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渡辺研司 ·名古屋工業大学大学院社会工学専攻教授・リスクマネジメントセンター防災安全部門長

衆議院農林水産委員会(2024-05-09)での発言

第213回国会 ·第第15号号 ·8,696字
○渡辺参考人 皆様、おはようございます。名古屋工業大学の渡辺と申します。よろしくお願いいたします。  私は、大学では教員かつリスクマネジメントセンターというところで事案対応をしておりまして、二十四時間待機携帯を持っておりますが、今、控室に置いてありますので、何となく心安らかにこの場に臨んでおります。  専門は、リスクマネジメントそれから事業継続マネジメント、いわゆるBCP、BCM、それから重要インフラ防護というようなところでございまして、人様の不幸を研究しておる中で、今回は食料安全保障というところで、私の担当は食料供給困難事態対策法案、これを議論するに当たりまして、中間報告が出たものを検討会で議論いたしました。そこの座長を務めたということでこの場にお呼びいただいているかと思います。  実際、研究職になる前はビジネスの世界におりまして、銀行員時代は米国に駐在しておりました。そこで起きましたシカゴの内水氾濫の対応であるとか、あるいはニューヨークのワールドトレードセンターの爆破事件の対応であるとか、それから、研究者になりましてからは、新潟県の中越地震、中越沖地震の新潟県の災対本部の支援、それから東日本大震災におきましては、岩手県の災対本部の支援をやりました。そういった知見から、今は、自治体あるいは企業のいわゆるセキュリティーのアドバイザーであったりとか、あとは訓練、演習の御支援をさせていただいたりしております。  そういう意味では、今日、法案の中でも食料供給困難事態対応法案について、私のそれに関する意見を述べさせていただく、このような機会をいただきましたことをまずは御礼申し上げます。  ふだん九十分単位でお話をしているものですから、十五分というのはなかなか厳しいものがありますけれども、なるべくポイントを押さえていきますと同時に、もし積み残しがありましたら質疑のところで対応させていただければと思います。  お手元、資料をめくっていただきまして、まず、「はじめに」というところでございます。二ページです。  これは、不測時における食料安全保障に関する検討会、昨年の八月から十二月、五か月の中で六回というかなり集中的な討議をさせていただきました。これは、基本法の検討部会から出ました中間取りまとめを踏まえて、具体的な制度の在り方について議論をするというものでした。メンバーは、農業協同組合、商社、研究機関、商学、法学等の有識者ですね、それから、関係省庁に加えて、ヒアリングの対象として、食品加工事業者、生産資材の事業者等が都度参加いただいたようなことでございます。  検討会で議論した、展開した主な論点は、過去の議事録、あるいは、もう既にその結果として法案にありますので、細かくは御説明いたしませんが、まず、国内外の我々の食料事情を取り巻く環境についての認識。  それから、現行体制、制度の限界についての認識。  それらを踏まえて、そもそも、食料安全保障の不測時というのはどういうことなのか、その事態についての定義です。平時から不測時に至るところの兆候であるだとか、それから、今回の困難事態の定義であるとか、さらに、最低限度の供給が不能になった事態、それは一体全体どういうことかということを議論いたしました。  その後、どのような品目が対象になるのか、特定食料、特定資材ですね、これは何に対して行うことなのかというようなことを議論いたしました。  そして、政府が立ち上げます対策本部、この設置はどのような形の基準で立ち上げるのか、そして、その役割は何かということを議論いたしました。  その後、何をするかということでございます。特定食料の供給不足、あるいは、おそれがある場合の諸対策、それは出荷、販売に関わるもの、それから輸入、生産、製造等に関わるもの、どのような諸対策があるのかということを議論いたしました。  そして最後に、このような措置に対して実効性を担保するためにどのような仕組みが必要か、具体的には、財政上のインセンティブであったりとか罰則についても議論をさせていただきました。  その後の法案の策定につきましては政府の方でおまとめいただきましたけれども、その議論あるいは策定に対して資するような論点あるいは知見が提供できたというふうに思っております。  次のページに参ります。三ページ目です。  そもそも、食料安全保障における安全とは何かというようなことでございます。これは法案そのものの話ではないですけれども、安全に対する概念が、多分、人によって違うと思いますので、ある程度、整理をしていただくための参考としてお話をさせていただきます。  大きな辞書とかあるいはISO、IECのような国際基準では、例えば、危険がなく安心なこととか、心配のないこととか、危険のないこと、あるいは損害がないことという、ないということをうたっておりますけれども、食料安全保障における安全というのは、危険がないことはあり得ない、つまり、一〇〇%安全な状況がない中においてどのように安全ということを考えるべきかというようなことであります。  