○堀田参考人 おはようございます。東京大学の堀田でございます。
本日は、参考人として発言の機会をいただき、誠にありがとうございます。
私は、土木分野の建設マネジメントを専門といたしております。これまで、本法律案にも関連しております、国土交通省の持続可能な建設業に向けた環境整備検討会並びに中央建設業審議会の委員として、これまでの議論に参画してまいりました。そちらでの議論、それから、これまでの建設マネジメント分野の知見を踏まえまして、本法律案について意見を申し述べさせていただきます。
まず初めに、今回の法律案を一言で申し上げますと、建設市場のルールに関する大きな構造転換である、このように捉えております。以下、個別の点につきましては、法案の概要に沿いまして二点、労働者の処遇改善、そして働き方改革と生産性向上について意見を申し上げます。
まず第一に、労働者の処遇改善についてでございます。
我が国の建設市場においては、労働者の賃金下支えの仕組みが極めて脆弱であった。このことが、建設技能者を始めとする労働者の賃金水準の停滞を招き、現在の担い手確保の問題につながっているということは、様々な事実をもって言えると思います。
しかし、そもそも、例えば資材価格が高騰して工事費用が上昇したときに、その分を労務費へのしわ寄せによって調整しようといったことが行われてはいけないわけです。企業が受注競争をする際に、自社の労務単価を削って、それを競争の原資とするようなことがあってはいけない。それができてしまったら、それを皆がやらざるを得ませんので、全体の賃金水準が下がってしまいます。しかし、そんなことができてしまうようなルールを持った市場に、多くの若い方が入ってくださらないわけでございます。
確かに、賃金水準は市場において労働需給に基づき決定されるべきというのが原則ではありますけれども、他の資本主義経済の国々においても、社会のエッセンシャルワーカーである建設労働者が全く賃金下支えの仕組みを持っていないかといいますと、まさに逆なわけでございます。米国、フランス等、多くの国で賃金下支えの仕組みが整備されております。スイスについては、法案の参考資料で、私どもの過去の調査結果も御紹介いただいております。
スイスは、ドイツと同じように、マイスター、熟練技能者が社会から高く評価、尊敬され、建設分野も多くの若者が担い手になることを望んで選んでいる、そういう国です。ここでは、建設会社は、全国建設労働協約に基づく賃金以上の支払いが義務づけられております。その水準は、地域ですとか職業資格の有無、経験によって定められておりまして、熟練度が上がっていくに従って高い賃金が得られる、そういう仕組みがございます。公共工事、民間工事を問わず、この水準を下回る労働契約を結ぶことは事実上できません。また、専門の監査機関があり、労働者の労働条件等が技能労働者一人一人のレベルで遵守されているかどうか、きちんと確認をしています。公共工事においては、労働条件等が遵守されていると証明してもらえなければ、そもそも入札に参加することすらできません。
先ほど、本法律案は市場のルールの大きな構造転換であると申し上げましたけれども、賃金下支えの仕組みの導入がどうして産業構造の転換につながるのかという点でございます。
スイスでもそうであるように、労務単価を各企業の判断で削ることができないような市場では、建設企業は無理な価格で受注するということをしなくなります。見積りの実効性が高まり、価格は下から決まっていく。すなわち、下請企業から元請企業へ、元請企業から発注者へ向けて適正に積み上がることによって決まっていきます。さらに、企業が労務単価で競争ができなければ、あとは生産性で競うしかなくなります。したがいまして、生産性向上のインセンティブが自然に生まれることにもなります。
このような理由で、今回、法律案で標準労務費という新たな仕組みが提案されていることは、非常に意義の大きいことであるというふうに考えます。もちろん、新しい仕組みを有効なものとしていくためには、今後検討を続ける必要のある事項も数多くあると思います。
そのうちの一つをこの場で指摘させていただきたいと思いますけれども、中央建設業審議会基本問題小委員会で標準労務費の基本的な考え方を提案しておりますけれども、その中に、技能労働者の能力、資格や経験等に応じた賃金支払いの実現、これを目指して検討すべきと書かれております。
先ほど御紹介したようなスイスの能力、資格に応じた賃金水準ですとか、あるいは米国における非常に細かい賃金水準のカテゴリー分けですとか、幾つか仕組みが異なる点があるとはいえ、参考になる他国の事例が数多くあるのではないかというふうに考える次第です。標準労務費という仕組みが、我が国の制度、文化、そして現場の皆様の生の声を十分に反映したものになることを期待してございます。
続きまして、第二に、働き方改革と生産性向上についてでございます。
まず、建設業において、従前、課題とされてきました長時間労働について、著しく短い工期による契約締結、いわゆる工期ダンピングについては、これまでの発注者、注文者に対する規制のみならず、受注者にもその規制範囲を広げるということでございまして、その内容に賛同いたします。
工期の適正な設定が重要であるという指摘は多くなされてきましたけれども、これまでは、ともすれば、建設現場における労働者の労働時間管理については、まずは元請企業が最大の責任を有するという考え方が高じて、元請企業の取組のみに期待する、そういった風潮が当初はあったようにも感じられます。
しかしながら、二〇二四年四月の上限規制の適用が近づくにつれ、これは個社の取組、とりわけ受注者の取組だけでは解決できる問題ではない、受発注者を含めた全ての関係主体が連携しなければ解決しないのだという理解が共有されてまいりました。とりわけ工期は、受発注者が対等かつ双務的な関係に基づいて合意すべき事項であって、両者の協力は必要不可欠であると考えます。
生産性向上への取組につきましては、事業を行う際の様々な段階、すなわち、調査設計、入札契約、施工、維持管理といった段階の間でより緊密な連携を図ることによって、手戻りを少なくして、結果として事業全体で生産性向上が実現する、そういったシナリオを描く必要があると考えます。とりわけ、国土交通省直轄工事におけるBIM、CIM原則適用など、事業や工事の様々なデータあるいはその情報を一気通貫で共有するための枠組み、プラットフォームが重要ではないかと思っております。例えば、維持管理段階で構造物に変状が見られたときに、施工時やあるいはその設計のときに遡って原因を分析する、そして、その結果をもって迅速、適切な修繕につなげていくといったことを一つの環境、プラットフォームで行えるようにする必要があると思います。
今般の法改正では、まさにこのような情報通信技術を活用することによって、監理技術者、主任技術者が複数の近接する現場に配置されることを可能にする内容が含まれております。実際の運用に当たっては、適正な施工確保が行われるよう、しっかりと検証が行われる必要があると考えますけれども、これからの来るべき建設業を実現する、その仕組みの一端を担うのではないかと期待しております。
以上です。ありがとうございました。(拍手)
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