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藤井敏嗣 ·東京大学名誉教授/山梨県富士山科学研究所所長

参議院沖縄・北方問題及び地方に関する特別委員会(2026-07-23)での発言

第221回国会 ·第第8号号 ·5,624字
○参考人(藤井敏嗣君) それでは、本日は、富士山噴火による首都圏への影響についてお話をいたします。  お手元の資料をめくっていただいて、二ページ目をお願いいたします。  富士山は十万年間活動をしている火山でありますが、通常の日本の火山の場合には五十万年から百万年間活動を続けますので、十万年というのは非常に若い火山であるということになります。そのうち、最近の五千六百年間については富士山の噴火の様子の調査がある程度進んでおりまして、そのことをまとめたのがこのダイヤグラムでございます。  横軸に書いてあるのは、噴出量と書いてありますが、これは右側に行くほど量が多くなって、すなわち噴火の規模が大きいということを意味します。それから、縦軸にあるのは、棒グラフで表しているのが噴火の回数です。それぞれの規模のものが何回噴火をしたかということを書いてありますが、五千六百年間に約百八十回の噴火を行ったのが富士山であります。ですから、平均すると三十年に一回は噴火をしていた火山でありますが、三百年前の一七〇七年の宝永の噴火以降、三百年間噴火をしておりません。  そういう意味で、富士山はいつ噴火をしてもおかしくない、平均的な休止期間の十倍の期間休んでおりますので、いつ噴火をしてもおかしくないし、富士山の地下ではマグマの活動を示すような低周波地震というものが毎月のように観測されております。  それから、この図を見て分かるのは、右側に行くほど大きな噴火と言いましたけれども、十三億立方メーターのところに一つ棒グラフがあります。これが平安時代の貞観の噴火と呼ばれるものです。富士山の北麓の青木ケ原の樹海の下に広がる溶岩流がこのときにできた溶岩であります。それから、七という、七億立方メーターのすぐそばに一つありますが、これが三百年前の宝永噴火であります。これで見るように、赤い枠の中にある大規模な噴火、二億立方メーター以上のマグマを出すような噴火というのはそんなに多くはない、全体の四%にすぎないということが分かります。これは、自然現象は全てそうですが、大きいものほど数が少ない、だから次は大きいものにならないということとは別の問題です。  次のダイヤグラムを見ていただきます。次のページです。  噴火の規模と噴火間隔と書いてありますが、これは世界中の千五百の活火山を調べて、噴火の前にどのくらい休んでいたのかというのを横軸に取ってあります。縦軸に、ここでは一から六以上というのを書いてありますが、これは噴火の大きさと激しさを示す火山爆発指数というものでありまして、数が多くなるほど激しくて規模が大きいということになります。ゼロから八までの九段階ありますが、上部には六以上をまとめてプロットしてあります。  それから、五というところに丸印を付けているのは、これが宝永の噴火がこの五のところに当たります。先ほど七億立方メーターの噴出物を出したと言いましたけれども、このときの噴火はこの火山爆発指数でいうと五に当たりますが、このダイヤグラムで見ていただくと、四以上あるいは明確には五以上のところを見ると、噴火の前に百年以上休んでいる、圧倒的部分は百年以上休んでいるということがこの図から分かります。  したがって、爆発的で規模の大きな噴火の間隔は長いということが一般的なこととして読み取れるわけですが、逆に言うと、長い間休んでいて噴火に至るときには爆発的で大きなものになる可能性が高いと、必ずというわけではありませんが、そういうことが言えると思います。  次をお願いします。  富士山は、噴火のデパートと呼ばれるくらい多種多様の噴火をこれまで経験してきました。ここに書いてある、図に書いてありますが、様々なタイプの噴火があります。ですが、首都圏に直接の影響を与えるのは爆発的な噴火です。三百年前の宝永噴火のように、噴煙を空高く噴き上げて、それが風に流されて、東の方、首都圏に火山灰あるいは火山れきを降らせるというような噴火であります。  富士山については、次の図に書いてありますが、富士山周辺での噴火災害に対する備えとしてハザードマップというものが作られております。  ハザード統合マップというのがこの図に示してありますが、富士山の一つの特徴は、中央部にピンク色で描いてある領域、これは次の噴火で火口が開く可能性のある領域で、このどこから火口ができるのかは噴火の直前になるまで分かりません。