○田中公述人 慶応義塾大学の田中でございます。
先ほど同じ大学の小幡公述人がいらっしゃいましたけれども、キャラが大分違うので、そこは御容赦いただきたいと思います。私が話すことというのは大体、ネガティブといいますか、危機が起きているときにどう対処するかという話になりますので、どうしても何か暗い話というか展望が開けない話が多いので、そこも御容赦いただければと思います。
私の方の資料は非常に簡便なものになっておりますが、今日はそちらをベースにしてお話をさせていただきたいと思っておりまして、簡単に言いますと、危機管理をどうやっていくのかということ、それから、安全保障上の観点から今何が必要なのかということを申し上げたいと思っております。
ページをめくっていただきますと、二ページ目に論点として述べてありますが、なぜこういうことを書いたのかといいますと、言うまでもなく、今、改めてペルシャ湾情勢が非常に緊迫しております。もちろん、それ以前からもいろいろな兆候がありましたので注意はしていたんですが、そういう状況に陥りました。長い間、ホルムズ海峡が封鎖されたらどうしようなんという話をいろいろなシミュレーションでもやって、ウォーゲームでもやって、いろいろなところでやってきたのが、図らずも今現実に起きているという状態でもあります。
この端緒になったのが、イスラエルとアメリカによる、ある種違法な対イラン軍事攻撃、先制軍事攻撃でございましたが、イスラエルに至っては、これは二度目のことであります。今、中東で生じている紛争、これを通じて見えてきたのが、我が国の安全保障上の課題についてということであります。
一枚めくっていただきまして、三ページ目のところでございますが、まず、日本は、化石エネルギーを大きく頼っているところはどこかといえば中東ですけれども、その中でもとりわけペルシャ湾でございます。
我々の目と耳というのは、どちらかといえば、このペルシャ湾の情勢とか、それから原油価格ということに向かいがちではあるんですけれども、一番大事なのは、この地域の不安定化ということなんですね。価格の高騰とかというのは、いろいろな要因で起きます。下落も起きます。一時的なもので動くときには収まるんですが、地域が不安定化するというのが一番実は怖いわけでありまして、それが日本経済にとっての脅威でもあります。
そう思っていたところ、降って湧いたのが、先ほど述べました軍事力の行使ということであります。
攻撃を始めたイスラエルとアメリカは、幾度となくイランの側で問題とされてきた問題行動、もっと端的に言えば、それらを使って攻撃を正当化するような対象でございます、具体的には核開発、あるいはもう少し細かく言うとウラン濃縮でございまして、それからその濃縮されたウランの所在というようなこと、これらが大きな課題なんですが、ほかにも、イスラエルを射程に収める弾道ミサイルの開発、レバノンのヒズブッラー、イエメンのホーシー、それからパレスチナのハマス、これらの代理勢力への支援などが挙げられております。
いずれもイランの悪事としてはもっともらしいところでもございますが、とりわけウラン濃縮、それから兵器開発をめぐる糾弾については、ややこれはイスラエル及びアメリカの情報の操作、それから印象操作なども含まれておりまして、そもそも、去年六月に一旦軍事攻撃を行った後の、軍事作戦遂行後のレビュー、あるいは去年三月時点でのアメリカの国家情報評価などを見ても、アメリカ自身にも、大きく矛盾するか、かけ離れた現実がございます。そして、国連の専門機関である国際原子力機関、IAEAの見解ともそごがあるところでもございます。
一方、ミサイル射程については、日本列島も北朝鮮のミサイルの件においては非常にぴりぴりしている状況にございますが、イスラエルから度々主権を侵害されている国家として、その国家が対イスラエル抑止という点で国防上不可欠であるという点を踏まえれば、一定の説明はつくところでもございます。
さて一方で、現在の危機をつくり出しているのはまずイランだけではないということに、やはり中東においては目を向けるべきではないかと思っております。
ガザの住民に対して行われている執拗な攻撃、それから、パレスチナ人の権利じゅうりんを常態化している、このイスラエルの行動。ガザでは、七万五千人を優に超えるパレスチナ人が殺害されておりまして、民族浄化あるいはジェノサイドの疑惑も出てきております。イスラエルの首相に至っては、ICC、国際刑事裁判所から、ジェノサイドに関しての、戦争犯罪としての逮捕状を発給されているような状態にもございます。
日常化しているシリアそれからレバノンに対しての断続的な軍事攻撃、それから、ヨルダン川西岸の違法入植地の拡大、さらには併合など、明らかな国際法違反が続いているわけですが、世界は、イスラエルが国際法を超越したかのような存在であるように例外として扱い、イスラエル例外主義で対応してきました。そのイスラエル例外主義が中東地域における不安定を拡大させており、決して、イラン一国における問題がこの地域のあらゆる問題をつくり出している、その根源であるということが言えるはずもないわけであります。