二段目、点線の下にあります国際基本安全規格、ISO/IECガイド51、二〇一四年版に関しましては、ないとは言っているものの、許容できないリスクがないことと。つまり、いろいろなリスクに対して対応していくんですけれども、その残存リスク、残るリスクに対して、例えば、それに対して対応策が組めるのか、あるいは最終的にそのリスクがのみ込めるか。それがないとすると安全ではない状態であるということになります。  つまり、ある、ないというイチゼロの世界ではないという状態において、では、安全というのはどういうことなのかというのが、ちょっと下にごちゃごちゃと書いてありますけれども、一番下の四角で囲ってあるところですね。安全とは状態であると、つまり、刻々と変わる可能性があるということですね。それは、モードといいますけれども、安全から危険、それから危機というような形のものが、一方向ではなく、行ったり来たりするということでございます。  安全な状態というのはどういうことかといいますと、たまたまという言い方はあれですけれども、ダイナミック・ノンイベントという言い方があります。それは、水面上はきれいに、平穏に見えたとしても、その水面下でいろいろなもののリスクに対して対応しながら水面の平穏を保つというようなことであります。つまり、かなり能動的な対応が求められるという言葉であります。  このモードに関しましては、例えば、水に関しては、温度によって固体から液体になって気体になるという、これが行ったり来たりするわけですね。  要するに、今回、我々が議論した、あるいは、皆様方がこれから審議、審査いただく法案の中身の安全というものは非常に流動的に変化するものである。ですので、その変化する安全の状態、あるいは安全に関わる状態に対応するためには、その対応に関しても、非常に柔軟に備えていく必要がある、あるいは設計する必要があるということでございます。  この左側にありますカラフルな九象限のマトリックスですが、これは、いわゆる普通のリスクマトリックスです。いろいろなリスクがある中で、それをどのように評価するかというところで、縦軸がそれが起こったときのインパクト、横軸がそれがどれだけ起こりやすいかということであります。これは、過去、フリークエンシー、頻度という言葉が使われましたけれども、今は頻度という言葉は使いません。なぜならば、今起こっているような事象は、過去の延長線上にはない、つまり、十年に一度、百年に一度というようなことを言えるようなデータがないので、起こりやすさという形の言葉を使っております。  ただ、これは、例えば年に一回のリスクマネジメント会議でやるようなリスクの評価で使う表でございまして、これでは今回の文脈では不十分であります。  これを、右側の方に目を移していただきますと、縦軸はそのままなんですが、横軸が回避、制御の可能性、いわゆるコントローラビリティーという言葉を使っております。  これは実は、ある自動車会社、手前どもがあります名古屋ではないんですけれども、ほかの自動車会社のCEOが、あるとき、地震学者を呼んで、南海トラフはいつ起こるんだと。三十年間に八八%の確率である、いや、それは今日なのか三十年後なのかと聞いたときに、いや、だから、三十年以内にということで、つまり、企業のデシジョンとしては、それでは困るわけですね。彼は、学者たちを帰して何をしたかというと、もう当社は、コントローラビリティー、今それが起こったときに対応できるかできないか、イエス・オア・ノーで判断しようということでやりました。それを借りてきた軸なんです。  つまり、今回、モードをどういうふうに切るかといったときに、インパクトはそのままなんですが、それが国として対応できるかどうかというふうなところで切った場合に、これは今回、事態の深化について、平時と困難兆候があるとき、それから困難事態に陥ったとき、それからさらに、最低限度の確保が不能なときというふうに分かれていますけれども、例えばこんな形でモードを切ります。  そのモードが変換するときに、今回は、本部を立ち上げるというアクションがあります。それから、公示というアクションがあります。これで利害関係者が、今こういうモードなのでこういう指揮命令系統に立つのだということを、皆さんが共通の理解の下で対応するということになります。  それでは、次のページに参ります。  続きまして、では、その行動に対して、実施体制に求められるものは何かということでございます。危険、危機対応における情報共有と指揮命令、意思決定体制ということでございます。  今回は、ある企業の事例をお持ちしております。企業といいましても、重要インフラ事業者、つまり、電力とかガスとか通信とか、私が常日頃おつき合いしている企業の中でも、彼らのサービスが止まったり不具合が発生した場合には、国民の生活であるとか社会経済活動に大きく影響を及ぼすような企業の危機管理体制を、少しエッセンスを持ってきたものでございます。  上の段でございます。危機管理における情報共有、意思決定プロセス。