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大橋弘 ·東京大学副学長・大学院経済学研究科教授

衆議院経済産業委員会(2024-04-23)での発言

第213回国会 ·第第11号号 ·5,169字
○大橋参考人 おはようございます。御紹介にあずかりました東京大学の大橋と申します。  本法律案との関わりですが、経済産業省に設置された新機軸部会の委員を務めさせていただいております。  本日は、このような貴重な場をいただきましたので、我が国における経済産業政策の評価とその在り方を中心に、本改正案に関わる論点について意見を述べさせていただきたいと思います。  専門は経済学でございまして、大学でも、もうかれこれ二〇〇〇年頃から、国内外の学部生らと接しております。このところは、デフレの下、物価も給与も上がらないものだというふうに思った学生を相手にしてきました。ところが、最近、ちょっとずつ変化の兆しも見え始めたのかなという感触を持っています。安定よりは新しいことを始めてみたいという学生も出てきておりますし、また、スタートアップに関心を寄せる学生の声も、徐々にですけれども聞こえ始めているのかなという状況です。  学生と接する中で、若い人が社会の様々な場面で挑戦をして、人間的にも経済的にも安心して成長できる環境を我が国にも意識してつくる必要があると強く感じます。こうした環境整備には、我が国の企業が、海外のみならず国内にもしっかり投資をして、イノベーションを促す取組を、企業規模や地域を問わず広がりを持って行うことが求められると思います。こうした国内投資を通じて、我が国の若者を含む所得の向上を定着させていくということが重要だというふうに思います。  もっとも、国内での投資環境をつくるために、必ずしも産業政策が必要だというわけではないと思います。振り返れば、二〇〇九年の世界経済危機までは、産業政策は不要だと言われてきました。規制を緩和して市場の競争に任せることが最大の経済政策であるというふうに言われてきたわけであります。  今、足下では、日本を取り巻く情勢が大きく変化し、欧米各国を始め、海外諸国でも産業政策が広く行われつつあります。我が国を取り巻く環境、情勢の変化として、主に三点挙げられると思います。  一つは、地球環境に対する配慮であります。  脱炭素やカーボンニュートラルがその一つですし、また、リサイクルなどを強化することで資源循環を推進するということも含まれます。こうした取組は、企業が単体で行うには限界があり、政府の役割が強く求められます。  例えば、脱炭素化された製鉄を取り上げてみると、グリーンスチールは、見た目にも性能でも高炉で作ったスチールと区別がつきません。そこで、製造過程で発生した炭素量を追跡、トラッキングをして、グリーンスチールかどうかを認証する仕組みが必要となります。ところが、グリーンスチールは、製造費が高いので価格競争力がありません。グリーンスチールを認証したとしても、需要家が安いスチールを購買しては、地球温暖化に寄与することはありません。そこで、地球環境のGXに対して企業が取り組むためには、産業政策によって、グリーンスチールの国際認証化、需要家に対する認証されたグリーンスチールの購入推奨などが不可欠になるということになります。  DXにも同様の側面があります。  人口減少において、公的セクターを含め、様々な業種で担い手が不足しています。これまで我が国は、OECD内でも労働生産性が低いと言われ続けてきました。労働生産性の低さには、適正な価格づけができていないことも理由にあり、現在、適切な価格転嫁の取組も政策として進んでいるものと思います。世界でも遅れがちと言われるDX化をしっかり進めることで、コスト削減だけでなく、業務の高度化も含め、人材を補う必要があります。  なお、こうした取組は、人材不足が深刻化する地域の中小企業では特に急務と思われます。しかし、DXやGXの取組を、中小企業の各社が個別にベンダーを相手に交渉して取組を行うことは、なかなかに困難だと思われます。ある程度のまとまりで中小企業を連携させて、その取組をサポートするような方向性が求められるものと思います。  三つ目は、経済安全保障です。  WTOの下で自由な貿易が標榜され、世界がフラット化すると言われてきた時代において、企業は利潤動機に基づいた効率的なサプライチェーンをつくってきたわけです。ところが、その結果、国家の安全保障の観点から問題となり得る地域にサプライチェーンが集積して、我が国における安定供給を揺るがすような事態が明らかになってきました。  規制緩和の時代には、公益とか国益とかという概念が問われることは乏しく、またその意識も薄れつつあったわけですが、公正公平な競争基盤をつくる上で、消費者や企業の私的な利益と国民への安定供給の確保という公益的な側面とを接合させる必要が今まさに求められているということだと思います。  今日の産業政策は、従来言われてきた産業政策とはやや色彩が異なるものと思います。それは、GXにしてもDXにしても、はたまた経済安全保障にしても、将来向かうべき方向性や技術の可能性について、不確実性がとても高く、つまり、分からないことが多いということではないかと思います。  将来に向けての選択肢がいろいろとある中で、技術的な可能性を一つ一つ検証しながら、国、地域、企業に適した選択肢を探し当てていく必要があります。他方で、企業のそれぞれが個社ごとにそうした選択肢を検討することは余りにもハードルが高く、また効率的とも思えません。何らかの形で企業間の協調が促されるべきと思われます。  例えばですが、石油コンビナートをGX化する場合に、コンビナートにいる企業が共同して設備の統廃合をしながらカーボンニュートラルに向けた設備投資をしなければ、コンビナートのGX化はなし得ません。  こうした共同行為に対して、公正取引委員会は、独禁法上問題がない旨を今年になって公表するに至りました。今後、企業が、競争だけでなく協調しながら、産業政策とともにGXやDXなどの取組を進めていく事例がどんどん出てくるものと思います。  こうした新しい産業政策には、従来の政策とは異なる視点が求められます。