ですから、それに基づいて、いろんな場所にどういう災害が及ぶ可能性があるかをここに書いてあるわけですね。  ですから、先ほど直接首都圏に影響はないと申し上げた、この類の噴火では直接首都圏に影響ありませんが、中には、溶岩流あるいは融雪型火山泥流というものが南側に流れ出した場合には、首都圏とそれから地方とを結ぶ主要幹線がダメージを受ける可能性があります。そういう意味では間接的な被害を受ける可能性があるということになります。  次、お願いします。  首都圏に影響を受けるような噴火というのは爆発的な噴火と申し上げましたが、この左の図にあるのが三百年前の宝永の噴火の当時の絵図であります。六合目辺りに火口が開いている。このときには山頂ではありません。六合目に火口が新たに開いて、ここからマグマが噴き上げたわけです。  これは絵図なので全ての様子が描かれておりませんが、実際に起こったのはこの右側にあるような噴火であります。これはチリのカルブコ火山というものが二〇一五年に噴火したときの図ですが、カルブコ火山の山頂部から噴火していますが、山頂の高さが五千メーターであります。そこから噴煙が高く上がって、およそ二十キロ以上まで上がっているわけですね。それで、そのところで噴煙の密度が周囲の空気と釣り合いますので、あとは横、水平方向に広がるだけ。  それで、宝永噴火のときの噴煙がどうであったかということを次の図で見ていただきます。  もちろん、当時は気象庁のような機関がありませんので、噴火を観察、観測しているわけではありませんが、現在地表に残されている噴出物、地層として残されているものから当時の噴煙の高さを再現した例であります。  宝永の噴火というのは、一七〇七年の十二月十六日から十六日間続きました。そのうち噴煙が上がったのはおよそ二週間、十四日ほど噴煙が立ち上っております。  その噴煙の高さはこの色が付いているところで表されますが、全ての期間を通じて十キロ以上の高さまで噴煙が上がっています。この十キロというのは、気象学の方で言う対流圏とそれから成層圏の境界に当たります。八千メーターの高さから十一万五千メーターぐらいの付近は、冬場であると風速が毎秒七、八十キロという暴風が吹いております。夏場であっても毎秒数十メーターの西風が吹いている。常に西風が吹いているというのが特徴でありまして、そのために、噴煙が十キロ以上まで上がるとなると、次の図のようなことが起こります。  これが、宝永の噴火で発生した火山灰の堆積した厚さを書いております。例えば、八センチ、千葉と書いてあるところ、この横にある赤い楕円の内側には火山灰、火山れきが八センチ以上の厚さ降り積もったということを意味しますし、横浜のところには十六センチと書いてありますから、この横浜を通るような赤い楕円の内側は十六センチ以上の火山灰が降り積もったことになります。で、山に近いところに三百センチと書いてありますが、この赤い楕円の内側は三メーター以上の火山れきが降り積もったのがあの宝永噴火の実態であります。  次、お願いします。  この宝永噴火を説明するような火山の物理モデルを使ってシミュレーションを行って、宝永噴火は再現できるということを確認した上で、風向きが宝永噴火とはやや違う方向に起こったときに何が起こるかということを計算した結果を示したのがこの西南西風卓越時の交通への影響例であります。  これは噴火が始まって三時間後です。宝永噴火とほとんど同じことを計算しているんですが、そのうちの三時間後の状態を見ると、緑の破線の内側は、全ての鉄道が止まります。それから、青い線の内側は、火山灰が降っている状況ですので、視程が悪くて車が走れません。こういうふうに、首都圏で、噴火が始まってから非常に短時間で影響を受けることが分かります。  次の図を見てください。  これが、その今申し上げたことの根拠になる数値であります。道路は、降灰中は走行不能と書いてあります、視程が低くなるからですね。それから、先ほど鉄道が止まると言った理由は、真ん中辺りに、〇・五ミリです、火山灰がレールの上に〇・五ミリ積もると、列車とレールとの間に流している電流が流れなくなる、そのために列車がどこにいるかが分からなくなるので、その状態で走らせると大事故につながりますから、この段階で全ての鉄道が止まることになります。ほかの説明は省略させていただきます。  次、お願いします。  