○村上参考人 おはようございます。労働団体の連合で副事務局長を務めております村上です。
本日は、参考人としてお招きいただき、ありがとうございます。
事業性融資の推進等に関する法律案について、働く者の立場から基本的な考え方を申し上げた上で、企業価値担保権の活用における担保権者等による伴走型支援、担保権実行における換価の方法、担保権設定時及び実行時の労働組合の関与、カーブアウト部分の水準、労働者保護全体に関わる課題の五つの項目について意見を述べさせていただきます。
まず、基本的な考え方についてです。
企業価値担保権は、労働契約を含む企業の総財産を目的財産にする、これまでにない制度です。労働契約は、働く人間と不可分の労働力を取引の対象とするもので、ほかの契約とは大きく性格が異なります。そのため、働く者の生命や健康、人格などに対して特段の配慮が必要であり、そうした労働者保護の観点に立った制度設計をしていただきたいと考えます。
そして、事業の継続や成長発展には労働者による労務提供が必要不可欠であり、働く者が集う労働組合は、事業活動を展開する上での重要なステークホルダーでもあります。そのため、労働者や労働組合の理解と納得を得られるよう、制度全体を通じて、労働者や労働組合への事前の情報提供や丁寧な説明、協議といった仕組みの整備が必要と考えます。
以上を踏まえまして、各論点について意見を申し上げます。
一点目は、企業価値担保権の活用における担保権者や貸し手による伴走型支援についてです。
企業価値担保権は企業の総財産を目的財産とすることから、担保権者等による借り手企業に寄り添った伴走型支援が可能となり、融資実務の改善が図られると金融庁は説明しております。
担保権者等は、借り手よりも優越的な立場にあり、経営改善支援として様々な経営関与を行うことも考えられます。また、本法案では、信託会社を担保権者にすることで、与信者に制限を設けず、ベンチャー、再生ファンドなど、一般事業会社も含まれるたてつけとなっております。
このように、金融機関以外の多様な貸し手の参入も見込まれる中で、ほかの制度よりも強い担保権を背景に人員整理や労働条件の引下げなどを迫られた場合、必要な資金調達を図ろうとする借り手が拒否することは極めて難しいのではないでしょうか。借り手企業で働く者が雇用や賃金などの不安を抱えたままであっては、本法案が目指す事業の継続や成長発展も到底見込めません。
また、企業価値担保権の活用によって融資を受けるには、借り手企業は、自社の強みである知的財産や無形資産を把握した上で、具体的な事業計画などを貸し手に提出することが求められると考えられます。
一方、貸し手は、借り手企業における現在の無形資産に関する開示情報を基に合理性を判断し、その将来性を含めて評価して、融資が実行されることになります。この際の融資条件として、融資前に解雇や労働条件の引下げなどを求めるといったことも懸念されます。
こうしたことから、働く者が安心して働き続けられるよう、担保権者が行うべきでない指導や助言などについて下位法令等で明確に規定するなど、実効性の高い担保権者等に対する規律づけが非常に重要であると考えます。
二点目は、借り手が債務不履行に陥り、担保権が実行される場合における換価の方法についてです。
法案では、換価は事業譲渡によってするとされております。企業価値担保権は総財産を目的として設定されるものであり、その制度趣旨からしても、実行の場面において、事業の一体的な換価を原則とすることは当然です。このことは、金融庁の事業性融資ワーキンググループの報告書にも、「事業を解体せず雇用を維持しつつ承継することを原則とする」と明記いただいております。
しかし、法案では一体的な換価を原則とすることが必ずしも明確になっておらず、実態として個別財産の換価がたやすく認められることになるのではないかとの大きな懸念を抱いております。
通常の事業譲渡においても、例えば、一部の労働者の労働契約が承継されないまま譲渡元の不採算部門に取り残され、場合によっては解雇に追い込まれるなどの大きな不利益を被るといった事案も決して少なくないという現状がございます。企業価値担保権を活用した場合も、そうした事案が数多く生じることがないよう、一体的な換価を原則とすることを制度的にも明文化した上で、広く周知する必要があると考えます。
