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中川大 ·京都大学名誉教授/富山大学特別研究教授

参議院国民生活・経済及び地方に関する調査会(2024-04-17)での発言

第213回国会 ·第第4号号 ·7,654字
○参考人(中川大君) 中川でございます。どうぞよろしくお願いいたします。  こういった機会を与えていただきまして、感謝いたします。私の方からは、地域交通に関してお話をさせていただくということでございます。(資料映写)  テーマですけれども、地域交通は公共サービスというテーマを付けさせていただきました。これは一見当たり前のように思えますし、今の佐藤参考人のお話をお伺いをしていましても、こういった公共交通が公共サービスであるということは、これ当たり前のこととして多くの皆さんが合意できることなのではないかというふうに思います。  これは世界的には常識になっていまして、地域交通というのは公共サービスであるというのが、これが世界の標準的な政策でありますけども、実は日本だけがそれとは違う発想で公共交通が運営されていますので、そのことについて、そのことによってどういう課題が生じているのか、またこれからどういうことが考えられるのか、そういったようなことについてお話をさせていただこうというふうに思っております。  早速中身に入らせていただきたいというふうに思います。  現在、日本では、コロナの影響を受けて、公共交通は極めて大変だという議論がされています。特に、地方においてはこういう議論がずっとされているわけです。  しかしながら、例えばヨーロッパを始めとする世界の多くの国では、コロナに動じることなく、これからは公共交通こそ大事だと、公共交通の時代だというぐらい公共交通を重視して、公共交通にはこれから大きな投資をしていこうという、こういうようなふうに考えている方が多いというふうになっています。  例えば、これはEUがコロナの真っただ中である二〇二一年に発表した新しい交通施策の、交通計画のプランですけれども、この中でも、カーボンニュートラルに向けて鉄道整備を加速することを改めて表明をしているということで、ヨーロッパ中の全都市圏において公共交通を中心とした計画を策定していくということなども表明されています。  日本が後ろ向きの議論をしている中で、EUを始めとする世界の多くの国は公共交通に対して前向きな議論をしているという、この違いがどこから生じているのかというと、これはもうはっきりしていまして、そのことに対する基本的な考え方の違いであるということが言えます。  日本の場合、公共交通は基本的には交通事業者の営利事業であるというふうに考えられているわけです。ですので、民間事業ですので、目指しているのは採算の最大化、とりわけ地方においては経費の最小化を目指しているというのが実情になってしまっているということで、こういうことでは便利になっていきませんし、利用者が減ってしまってまた赤字が大きくなるという、こういうマイナスのスパイラルが各地で発生しているという状況になっています。  しかしながら、世界の標準的な考え方は、これは、公共交通は公共サービスであるから公共がしっかり責任を持ってサービスを提供していくという、こういう考え方に基づいているわけでして、公共サービスですから、目的とするのは収益の最大化ではなくて社会全体の利益であるという、これは、例えば環境ですとか、教育ですとか、健康ですとか、先ほどからもお話しになっておられますように、バリアフリーですとか、ユニバーサルデザインだとか、こういった福祉の関係のことなども含めて、そういった社会全体の利益を最大化するというのが目標になっているという、こういうことになっています。その結果として、利便性が向上していっていますし、お客さんも増えていっているという状況になっているわけです。  日本のように独立採算で便利な公共サービスが提供される、できると思っている国はほとんどありませんでして、実際、日本においても東京都市圏ではそれなりのサービス水準が提供できていますけれども、世界中で採算を取りながら便利な公共交通サービスが提供できているのは東京都市圏ぐらいだろうと言われていまして、ロンドンもパリもニューヨークも公共交通は採算を取れておりません。であるにもかかわらず、日本中、東京都市圏でしか成立しないような、そういう発想で交通政策が行われてきたということによって日本の公共交通のサービス水準は極めて遅れてしまいました。  