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八代尚宏 ·昭和女子大学特命教授

参議院予算委員会公聴会(2026-03-24)での発言

第221回国会 ·第第1号号 ·5,613字
○公述人(八代尚宏君) 昭和女子大学の八代と申します。  本日は、このような機会を与えていただきまして、ありがとうございました。  私は、同時に、制度・規制改革学会というところの理事を長年務めておりまして、本日は、その学会の成果といいますか、提言に基づく内容となっております。よろしくお願いいたします。  一枚目、アウトラインというのが下にありますが、二ページのところですが、本日のお話は大きく分けて三つございまして、一つは、日本経済の中長期的な課題である少子高齢化に対して制度改革をどう進めるかというのが一つ。  それから、地方の問題として東京一極集中の是正という大きなテーマがあるわけですが、これは本当に是正するだけでいいのかどうか、というかその是正の中身ですよね。東京の活動を抑制する、あるいは東京に対する人口流入をひたすら抑制するという保護主義的な考え方じゃなくて、東京と地方の主要都市がお互いに競争するという、そういう形での一極集中の是正というのが必要ではないかと考えております。  三番目は、とにかく地方の産業が立派に、何というか、元気になるためには、やはり今の時代に遅れた制度とか規制を変えていかなきゃいけない。その代表例として、農業、ライドシェア、それから医療・介護制度ということについて簡単に触れさせていただきたいと思います。  一枚めくっていただきまして、人口の問題ですが、現在、日本は生産年齢人口が急速に減っているという問題がございます。全体の人口ももちろん減っておりますが、生産年齢人口、ここでは二十から六十四歳と定義しているわけですが、これがもう過去二十年間に一千百万人も減っている、すさまじい勢いで減っているわけで、これが人手不足の大きな原因になって経済成長を抑制する主因の一つともなっているわけです。  他方で、右側のグラフで見ていただきますように、高齢者は同じ期間に千三百万も増えているわけですね。働き手が減って高齢者が増えていく、どうしたらいいのか。これは大学の学生なんかと議論したときもよく出てくる問題です。  しかし一方、下がって考えてみると、なぜ高齢者がこんなに増えるのか。それは長寿化なんですよね。長生きすることが何でいけないのか。長生きするということは個人にとっても家族にとっても望ましいし、日本が世界一の長寿国であるということは日本の社会がうまくいっている証拠なわけですね。所得も安定しているし、医療もきちっと対応されている、麻薬もないし犯罪もないと。なぜこの長生きという成果を生かせないのか。長生きが非常に深刻な財政問題を引き起こしてしまうというのは、制度に問題があるんじゃないだろうか。だから、人々が長生きして社会が良くなるように制度を変えていく必要がある。その一つの鍵が高齢者の活用なわけです。  右側のグラフを見ていただきますと、高齢者の数がどんどん増えて、二〇四〇年には人口の四割近くを占めるまで増えてしまうわけですね。これでは大変なんですが、よく見ると高齢者の中にも七十五歳以上のいわゆる後期高齢者と七十四歳以下の前期高齢者に分かれるわけです。  七十五歳以上の方に働けと言っても、これはもう基本的に無理ですけれども、少なくとも七十四から六十五の間の人たちの中には元気でまだまだ働ける人がたくさんいるわけで、こういう人たちが働いて生産年齢人口の方に加わってみると、そうすると、本当の意味の高齢化比率は高齢化のピークでも二五%にすぎないわけですね。これは十分マネージできる水準なわけで、どうしたらこの高齢者、働く意欲と能力を持っている高齢者を活用できるような労働市場あるいは社会制度にしていくかが大きなポイントになろうかと思います。  下のチャートで、テーブルでありますけれども、働ける高齢者が働けない高齢者を扶養する、エージフリー、年齢にとらわれない社会にしていくためにはどうしたらいいか。最大の問題が定年退職制です。  今、日本の多くの企業は六十五歳定年で強制的に退職させられているわけですが、これは、アメリカを始めとしてヨーロッパの国では禁止されていることなんですよね。つまり、年齢に基づく差別であると。ちゃんと働ける人がなぜ一定の年齢になったら退職されられるのか。やっぱりこれはおかしなことで、日本も当然これを倣うべきだと。  