○参考人(大泉淳一君) 選挙制度実務研究会の大泉淳一と申します。本日は、参考人として御招致をいただき、ありがとうございます。
選挙制度実務研究会は、隣の小島理事長ら選管の経験者とともに、選挙管理委員会が業務を適正、円滑に推進できるよう、会員の選管からの質問に答えたり選挙管理に関する研修を行ったりしている団体です。
本日は、災害と選挙について、総務省の説明とちょっとかぶるところもあると思いますけれども、御容赦いただきまして、簡単なものですがレジュメを用意しましたので、それに沿ってお話をさせていただきたいと思います。
まず、公選法は災害、天災をどれぐらい意識して作られているかということの観点から条文を見てみました。
主なものとしては、選挙人名簿関係で、二十二条で天災その他特別の事情がある場合に登録日を変更するというもの、それから三十条では天災事変その他の事故により必要があるときと、先ほどよりちょっと重い書きぶりなんですけれども、条文的には選挙人名簿が消失したときなどに再調製する規定があります。
投票関係については、まず、投票所は投票日の五日前までに選管が告示しなければいけないのですが、天災その他の避けることのできない事故によりその投票所を変更したときは直ちに告示することが定められています。
また、共通投票所、これは投票日当日に決められた投票所以外でもその市町村の有権者であれば投票できるという投票所ですけれども、これと期日前投票所については、天災その他避けることができない事故により投票ができないときは、これらを取りやめたり早く閉じたりするという根拠規定がございます。
次に、期日前投票と不在者投票については、投票日当日に投票できないと見込まれることが事由として必要なんですけれども、この事由として、天災又は悪天候により投票所に到達することが困難であることが掲げられております。
そして、繰延べ投票ですが、天災その他避けることができない事故により投票所において投票を行うことができないときなどについて、後日改めて投票を行うというものでございます。この規定は、開票や当選人を決定する選挙会などについても準用されておりまして、繰延べ開票あるいは繰延べ選挙会というものもあります。
次に、選挙運動関係的な条文でございますけれども、天災その他避けることのできない事故その他特別の事情があるときにはポスター掲示場を設けないことができる、それから政見放送又は経歴放送が不能となった場合には行わない、あるいは選挙公報発行の手続を中止するなどの規定が置かれております。
国政選挙における繰延べ投票の例、ちょっと先ほど説明が総務省からございましたけれども、公選法施行後は二回ですけれども、戦後といいますと三回ございます。
一つは、公選法制定前の参議院議員選挙法に基づき実施されました、一九四七年、昭和二十二年の第一回の参議院通常選挙でございまして、投票日当日の四月二十日午前に発生した長野県の飯田市の大火によりまして投票所も焼失したりしまして、参議院議員選挙法にも規定されておりました繰延べ投票、再投票となりました。五日後の四月二十五日には戦後二回目の衆議院議員総選挙が予定されていましたので、これに合わせて参議院選挙も投票が行われたというのが一回目です。それから、一九六五年、昭和四十年の参議院議員通常選挙については熊本県で、それから一九七四年、昭和四十九年には三重県で、それぞれ水害により繰延べ投票あるいは再投票が行われました。
参議院選挙は当時は全国区がありましたので、当落線上にある候補者あるいは六年議員と三年議員の境目になるような候補者が被災地に赴いて、投票日の前日まで選挙運動を行いました。被災者の反応も、この時期に選挙かという厳しい意見がある一方で、復興のために一票を投じたいというような意見があったことや、現場の選挙運動の様々な様子、さらには復旧を手伝う運動員の様子、まあちょっと買収罪とかどうなのかという懸念はありますけれども、そのようなものが報道されていたようでございます。
備考のところですが、災害があったのにそのまま選挙を行った事例です。網羅的に調べてもちょっと分からないのですけれども、このほかにも大雨などにより投票が懸念された例はあったようでしたが、記憶にある限りのものとしてここに挙げました。
一つは、一九九三年、平成五年の衆議院議員総選挙で、公示後に北海道南西沖地震が発生し、特に奥尻島では津波被害などが甚大でございました。しかし、現地では、投票所を変更するなどして選挙が予定どおりに行われたということがございました。また、二〇〇七年、平成十九年の参議院議員通常選挙でも、公示後に新潟県中越沖地震が起きたのですけれども、避難所も投票所に使用するなどして選挙が実施されました。被災された方々は大変な状況の下でしたけれども、現場の選管の方々始め関係者の皆様の大変な努力で選挙が実施されたということだと思います。
当時の時代背景もあってのことだとは思いますけれども、こういうときにこそ、自分たちの代表者を選ぶという民主主義における選挙の重み、また、自分たちの投票がないと選挙区全体の当落あるいは代表者が決まらないといったことに対する何らかの責任感のようなものがあったのではないかと想像しております。
次に、法律により選挙自体を延期した例としては、地方選挙については、総務省から説明のあったとおり、阪神・淡路大震災、それから東日本大震災の延期がございました。地方公共団体の議員及び長の任期ですけれども、国会議員と異なり法律マターでございますので、いずれの場合も任期は選挙の前日まで延長がされました。
