○参考人(八代尚宏君) 昭和女子大学の八代でございます。また、私は、制度・規制改革学会の代表理事も務めております。
お手元にこのパワーポイントの資料がありますが、本日はこれに基づいてお話しさせていただきたいと思います。なお、今回は私が唯一の男性ですのでやや緊張しておりますが、少子化問題ということはもう男女共通の大きな社会課題でございますので、そういう意味でお話しさせていただきたいと思います。
まず、本日お話ししたいことのポイントでございますが、五つございます。
一つは、この少子化問題というのは、実は意識の問題というふうによく言われている面もあるんですが、私は、実は日本経済の構造問題であると。今、日本経済は長期経済停滞に陥って、これをどう克服するかが大きな問題なんですが、実は少子化というのも、この構造改革、長期停滞から発する一つの派生的な原因、要因というふうに考えてもいいんじゃないかというふうに思っております。
それから第二に、今子供が減っているということですが、その家庭の子供数が減っているということよりも、実は未婚者が増えている、家庭自体がなかなか形成されない、これが実は大きな要因ではないかと思っております。
そういう意味で、その両者の意味で、実は、児童手当等の金銭給付を増やすことによる少子化対策効果というのは実は乏しいんではないか。もちろん、子育て支援としての意味はもちろんあるわけですが、それと少子化対策は実は同じではないんじゃないかと、こういう問題意識でございます。
真の子育てのコストというのは、子育てと両立できない、つまり女性の働き方というか、これは男性も同じですが、そのために、子供を産んで育てようとすると主として女性がキャリアと収入を失ってしまう、そういう意味ではこれが非常に大きなコストになっているわけです。これを抑制しなければなかなか少子化対策にはならないんじゃないか、これには働き方の改革というのは不可欠です。働き方の改革というのは、実はまさに日本経済の成長促進という意味でも大きな課題になっていて、この面でも共通性はあるかと思います。
それから五番目に、財源であります。今回も膨大な財源が費やされるわけですけれども、その財源として社会保険料に依存する、健康保険料に上乗せするということは、実は給付と負担がリンクするという前提の社会保険の原則に反するものでもあり、特に子育て世帯に大きな負担を課す、企業にも雇用税として負担を課す非常に問題の大きい財源であるわけで、そこの意味で、ある意味では少子化対策に逆行する面もあるんじゃないかということを懸念しております。
なお、本日配っております制度・規制改革学会の提言についてはこういう視点があるんですが、著名な社会保障の専門家もこれに賛同していただいております。後で見ていただければ有り難いと思います。
一枚めくっていただきまして、少子化は経済の長期停滞と共通要因ということなんですが、子供の数がどんどん減ってきて今出生率も下がってきていますが、これとほぼ同じ形で日本の一人当たりGDPも横ばいになっており、アメリカにどんどん差を付けられるだけじゃなくて、韓国にもほとんど追い付かれておりまして、今年か来年かには追い抜かれる可能性が大きいんじゃないかと。
なぜこういうことになったかというと、次のページでありますが、やはり、これまでの日本の経済成長を支えてきたのは人口の影響が大きいんじゃないか。特に、人口ボーナスといいまして、豊富な若年労働に依存した日本の働き方、雇用慣行が非常にうまく機能してきた。しかし、それが本当に今後の高齢化社会にそのまま維持可能なのかどうか。
それから、社会保障についても、過去の高い成長期は勤労者がどんどん豊かになっていく、しかし高齢者は貧しいままだ、したがって豊かな勤労者が貧しい高齢者を支援するのは当たり前であったわけですが、低成長になった今、それが本当に正しいかどうか。これからの高齢者は、団塊の世代が主なわけですけど、過去の高い成長期に多くの資産を蓄えた高齢者も多いわけで、それに対して現在の若年者世代は非常に貧しくなっているわけです。
それから三番目に、やっぱり男女の役割分担が変わってきている。女性が高学歴化で、また男性と同じように社会で働くようになってきている、フルタイムでですね。そういうときに、職場、家庭と両方で男女の役割分担に大きく依存した働き方とかあるいは社会保障制度が、非常に大きな桎梏になっているんじゃないだろうかと。