ただ、今のままで定年退職を禁止したらこれは大変なことになるので、定年退職を廃止してもうまくいくような労働市場改革、同一労働同一賃金とかですね、そういうことをきちっとやることが必要だと思います。  あと、年金制度の改革も、年金の支給開始年齢を日本の厚労省は六十五歳に抑えて、これ以上の引上げは全く考えていません。しかし、世界では、アメリカでもヨーロッパでも六十七、六十八歳が支給開始年齢で、早くもらいたい人はもちろん早期に受給できるわけです。  なぜこういうふうにかたくなに六十五歳支給にこだわるのか。世界一の長寿化の日本ではもっと弾力的に、長く生きた分だけ働いてもらう、そうすれば年金制度は安定するわけです。こういう年金制度改革というのをやっぱりエージフリーの考え方で考える必要があろうかと思います。  あと、転職というのが高齢者の場合特に大事で、貴重な労働力を効率の高いところに配分するというのが大きなポイントだと思います。  もう一枚めくっていただきまして、実はこれは高度経済成長の時期にも起こったことでありまして、六〇年代までの日本は一〇%成長を遂げていたわけですが、七〇年代の半ばに入るといきなり四%に半減したわけですね。  これは第一次石油ショックのせいだと一般に言われていますが、私が働いていたOECDで比較分析をしたら、日本以外の国ではそんなことは起こっていません。一時的に不況になりましたが、あとは別に前と同じペースで成長しているわけで、日本だけが七〇年代半ばでこんなに成長が下方に屈折したというのは、ひとえに国内の問題であって、我々は、これは田中角栄総理の国土の均衡ある発展という名目で人為的に地方を豊かにしたわけですよね。もちろん、地方が豊かになるのは何の問題もないわけですが、それ以前は、例えば農水省は、秋田県の八郎潟の干拓のように、大規模農業をして農業の生産性を上げて農民を豊かにするという真っ当な政策をしていたわけですね。  ところが、そんなことではまどろっこしいということで、田中角栄総理の政策はいきなり生産者米価を引き上げたわけです、大規模に。そうなると、生産性を上げなくても農業をやっていけるので、今の低い農業生産性というのがこのときから始まってしまった。生産者米価の引上げが今の減反政策につながっているわけです。  それから、公共投資を地方の方に重点的に配分することによって都心の過密問題の対応というのがむしろ遅れてしまったということ、あるいは、首都圏に対して強制的に工場等の制限立地法みたいなことを、社会主義的なこういう政策を取ることによって人為的に地域間の所得再分配をしてみた、これがおかしいので、やっぱりきちっと市場原則を通じて地方を豊かにするという政策を取るべきだったわけで、それが成長率の屈折の大きな要因になったと考えております。  次のページを見ていただきますと、確かに東京は一人勝ちのように見えます。ただ、それは国内の話であって、アジアの国と比較すると東京の地位も落ちています。急速に今ほかのアジアの国は豊かになっているわけで、だから東京を貧しくしても地方は豊かにできません。むしろ、今の政府のやっている地域の均衡ある発展というのは、実は地域の均衡ある衰退政策なわけです。  東京も地方もやっぱり競争することで発展させていかなきゃいけない。どうすればいいかというと、東京への人口移動を止めるんじゃなくて、それぞれのブロックごとの主要都市の人口を高めていく。これはもう現に行われていることですけど、これをもっと推進していくというのが大事で、例えば福岡なんかは物すごく人口が増えていまして活気のある都市になっているわけで、ほかの地域でも同じことをする必要がある、それによって間接的に東京への一極集中を防いでいくというのが本来の地方創生の在り方ではないかと思います。  次見ていただきまして、そのためにも一番大事なのは農業政策であります。  日本の農業、特に米農業が何でこんなに競争力が弱いのか。農業という観点から見ますと、日本は、中国と比べれば温暖な気候、豊富な水資源、十分な農地で勤勉な農民がいて、これだけ良い条件がそろいながらなぜ日本の米の競争力がこんなに弱いのかと。これは、ひとえに人災です。  農業保護はほかの国もやっていますが、それは農家への補助金を出して保護しているわけで、日本のように、農家がおいしい米をわざわざ作らせないために減反の補助金を出して価格をつり上げて納税者と消費者の両方に大きな負担を課している、こんなばかげた農業保護政策をやっている国はないわけです。