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北村晴男 ·民間法制審議会家族法制部会部会長/弁護士

衆議院法務委員会(2024-04-03)での発言

第213回国会 ·第第7号号 ·5,860字
○北村参考人 まず、このような機会を与えていただき、ありがとうございます。  今回の法案につきましては、新聞等で原則共同親権になどと見出しを打っているものがありますが、この見出しは誤りでございます。共同親権も選択可能にというのが正解です。  この法案は、海外に向けて、我が国も共同親権にしましたよというアピールができるという意味では意味があるのかもしれませんが、原則共同親権とはほど遠い内容であり、その実態は骨抜き共同親権、まやかし共同親権でございます。  では、まず最初に、大事なことですので、なぜ私が原則共同親権にすべきと申し上げるのか、この理由を御説明します。  説明の便宜上、大部分の子供や親に当てはまる理由や事情についてお話しします。立法行為というのは、最大公約数にまず寄り添って、そして例外的なものを十分救済する、これが当たり前のことですので、これを先に申し上げます。  これまで我が国が採用してきた離婚後単独親権という制度は、子供も親も不幸のどん底に突き落とすとんでもない悪法でございます。  子供たち、子供は、親が離婚するとそれだけで大きな悲しみを味わいます。のみならず、単独親権の下では、親が離婚すると自動的に大好きな親を一人失います。そして、それに連なる祖父母、親戚も全て失います。  子供にとって、双方の親から、双方の祖父母から、双方の親戚から愛情を持って育てられ、見守られ、重層的に見守られながら成長すること、これが極めて重要である。そもそも、そういう生活を子供は望んでいます。子供は、パパにもママにも、父ちゃんにも母ちゃんにも、しょっちゅう会いたいんです。  離婚後単独親権は、こうした当たり前の幸せを奪う、とんでもない悪法です。  子供は無力であり、両親の離婚を止めることはできません。だから、両親と一緒に住むことはできないけれども、せめて日常的に二人の親とそれぞれ一緒に生活する時間を十分に取ってあげなければいけない、これが社会の義務であり、国の義務でございます。  これまでのように、例えば、母親と一緒に暮らす子供が、父親とは一月に一回、監視付面会交流施設でしか会えないなどというのは、子供や父親の人間性を無視した間違った制度です。離婚後単独親権という制度は、子の幸せと成長の機会を同時に奪うとんでもない悪法なのでございます。  加えて、例えば、親権を獲得した母親は、自分が嫌いになった元夫に我が子を会わせたくないと考える、そういうケースが多いです。そのため、父親と会ってきた我が子が楽しそうに父親について語ると、顔を曇らせ、不機嫌になります。子は母親の感情を敏感に感じ取り、父親の話をしなくなるばかりか、間もなく、大好きだった父親に会いたくないと言い出し、父親を嫌悪し、激しい誹謗中傷を繰り返すようになる、これが片親疎外症候群です。一緒に暮らす母親の愛情を失わないための子供の生存戦略であります。気の毒としか言いようがありません。こうした中での子供にかかるストレスや子供に及ぼす悪影響は計り知れないものがあります。  では、親にとってはどうでしょうか。単独親権制度では、離婚すると必ず一方の親は愛する子を失い、それに連なる祖父母、親戚は孫と二度と会えなくなります。これによる悲劇は全国各地で起きており、子供に会えない絶望から自殺される事例も少なくありません。弁護士をしていれば、子に会えない親、孫に会えない祖父母の嘆き悲しむ姿に心を痛めたことのない人は少ないでしょう。  そのために、必然的に親権争いは苛烈になり、父親、母親はそれぞれ本来全く必要のないはずの多額の弁護士費用を払うことになり、もうかるのは弁護士だけというとんでもない事態を生んでいます。  不心得な弁護士は、どこの夫婦にでもある取るに足らない程度の夫婦げんかでさえ、DVがあったと主張し、DV主張合戦に発展することも多い。それが親権獲得のための法的テクニックであるとか、あるいは、虚偽DV訴訟と言われて社会問題化しており、我々弁護士が認識するだけでなく、裁判官も異例の指摘をするに至っています。  資料一を御覧ください。このような事態は、現に世の中に存在する救済可能な深刻なDVを埋もれさせてしまう、そういうおそれすらあるのです。つまり、子にとっても親にとっても人間性に反するとんでもない悪法が離婚後単独親権、そういう制度です。  