ちなみに、兵庫県内の団体はその後も統一地方選挙に参加していましたけれども、四月の選挙後、六月に任期が始まるというのはちょっと長過ぎるということで、二〇一七年、平成二十九年に任期を短縮することができる法律が成立しまして、それ以降、短くなっております。
それから、東日本大震災時における実際の選挙の執行とその難しさにつきましては、実際に現場で携わられました小島参考人から詳しくお話があると思います。
あと、災害に係る近時の公選法の改正について、ちょっと用意をしてみました。
資料では、災害に関して、最近、公選法の改正があったということを幾つか挙げております。
一つは、期日前投票、不在者投票の事由で、先ほど申しましたけれども、天災又は悪天候により投票所に到達することが困難であることというのが加えられたことでございます。
この背景としましては、二〇一四年、平成二十六年の十二月の衆議院議員総選挙の直前に各地で大雪が降りまして、集落が孤立した、あるいは交通が途絶したというような状況がございました。選管の中には、期日前投票を慫慂する者がある一方で、事由に規定されていないのに勧めることはいいのかとちゅうちょする選管もあったように記憶しております。
二〇一六年、平成二十八年の法律改正によりまして、これが正面から認められるようになりました。それで、あわせまして、このような雪の害の場合などには途絶解消するまで期間を要しないということも実績としてあったことなので、繰延べ投票の場合には、それまで投票所の告示について五日前までというふうになっていましたけれども、雪などの関係が使えるときもあるのじゃないかということで、二日前までに改正されております。
この期日前投票の事由の改正は、次の二〇一七年の、平成二十九年の衆議院議員総選挙が台風の襲来に見舞われたことから、期日前投票の慫慂などに効果を発揮したと思います。
しかし、台風はそのとき去ったんですけれども、その後の暴風雨により、離島の投票箱が開票所の場所まで運べずに開票が遅れるなどの事態が発生しました。これに対応するために、二〇一九年、令和元年の改正によりまして、非常のときなどは離島の側にも開票所を設置することができるとして、そのルール、主なものとして開票立会人の選任の特例などが定められました。
また、コロナ禍においては、宿泊施設や自宅などにおいて外出自粛要請を受けた有権者がおりましたが、これらの方々の投票機会を確保するために、二〇二一年、令和三年に特例法が成立して郵便投票ができるようになりました。
また、ここには掲げておりませんけれども、二〇一七年、平成二十九年の衆議院の小選挙区の区割りの改定法において、分割市区が多く生じてしまったということもありまして、開票区の合同が入りました。これによって開票は同一選挙区内の他の市町村にも委託ができるようなことになったわけでございますけれども、災害時の選挙において、投票はできたけれども開票に人手が回らないというようなことがあれば、こういうときに利用ができるのかもしれません。
これらは、いずれも、大災害に対応してというよりも、事務的な観点から選挙を円滑に執行するために、ある意味で技術的な改正であったのではないかと思います。
最後に、災害と選挙について着目すべき点を、思っているところを述べます。
総務省から説明にも重なりますけれども、まず、投票する人を管理しておかなければいけませんので、選挙人名簿を消失しないように、あるいはすぐに復活できるようにしておかなければなりません。他の行政情報も同様でしょうけれども、クラウドなどによって確保するようにしていかなければならないと考えてもおります。
次に、投票を管理する人員の確保が必要です。
被災自治体で独自に選挙執行ができないのであれば応援職員に頼ることとなりますけれども、選挙執行のやり方は各選管により微妙に異なると思われますので、例えば対口支援などが考えられておりますけれども、こういう場合には、団体が決まっているのでしたら、指揮命令系統も含めて事前に役割分担を決めるなどのことが必要だと思われます。また、投票所を含め、投票に必要な施設の確保も必要だと思います。
さらに、有権者に対する便宜供与と情報の提供も必要です。
東日本大震災に対しては、特例法に基づいて、通常の選挙期間、例えば町村でしたら五日間ですけれども、これを延ばして告示したという例もありました。また、それまで選挙公報を発行していなかった団体において、これを発行するようにした団体や、町村の区域外で避難した住民のための投票所をつくったというようなこともありました。
また、熊本地震の際には、南阿蘇村で、住民がいつもの投票所ではなくて避難所近くの投票所でも投票できるようにということで、当時導入されたばかりの共通投票所制度を用いて、村内どの投票所でも投票できるような措置がとられました。このような既存の制度を生かして、できるだけ有権者に対する情報の提供と便宜供与を行うことが重要だと思います。
最後になりますけれども、これまで災害に係る選挙では、さきに述べましたように、自分たちの代表者を選ぶという民主主義における選挙の重み、また代表者が決まらないことに対する責任感のようなものが選管職員や一部の有権者も含めて認識されておりまして、少しでも早く代表者を選出したいという意識が高かったと思われます。選挙が最優先だということは申し上げませんけれども、民主主義における選挙の重要性というモチベーションが今後とも保たれればいいと考えております。
以上で説明を終わらせていただきます。ありがとうございます。
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