それにもかかわらず、高齢化によって耕作を放棄する人たちが増えているわけで、これがどんどん今拡大している。  なぜ、もう年を取って耕作をできない人が主業農家に農地を売ったり貸したりできないのか。それは農業、農地の市場がゆがんでいて、一種の投機が起こっているわけですよね。だから、こういうことをきちっと農水省は対応して、耕作放棄地は農地じゃないんだから当然宅地並み課税を掛けるとか、きちっとした対応をしなきゃいけないわけです。  あと、大事なことは、高市総理の官民投資計画ということが言われているわけですが、肝腎の農業が、この十七分野の一つなんですが、企業が参入できないんですよね。およそ企業が農地を買えない状況を放置しておいて、何で官民投資計画になるのかと。是非これは考え直していただきたいと思います。  大規模農家には、農業には資本が要りますし、あるいは大規模農業ができない兵庫県の養父市というところでは付加価値を付けているわけですね。お米をそのまま売っても大して稼ぎにならない、お米に付加価値を付けて売ることで初めて農民は豊かになれるわけで、そのためには企業との協力が必要なわけです。企業が農業に入ることによってサラリーマンとして農業をやれる若い男女の機会が増えるわけで、そうすれば農村は活性化できるわけです。  それからもう一つは、やっぱり高齢者が増えてくる、特に大都市圏で増えているというのが大きな特徴で、過去にどんどん都市に参入していた人たちが高齢化しているわけですが、これは一つの、次のページをめくっていただきますと、高齢化社会のシルバー市場の活用ということが書いてあります。  今の日本でこれから発展する産業が何かと考えたときには、高齢者が確実に増えるわけですから、この高齢者が必要とする医療・介護サービスというものの需要は確実に高まるわけです。しかし、それに企業が十分に参入できない状況が起こっている。完全にこの医療・介護サービスが統制経済になっている。もちろん、社会保険ですから、厚労省が診療とか介護報酬を決めるのは当然なわけですが、それが財政状況から抑制されているために慢性的な人手不足がある。これから高齢者が増えるのに、介護人材が不足して介護事業者がどんどん倒産している。これはひどい状況です。  これを防ぐためにはどうしたらいいかというと、保険と保険外サービスを自由に組み合わせる混合診療、混合介護をもっと拡大させる。それによって、財政に頼らず、介護サービス事業者あるいはそこで働く人たちがもっと収入を得られるような状況を得られる、これは規制改革の昔からの課題なんですが、一向に進んでおりません。  ですから、そういうことをすれば、もちろんそのためには所得の低い人たちにも確実に基礎的な介護サービスを提供する仕組みは大事です。しかし、余裕のある人にはもっと付加価値を付けた質の高い介護サービスを買ってもらえるようなマーケットをつくるというのはやっぱり非常に重要な政策ではないかと思います。  それからもう一つは、高齢者が増えると自動車の運転が危険になる。そうしたときに、諸外国では当たり前のようにやられている、社会主義国の中国でも一般に普及しているライドシェアがなぜ日本ではできないのか。これは、やっぱりタクシー会社の政治力で非常に日本型ライドシェアというゆがんだ形しかできないわけですね。ライドシェアというのは物すごい効率的です。職業運転手が不足する中で、そういう中では非常に効率的なシェアエコノミーを使えるわけですね。  あと、治安の問題はちょっと飛ばさせていただきます。  その次に、最後ですが、今、副首都構想というのがあるわけですが、これを単なる東京のバックアップ機能というのはもったいないわけですね。それから、別に大阪に限定する必要はないわけで、主要な、全国の主要な都市が東京に対抗して東京とは異なる形で成長する、言わば成長エンジンとしての副首都構想というものを考える必要があるんじゃないか。  これからの高齢化社会というのは、やはり前例がないわけです。ですから、いろいろ競争して考えなければいけないわけで、そのためには、大阪のような、やっぱり江戸時代の堂島のような世界に最たる金融機関を持っていた、こういうことを繰り返して、競争を通じて東京と各主要都市がより良い産業として発展する、人々の生活を豊かにする、こういうような状況を是非御検討いただければ有り難いと思います。  御清聴ありがとうございました。

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