これに対し、離婚後も、父親と子供、母親と子供、それぞれの交流を十分に行うことができる離婚後共同親権制度は人間として当たり前の制度であり、先進欧米諸国では、早くから単独親権の非人間性に気づき、共同親権制度に移行して三十年、四十年の実績を積み重ねています。海外の映画やテレビドラマを見れば、父親、母親、子供、双方の祖父母、父親や母親の再婚相手などが当然の制度として受け入れ、社会に浸透していることが分かります。  日本で一部主張されているような、共同親権になれば元配偶者による暴力が防げないであるとか、子の虐待につながるなどという実態はありません。この主張は、日本人だけが、共同親権の下では元配偶者による暴力を防ぐ制度設計ができない無能な者であるというふうに言っているのに等しいものです。  他方、日本では、両親の離婚後に母親の恋人や再婚相手から子供が虐待され、死亡にまで至るという悲惨な事件が後を絶ちません。心に問題を抱えた母親が単独親権者となり、子供に手をかけてしまった事例もあります。  資料二を御覧ください。これらの事件は、共同親権制度の下で、父親による日常的な見守りがあれば、早い段階で子に対する虐待の痕跡などを発見することができ、これらを防ぐことができた可能性は十分にあるのです。そのところをよくお考えいただきたい。  では、原則共同親権とすべきとの立場から、この法案がいかに骨抜き法案なのか、まやかし法案なのかについて御説明します。  そもそも、政府が共同親権の検討を法制審議会に促したのは、国際結婚での子の連れ去り問題で、日本が国際社会から子供の拉致国家という不名誉極まりない非難を繰り返し受けたこと、これが原因です。これが契機です。  国際結婚で海外に居住していても、長年にわたる悪法、離婚後単独親権に慣れ切った日本人の妻は、夫と別れたいと考えると、全く罪の意識なく突然子供を連れて帰国し、居住国の司法当局から拉致誘拐犯として逮捕状を発行され、国際指名手配を受けることになります。これは、日本人の妻が悪いのではありません。長年の悪法によって国民を洗脳し続けた法律の問題です。法律が悪いんです。  日本はハーグ条約加盟国ですから、こういった場合に直ちに子供を元の居住国に返せば何の問題もない。しかし、日本はハーグ条約の国内実施法に巧妙かつ不合理な抜け穴を用意し、子供を返さない。その抜け穴とは何かというと、子供を連れ去った者が連れ去られた者から暴力などを受けるおそれがある場合、この場合には子供を返さなくてもいいという返還拒否事由です。  この規定を潜り込ませたために、日本の裁判所がこのおそれを簡単に認めてしまうために、子を返さないのです。子供を返さない。これはハーグ条約にはない条項です。ハーグ条約では、DVとの関係では、子供が虐待を受ける重大な危険がある場合しか返還を拒めないんです。これは当たり前なんです。  なお、この抜け穴条項の「暴力等」には、子供に心理的外傷を与えるような暴力等というもっともらしい限定が付されていますが、この限定は日本の裁判官には判断不能なんです。だから結局、このおそれは裁判所が簡単に認めてしまって、機能しませんでした。そのため、拉致された子供を返そうとしない日本は、子供の拉致国家という極めて不名誉な非難を浴びることになったのです。  連れ去った者に対する暴力のおそれがある場合、そういう場合には、警察の助力を得るとか、親族などの第三者が元の居住国に子を連れていくとか、連れ去られた側に日本に迎えに来てもらうなど、工夫次第でいかようにも対処可能であるにもかかわらず、返還拒否事由に強引に入れてしまっています。不合理極まりない。これは、女性を暴力から守るという誰もが認める大義名分を必要以上に、過度に強調することによって本来の立法目的をゆがめてしまった例です。  そして、このハーグ条約骨抜き条項と全く同じ条項がこの法案にも盛り込まれています。それは何かというと、この法案によれば、例えば、母親が自分だけを親権者にしてほしいと主張、父親が共同親権にしてほしいと主張した場合、こういうケース、裁判所がこれをどちらか決めるわけですけれども、その判断基準の中に、父母の一方が他の一方から暴力などを受けるおそれがあれば単独親権とせよという規定があるんです。  もっとも、その場合に、共同親権とすると子の利益を害すると認められるときという限定条項はついてはいますが、裁判所にはこれも判断不能です。これは、ハーグ条約骨抜き条項と全く同様で、歯止めには一〇〇%なりません。これは、単独親権誘導条項ともいうべきものです。  母親が父親から暴力を受けるおそれがあれば、子供の受渡しは親戚などの第三者に任せるとか、第三者機関に委ねるとか、場合によっては警察の助力を得る、弁護士の助力を得るなど、工夫次第でいかようにも防ぐことが可能です。