○参考人(権丈英子君) 亜細亜大学の権丈と申します。
労働経済学、社会保障論を専攻しております。
昨年末にこども家庭庁で開催されました支援金制度等の具体的設計に関する大臣懇話会のメンバーでしたので、そこで述べさせていただいたことなどを中心にお話しいたします。
資料は、話の概要を最初の二ページにまとめ、関連した図表などを横書きのものに載せてございます。
今回、子ども・子育て支援のための新しい再分配制度を創設するということは、とても望ましいと考えております。
社会保障の機能の一つに、賃金という分配システムでは対応するのが難しい収入の途絶と支出の膨張に備える生活安定化機能があります。子育て期は長い人生の中で支出が膨張する時期に当たります。
全体の三ページ目、図表資料の一ページには、再分配政策としての社会保障の機能を簡単に示しております。再分配政策というのは、応能負担で財源を徴収し、今必要な人に集中的に給付を行う政策です。
図表資料の二ページには、男女雇用機会均等法や両立支援の取組が進んできたことを均等法後の各世代、出生コーホートにより三つに分けて示しております。
そして、図表資料三ページには、均等法前の世代とこの三つの世代の一部を抜粋した形で、女性の就業率が大幅に上昇してきたことを示しております。
こうした変化の中で若い世代の意識が変わってきております。四ページには、出生動向基本調査により、十八から三十四歳の未婚者に対して女性の理想のライフコースを尋ねたものです。
かつては専業主婦コース、そして、長い間、再就業コースを選ぶ人たちが最も多かったのですが、直近二〇二一年の調査では、男女共に結婚、出産後も仕事を続けるという両立コースが初めて最多となりました。また、DINKSや非婚就業コースを理想とする女性も従来は合計一割程度でしたが、二〇二一年にはほぼ二割となり、若い人たちの意識に大きな変化が起こっているように見えます。
出産、育児期はキャリア形成に重要な時期に重なります。この時期に女性が相当期間労働市場から離れてしまうと、その影響は長く続きます。女性の教育水準が高まり、制度、政策が充実する中で、彼女たちが勤労期に得ることができる賃金も徐々に高くなり、言わばワークの価値が高まっていると言えるのですが、一旦離職すると同等の仕事への復帰は容易ではなく、継続就業しない場合の機会費用は大きくなっています。
ワークとライフの価値を比べると、相対的に、結婚し、子供を産み育てるというライフの価値が落ちており、未婚化、少子化が加速してしまうという現象が生じていると見ることができます。そうした中で、子育て世帯、子育て世代を対象にして、収入の途絶や支出の膨張に対応する形で子育ての直接、間接のコストを軽減する公的な制度を準備することは、本当はかなり前から日本社会にとって不可欠だったと考えております。
若い人たちに制度の持続的な存在を将来にわたって信頼してもらうためには、安定した財源を確保した仕組みを創設することが重要となります。財源調達では全世代の人たちに薄く広く協力してもらい、給付は子育て世代に集中して手厚く行うようにすれば、彼らの給付から負担を引いた純便益は大きなプラスになります。
経済学では、個人や家計が子供を持つことの意思決定について、一人、あるいは二人目以降であればもう一人子供を持つことの限界便益と限界費用を比較考量すると考えます。子供という人間を財、物に例えるようで大変不謹慎に聞こえるところもあり恐縮なのですが、分析ツールとして単純化することができ分かりやすいというメリットがありますので、この枠組みで説明させていただきます。
子供を持つことの便益には、将来の労働力や老後の生活保障などの投資的側面と子供がかわいいという消費的側面とに分けて考えたりします。現代社会では子供の投資的側面というのは非常に小さくなっていると考えられます。他方、子供を持つことの費用には、教育費等も含めた直接費用や、先ほどお話しした出産、育児で仕事ができないといった機会費用が含まれます。便益に比べて費用が大きくなっており、結果として子供の数は減少していると考えることができます。
歴史的に見ますと、スウェーデンの普遍主義的な福祉国家の基礎をつくったとされるミュルダール夫妻も、一九三〇年代に、高齢期に必要となる生活費を社会化していくと、家族が合理的に行動した場合の親の個人的利益と国民の集団的利益の間にコンフリクトが生じると考えました。そして、貧困対策としてではなく、ファミリーポリシー、少子化の予防策として全ての子供や子育て世帯を対象とする普遍的福祉政策を唱え、その考えをスウェーデンは受け入れてきました。
高齢期向けの社会保険が充実していきますと、老後の生活保障を子供に期待するという投資的側面が小さくなりますので、どうしても少子化が進みます。つまり、高齢期向けの年金や医療、介護保険などの存在が少子化の原因となっていると考えることができます。
そのことも考えますと、そうした社会保険が自らの制度の持続可能性を高めるためにも、子ども・子育て支援の財源調達に協力するという考え方もできますし、社会保障という所得再分配の考え方としても整合性を持っております。
昨年、出産育児一時金の財源に後期高齢者も協力する仕組みがつくられたわけですが、こうした世代間の助け合いという明示的なお金の流れをつくることは、世代間の分断を緩和して、国民みんなの間での連帯意識を醸成していくことに貢献するメッセージ性を持っております。今回創設される支援金は、連帯、助け合いの理念をより前面に出したものですので、この制度の存在そのものが連帯意識の涵養に寄与するようになると思います。
給付と財源調達の在り方の関係性は、先ほどお話ししましたように、少子化の原因ともなる高齢期向けの社会保険、そして急速な少子化、人口減少に歯止めを掛けることは、社会保険制度の持続可能性を高めますので、その存立基盤に重要な受益となる社会保険が事務手続を始めとして子ども・子育て支援策に協力するというのは、納得できる話かと思われます。