風向きや何かが少し変化をしたときに、首都圏のどの地域に火山灰がどの程度積もるだろうかと、これは宝永の噴火、三百年前と同じようなことが起こったときという前提でありますが、首都圏で数センチ以上火山灰で覆われることになり、山に近いところでは三十センチ、あるいは場合によっては数メーター以上の堆積が行われるということになります。  次、お願いします。  富士山噴火は南海トラフでの地震と連動していると言われることがありますが、実際に連動があったのは一七〇七年の富士山の宝永噴火のときだけで、この四十九日前に、南海トラフの、言わば全割れの地震が起こった。一番西の端から、それからかつて東海地震と呼ばれた一番東の端まで全てが割れたときの地震のときに、四十九日後に富士山の宝永噴火が起こっております。  それ以外に、地震については古文書の記録から九回南海トラフの地震が知られておりますし、それから、富士山の噴火には確実なものとして十回知られておりますが、そのうち一致するものはこの宝永噴火だけであります。  次の南海トラフの地震までに噴火をする可能性もありますし、あるいは、それまで噴火をしていなければ、もしかすると連動ということがあるかもしれません。いずれにしろ、地震のように岩石の強度で休止期間が決まるようなものとは違って、火山噴火の場合には、そういう何年置きとか何百年置きというようなことが決めることができません。ですから、中長期予測というのは非常に困難であります。  それでは、噴火の前どのくらいで噴火を予測できるのかということ、地震は事前に予知することができませんが、火山噴火の場合には事前に前兆が現れるのがほとんどです。じゃ、その前兆がどのくらい前に分かるかというのを、次の図ですね、これはハワイのキラウエアの二〇一八年の噴火を持ってきました。  これなぜかというと、先ほど富士山で見ていただいた史上最大の噴火、平安時代の貞観の噴火と全くそっくりの噴火が二〇一八年にハワイで起こったからです。これは、富士山でいえば最大規模の噴火、そのときに事前に予知ができるかというのが次の図で示してあります。  これは、キラウエアの噴火は通常は山頂で起こりますが、このときの噴火は、海岸近くの住宅地の真下から噴火が始まりました。で、上に書いてある青い線ですね、これは一時間当たりの地震の回数であります。ふだんは住宅地の下では地震がほとんど起こりませんが、四月の三十日に突然一時間に十回とか二十回という回数で地震が起こり始めました。その後、三日後には、左下にあるように、白い線で、白い水蒸気上がっていますが、これが一連の割れ目のところから上がった水蒸気で、直後にマグマが噴き出して、溶岩流を流し出すという噴火が始まったわけであります。  このように、富士山で最大級の噴火であっても、前兆が現れるのはせいぜい数日程度、場合によったら数時間ということもあると思っていただきたいと思います。  時間がほぼ来ましたので、富士山の噴火についてのまとめが最後に付けてあります。  先ほど申し上げたように、平均三十年に一回である噴火を繰り返していた火山が、その十倍の期間休んでいる。そのことから、もはやいつ噴火をしても不思議ではありませんが、先ほど申し上げたように、いつということを中長期的に言うことはできません。非常に極端なことを言えば、例えば一週間後、突然地震が起こり始めて噴火に至るということもありますし、あるいは数十年後かもしれない。それは分かりません。  それから、首都圏に影響を及ぼすのは、先ほど申し上げたような宝永の噴火のように爆発的な噴火のときに直接的な影響を受けます。ですが、爆発的な噴火になるのか、あるいは山の周辺だけに溶岩流を出すような噴火になるのかというのは、これは噴火が始まるまで分かりません。  それから、噴火の規模も様々であるということは最初のダイヤグラムで見ていただきましたが、小さな噴火で終わるのか、あるいは大規模噴火になるのかということも、これも事前には分からない。ですが、その三百年間休んだということからすれば、大規模な爆発的な噴火も想定しておかないといけないということになります。  最後に申し上げたように、噴火の前兆は数時間から数日程度でありますから、前兆が見えてから何か備えるというのではとても間に合わないので、あらかじめ平時からいろんなことを備えておく必要があるというふうに思います。  以上で、私の発言は終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

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