にもかかわらず、女性を暴力から守るという大義名分を過度に、不必要に強調した結果、この共同親権が骨抜きになっているんです。  ハーグ条約では、そもそも、ハーグ条約加盟絶対反対という活動家の方々がおられ、その方々の強力な工作によって、意図的に国内実施法に抜け穴が作られましたが、この法案の場合も、共同親権絶対反対という活動家の方々、その方々の強力な工作によって、この骨抜き条項、単独親権誘導条項が設けられています。  そして、この単独親権誘導条項を含めた法案全体にはびこっているのは、あるとんでもない認識です。これは誤った認識です。それは、共同親権制度はそもそも仲のいい元夫婦同士でしか機能しないんだ、高葛藤のすごく仲の悪い元夫婦間では単独親権がいいんだ、この誤った認識が原則共同親権の実現を阻んでいます。  しかし、かなり仲の悪かった夫婦でも、知恵と工夫次第で円滑に共同親権を行使できる制度を設計することが可能です。そして、それこそが、これまで親の離婚によって取り残されてきた子供の福祉にかなうのです。欧米によい模範となる国が数々あるのですから、制度設計は実に簡単です。  我々民間法制審議会は、欧米の専門家も委員に迎えて、次のような共同親権の制度設計を行い、改正条文案も作成しました。  一、未成年の子供がいる夫婦における離婚の届出に当たっては、共同監護計画の提出を義務づける。その際、子供の進学先などで両親の意見が異なる場合の決定方法をあらかじめ決めておく。  二、未成年の子供がいる夫婦の離婚に当たっては、両親に、離婚による子供の心身に対する影響や子供を傷つけないために注意すべき言動などについて学ぶガイダンスの受講を義務づける。  三、共同監護計画の作成やその変更などについて両親の協議が調わない場合に気軽に利用できるADRを整備する。裁判所に一々頼る必要は全くありません。  四、子供を傷つけるおそれのある親と子の交流については、監視付面会交流施設の利用を促す。  五、元配偶者に対する暴力などのおそれがあると懸念される場合には、共同監護に必要な子の受渡しに当たって、第三者機関を利用し、場合によっては警察の助力を得る。  共同監護計画の義務づけに関しましては、共同親権制度を中身あるものにするために極めて重要であると我々は認識しています。共同監護計画というのは、離婚する夫婦が行う子の養育に関する取決めのことです。養育費も当然含まれています。私たち民間法制審議会は、離婚の際に共同監護計画を作成し、これを離婚届に添付すること、これを義務づける制度を提案しました。  共同監護計画の作成は他の先進諸外国では当たり前の制度ですが、我が国ではこれまで存在しないどころか、議論さえほとんどされていません。残念ながら、今国会では、我々の案は議論の俎上にさえ上がっていませんけれども、共同監護計画作成の義務づけこそが、真に子供の利益を第一に置いた共同親権制度の肝なのです。  考えてみてください。我が国においては、協議離婚は、夫婦が署名、押印さえすれば、紙切れ一枚で簡単にできます。裁判所も含めて誰もが、離婚の際に一番重要なのは子供の福祉だと口にします。にもかかわらず、離婚の九〇%を占める協議離婚において、子供のことについては何にも決めなくても紙切れ一枚で離婚できてしまう、こんな矛盾、理不尽はありません。  今法案で、この共同監護計画作成に関する条項が一切盛り込まれなかったことは、我々民間法制審議会だけでなく、広くこの問題に関心を寄せてこられた国民にとって痛恨の極みです。願わくば、この法案が成立し施行されたその実施状況に鑑み、早い時期に、改めて、この共同監護計画の義務づけ導入について議論していただきたいと強く希望しています。  ちなみに、我々民間法制審議会の案では、例外的に単独親権にする必要がある場合、ハーグ条約では、子が虐待を受ける重大な危険がある場合に該当するんですが、その場合に、現行に規定されている、しかし現在ほとんど死文化している親権喪失又は親権停止の規定を積極的に活用することで対応するべきだと考えています。親権喪失や親権停止に該当する事由もなく、ただ離婚しただけで親権が奪われる現行制度の制度としての大変なバランスの悪さ、これも是正していただきたいというふうに考えています。  いずれにしても、最初に申し上げた、原則共同親権こそが、子の幸せのために、親や祖父母が人間らしく生きるために取り得る唯一の制度であるということを御理解ください。そして、離婚によって親子のきずなまで断ち切るという愚かな行為をもうやめ、本当の意味で子の幸せを一番に据えた民法改正をお願いしたいと思います。  ありがとうございました。(拍手)

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