従来の政策は、大胆に単純化して言ってしまうとすれば、単年度主義、透明性、公平性、この三つが求められてきたと思います。予算は会計年度内に使って翌年度に持ち越さない単年度主義、政策の結果を次の立案に活用せず、政策評価が公開されれば当面よしとする透明性の確保、そして、企業をできるだけ選別することなく、広く薄く均等に予算を配賦するという公平性といった点が一般的に政策に求められてきたということだと思います。  これからの産業政策で求められるのは、この単年度主義、透明性、公平性からの脱却ということだと思います。経済社会の情勢が不確実な中において、複数年にわたる支援を少数の企業や業種に投じる必要も出てきているからです。GXなど政策ミッションが社会経済の変化とともに変わる以上、国内投資の方向性や目標も、社会経済のニーズに応じて機動的に微修正を施せる必要があります。政策立案の段階で、ある程度の不確実性を事前に予見してプログラム化するなどの仕組みも必要だと思われます。  政策の成果が長期にわたる官民協調の末に生まれるとするならば、民と同様に、官側も人材をしっかり張って政策を執行する必要があります。人事異動が頻繁に起こったりすれば、民間の取組に緩みが生じ、政策投資の効果が無になりかねないからです。研究開発とも通じるところがあるこうした産業政策の取組に対して、KPIをどう設定していくのか、何を評価軸にするのか、これからしっかり議論していく必要があります。  最後に、本改正案について数点申し上げます。  第一は、戦略的な分野における国内生産促進税制についてです。  我が国では、これまで、国内生産を活性化すべく予見性の高い施策を導入したものの、結局、国内生産につながらず、逆に海外からの輸入を引き起こした製品分野があります。エネルギー分野を例に挙げれば、再エネ賦課金による太陽光や風力の設備がそれに相当します。  FIT法の理念では、再エネの普及と産業政策の両輪が回ることが意図されていましたが、太陽光のパネルや風力のナセル、ブレードといったキー部品の産業育成はうまくいかず、再エネの普及に伴い賦課金が海外に流出する事態になったのだと思います。再エネ普及はしましたが、産業育成はうまくいかなかったということではないかと思います。  ここから学べることは、単に市場を拡大して予見性を高めるだけでは、国内企業の投資にはつながらないということであります。民間企業の判断で退出してしまうということが、それまで国民のお金で育ててきた技術をみすみす捨てることになるということです。  他方で、国内生産を競争にさらさず、いたずらに保護するということも、これもまた問題です。そうした環境では、企業は努力をせず、生産性も高まらず、高い国民負担を生み出してしまうということになるからです。企業に計画を提出させて、それを単に補助するといった委託に近い形態での政策執行では、大規模、長期にわたる産業政策はうまく機能しません。計画段階から官民が情報をしっかり共有し、言葉は悪いですが、死なばもろともという緊張感を持って、KPIを達成するために智恵を絞り合う姿が産業政策の立案に求められるのだと思います。ここに、官民との新たな協調の在り方を創造する必要があるということだと思います。  こうした新たな協調による産業政策の下で、国際的な技術競争の観点から必要とされる技術分野を戦略的に選定し、一時の採算性にとらわれることなく支援をしていく腹のくくり方が産業政策に求められているということかと思います。  第二は、中堅企業についてです。  これまでの下請政策は、中小企業と大企業を対立する構図に置きながら、中小企業を保護することを理念として掲げてきたように見えます。中堅企業という新たな概念は、中小企業と大企業とを対立させず、企業が中小から大企業へと規模を拡大して成長する道筋を見せたという点で、画期的なものだと思っています。  中核となる中堅企業を各地域で育てながら、中堅企業を核として、地域の産業再編を先導することが重要です。中堅企業がGXやDXの取組を進めていくことは、地域において人材を前向きに引き止め、育成することにもつながると期待できます。  なお、GXやDXなどの取組において、大企業に目が行きがちですが、中堅・中小企業の取組を促すことが極めて重要と考えます。  例えば、温室効果ガス排出の中堅・中小企業の占める割合は確実に二割を超えているものと思います。そして、中小企業に対する取組で重要なのは、ボイラーなどで化石燃料を直接燃焼して生産する事業者や農家に対して、いかにGXの取組を進めるかということだと思います。  欧州で参考となる取組として、ヒートポンプの熱源として利用される大気熱を再エネ量としてカウントして、一次エネルギー自給率にも反映させるという点が挙げられると思います。これには三つの効果があります。  まず第一に、中堅・中小企業によるヒートポンプによる設備転換を再エネ投資として宣伝ができるということにより、中小企業のGX化に弾みがつくということです。二つ目は、我が国のエネルギー自給率が、二〇二〇年度断面で四・五ポイント上昇するということもメリットとして挙げられます。三点目に、そもそもヒートポンプは我が国の国産技術であり、国内生産投資に資するということもあります。  我が国では、ヒートポンプは省エネにカウントされているために、大気熱をうまく政策として使えていませんが、中堅・中小企業のGX前進のために考えていくべき論点の一つなのかなというふうに思います。  また、GXの観点では、資源循環も重要な論点だと思います。特に、回収、リサイクルについては、自治体レベルでシステムが構築されており、リサイクルの効率化と量的安定供給に課題があります。  廃棄物は自治体ごとの管理ですので、リサイクル企業が自治体を超えて規模拡大することが難しいことが、我が国にサーキュラーエコノミーが根づいていない大きな理由の一つに見えます。この点は地方分権とも関わる点ではありますが、地域循環の生産性を上げるための取組として、これもまた課題として検討していくべき点なのかなと思っております。  以上でございます。御清聴ありがとうございました。(拍手)

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