どれだけ遅れているのかということをこの後お話をさせていただこうと思いますが、これは今話題になっています中国地方の芸備線という、広島県内の部分をここに地図に表していますけれども、同じ山合いの路線を走っているスイスの、沿線に大きな都市がない路線を比較したものですので、地図で見ていただければどちらも大きな町がない路線だということが分かると思いますが、その中でも、大都市広島に直結されている芸備線の方がむしろ鉄道としてのポテンシャルは大きいとも言える、そういう状況にあるわけですが、この二つの路線のダイヤを比べてみたものが次のページでございます。  左側は、公共サービスとして利便性を向上させてきたスイスの路線です。この三十年間の間にどんどん便利になっていっていまして、山合いを走る、人口の非常に少ないところを走っている路線ですけれども、一時間に四便確保されているという状況ですが、日本の場合はむしろ不便になってきているという、こういう状況でして、スイスの路線の場合はこの間に約一・五倍に利用者数は増えていますけれども、日本の場合は激減しているという、こういう状況でございます。便利にしたところは増えているし、便利にしなかったところは減っているという当たり前の結果が生じているということでございます。  さらに、その先の人口が更に小さいところのダイヤを見ますと、これも更にはっきりします。左側のスイスの路線は一時間に一本ずつ確保されていまして、これは公共サービスとしての最低限のサービス水準を確保する方針で運営されているということがはっきり見て取れるわけですが、日本の路線の場合は右端のようなダイヤになっています。このダイヤですけれども、皆さんでしたらこのダイヤの路線を利用しようという気におなりになりますでしょうか。これ、例えば東京のど真ん中を走っている路線だとしても、朝七時四十七分の次が午後一時という、こういうダイヤでは、これ仮に国会議事堂前駅のダイヤであったとしても、ほぼ見向きもされないというふうに思われます。  つまり、議論されていることは、採算性が大変だという議論されていますけど、その前にやはり乗れるようなサービス水準を提供できていない、サービス水準がもう圧倒的に停滞している、あるいは後退しているという、ここが日本の公共交通の大きな問題点だというふうに言えるかと思います。  ヨーロッパなどと比べますと、日本の公共交通、これ鉄道で比べていますけれども、鉄道の輸送人キロの伸びはもう圧倒的に少ないということで、昔は日本はかなり多かったんですが、どんどんとほかが便利にしていっている中で低迷しているという状況になっています。  ですが、日本の中でも便利にしていっているところはしっかりと結果を残していまして、これは、富山県のJR富山港線というJRの路線だったのを二〇〇六年に富山市が引き取りまして、富山ライトレールということで再整備をしたものです。下に両社のダイヤの違いを書いていますけれども、これ、先ほどのスイスの路線と同じように大きく利便性を向上させていまして、運行本数を三倍以上に引き上げているわけです。その結果として輸送密度は一・七倍に上がっているという、こういう結果をしっかりと残していまして、やはり便利にすれば増えていくということは立証されているわけです。  これは時間帯別の利用者数ですけれども、お昼間は四倍以上に増えているということで、非常に大きな成果がもたらされているわけです。しかし、ここで既にお気付きになった方もおられるかもしれませんが、運行本数は三倍以上に引き上げていますが、輸送密度は一・七三倍ですので、日本流の考え方でいえば、運行本数三倍以上にしたのに輸送密度たった一・七三倍でいいんですかと、それで採算は改善されているんですかという、これが日本流の発想になっていまして、ですので、日本流の発想でいくと、こういったことは民間企業としてはリスクが大き過ぎてできないということで、富山ライトレール以外にこれだけの利便性向上を行ったところはほとんどないという、そういう状況になっているということです。  これは富山市が行った事業ですので、採算が問題ではないということで富山市が市民に対して説明をしているのは次のページ、このようなことで、これ、左上、先ほどの同じページですけれども、昼間のお客さんは四倍になっていますと言っていますが、これによって採算が良くなりましたという話をしているのではなくて、昼間お客さんが四倍になったことによって高齢者が町に出てくるようになったと、健康増進につながっていて医療費を抑える効果があるとか、あるいは町が元気になる効果があるとか、そういったようなものこそ鉄道の効果であるというふうに説明をしているわけです。  