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井上聡 ·長島・大野・常松法律事務所/弁護士

参議院財政金融委員会(2024-05-30)での発言

第213回国会 ·第第15号号 ·6,322字
○参考人(井上聡君) 皆さん、こんにちは。本日は、貴重な機会をいただきまして、誠にありがとうございます。  実は、先日も、企業価値担保について衆議院の財務金融委員会で参考人として議員の先生方の前でお話し申し上げる機会がございました。大変光栄なことではありましたけれども、正直なところ、緊張の余り訳が分からないうちに終わってしまったという印象でございます。ですので、せっかく機会をいただきましたから、本日は少し落ち着いてお話をしたいと思っております。よろしくお願いいたします。  それでは、早速私の意見を申し述べます。  まず、現状の課題についてです。配付いただいている資料の三ページを御覧ください。  資金を借りようとする成長企業から見ますと、業容の拡大中は売上げよりも先に支出が増加しますので、資金需要は大きいと言えます。しかし、安定した換価価値を見込める不動産を持っていない場合、こういう場合は資金需要に見合った融資を受けられないという課題がございます。  これに対して、こういった成長企業に貸そうとする金融機関側からしますと、成長企業は業容拡大中ですので、将来の収益性には期待できます。しかし、事業の将来キャッシュフローを見込んで無担保で貸すというにはリスクが大きいと感じるところです。  次に、四ページ、成長企業と違って成熟した企業についてです。  日本にはオーナー経営者が高齢化した中小企業はたくさんあります。そうした企業は成熟企業ですので、事業収益は安定しています。しかし、家族が誰も経営を継がないというような場合、番頭さん役を務めるような従業員出身の役員に新経営者になってもらいたいというわけです。しかし、オーナーでない役員に経営者保証を入れてもらうのは難しいということがあって、何とかして経営者保証なしで融資を継続してほしいという事情があります。  これに対して、成熟した中小企業に貸している金融機関側からしますと、事業収益が安定しているとしても、オーナー経営者から非オーナーへの経営の引継ぎというのは、これはビッグイベントです。貸し手としては、そのようなビッグイベントに当たり、新たな担保を取らず経営者保証も外して融資を継続するということは不安が残るということになります。  次、五ページです。  これは、中小企業融資とは異なり、大規模なプロジェクトファイナンスあるいはLBO、すなわち企業買収ファイナンスの調達側からの課題です。  この手の大規模ファイナンスは、現在においても、個別資産の担保を積み上げて、もうほぼ全資産を担保として行われております。ただ、個別資産担保の積み上げ方式による全資産担保というのは、一つ一つ契約を締結して対抗要件を備えるという必要があって、手間と費用が掛かり、その負担の多くは債務者に帰せられるという問題があります。  他方で、プロジェクトファイナンス、LBOファイナンスの金融機関側からしますと、この分野では、実務上、担保を実行する事態にはまずならないと言えますけれども、万が一のときに実行できるからこそ交渉力を確保できるという面があります。  しかし、通常、個別資産価値の総和よりも事業価値、のれんなどを含む事業価値の方が大きい、生きている企業であれば普通はそうですから、個別資産担保をばらばらに実行しても事業価値全体を実現できるかというと疑問があります。その結果、万一債務者に法的倒産手続が始まるようなことになってしまうと、期待どおりの担保価値評価を得られないおそれがあるという問題があります。  こういった問題、課題に関して、六ページにありますように、比較的古くから事業価値に着目した担保制度について検討がなされてきました。早いところでは二〇〇〇年代初頭に金融法学会や経産省の研究会などで検討がなされまして、ここの①や②にありますように、その成果が公表されております。  ただ、その後、債権法改正という大きなイベントがあって、そちらに法改正のエネルギーがややシフトしたということもありまして検討がスローダウンして、その後、少し間を空けて二〇一八年、一九年くらいから再び活発に議論がなされるようになり、ここにありますように、③以下、中小企業庁、金融庁、法制審、金融審といったところで事業価値に着目した担保制度の検討がなされておりまして、ここに示されたような形で検討結果が公表されています。  私はこの④から⑦のそれぞれの委員あるいはメンバーとして議論に参加してまいりました。この⑦の金融審議会のワーキンググループ、あるいは⑥の法制審議会の部会などでの検討結果を受けて今回法案として提出されたのが企業価値担保だと理解しております。  それでは次に、その企業価値担保の利用価値ないし意義について四点申し上げたいと思います。  