こうしたその大きな構造変化に対応しない制度を改革するということが、これまで非常に怠ってきたんじゃないか。これは政治の責任であると思いますが、それが経済の長期停滞とこの少子化の双方の要因になっているんじゃないかというふうに考えております。
もう一枚めくっていただきまして、夫婦出生率は一・九というふうに書いてあるわけですが、余り知られていないわけですけど、出生率は今非常に下がってきて、今年は多分、済みません、昨年は二・三ぐらいになるだろうと、ごめんなさい、一・二ぐらいに下がるだろうというふうに言われているわけです。出生者数は七十万人台に低下する。
しかし、実は夫婦出生率という概念があって、結婚している人の子供の数は一・九人、かなりこれ高い水準です。人口が安定するためには二・一が必要なんですが、それとほとんど変わらない。だから、結婚すればちゃんとそれなりに子供は生まれているわけで、問題は、結婚しない人が増えてくる、この未婚率の上昇をどう考えるかが非常に少子化対策として重要なわけです。これは、基本的に言えば、出産を前提とした結婚というものに対して抵抗といいますか、そういうことが起こっているんじゃないか。
次の未婚率の上昇のグラフを見ていただきたいと思います。これは特に女性について注目しているわけです。
今、この結婚がなかなか増えないという原因については大きく分けて三つの考え方があって、有名なパラサイトシングル仮説というのは、親への依存度が男女共に高まっている。それから、妻子を養えない男性の窮乏化というのもあると。しかし、私は、一番の要因はこの女性の高学歴化、社会進出で、女性にとって、この高学歴化でいい仕事が得られたときに、それを結婚して出産すると失わなければいけない、両立が非常に困難であると、そういう問題が大きいんではないかと。そのために、どうしても結婚をためらってしまうと。
それからもう一つは、やっぱり家族の問題でありまして、例えば夫婦別姓選択とか第三号問題とか、共働きをする家族にとって不利な制度というのが昔から指摘されているわけですが、これが一向に解決されない。やっぱり古い家族を守ろうとする制度が結果として新しい家族の形成を阻害してしまうと、こういう現状をやはり認識していただく必要があるんじゃないかと思われます。
もう一つ、次のページを見ていただきますと、子育てのコストは現金給付で賄えるのかということで、これについては確かに人々の希望としては教育費が掛かって大変だというふうに言われるわけですけれども、経済学では、かつてノーベル賞を取ったゲーリー・ベッカーという方が、そのノーベル賞の原因、原因というか、要因としては家族の経済学ということを確立したことが言われているわけですが、これは、経済成長で家計が豊かになると、どこの先進国でも少ない数の子供に多くの教育投資を行うという傾向があると。これは特に日本とか東アジアの国に顕著であって、韓国とかシンガポールとかそういう国では日本以上に出生率が下がっているわけです。
ですから、ここで現金給付を増やしたときに何が起こるかというと、それでもう一人子供を産もうかというよりも、今いる子供にもっと教育投資を課すという行動が実は起きるのではないかということです。これは内外の研究でもサポートされておりまして、日本でも、東大の山口先生の研究もあって、非常に僅かの効果しかない、現金給付はですね。
むしろ、現物給付。幼稚園とか保育園の支援というのは、幼児教育の充実というのが実に重要で、非認知能力を高めるためには、今一人っ子が多いときに、専業主婦の家庭でもこの幼児教育が必要であると。今回、誰でも通園制度というのができたということは立派なことなんですが、あくまでも空きがあればということであって、これはもう既に一部の自治体ではやっていることなわけです。
大事なのは、今の児童福祉制度ですね。子供は親が育てるのが当たり前だと、それができない貧しい親に対して子供を守るために保育園があるんだという考え方、これは完全に時代遅れです。もう女性が働くのが当たり前の時代では、介護と同じように、女性が働く働かないにかかわらず、サービスとしての保育というのを充実する必要があって、これは大改革が必要なわけですが、残念ながらほとんどそういう意見はありません。
次のページを見ていただきますと、子育ての最大のコストはやはり出産退職ということですが、これは内閣府の資料でありますけれども、女性が高学歴化し専門化することによって給料が上がると。そうすると、出産退職する、あるいは出産で一時、時間、期間が空くということで、生涯に一億円、二億円の差が出てしまうということです。ですから、これはもう到底児童手当で賄えるような額ではないわけでありまして、やはり出産退職して辞めなくても済むような状況をつくる、そのためにはやっぱり働き方の改革が不可欠であります。
