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奥山俊宏 ·上智大学文学部新聞学科教授

衆議院消費者問題に関する特別委員会(2025-04-22)での発言

第217回国会 ·第第6号号 ·4,672字
○奥山参考人 私は、奥山俊宏と申します。  平成元年、平成が始まった年に朝日新聞社に入り、記者として三十三年働きました。三年前から、上智大学の新聞学科でジャーナリズムの教員をしております。  新聞記者だった三十三年を振り返ってみますと、平成の三十年と重なります。失われた十年、失われた二十年、失われた三十年とその後呼ばれるようになった時期にほぼそっくり重なります。その間、バブルの崩壊に伴って顕在化してきた様々な経済事件を主に社会部の事件記者として取材し、その延長線上で調査報道に長く携わりました。  銀行にせよ官公庁にせよ企業にせよ、その内部にいて本当のことを話してくれる人を見つけ出す、そういう人の協力を得ながら記事を書いていく、そんな経験が何度もございます。そういう情報の流れ、正されるべき問題について、それを現場で見聞きして知っている人から記者を介して広く社会に問題提起され伝えられる営み、それが、新聞記者にとってだけではなくて、社会にとって、公にとってとても大切なんだということを知るようになりました。  租税回避地、タックスヘイブンの秘密ファイル、パナマ文書、あるいはルクセンブルク・リークスに基づく国際的な調査報道に参加する機会がございました。各国の首脳ら政治家、あるいは多国籍企業とタックスヘイブンとの関わりの一端を明らかにすることができ、アイスランドとパキスタンの首相は、財産隠しを指摘されて、その職を追われました。グローバルミニマムタックスの国際合意が成立するのを後押しする結果にもなったかと思っております。  そのように大きな反響を呼んだ報道の素材となる秘密ファイルを、私を含む世界各国の記者たちにもたらしてくれたのは、内部の関係者たちでした。これらパナマ文書やルクセンブルク・リークスの報道がきっかけとなって、ヨーロッパでも、EUが二〇一九年、加盟国に公益通報者保護法の制定を義務づける指令を定めたのは、山本先生からも御紹介がありましたとおりです。  公益通報者の保護は、取材源の秘匿、取材の自由といったジャーナリズムの基本的な原則と関連しており、また、パブリックに知られるべき公共情報の、この社会における自由な流通のインフラの一部を成すものとも言うことができ、大学の教員としても、私の興味、関心の中心に、記者や報道機関に対する内部告発はございます。  兵庫県の西播磨県民局長を務める六十歳の県職員による告発文書の作成と送付は、まさにその、報道機関に対する内部告発でした。「齋藤元彦兵庫県知事の違法行為等について」と題されて、昨年三月、警察、県議会、報道機関の十の先に匿名で送られました。  どこからかこれを入手した当の齋藤知事の指示を受け、副知事らが、昨年三月二十五日、抜き打ちで西播磨県民局を訪れ、局長のパソコンを押収しました。その日の午後、県民局長は、自分がその文書を作成し、配付したというふうに、県の人事当局に認めました。  二日後の三月二十七日、県は、彼を局長職から解任し、総務部付としました。その日の記者会見で齋藤知事は、うそ八百含めて、文書を作って流す行為は公務員としては失格と元県民局長を非難しました。  元県民局長の押収されたパソコンの中に保存されていた情報のうち、元県民局長のプライバシーに関する情報、文字だらけの小説みたいなものについて、知事の側近である兵庫県の総務部長が、昨年春、一部の県議会議員に見せて回りました。元県民局長について、こういったことをする信用できない人間だと印象づけようとした、それがその狙いだというふうに受け止められました。  五月七日、兵庫県は、元県民局長を停職三か月の懲戒処分としました。  七月七日、元県民局長は、死をもって抗議するとのメッセージを残して亡くなりました。  九月、告発文書への対応の不適切さを理由として、県議会全会一致の不信任決議で、齋藤知事は失職することとなりました。  十一月、知事選挙が行われました。この兵庫県知事選挙が前例のないものになった一因は、NHKから国民を守る党党首の立花孝志元参院議員が、当選するつもりがないと言いつつ立候補して、齋藤前知事を応援する活動を展開したことにございます。  テレビの政見放送で、立花候補は、この県民局長、百条委員会で調べたところ、何と不倫してたんですよと訴えました。百条委員会で元県民局長の不倫を調べた事実はなく、これは事実と異なります。確かに、その不倫の話は、元県民局長のパソコンの中にあったプライバシー情報としてうわさはされておりましたけれども、その不倫が事実なのか、それとも、小説の下書き、フィクションなのかは定かではなく、つまり、それが事実かどうか真偽は不明です。  選挙ポスターの掲示場に張り出された立花候補のポスターの内容は更に過激で、ここで御紹介するのもはばかられるような、事実と異なる根拠不明の内容でした。  元県民局長が、このように、プライバシーに属する真偽不明の事柄をあれこれ非難され、ここまで激しい人格攻撃を受けなければならなかったのはなぜでしょうか。知事のパワハラなど、問題行為を内部告発したからです。  権力者の不正を暴く情報の伝え手について、異性との関係のあることないことを暴き立てられるのは、古今東西よく見られる現象です。告発者をおとしめ、その信用を傷つけ、告発内容から目をそらさせ、論点をすり替え、さらに、他への見せしめとするのが狙いの卑劣な攻撃です。