社会保険制度の中から支援金が活用する賦課徴収ルートとして医療保険制度が選ばれる理由は、懇話会で取りまとめられたように、全ての世代が加入しており、他の社会保険制度に比べて賦課対象が広く、支援金制度と同様、全ての世代による分かち合い、連帯の仕組みであるからと言えます。つまり、今この国で展開されている最上位の社会保障の改革理念である全世代型社会保障の実現として医療保険制度の賦課徴収ルートが代表に選ばれただけであって、その賦課ベースから医療保険料を徴収するわけでもないので、医療保険料を子育てに回すというようなものではないと理解しております。
支援金の充当先として、児童手当の所得制限の撤廃や、これまで支援が手薄だった妊娠・出産期からゼロ―二歳からの支援策にまずは充当するというのは妥当だと考えております。
昨年十二月のこども未来戦略に書かれているように、若い世代の誰もが、結婚や子供を産み育てたいとの希望がかなえられるよう、将来に明るい希望を持てる社会をつくらない限り、少子化のトレンドの反転はかなわないというのは、そのとおりだと思います。今回は、将来に明るい希望を持てる社会づくりに歩みを進めたものでありますが、これで十分というものではないとも見ております。
それから、実はいつも気になっており、支援金懇話会でも話したことを述べさせていただければと思います。
子ども・子育て支援の充実、そして支援金制度の必要性を言う際に、どうしてもマクロ的側面、つまり、少子化、人口減少に歯止めを掛けて、将来の労働力の維持確保や、加えて購買力の維持確保も含めてもよいと思いますけれども、そうした経済効果を中心として政策のメリットを強調する傾向にあります。財源調達の必要性への合意形成を考えるとそうならざるを得ないと思いますが、その一方で、そうしたマクロ的側面、特に子供の数を増やすという面が強調され過ぎると、若い人たちにとっては反発する気持ちさえ起こるようにも思われ、そういった危惧もいたしております。
お話を先取りさせていただいて大変恐縮ですが、恐らく池本参考人が、子供を増やすためではなく、子供を幸せにするための政策が重要だとお話しされるのではないかと思います。私もそう思います。懇話会でも話しましたように、次世代の幸せを考え、家族形成、家族を支援するファミリーポリシーとして考えるとよいと思っております。
スウェーデンなどの福祉先進国でも、ファミリーポリシーの充実の背景には労働力不足や少子化問題がございました。しかしながら、理念としては、子育て家庭への支援、普遍的福祉政策、ジェンダー平等など、国際的にも高く評価され、働く人々の共感を得ることを大切にした理念を掲げて議論しようとしております。
支援金のメリットとしまして、比較的ミクロの観点、子育て期の支出の膨張と収入の途絶に賃金システムが対応できていないという欠点を補うサブシステムとしての再分配の必要性という、そういうミクロの観点を重視しております。
子育て期の支出の膨張を再分配政策で支えていく姿は、図表資料七ページに描かれています。子供が十八歳を終えるまでの十九年間、親は支援金を拠出するのですが、今回の支援金で拡充される給付の合計は百四十六万円と試算されています。中には、どうして子育て世代も支援金を払うのかという話もあるようですが、病気になって病院に行った月も医療保険料を免除されません。再分配政策は、給付から負担を引いたネットの給付で評価すべきものですので問題ありません。
支援金に関して言いますと、被用者の場合、労使の拠出額は賃金の〇・四%程度、千円だと四円、本人負担だと二円です。そうしたマクロの規模感も重要だと思います。日本においても、いま少しマクロとミクロのバランスが取れた説明をして、学生を含めた若い人たちや働く人たちにも好感を持っていただけるメッセージが届くようにしてもらえればと考えております。
支援金制度を創設し、経済界の協力も得ながら、私たち世代も含めて全ての世代で連帯して、社会全体で子供を支える再分配を行っていくことに賛同いたします。若い人々が明るい未来を描ける社会に是非していただければと思っております。
以上でございます。
権丈英子 の他の発言
2024-05-23 · 参議院内閣委員会
○参考人(権丈英子君) どうもありがとうございます。
こちらに示していただきましたこども未来戦略に基づき、また加速化プランということで、本当に、この少子化対策といいますか、子ど…
2024-05-23 · 参議院内閣委員会
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2024-05-23 · 参議院内閣委員会
○参考人(権丈英子君) ありがとうございます。
支援金の制度といいますか、社会保障のこの再分配の仕組みというのがなかなか理解するのが難しいところがあるのかなというふうに思ってお…
2024-05-23 · 参議院内閣委員会
○参考人(権丈英子君) ありがとうございます。
社会保障の制度ってやはり難しいところがあるんだろうなというふうには思います。そうしたところですので、やはり丁寧に説明するというこ…
2024-05-23 · 参議院内閣委員会
○参考人(権丈英子君) ありがとうございます。
私は、支援金制度ということで、この子ども・子育てを支える財源として新たな制度がしっかりつくられたというところが一番大切だというふ…
2024-05-23 · 参議院内閣委員会
○参考人(権丈英子君) ありがとうございます。
先ほど少し私の方でお話ししたこととも関係するかなというふうに思っております。
社会保障のこの負担の大きさ、規模の大きさを確認…
2024-05-23 · 参議院内閣委員会
○参考人(権丈英子君) 全体として、そうですね、一方、給付の準備のために使途を明らかにして、その上で拠出、負担……(発言する者あり)…
API / MCP 利用
国立国会図書館 国会会議録 API を構造化
REST: /v1/diet/speeches/search?speaker=権丈英子
MCP: search_diet_speeches(speaker="権丈英子")