また、他方の個別換価については、やむを得ない事由がある場合に限るといったような実体的な要件を設け、あくまでも事業の譲渡が困難である場合における例外であることを明確にすることが重要です。
この点については、管財人が裁判所に許可を申し立てる際に、個別換価をせざるを得ない理由や労働組合等との協議状況などの記載を求める様式を示すといった対応を検討いただきたいと考えます。
三点目は、労働者や労働組合の理解と協力を得るための手続関与の保障についてです。
まず、設定時については、法案では、企業価値担保権を設定する場面において、担保目的財産に含まれる労働契約の当事者である労働者が関与できる手続は全く設けられておりません。事業の継続、発展を進めていく上で最も重要なステークホルダーである労働者に対して、担保権が設定されたことを勤め先から全く知らされないまま、後になって、商業登記簿の閲覧や担保権者による経営改善支援、また取引先などを通じて知った場合には、企業への信頼が大きく毀損しかねません。
企業価値担保権の活用や将来の事業活動などについて労働者の理解と協力を得るためには、使用者からの事前の説明と誠実な労使協議を積み重ねる必要があります。こうしたことを踏まえますと、担保権設定時についても、労働者や労働組合等への事前の通知を努力義務で規定するなど、労使協議等を促進することが重要だと考えます。
次に、実行時ですが、実行時については、法案の中でも設定時より労働者保護ルールが整備されていると受け止めております。しかし、これらは、実行手続に向けて対応の方向性が一定程度定まった段階における手続保障です。労働者保護の実効性を高めるためには、更に前段階での通知や労働組合等との協議が行われるべきと考えます。
実行が検討される場面は、企業経営が行き詰まりを見せ、労働者としても雇用や労働条件に対する将来的な不安感が高まっているケースだと思われます。こうした場面において、早期に労働者や労働組合等との協議を行うことは、この先どうなってしまうのか分からないという先行きに対する不透明感の払拭や事業の継続に対する貢献にもつながるものと考えます。
こうした実行前の労使協議については、担保権が実行手続開始決定の申立てをしようとする場合に、労働組合等との協議状況などの記載を求める様式を示すといった対応を検討いただきたいと考えます。
四点目は、カーブアウトの部分の水準についてです。
本法案の実行手続における共益債権等の随時弁済や事業の継続等に必要な債権の許可弁済の規定については、労働債権者を含む一般債権者保護につながるものと考えております。
その上で、今回、カーブアウトを設けるとされておりますが、法案では、カーブアウトについて、実行手続終結後の手続を公正に実施するために必要な額と規定するにとどまり、具体的な額は政令に委任されています。
実際に組入れがなされるのは、破産や清算手続に至った場面ですが、その際の労働債権者や商取引債権者などの一般債権者等の全体の弁済に充てられるものであることからすると、労働債権を始めとして必要な弁済が得られるかどうかは、カーブアウトの水準をどのように定めるかに大きく委ねられています。
金融庁におかれては、一般債権者の保護をより強く図るとの趣旨が損なわれることがないよう、具体的な根拠を基に丁寧に検討いただくことを要望いたします。
五点目として、労働者保護に関わる課題について申し上げます。
企業価値担保権に限らず、ほかの担保権についても、従前より、倒産時等に労働債権が十分に確保できないとの課題があり、私たちは、労働債権の優先順位を更に引き上げることや、一部について別除権に優先させる制度を創設することを求めております。
また、事業譲渡などの事業再編については、連合の加盟組合からも、労働者の雇用や労働条件にマイナスの影響が及ぶ事案が寄せられています。連合は、事業組織の再編における労働者保護に関する法律案要綱の考え方を確認し、あらゆる事業再編において、労働契約の承継や労働組合等への事前の情報提供や協議の義務づけの法制化を求めてきています。こうした法整備については、加盟組合からも実現を求める声が高まっています。
