集会は両院同時活動の原則に現れた二院制の例外であり、例外規定は厳格に解釈されるべきとの法解釈の一般ルールに照らしても、そのように解釈すべきといった理由から、限定説が唱えられております。  他方では、そもそも五十四条一項の本来的な趣旨は現政権の居座り防止にあること、また、五十四条二項には緊急集会の活動期間を直接に限定する文言はないこと、さらに、非常時においてはまず生き延びることが大事であり、そのためにはルールは可能な限りで守るしかないとする緊急事態の法理に鑑みれば、活動期間の限定はないと解すべきとの無限定説も唱えられております。  なお、無限定説の代表的な論者でいらっしゃる早稲田大学の長谷部恭男教授は、次のようにもおっしゃっています。すなわち、総選挙実施が見通せるような場合には、条文の姿形を前提とすれば、原則として期間限定はあるのだろう、しかし、そのようなことは言っていられない場合には、期間限定はないということになるはずである、その結果、全体として煎じ詰めれば、期間限定はないということになる、このようなロジックです。条文の解釈とはどのようなものであるのかを示唆する、長谷部先生一流の深い洞察に基づいた御発言かと拝察いたします。  次に、資料六ページを御覧ください。  緊急集会において行使できる権限の範囲についてです。これを直接に規定する明文規定はございませんが、緊急集会は、二院制の例外として、緊急事態における国会代行機関として設けられたものですから、議論の出発点としては、全ての国会権限を代行し得ることがベースラインになるかと思われます。  その上で、一つ、この国会の権限の中に衆議院のみの権限は入るのか、二つ、衆議院優越といった日本国憲法が採用する統治構造から限界はないのか、三つ、国に緊急の必要があるときという緊急性の要件から類型的に外れる権限はないのかといった観点から、その行使できる権限の限界が議論されてきたところです。  この点については、まず、衆議院のみの権限とされる内閣不信任決議権の行使はできないこと、緊急性の観点などから憲法改正の発議はできないこと、そもそも選挙ができなければ国民投票だってできないわけですけれども、この二点についてはほぼ異論のないところかと思われます。  しかし、その他の権限については意見が分かれています。一方では、強度の衆議院優越が認められている首班指名のほか、緊急性の観点などにも鑑みて、条約締結権や年間を通した本予算の議決は不可と解すべきとする限定説が唱えられております。他方では、暫定予算に限らず、本予算の議決や条約締結権にも特段の制約はないとか、首班指名についても認めざるを得ない場合もあり得るとする広範説も唱えられているところです。  ちなみに、資料の末尾八ページに掲載している過去二回の実例を見ていただくと、そこで審議対象となった案件は、国会同意人事と、暫定予算及び日切れ法案の議決でございました。  次に、資料七ページを御覧ください。  案件の限定とは、国会法の条文のところでも言及した、内閣が示した案件に緊急集会の審議対象が限定されるかどうかという論点です。これについては、二つのレベルに分けて議論を整理することができるように思われます。  一つは、このような審議対象案件の限定は憲法上の要請なのかどうかという点です。これについては、憲法上の要請であって、国会法の規定はそれを具体化しただけのものであるとする憲法制限説と、憲法上の要請ではなくて国会法レベルで政策決定した制限であって、国会法改正によって拡大可能という国会法自制説とがございます。  もう一つは、仮に憲法制限説を取った場合でも、その運用の仕方によって案件限定をかなりの程度緩やかなものにすることができるのではないかという議論です。例えば、内閣が示す案件を包括的なものとすることや、内閣が示した案件との関連性を緩やかに解することなどです。ただし、このような運用による拡大については、そもそも、憲法制限説を取る以上、憲法が審議対象案件を制限している趣旨を没却しない程度にとどめることが必要との指摘もございます。  最後に、憲法五十四条三項に定める暫定性については、学説では、衆議院不同意のときの効力について若干の議論が見られますが、本審査会におけるこれまでの先生方の御議論では、この論点についての大きな意見の対立はないように思われます。  以上、参議院の緊急集会の射程について、本審査会におけるこれまでの議論の概要を、やや分析的な視点から、私見を交えずに御報告申し上げました。  御清聴ありがとうございました。

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