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作山巧 ·明治大学農学部専任教授

参議院予算委員会公聴会(2024-03-12)での発言

第213回国会 ·第第1号号 ·5,174字
○公述人(作山巧君) ただいま御紹介をいただきました明治大学の作山でございます。  本日は公述の機会をいただき、光栄に存じます。  私の公述は、予算編成の在り方に関する意見と農業政策に関する意見から成りまして、特に私の専門であります農業政策を中心にお話しします。  お手元に資料を配付していますので、それに沿って公述をさせていただきます。なお、配付資料では一ページに二枚のスライドを配置しておりまして、各スライドの左下にページ番号を付しておりますので、そちらを御参照いただければと思います。  まず、予算編成の在り方についてです。  本日の議題は令和六年度総予算についてですが、私、最近の予算編成の在り方には若干の懸念を持っております。  配付資料をめくっていただきまして、三ページを御覧ください。  資料の左側に示していますように、補正予算に関しては、財政法では、予算作成後に生じた事由に基づき緊要となった経費の支出を行う場合などと規定しております。しかし、実際には、規模ありきのように見える補正予算の編成が常態化しておりまして、特に三ページの右側にあるように、新型コロナ禍で膨張したその規模は元には戻っていないという状況でございます。  こうした補正を前提とした予算編成は農業政策でも見られています。  配付資料の四ページを御覧ください。  資料の左側に示しましたように、農林水産物の輸出促進は農水省の重要施策となっております。二〇二〇年には農林水産物・食品輸出促進法が制定されました。二〇二一年には農水省に輸出・国際局が設置されました。といったように、恒久的な体制が整備されてきております。  他方で、四ページの右側に示しましたように、その裏付けとなる予算については、最近では八割以上が補正に計上されており、その傾向は令和六年度予算でも同じで、整合性が取れているとは言い難いというのが現状です。  これは、輸出促進対策予算が二〇一五年度からTPP関連政策大綱に基づいて計上されたという経緯に起因しています。しかし、農林水産物の輸出促進政策が恒久的な政策である以上は、その裏付けとなる予算についても令和六年度の当初予算に計上すべきだったというふうに考えております。  次に、令和六年度予算との関連で、農産物の価格形成について述べさせていただきます。  まず、配付資料の五ページを御覧ください。  コロナ禍後の海上運賃の高騰、それから主要生産国での高温乾燥、ウクライナ戦争、円安といった要因により輸入品の価格高騰を受けまして、国内の食料価格は大幅に上昇しております。具体的には、オレンジ色で示しました食料の消費者物価指数は二〇二〇年平均と比べまして一六%の上昇をしておりまして、それが青色で示した全体の消費者物価指数を大きく上回っております。つまり、消費者は、食料の価格が高過ぎて困っているという状況にあります。  次に、配付資料の六ページを御覧ください。  これは、農業の収益性の推移を示したものです。具体的には、灰色の線は二〇二五年、二〇一五年ですね、二〇一五年を一〇〇とした農産物価格指数の推移であり、生産者にとっての収入を表します。他方で、青色の線は肥料や家畜の飼料といった生産資材の価格指数の推移でありまして、生産者にとっての費用を表します。その上で、農産物価格指数を生産資材価格指数で割ったのが交易条件指数でありまして、二〇一五年を一〇〇とした生産者の相対的な収益性を表します。オレンジ色で示した交易条件指数の推移を見ますと、二〇二三年は九五で、これ小数点以下を考慮しますと六十年ぶりの低い水準となっています。  このように、費用が大幅に上昇する一方でそれが農産物の価格に転嫁されていないという意味において、生産者は農産物の価格が安過ぎて困っているという状況です。  こうした状況をまとめたのが配付資料の七ページです。  私は、農産物の価格形成はトリレンマに直面していると考えています。ここでトリレンマというのは、三つの要求が相対立し、相互に両立しないという意味です。  まず、消費者にとっては食料の価格は安いほど良く、それが高過ぎることが問題となっているということです。他方で、生産者にとっては農産物の価格は高いほど良く、それが低過ぎることが問題となっております。さらに、野菜のような多くの農産物は需給を反映して市場で価格が決まるため、価格は市場原理に委ねるべきだという考え方もあります。こうした三つの主張は、あちらを立てればこちらが立たないという関係にあり、だからトリレンマということです。  では、このトリレンマにどう対応すればよいのでしょうか。  配付資料の八ページを御覧ください。  今回のような農産物の生産費用の増加には、三つの対応策があります。  第一は、生産者による費用の削減で、その費用を負担するのは生産者ということになります。その具体例は第二次安倍政権下での農協改革でありまして、日本の生産資材が高い元凶として、農協組織が名指しをされました。この主張を踏襲すれば、今回も生産者やその団体による費用削減努力で乗り切るべきだということになります。  しかし、日本は、飼料や肥料のような生産資材の多くを輸入に依存しておりまして、国際市場で決まるそれらの価格に日本の生産者が関与する余地はありません。また、多くの農産物は一年一作であることから、短期的な費用の削減は現実的には困難です。  次に、第二の方策ですが、これは生産費用の上昇を農産物の価格に転嫁することで、その費用を負担するのは消費者ということになります。その具体例は、今国会において重要広範議案として審議が予定されている食料・農業・農村基本法の改正案でありまして、食料の持続的な供給に要する費用の考慮を求める条文の追加が提案されております。  しかし、卸売市場による競りで価格が決まる野菜が典型ですが、価格形成の成否は市場の構造や取引の形態などに依存しまして、それを強要することはできません。また、仮に価格転嫁が実現すれば、既に高騰している消費者価格が更に上昇して、特に所得の低い方々に打撃を与えるという問題もあります。  