さらに、そういった数字にならないようなものであっても、沿線の多くの人たちが住みやすさが向上したとか沿線のイメージが向上したとか、こういったようなことこそ重要であるというふうに思えることこそ、公共交通に投資する価値であるということを説明をしているわけです。  ほかにもしっかりと便利にしてきたところは上がっていまして、これは、今度は富山県全体ですけれども、富山県全体でも、コロナの直撃を受けた年には下がっていますけれども、それ以外の年は一貫して増加をしていまして、これも富山ライトレールだけではなくて、例えばJRの高山線とか城端線という路線も地元の自治体が費用負担をして増便をしております。あいの風とやま鉄道という第三セクター鉄道も増便をしています。こういった形で、便利にしていっているということによってお客さんは増えていっているという、そういう結果を残しています。  それ以外にも、これは福井県のえちぜん鉄道、それから茨城県のひたちなか海浜鉄道の例なども挙げていますけれども、いずれも便利にしていっています。これも、自治体が協力をすることによって、便利にしていっていることによってお客さんは増えていっているという、しっかりとした結果が残っていっているということです。  次のグラフは輸送密度四千人以下の全てのJR路線と民鉄、三セク路線についてのデータを整理したものですが、左側が運行本数を表しているもので、左側の図の横軸が輸送密度で縦軸が運行本数なのですが、同じ輸送密度で比べますと民鉄、三セクの方がJRよりも二倍ぐらいの運行本数を走らせているということで、これは、やはり多くの民鉄、三セクは、自治体と何らかの形で連携をすることによって地域に対してもたらす利便性を確保していこうということで運行本数が多い状況になっているというふうに言えるわけですが、右側がそれに対応しまして利用者の数がどう推移してきたかということを表したものですけれども、民鉄、三セクは全体として上がっていますが、JRは大きく減少をしています。この辺りも、便利にしたところは上がっていっているけれども、便利になっていかなかったところは下がってきているという、これ当然の結果が生まれてきているということが言えると思います。  バスにつきましても同じようなことが言えまして、これは京都市交通局の市バスの事例ですけれども、かつては累積赤字が非常に大きいものですから、赤字が大きいから便数を減らしましょうということを進めてきまして、しかしながら、便数を減らすとまたお客さんが少なくなっていくというマイナスのスパイラルに陥ってきたんですけれども、おおむね二十年ぐらい前に方針を転換しまして、利便性を逆に向上させるという、そういう方針に転換したときからお客さんが増え始めまして、その後、累積赤字を解消しまして、コロナの前には利益剰余金を九十億以上持つような、それぐらいまで回復してきているということで、これもやはり利便性をしっかり確保してきたということによって採算も良くなってきているという事例が見られます。  ここまでのまとめですけれども、このように、やはり公共交通を民間に任せていたところはどんどん利用者も少なくなっていっているんですけれども、自治体などがしっかりと政策の中に組み込んでいるところは伸びていっているということが分かります。そういったことから、一番最初にお話をしましたように、地域交通は公共サービスであると考えて、自治体などがしっかりとした公共サービスを提供していくようになれば、日本の公共交通も大きく前進する方向に向かう可能性があるということが分かるかと思います。  次が、これが今年の二月に策定しました富山県の地域交通戦略ですけれども、この中にやはり政策転換の芽生えが見られます。この戦略の中にはっきりと、地域交通サービスはその地域の活力、魅力に直結する公共サービスであるというふうに明記をしたわけです。そのことによって、実際に何をするかというと、これまでは事業者への側面支援という形では支援してきたけれども、そうではなくて、自らの地域に対する投資、参画ということで、その方向に向けてかじを切ろうと、そういうことを宣言したということでございます。これまでは、事業者さんを助けてあげますよというような視点で政策が展開されてきたわけですけれども、それではどんどんとマイナスの方向になっていったけれども、これからは自分たちの政策として便利にしていくという方向にかじを切ろうということに決めたということでございます。  