非常に複雑な図なんですけれども、企業の場合には、経営のレベル、業務管理のレベル、それから現場のレベルがあります。それぞれリスク要因というものは検知されるわけですけれども、それをその場その場で見ていると、たまたまかな、あるいは、これは関係ないかなと思うんですが、そういったリスク群をエスカレーションといいますけれども、下から上げていって、経営層に近いところで分析をかけて、今、一体全体何が起ころうとしているのか、あるいは、既に何が起こっているのかということをつなげていく、こういった体制が重要になってまいります。  右側の四角に書いてございますけれども、早期の情報共有、それから意思決定、コミュニケーションにより、迅速な行動、つまりアクションにつなげるということが重要でございます。  特に、今回想定している事態というものは、例えば地震ですと、地震が起こりまして、そこから復旧カーブに入っていきますけれども、コロナ禍のように、どんどん打ち手によっても事態が変わっていく。いろいろなファクターが絡んでいますので、そのリスク要因が変わること、変化することを見逃すと、結局、対応が後手後手になると、リカバリーに時間がかかる、あるいはリカバリーできない状態になるということになりますので、早期の情報共有、意思決定、コミュニケーションにより、迅速な行動につなげることが求められております。  あとは、現場からいかに能動的に兆候とか状況のエスカレーション、つまり報告が上がってくるかということを促進するかということです。  ちょっとした報告をしたときに、それはちょっと、そんなの一々言わなくていいと言った瞬間に情報は上がってきませんので、いかに断片的な情報でも上げてくるような世界、今回ですと、農業者の皆さんであったりとか事業者の方からそういった兆候をいかに吸い上げられるかということもポイントになってこようかと思います。  ただし、完璧な情報というのはあり得ませんので、不完全な情報、例えば粒度であるとか確度において不完全であるものについては、インテリジェンス、つまり、先ほど申し上げた、断片的な情報をつなぎ止めていきながら、これは粒度も違います、確度も違います、一体全体、国にとって何が起ころうとしているのか、あるいは何が起こっているかということを推測するような力、これは多分、政府の本部の方でやる話だと思いますけれども、そういう人材の育成とかスキルも必要になってまいります。  その後、意思決定をした後に、利害関係者との適時のリスクコミュニケーション、つまり、一体全体、今何が起こっているのか、どういう状態なのかということを共有した後で、初動対応、復旧対応の効率化を利害関係者と協業しながら目指すということがあります。  あと、様々なシナリオを用いて訓練、演習を重ねることで実効性を担保することを、リスク管理あるいは危機管理にたけた企業は都度やっております。例えば、ストレステストで社長が半泣きになるような訓練も能動的にやられているところがございます。ですので、しゃんしゃんで、今日はいろいろやりました、いろいろ学びました、また次回もよろしくというような訓練だけでなくて、演習というのはエクササイズですので、いろいろな変化球を投げながら、それで耐えられないところはどこかという、できないことを発見するのが演習ですので、こういったことを常日頃やっていらっしゃるところがいわゆる危機管理にたけた組織であります。  下の段に参ります。  危機レベルに応じた対応体制ということなんですが、これまた三角なんですけれども、社長を筆頭にした全社危機管理対策本部、それから常務、専務、副社長、ちょっとちっちゃい三角、一番下が本部長ということなんですが、こういったその部分にたけた企業というのは、危機レベルを明確に提示をしております。  危機レベルに対してどの三角形を立ち上げるかということを明確にしておりますので、例えば、こういったことにたけていない企業というのは、本部長止まりで、例えばITのサイバー攻撃を受けた、大変だ大変だ、情報システムはぐちゃぐちゃになって、もう大変だ大変だ、常務を呼べということで、常務が筆頭の本部が立ち上がる、常務はここは手に負えないので、じゃ、社長だということでやって、記者会見、謝罪会見ということになるんですけれども。そうではなくて、あらかじめ決められたクライテリア、行動基準とか指標を決めた上で自動的に本部が立ち上がるということと、あとは、一番下にございます本部の設置をちゅうちょしないということであります。  今回の法案では、本部を立ち上げるところで兆候が見えた場合とかありますけれども、今後の実運用のところで、それはどういうことなのか、トリガーとなるようなインデックスは何かということは今後詰める必要があると思いますけれども、これを立ち上げることをちゅうちょしない。逆に言いますと、そのたけた企業というのは、どんと社長を筆頭とした本部を立ち上げて、状況を把握した後で、じゃ、これは何とか専務、いや、これは本部長でお願いしますということで、上から下に下げていく、また事態が進展して深刻化した場合にはそれがまた上がってくるという非常に柔軟な対応をされておりました。  