一点目、八ページにありますように、まず何を担保に取っているのかということですけれども、これは総財産、それも将来財産、将来取得する財産も含むということで、非常に包括的な担保ということになります。  その一方で、債務者に広い処分権限が認められていますので、通常の事業過程で処分されたり消費されたりしたものがどんどん担保からは外れていくことになります。それに加えて、この法案では、事業全体をまとめて換価処分すると、そういう実行手続が用意されています。  これらの結果、担保権者は全財産といっても事業活動の中で次々と入れ替わっていくものをつかまえているということになりまして、そうすると、個別資産価値の総和ではなくて、先ほど申し上げたように、それよりも大きな、のれんを含む債務者の企業価値を把握すると、そういう制度設計になっています。  したがいまして、債務者の企業価値を守るということが担保権者がつかまえているものを守る、すなわち担保権者の利益になるということになるわけですけれども、それと同時に、企業価値を守るということが債務者の事業の継続に役に立つと、それとともに労働者の雇用の維持にも資するということになり、また取引相手である取引債権者を守るということになるわけでして、ここにこの担保の最大の眼目があると理解しております。すなわち、利害関係人の間でウィン・ウィンの関係をつくるということになろうかと思います。  二点目、この担保は担保権者に包括的な優先権を与えるものです。ただ、それには二つの大きな穴が空いています。  一つ目の穴、企業価値担保の実行が開始されても、共益費用とか労働債権とかいったものは企業価値担保に優先して順次支払われていくということになっています。また、裁判所の許可を得て商取引債権が取引相手に支払われるということになります。  なぜ担保権者を差しおいてこれらの無担保債権者の方々に支払がなされるのか。それは、その支払によって企業価値が維持され、企業価値担保権者にもプラスになるからです。すなわち、この一つ目の穴が先ほど申し上げたウィン・ウィンの関係をつくるための非常に重要な穴でございまして、包括的な担保に大きな一つの穴を空けているということになります。  二つ目の穴、これは、企業価値担保の実行による事業譲渡代金のうち、全額が貸し手に支払われるのではなくて、一定額が債務者の清算手続又は破産手続を通じて残存する無担保債権者に支払われるという仕組みになっています。  ただ、この二つ目の穴というのは、企業価値担保を実行して労働者や取引関係を含めて事業を譲渡先に譲渡した後に、その代金として言わば空っぽになった債務者が受け取ったお金をどう分けるかという話になりますので、この穴は企業価値を維持することに役立つというわけではなくて、むしろ担保権者と無担保債権者との取り合いの問題、すなわちゼロサムの穴ということになります。ですので、この二つ目の穴を大きくしますと、無担保権の価値が減じられてしまいまして、言わば当初に貸せる額が減ってしまうということにつながります。  ですので、私自身は、利害関係者の利害の調整のためには一つ目の穴を有効に活用するということが重要であって、二つ目の穴を大きくしないことがむしろ必要ではないかというふうに考えております。  三点目、九ページになります。対抗要件の具備については、債務者の商業登記簿への登記だけで足りるという、非常に簡便かつ廉価な制度が用意されておりまして、不動産登記や特許登録などは要らないことになっています。  私個人の意見としては、この債務者が所有する不動産の不動産登記簿や債務者が保有する特許の特許権登録簿などを閲覧した人にも、この権利者が企業価値担保を設定している会社だということが分かるように、その権利者欄に、債務者が企業価値担保設定済会社だよということを示すような何か、アスタリスクとか米印とかですね、そういったフラッグを商業登記に連動させて自動的に立てられないかなということは考えております。これは今回法案の中に入っておりませんけれども、デジタル立国などと言われているわけですから、今後の課題として是非御検討いただければと思います。  四点目、債務者の経営権の確保です。企業価値担保は包括的な担保ではありますけれども、担保設定後も、債務者の通常の事業運営には制約がありません。その点で、事業者の経営の自由が通常の事業の範囲であれば確保されています。  次に、経営者保証が原則禁止されますので、事業者が金融機関に首根っこを押さえられるという事態をある程度回避できるような仕組みが導入されています。  また、企業価値担保を設定したのに思ったほど金融機関がお金を貸してくれないというようなときには、債務者には極度額設定請求権あるいは元本確定請求権が与えられていますので、他の金融機関と交渉して後順位担保を設定して追加のお金を借りたり、あるいは借換えをして今の借入金を返済して取引先金融機関を変更するというようなことがやりやすくなっております。  以上の仕組み、特徴を踏まえまして、最後に、企業価値担保について、よくある疑問として七点申し述べたいと思います。十一ページになります。  