そして、最近では、改めて、イスラエルそれからアメリカによる先制軍事攻撃、その違法性も問題として取り上げなければいけないわけでありますが、去年六月のいわゆる十二日間戦争と言われました先制攻撃において、この攻撃の主体となったのがイスラエルであるにもかかわらず、その責任追及がないままに見逃されてきたことこそが、今改めてペルシャ湾全域を危機に陥れる、そういう状況をつくり出しているということも忘れてはならないと思っております。
さて、四ページ目に移りますけれども、既に、イスラエルとアメリカによる攻撃、そしてそれに対するイランからの報復攻撃は十日を数えております。
奇襲攻撃を受けたイランでは、開始直後の爆撃でイランの政治指導者、ハメネイ最高指導者を失っておりますし、軍の高官ら四十人余りも同時に抹殺されたとも言われております。ほぼ同時刻に、イラン南部では女子小学校が空爆を受け、百七十人以上のいたいけな学童が殺害されております。当初からアメリカによる誤爆が指摘されておりますけれども、最近になりましてトランプ大統領は、これはイランの仕業であるということで強弁しております。主な都市部における民間人死傷者も多数発生しておりまして、三月九日までに千三百人前後ということで、イラン側が十二日間戦争を通じて失ったときの数をもう既に凌駕する数になっております。
一方、イランによるイスラエル及び域内のアメリカ軍基地に対する報復攻撃並びに周辺国の民間施設に対する空爆などで、各国で死傷者が発生しております。周辺のアラブ諸国にしてみれば、まさに巻き添え被害ということでありますが、イランがこれらの国々に対して、米軍基地の設置以外、いかなる事由で攻撃を行っているのかについては不透明でありまして、二月二十八日の攻撃を受ける数週間前にイラン側で防衛ドクトリンの改定を行ったということとの関連が問われるところでもあります。
いずれにせよ、民間航空機が離発着する国際ハブ空港や石油施設などが標的となるなど、攻撃の法的な正当性には疑問が呈されるところでもあります。昨日、三月九日、我が国の茂木外務大臣がイランのアラグチ外務大臣と電話会談を行い、この種の攻撃を強く非難し、やめることを求めたのは至極当然であると考えます。
このイランによる報復攻撃で注目されているのが、やはり自爆型ドローンの活用、それから弾道ミサイルの威力でもあります。長年、武器禁輸の下に置かれてきたイランにとりまして、これはどちらも自前でそろえた数少ない対抗手段であります。
幾度となく改良が加えられてきた結果、特にドローンの攻撃力と破壊力は侮れないこと、これは、二〇二二年二月に始まったロシアによるウクライナ侵攻でも実証されているところでもあります。御承知のとおり、最初期のドローンは、イランから提供されたものでございました。
また、自爆型ドローンが軍事ターゲットだけでなく民間インフラ施設に対しても脅威となることは、ウクライナでも中東でも全く同じであります。手作りの兵器の能力を疑うものではないんですけれども、家内制手工業の延長にあるような設備で比較的安価な汎用品を集めて造られていると考えられる現在のシャヘド136、これがペルシャ湾の対岸からアラビア半島側に飛来し、標的とおぼしき建造物に突撃するさまには、まさに戦慄を覚えるところです。
イスラエル以外では、特にUAE、アラブ首長国連邦の二つの首長国、アブダビとドバイに対するドローン攻撃が約千五百と際立って多く、そのほとんどが途上で撃墜されているとはいっても、数%、一部は着弾して被害をもたらしております。以前から警戒され、用いられてきたスウォーム攻撃であります。防衛システムを飽和させることで撃ち損じ、撃ち漏れが生じ、一部が防空網をかいくぐることに成功するということになるわけですが、現地で今回留め置かれていた邦人たちが経験した恐怖というものも道理であります。
従来の地域紛争と異なりまして、現在の危機が危機と称するにふさわしいのは、ホルムズ海峡の実質的な封鎖が成立したからにほかなりません。
二月二十八日の開戦後、イランのイスラム革命防衛隊は、VHF無線を通じまして、周辺を航行する船舶に対して海峡が閉鎖されていることを通告したこと、ここから始まりましたが、やがてこの警告に従わない船舶への攻撃を脅すようになり、さらには飛翔体による船舶、商船への攻撃も発生しております。これまでにタンカーを含む約十隻の船舶が攻撃を受けて被災しておりまして、その結果、三月二日までにはホルムズ海峡の通航はほぼ止まった状態にあります。現在もその状況に変わりはありません。
これがまさに、長年、何千回も何万回もシミュレーションを、さらにはウォーゲームで用いられてきたホルムズ海峡の封鎖ということになりますが、これが空想ではなく現実のものとなっております。
その意味するところは、ペルシャ湾と外海が遮断されたということでありまして、言うまでもなく、ペルシャ湾の中で産出される原油及び天然ガス、あるいはそれらの派生商品、派生製品も含めて国際市場には供給されない、そういう状態が今生まれております。あわせて、原油生産及びLNG生産が減産ないしは停止に追い込まれる、そういう事態も発生しておりまして、これも非常にまれというか、普通は起きない状態でございます。近年で起きたのはコロナ禍のとき、油価がマイナスを記録したときがございますけれども、あの瞬間には原油の生産を著しく絞らなければいけないということが起きましたが、それ以外では普通は起きないことでございます。
湾岸のアラブ諸国にとっては、これは報復を含めた軍事攻撃で受ける被害、直接的な被害以上に大きいものとなることでしょう。そして、その影響ですが、これは日本を含む東アジアにとどまることなく、世界経済にまで及ぶことになると見ております。