ですので、こういったクライテリアや行動基準、あるいは指標を作るためには、いろいろな指標をモニタリングしながら、あらかじめ設定したトリガーポイント、これを超えた場合にはこういう行動に移すということを決めておくことが重要でございます。  最後、三番目でございます。  これはちょっと気が早いといいますか、フライングのようなことでありますけれども、今回御審議いただくに当たって、ちょっと先を見据えた形で考えていただきたいということで、お持ちしたスライドでございます。  法案成立は、当然ながらゴールではなく、社会実装の具体的な設計を行うためのスタート地点でございます。まずもって、兆候の早期検知に向けた現行の国内外のリスクモニタリング、検証体制、これは農水省の食料安全保障室の方でやられています。私も、その立ち上げの方で、いろいろなインデックスの開発であるとか、その原因とか中間実証とか結果実証の定義をしながら、今、多くの指標をモニタリングされています。  これは、年に一回取りまとめをして評価をして、アドバイザリー会議の方でそれを議論することがありますけれども、それはあくまで農水省の中だけの話なんですが、これから、この法案で示されています文脈では、今度は外部のデータを取らなきゃいけません。特定食料、特定資材に関する平時からのサプライチェーン、横断的な情報収集、モニタリングに関わるデータ、これは今、標準化されていないので、てんでばらばらであります。業界でもばらばら、あるいは特定の強い業者さんのデータの標準化、その様式が使われている。  あと、共有のルールですね。当然、こういった情報というのは、通常時におきましては競合情報ですので他者には開示をしません。どのような情報を、どのようなときに、どのような形でタグづけをしたりしながら共有するかというのは、例えばサイバーセキュリティーの世界では、そういうタグづけのアンバーとか色をつけながら、これは公開情報にもありますので、そういったほかの枠組みを参考にしながらルールを取り決める必要があります。  それから、実際に兆候が見られ、それから事態が進展して、あるいは最低限度の確保不能な場合になった場合に、実際にいろいろな物事を共有化して動かさなきゃいけないんですけれども、これもまた平時のロジスティクス、そのプロセスであったりとか資機材というものが、規格がまだばらばらな部分があります。  ですので、これを有事の際にこうしましょうということだけですと、有事では使えないケースがありますので、平常時からこういった標準化とか共有化を進めることが必要であります。これは、有事の際というよりも、それをやることによって平時の効率化とかコスト削減につながりますので、これは業界にとってもいい話ですので、是非先生方には、この法案の議論の後に、こういったことを業界にも働きかけていただければと思います。  これは防災の世界でも、ふだん使いをしながらやることを有事に使いましょう、災害時に使いましょうということで、フェーズレスとかふだん使いという言葉がありますけれども、是非こんなことも必要かなと思います。  だんだん時間になりましたので、急ぎます。  あと、忘れてはいけないのは、やはり市場原理を尊重するスタンスは崩してはいけないということです。ただ、本当の不測の事態というのは、市場原理が働かなくなることなので、そこで政府が関与していくわけなんですが、そのタイミングとか度合いに関しましては、利害関係者との丁寧な対話を続けるということと共通認識をつくるということと、それに伴って信頼関係を醸成するということが大事でございます。  あと、訓練、演習につきましては先ほどお話をしました。  あとは、最後、これはもっと先ですけれども、消費者の食文化に対する意識改革により、事態を事態にしないような、極小化をする働きかけですね。これは、今回の法案とは全くスコープ外になりますけれども、地産地消の推奨であるとか食に関する嗜好の柔軟性、つまり、お金を払えば何でも好きなものが食べられるようなことではなくて、今あるものを楽しむようなこと、こんなことを文化的に働きかけることも、ちょっと今回の議論の外ですけれども、必要かと思います。  では、本当の最後です。食品、農業分野というのは、我が国の重要インフラの定義とか、あるいは特定社会基盤事業、これは経済安全保障の方の分野ですけれども、位置づけられておりません。一方、アメリカに目を向けますと、防護対象の十六の重要インフラの中には、フード・アンド・アグリカルチャー・セクターが含まれております。つまり、その下に書いてございますように、米国と日本は全く違う。状況も違うし、ミッションも違うし、法律も違いますので一概には比較できませんが、それが止まったときに、国民の生活とかあるいは社会経済活動に大きく影響を及ぼすことであれば、それは、民業の限界をちゃんと政府がセーフティーネットを使いながら国全体で守っていくということの定義でありますので、是非こんなことも、近い将来というか遠くはない将来、考えていただければなと思います。  以上で私からの意見は終わらせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)

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