しかし、倒産や事業再編時における労働者保護に向けた法整備は、残念ながら停滞しております。事業再編を行いやすくする法整備が進められていることや、倒産やMアンドAの件数が右肩上がりで増加していることからすれば、政府全体として、労働債権や事業再編時の労働者保護ルールについて真正面から議論していただく時期に来ているということを強く申し上げたいと思います。
その上で、今回の法案に関しまして、二点申し上げたいと思います。
一点目は、本法案と労働関係法令との関係についてです。
担保権者や貸し手が労組法上の使用者に該当する場合があることのほか、事業譲渡がなされた場合における労働協約の取扱い、労働条件の変更、労働契約法十六条との関係などについて、考え方を整理し、明文化した上で、関係者に周知徹底を図ることが必要と考えております。
その際、厚生労働省の事業譲渡等指針が参考になると思われますが、金融庁と厚生労働省との連携の下で、企業価値担保権の特殊性を踏まえた修正などを行っていただくこと、さらに、事業譲渡等指針の内容の更なる充実を図った上で、法令に格上げすることの具体的な検討にも着手いただくことを強く要望いたします。
二点目として、事業性融資推進本部の本部員について申し上げます。
今ほど申し上げたとおり、労働関係法令との関係は、今後の制度運用上も重要な課題であり続けます。本法案の中では、本部員として厚生労働大臣が条文上明記されておりません。必要な労働者保護がしっかりと図れるよう、厚生労働大臣も当初から継続して本部員に指定していくことが重要と考えます。
最後になりますが、企業価値担保権のように労働契約が担保目的となることは、誰もがこれまで全く経験していないことであり、そのことだけを取りましても、労働者の不安や懸念は大きいものがあると考えております。本法案の検討に当たりましては、労働者や労働組合が事業活動の重要なステークホルダーであることを踏まえて、そうした思いの部分を含めて、労働者保護の観点から慎重な審議を行っていただきますようお願い申し上げます。
以上で、私の意見陳述を終わります。御清聴いただきまして、ありがとうございました。(拍手)
村上陽子 の他の発言
2024-05-14 · 衆議院財務金融委員会
○村上参考人 ありがとうございます。
中小企業など、スタートアップ企業ですとかそういったところでの労働組合の組織率は極めて低いというのが現状ではございます。
そうした中です…
2024-05-14 · 衆議院財務金融委員会
○村上参考人 御質問いただきまして、ありがとうございます。
やはり心配な点としましては、恐らく伴走支援といったものがどのような内容なのかということかと思います。先ほど申し上げま…
2024-05-14 · 衆議院財務金融委員会
○村上参考人 御質問いただき、ありがとうございます。
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○村上参考人 ありがとうございます。
カーブアウト部分について、大き過ぎるとかえって弊害が出るというところは、御主張はそれはそれとしてあるかと思っておりますが、しかし、私どもと…
2024-05-14 · 衆議院財務金融委員会
○村上参考人 御質問ありがとうございます。
先ほど井上参考人から、陳述の中でもございましたけれども、企業価値担保権は総財産を目的とするというところからすると、労働契約だけ除くと…
2024-05-14 · 衆議院財務金融委員会
○村上参考人 御質問いただきまして、ありがとうございます。
企業価値をどのように測るかといったときに、やはり人的資本をどのようにして評価するのかということが大変重要だと思ってお…
2024-05-14 · 衆議院財務金融委員会
○村上参考人 ありがとうございます。
期中管理についても、また実行の場面についてもですけれども、債権者側、金融機関側が、伴走支援などという中身についても、きっちり、一定程度に規…
2024-05-14 · 衆議院財務金融委員会
○村上参考人 ありがとうございます。
先ほどの意見陳述でも述べたのですが、まず、設定時に関しましては、労使のコミュニケーションを促進するということであれば、義務づけはできないと…
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