この方向に向けて県内でも様々な議論がされまして、戦略会議の中では、利便性を高め幸福度を向上させていきましょうとか、採算だけを重視せずという、この新聞記事の見出しだけ見ていただければというふうに思いますけれども、県議会の中でも特別委員会の中などで、公共交通、利便性重視に賛同しますという、こういったようなことを議会の皆さんからも御提案をいただいたということで、これらを受けて、先ほどのように公共サービスとしてかじを切ろうということを決めたという、そういう結果ができたということでございます。この具体的な事例がJRの、富山県内のJR路線についてももう既に新しい計画として始まっていますので、それをこの後少しお話をします。  その前に、JRのローカル線については、今各地で大変課題になっておりますので少し触れておきたいと思いますけれども、これはこれで大変大きな問題ですので、これを、これについて詳しくお話をする時間は本日はございませんけれども、概略をお話ししますと、ここに書いておりますグラフは、横軸に輸送密度を取りまして、縦軸に営業キロ当たりの営業損益を取っております。かなり多くの議論では、輸送密度が小さいから赤字が大きいというふうに言われて、それが普通のように言われていますけれども、実はこのグラフを見ますと、全くそうではないということが分かるというふうに思います。同じ輸送密度であっても、営業赤字の額は大分違うということが分かります。とりわけ黄色の三角の民鉄、三セクと黒丸のJRでは明らかに違うということが分かります。  ここから言えますのは、現在発表されているJRの赤字額であっても、何らかの形でこの民鉄、三セクのような運営方式に変えていけば大きな収支改善効果が生まれる可能性が十分あるということが分かるわけです。  次のページにその考え方について書いておりますけれども、今のように収支改善効果も期待できますし、元々、民鉄、三セクの方が便利な路線にしていっていますので、便利にすることによって、お客さんを改めて減少を食い止めていくというような、そういう新しい政策に変わっていけば大きな可能性があるというふうなことが言えると思います。一番下の行に書いておりますように、工夫をすることによって、地域にとってもJRにとってもプラスになる方法があり得るというふうに考えております。  これが富山県で今始めていますJRの城端線、氷見線の経営移管というものに実際に反映されているわけですけれども、この路線はJRから地元の第三セクター鉄道に経営移管することが昨年末に決まりました。これは、地域が責任を持って利便性を向上させるということでして、こういう形で新しい路線としてよみがえるということに踏み切っているわけで、これも富山県全体として側面支援から自らの投資、参画にかじを切ったということの具体的な結果であるというふうに言えるかと思います。  この計画に対しまして、国のコメントとしては、先進、意欲的な計画であるというような評価をされていたり、あるいはJRの側からも、これまでにはない仕組みと取組でリーディングケースと考えているというような形で、やはり地域も喜んでいるし、JRにとってもプラスになっているという、こういう結果があり得るということを示しているかというふうに思います。  この後、町づくりのことについても書いております。交通と町づくりについては非常に大きな関係がありますので、町づくりの中で公共交通が大変重要だということを書いております。  さらに、その次のページには、地方都市の活性化においても公共交通が非常に大きな役割を果たしているということで、こちらも、人と公共交通を中心とした町づくりというのが地方都市の活性化には必須であるというようなことが世界の常識になっているということで、これは多くの人が書籍その他に書いておりますので、こういったようなことを参考にしていただいたらというふうに思います。  最後のページになりますけれども、まとめといたしまして、結局、採算性政策を続けてきたことによって利便性はどんどんと低下をして利用者離れというマイナスのスパイラルに陥ってきまして、それが地方の都市の衰退にも直結をしてきたということで、元々の一番最初の考え方である公共交通に対する基本的な政策、これを公共サービスだということを位置付けることによって大きく発想を転換する、そして流れを転換するという、その方向に向けてかじを切るときに来ているのではないかということを最後に書かせていただいております。  時間になりましたようですので、ここで終了させていただきます。どうもありがとうございました。

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