第三の方策は、生産者に対する直接支払です。その費用を負担するのは納税者ということになります。その具体例は、民主党政権下で実施された米に対する戸別所得補償制度です。  その効果については、配付資料の九ページを御覧ください。  二〇一〇年から二〇一二年にかけて実施されたその制度は、米の生産農家に対して十アール当たり一万五千円を支払うというものでした。十アール当たりのお米の収量を五百三十三キログラムとすると、米一キログラム当たりの支払単価は二十八円ということになります。その上で、経済学の分析道具を用いますと、戸別所得補償に伴う手取り価格の上昇による生産者のメリットは米一キログラム当たり十一円だったのに対して、市場価格の下落による消費者のメリットは米一キログラム当たり十七円だったことが分かります。  配付資料の十ページは、その算出根拠を簡単な経済学の分析道具で説明したものです。  技術的な内容になりますので詳しい説明は省略しますけれども、重要なのは、生産者に対する直接支払は、その全てが生産者の取り分になるのではなく、市場価格の低下を通じて消費者にもメリットが及ぶという点です。今回の計算に用いたデータでは、青色で示したお米の供給曲線は価格の変化に対する供給量の変化が相対的に大きいのに対して、赤色で示した米の需要曲線は価格の変化に対する消費量の変化がより小さいことから、消費者のメリットが生産者よりも大きいという結果になっております。  ただ、これはあくまで理論的な予想でありまして、実際の米の価格と照らし合わせた結果もお示ししたいと思います。  配付資料の十一ページを御覧ください。  左側の軸は水田作経営における十アール当たりの農業所得でして、青色の線がその推移を示しています。他方で、右側の軸は二〇二〇年を一〇〇とした米の消費者物価指数で、オレンジ色の線がその推移を表しています。  通常ですと、お米が豊作になると価格が下落するため、生産者の所得は低下します。それを受けて翌年の米の消費者価格も低下するので、オレンジ色の線は青色の線より一年遅れてほぼ同じ動きをします。しかし、戸別所得補償制度が開始された二〇一〇年や二〇一一年には、米生産者の農業所得は上昇する一方で米の消費者価格は低下しました。つまり、配付資料の九ページに示した経済学の分析道具による予想は、実際の米価の動きと符合していることが分かります。こうした食料価格の低下は、特に所得が低い世帯には朗報となります。  配付資料の十二ページを御覧ください。  これは、消費支出額に占める食料支出額の割合であるエンゲル係数について、二〇二二年の数値を十段階の年間収入階層別に示したものです。灰色で示した折れ線グラフを見ますと、エンゲル係数は、最も所得の低い階層では三二なのに対して最も所得の高い階層では二二と一〇ポイントもの差があります。逆に言えば、食料価格の上昇は特にエンゲル係数の高い低所得者に打撃を与えることを意味し、これを考慮すると、農産物の生産費用の増加を食料の価格に転嫁することが無条件で肯定されるわけではないということになります。  私が提案する解決策は先ほど申しました三番目の生産者への直接支払でございまして、その仕組みは次のとおりです。  配付資料の十三ページを御覧ください。  これは生産者に対する直接支払の財源と効果を示したものです。ここで右側の図を御覧いただきますと、例えば相続税、法人税、所得税のような累進構造を持つ税を引き上げると高所得者の消費支出額が減少する一方で、それを財源とした生産者への直接支払を実施しますと、さきに説明した仕組みによりまして、消費者の食料価格が低下し、消費支出額が減少します。つまり、図の白抜き部分の金額が高所得者から低所得者に移転し、それによって高所得者のエンゲル係数は上昇する一方で低所得者のエンゲル係数は低下するため、その意味で格差は縮小するということになります。  こうした政策によって、先ほど述べましたトリレンマは解消されるということになります。まず、消費者は、食料価格が低下して、特に低所得者が利益を受けます。また、生産者は、農業所得が上昇して農業の収益性が改善します。さらに、直接支払は、政府が価格を直接決定するわけではないので市場原理を損なうこともありません。市場で決定される価格が生産者にも消費者にも適当でない場合に、政府を介した納税者からの所得移転によって、市場原理を尊重しつつそれを補う政策ということになります。こうした生産者に対する直接支払は、欧米では一般的です。  配付資料の十四ページを御覧ください。  一九八七年と比較しますと、米国やEUの農業支援額は増加しているのに対して、日本の農業支援額は三八%減少しています。また、農業支援額に占める生産者の直接支払の割合は、米国が九一%、EUが八四%なのに対して、日本は二二%にすぎません。こうした比較、国際比較の観点からは、日本において農業支援の形態を直接支払に転換する余地は大きいと考えます。  最後に結論を述べたいと思います。  令和六年度の農林水産予算では食料の安定供給の確保が冒頭に掲げられておりまして、今国会に提出されている食料・農業・農村基本法改正案でも食料安全保障の強化が目玉とされています。しかし、私が述べたような生産者や消費者に対して即効性のある対策は盛り込まれておりません。  もちろん、今回の物価上昇を起点として、賃金の上昇と物価の上昇が連鎖する好循環が実現し、消費者の購買力の上昇によって生産費用の価格転嫁が進むのが理想であることは言うまでもありません。しかし、仮にそれが実現するとしても、既に大きなタイムラグが発生しており、今回の生産資材や食料の価格高騰で生産者や消費者は既に大きな打撃を受けております。また、低所得者や一部の生産者のように賃金上昇の恩恵が及びにくい方々、また、市場構造や取引形態によって価格転嫁が困難な方々への配慮も欠かせないと思います。  今回の反省を踏まえまして、生産者に対する直接支払のような仕組みを構築していくことが必要と考えます。  私の公述は以上です。  御清聴ありがとうございました。

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