イランによる攻撃が湾岸アラブ諸国などに及ぶことによって、現地にいる邦人の退避というものが改めて注目されました。一部の在留邦人や渡航予定者には、一足先に移動を開始するとか渡航を取りやめるといった動きも見られましたが、大多数の方は、航空便のキャンセルによって多大な不自由と不安を抱えることになりました。
こうした事態は先々を読んで行動することの難しさを提示しているわけではございますが、多くの渡航者が集中的に交差する国際ハブ空港に特有の事象であるとも言えるわけでありまして、どれだけ事前の予備調査を行っても、旅の途中で立ち寄ったところでこのような不幸に見舞われるということはなかなか避け難いことだろうと言えます。だからといって、再発防止を視野に入れた対応策の検討を怠っていいということではないはずでもございます。
五ページ目、最後のところに移りたいと思いますが、このような危機を前にしまして、我が国は、想定外の事態が生じないように、多角的また多元的に泣きどころや盲点を追求して、そこに光を当てていかなければなりません。
まず、民間インフラとはいえ、人命に関わる基礎インフラは多々存在するわけでありまして、その防御と機能保全は高い優先順位を与えるべきであると考えます。
日本国内においては、飲み水から住民が完全に遮断されるというようなケースは、大規模災害時以外にはなかなか想定されておりません。しかし、飲料水を始め、ほぼあらゆる用途の水を海水から造水、すなわち水を造るというような乾燥地帯においては、造水プラントへの影響、攻撃あるいは破壊というものは、道義的にも重大な問題をはらんでおります。既に米軍がペルシャ湾上の島嶼部に対してこうした攻撃を行っていること、これを看過することは、たとえ作戦上の効果が見込まれるとしても、一般島民の生死に関わる問題となるだけに、慎重さが求められるところであります。
また、ホルムズ海峡の封鎖状態、これは我が国だけでなく世界的な問題であります。もろもろの経済の間の連動性だけではなく、市場で生じる玉突き現象のことも指しております。
原油の備蓄が十分にある、このことは我々は大分誇ってはいいとは思います。一九七三年の第一次オイルショックのときの教訓を現在に至るまで生かしているということでございますが、こちらは、当座のところ価格の高騰は免れない、それはもうどうしようもないところであります。しかし、供給不足に陥る心配がないということは、安堵していいことだということです。
一方、LNGにつきましては、ペルシャ湾内への依存度が、日本の場合、六%から七%程度で低い、広く言えば多様化ができているということで、これは悪いことではないんですが、影響は軽微であると見ている向きも多いわけです。
しかしながら、我が国が調達しているLNGのうち、約四割はスポットでの対応です。スポットで調達しておりまして、スポット市場あるいは短期契約によって入れているものであって、この視点から見ると、別の絵が見えてきます。スポット市場の急騰の影響を免れることはできないということであります。
原油の高騰に伴って、フォーミュラに従って長期契約のLNG価格が上がるには、一定の時間を要します。しかし、スポットは瞬時に上がります。もう既に上がっております。原油の方に目が向いてはおりますが、実際のところはスポットでのLNGの上がり方の方がはるかに激しいわけでありまして、そこを四割、我々は頼っているということ、これを忘れてはいけないわけですね。
加えて、カタールとUAE、これは合わせて年間八千三百万トンのLNGを生産しております。これが今、外に出ない状態です。そうすると、そこからスポットであれ長期契約であれ購入している顧客は、ほかからの調達を余儀なくされます。これはスポットの方に流れます。
となりますと、スポット市場に殺到するこういった追加需要を、果たして今のLNG供給国がほかで賄うことができるのかという重大な問題があるわけでございまして、原油価格にリンクしていく、そういったタイミングはもちろんこの先であるとしても、スポット市場の急騰による電気料金への影響はもう少し早いところで起きる可能性もあるわけですし、それ以上に、スポット市場で買い負けをするというようなことが起きると、これは量的な問題が生じます。なので、実は安穏としてはいられないということが、LNG市場においてもあるということを申し上げたいと思います。
最後になりますけれども、イランに対してのイスラエル及びアメリカの軍事攻撃が体制転換を企図しておりまして、その途上で軍事力の徹底的な破壊を狙っていることは周知の事実でございますが、イランという人口九千万人の多民族国家が、外部からの力の介入、あるいは内部崩壊であれ、統制の取れた政府あるいは軍組織がいなくなった場合にどのような混乱が生じ得るのかということを考える必要が大いにあると思います。
イランは、ペルシャ湾とオマーン海に対して二千五百キロの海岸線を有しております。この海岸線が不安定になった際、それから対岸のアラビア半島にこれが及んだようなときには、一体どれほどの混乱が待ち受けているのかということを改めて問いたいと思います。
以上でございます。(拍手)
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