現在の日本の雇用慣行というのは、やはり長期雇用保障、年功賃金によって労働者にとって望ましい働き方と言われておりますが、その代償として、無限定の働き方で労働者は企業の言うなりに残業したり転勤したりですね、その自由度を企業が確保しているわけです。これは、あくまでも過去の男性と女性の役割分担、職場と家庭においてですね、家庭で家事、子育てに専念する女性がいてこそ、男性がもう会社のために十時間、十二時間働くことができる。このやり方は過去の高度成長期には一定の効果はあったわけですけど、今後の少子高齢化社会では、やっぱり男女が共に働いて、共に家事、子育てをするという欧米型の働き方に変えなければいけない。そのためには、退職金のポータブル化とかジョブ型の働き方とか、無限定ではなくて限定正社員というものをつくっていく必要があるわけです。
それから最後に、この少子化対策の財源の問題でありまして、今回、健康保険料に上乗せということですが、実は医療保険自体が今後どんどん高まっていかざるを得ない状況にあるわけです。これは言うまでもなく高齢化であって、現在、医療費というのは、七十歳以上で生涯に使う医療費の半分をやる、六十歳以上で三分の二を使うという、年金と基本的に同じ構造になってきて、違いは積立金がないということで、もっと大きいわけです。それから、技術進歩というのももちろんあるわけです。
だから、本来、医療保険自体が本当にもつかどうかというようなときに、次のページを見ていただきますと、子育て世帯に悪影響の社会保険料といいますか、その医療保険自体がもつかどうか分からないのに、それに更に上乗せすると。しかも、今回の上乗せ料が、額がそのまま維持されるかどうか、もっと増える可能性があるわけでして、そういうやり方は余りにも安易ではないだろうかということであります。
これは、社会保険料というのはそもそもやっぱり勤労者に掛かるわけであって、今回、医療保険料は高齢者も負担すると言われますが、その後期高齢者医療保険というのはもう大部分が実は健保組合とか勤労者保険から補助を既に受けているわけで、それはほとんど意味がないわけで、高齢者に負担してもらうためにはやはり消費税でカバーするということが本来の社会保障の在り方というのはかつて野田政権で合意された三党合意に基づいているわけで、やはり社会保障というものは、もうとにかくやっぱり全世代で負担すべきだということだと思います。
それから、仮にこの子育て支援金が実施されるとすれば、その負担額を明確に示す必要があるわけでして、健保連が主張しているように、本来、給与明細に健康保険料とは別建てで明記されなければいけない。これについてこども家庭庁は全くコミットしておりません。
ちなみに、六月から一回限りの減税が、その所得税と別に、何というか、明記しろということで、非常に大変な手間が掛かるわけですが、他方で、永続するこの子育て支援金の上乗せ分は所得税からちゃんと分けられて明示されるのかどうか。これは非常に大きな問題であって、不都合なことは隠して、何というか、政権にとって望ましいことはあえて示すという、こういうことでは国民からの理解は得られないんじゃないかと思っております。
最後に、結論として、持続的な少子化に歯止めを掛ける政策は不可欠ですが、それは、児童手当を中心とした三・六兆円の金銭給付ではなくて、子育てと就業継続の両立を可能とするための働き方の改革とか児童福祉の制度改革が何よりも必要なわけです。過去の豊かな勤労者が貧しい高齢者を扶養することを前提の今の社会保障制度の改革、それから、健康保険料等の勤労世代の負担増で賄うという、そういう安易な考え方、そういう現行制度の、制度とか規制の改革に重点を置いた真の少子化対策を是非実現していただきたいと思います。
以上です。御清聴ありがとうございました。
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○公述人(八代尚宏君) 昭和女子大学の八代と申します。
本日は、このような機会を与えていただきまして、ありがとうございました。
私は、同時に、制度・規制改革学会というところ…
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