一点目、包括的な担保によって労働者の権利が害されるのではないかという点については、もう申し上げましたけれども、もう雇用契約上の雇用主の地位も担保の対象になる方が、労働者が事業から切り離されずに済むために、雇用がむしろ守られやすいのではないかと考えております。  二点目、担保権者が債務者企業の価値を根こそぎ把握してしまい、労働者、取引相手、その他の一般債権者の利益が害されるのではないかという点については、これも申し上げましたとおり、全資産が確かに対象になっているわけですけれども、優先性に穴を空ければよいのではないか。まあ二つ穴が空いているわけですが、先ほど申し上げたように一つ目の穴が重要だと考えております。  三点目、広範かつ強大な担保であって、担保権者が債務者に対して圧倒的な地位に立つことによって、債務者、事業者ですね、の経営権が害されるのではないかという点については、これ、確かに広範な担保です。しかし、だから強大とは限らない。すなわち、申し上げましたとおり、債務者には通常の事業運営権限がそのまま残りますし、元本確定請求権あるいは極度額設定請求権といった対抗手段がありますので、経営者保証が原則禁止されて首根っこを押さえられにくいということとも相まって、一定の配慮、措置がなされているというふうには言えると思います。  四点目、これでニューマネーが出るのかと。実際この担保を導入すると融資が変わるのかという点については、必ずしも私が正しく予想できるわけではないかもしれませんが、取引銀行がニューマネーを出してくれなければ、先ほど申し上げたように、ほかの貸し手に乗り換えるというための対抗手段というのがあります。  あとは、担保制度の外の問題ではございますけれども、金融機関の間に適正、公正な競争環境が整っていれば、これは担保制度の外の問題ですが、先ほど申し上げたようなリファイナンスのための機会、あるいは後順位担保権者の参入といったことを促進することによって問題を回避できるということがあり得るのではないかと考えております。  次、五点目になります。十二ページを御覧ください。不動産と異なって企業価値の評価が難しいので使い勝手が悪いのではないかという疑問、これについては、確かに不動産に比べれば企業評価というのは難しいと思います。  しかし、今問題にしているのは、不動産が抵当権に入っていないまま真っ更で残っていて、それを担保に入れてお金がじゃんじゃん借りられるという企業の話ではなくて、そういった不動産を持っていない成長企業あるいは成熟企業といったところにどうお金を回していくのかということですので、そういう企業に対してその返済能力を評価して担保を取らずに無担保で貸すという場合はもっと難しい企業評価が必要になるわけですし、仮に無担保で貸したら、企業評価を一生懸命やったとしても、その後のほかの債権者と案分で弁済を受けなければいけないということで、力を、手を掛けた分だけの見返りが得られない融資になってしまうのに比べますと、難しいとはいっても、無担保のときに企業評価をするのと同じように企業評価をして、あるいはMアンドAのときに企業評価をしているのと同じように企業評価をした上でその評価に見合った融資をして、その手を掛けた分だけほかの貸し手を排除して、ほかの金融機関よりも優先的に自分が回収を確保するというリターンが得られれば、なお担保として機能する可能性があるのではないかというふうに考えております。  六点目、債務者の破綻時にはその企業価値が失われて担保として機能しないのではないかという疑問です。これについては、破綻時の債務者は企業価値がゼロになったということではなくて、百残っているけれども借入金が百五十あるという状態だと考えております。だとすれば、この借入金百五十を切り離して、この百の価値のある事業を生かしたまま百で売却して、その代金百を百五十の債権者で案分するのではなくて、この企業価値担保権者が優先して百を取れるということになれば、担保として十分機能するのではないかというふうに思います。  最後、七点目になります。企業価値担保の実行管財人は担保権者の利益のみを考慮するのではないかという心配、この点については、実行管財人は、今回の法案によれば、全ての利害関係人に対して善管注意義務を負うということになっておりまして、実際にも恐らく倒産実務を現在担っているような弁護士がこの実行管財人として企業価値担保の実行を担うのだろうということが予想されます。  そうだとしますと、ほかの担保、特にその譲渡担保などの私的実行が許されている現在の担保との比較で、あるいは抵当権などよく使われている担保の比較でいえば、むしろこの担保の実行プロセスにおいては、債権者あるいは担保権者の思うどおりにはならずに、適正な実行が裁判所の管理の下に管財人という第三者的な立場を持つ人によって実行されるという可能性がむしろ高いのではないかというふうにも思われます。  私の意見は以上です。御清聴どうもありがとうございました。

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