よしんば彼が不倫したことがあったとして、それは彼の告発の内容とは無関係です。  にもかかわらず、それは有権者に小さくない影響を与えたようです。齋藤前知事は日に日に勢いを増し、十一月十七日、百十一万票余りを集め、当選しました。  元県民局長に対する個人攻撃は今も続いています。  政府が今般の公益通報者保護法改正案を閣議で決定した三月四日の次の日、しかも、兵庫県議会の全会派が一致して、元県民局長について適切な救済、回復の措置を行う必要があると考えるとの百条委員会報告書を承認した当日、三月五日、兵庫県の齋藤知事は記者会見で、元県民局長について次のように述べました。倫理上極めて不適切な、わいせつな文書を作成されていた。兵庫県当局者が公の場でこのように明らかにしたのは、これが初めてのことでした。元県民局長の側に対する不当な嫌がらせであるというふうに私は考えます。  兵庫県は、現在、公益通報者保護法十一条とその指針に従った体制整備の措置を取る義務を負っています。すなわち、公益通報者の処分の撤回など適切な救済、回復の措置を取る義務、公益通報者の探索を行った知事や職員に対して懲戒処分その他適切な措置を取る義務を負っています。兵庫県は、現状、これらの措置を取っていません。だから、兵庫県議会の百条委員会は、その報告書で「現在も違法状態が継続している可能性がある。」と指摘し、その是正を提言したのです。けれども、齋藤知事はこれに従おうとしません。  選挙で選ばれたからといって、何をしても許されるというわけではありません。法令には従わなければならない。齋藤知事が、知事選挙で多数から票を得たことを理由として、自分の違法行為に向き合うのを拒否するのだとすれば、それは、法の支配に対する挑戦、反抗だと言って過言ではない振る舞いです。もし仮にそれがまかり通るのならば、今後の日本社会にとって危険な兆候になると思われます。  国にとって、国会にとって、それを是正しようとする姿勢を示す必要性は極めて大きい。そういうふうに私は考えます。  政府提出の公益通報者保護法改正案を拝見いたしました。公益通報者の範囲を広げ、保護の実効性を高める内容となっており、是非成立させていただきたいと感じます。  しかしながら、この法案が閣議で決定された三月四日より後に兵庫県で起きたことを踏まえますと、たとえこの法案が成立して施行されたとしてもなお、兵庫県のような体制整備義務違反を公権力によって是正させるための方策がこの法律には見当たらない、そのような、いわば欠陥が残ることに強い問題意識を持たざるを得ません。  改正案では、内部公益通報への対応の業務従事者を指定する第十一条一項の義務への違反についてのみ、消費者庁の立入検査権限、是正命令権限、是正命令に従わない場合の刑事罰の導入が打ち出されています。しかし、兵庫県が問われているような、十一条二項、体制整備義務違反については、その対象から外されています。私としては、従事者指定にとどまらず、そのほかの体制整備義務への違反についても、同様の強い権限を消費者庁に持たせるべき、もし必要があれば最後の手段としてそれを使えるようにするべきだというふうに考えます。  また、兵庫県など地方自治体は、公益通報者保護法の二十条で、行政措置や行政処分の適用から除外されています。これは改正法案でも変わっていません。兵庫県の事例を教訓として捉えるとすれば、これは現実離れした適用除外であり、こうした適用除外はやめるべきであると考えます。  改正法案には、公益通報者保護法に違反する解雇と懲戒処分に刑事罰を科すとの規定が盛り込まれています。兵庫県が元県民局長に停職三か月の懲戒処分を科したのと同様の、公益通報者への違法な懲戒処分を思いとどまらせ、抑止する力にある程度はなるだろうというふうに思います。  しかし、実際には、刑罰権の発動はかなりハードルが高い実情があります。例えば、告発文書の内容について真実相当性がないと過失で思い込んでしまったことで、その告発文書の配布を、保護されるべき公益通報に該当しないと過って認識してしまい、懲戒処分を科してしまったというような場合、これは過失であって、故意がないため、罪とならない、処罰できないということとなります。  更に申し上げれば、日本の検察は、確実に有罪にできるものだけを起訴し、そのほかは不起訴にするのが通例です。  最後の手として刑事罰を用意しておくのはとてもよいことだと思いますし、この改正法案を評価したいと思いますけれども、その手前、刑事罰の手前で、行政措置や行政処分の手だてを増やして、柔軟な対応を可能にするのが望ましい。その観点からも、体制整備義務違反に対する立入検査、是正命令を可能とする修正の意義は大きい。そうした法案修正をすることによって、齋藤知事のような振る舞いを容認しないとの国会の意思を示すこともできます。不正を目の前にして、報復を恐れて公益通報するかどうかちゅうちょする人たちに対する前向きなメッセージにもなります。  情報の伝え手を攻撃するのではなく、その情報の中身を吟味し、必要な是正へと結びつける、そんな方向に意識を振り向ける、そんな私たちでありたい。そのためのガードレールとして、公益通報者保護法をよりよくしていきたい。  兵庫県の齋藤知事のような振る舞いをまかり通らせるような法律ではなく、公益通報を萎縮させるような法律ではなく、そうではないと示すような法律にしたい。兵庫県で起きているような不幸なてんまつを二度と繰り返させないとの決意を示すような法律にしたい。  そんな法律が実現すれば、とてもすばらしいと思います。  御清聴ありがとうございました。(拍手)

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