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北神圭朗 ·有志の会

衆議院憲法審査会(2025-06-05)での発言

第217回国会 ·第第8号号 ·2,229字
○北神委員 有志の会の北神圭朗です。  以前も指摘したとおり、世界を見渡すと、各国軍隊の行動を法律で縛るものは、基本的に国際法だけです。それ以外は、自国を守るためであれば基本的に何でもできるというネガリスト方式が常識です。  ところが、自衛隊だけは、九条の必要最小限度という解釈により自衛権が制約され、警察法的な、やれることを限定列挙するポジリスト方式が採用されています。  そもそも、警察と軍隊の目的は全く違います。前者は、治安維持、犯罪防止が主たる任務です。そのためには、自国民に対し、必要に応じて実力を行使せざるを得ません。こうしたことから、警察法は、国民の権利を侵害し得る警察権に対して厳格な縛りをかけています。一方、軍隊は、外国の武力行使から国民を守るのが主たる任務です。また、戦場ははるかに流動的で、予測不可能であるため、極めて柔軟な現場対応が求められます。こうした理由から、各国の軍隊は、ネガリスト方式による緩い制約が課されています。  確かに、それでも戦後は平和を保つことができました。しかしこれは、自衛隊の行動が制約されていたからだというよりは、一つは、たまたま冷戦の主戦場が欧州にあったことと、二つ目は、何よりも、日米安保条約により米国の圧倒的な抑止力が利いていたからでしょう。  しかし、今や世界情勢も変わり、この二つの幸運な条件も変わりつつあります。  まず、中国が超大国として台頭してきました。しかも、尖閣諸島、東シナ海、南太平洋の海と空に向けてお得意の忍び足侵略を着々と進め、我が国の主権と国土はこれまでにない脅威にさらされています。  もう一つは、頼みの綱にしてきた米国は国力が低下し、国論が二分化されています。二分化といっても、世界の警察官はもう担えないという認識は双方に共有されつつあります。トランプ大統領のやや混乱した方針の背景には、こうした国民の共通した認識があるように思います。  このように、我々が戦後恵まれてきた二つの条件が、今や変更されつつあります。  さてそこで、私の言う中国の忍び足侵略というのは、難しい言葉で言えば、グレーゾーン事態と言います。平時と有事との中間にあって、武力攻撃には至らないぎりぎりの線で相手国の安全や主権を脅かす行為です。尖閣諸島を中心に、領空、領海に少しずつ、繰り返し繰り返し侵入することにより既成事実を積み重ねる。一体、このグレーゾーン戦法に対して、警察権的な性格の濃い自衛隊、ひいては憲法九条は耐え得るのか。これを検証すべきだと思います。  まず、領空警備については、航空自衛隊がいわゆるスクランブルを頻繁に行っています。ところが、自衛隊法には武器使用の明確な根拠規定は存在しません。解釈で対応したとしても、相手が実力で抵抗する場合や、まさに爆弾を落とそうとしている場合などに限定されます。  こうした中、十年以上前より、中国の戦闘機からミサイルの標的としてレーダー照射され、撃墜されかねない事態が繰り返されています。軍隊であれば相手にレーダー照射をし返すのが普通の慣行でありますが、自衛隊はひたすら逃げるしかないのです。一触即発の事態が継続する中で、このままで本当によいのか。  次に、尖閣諸島等の領海警備については、純粋な警察である海上保安庁が第一線に立っています。対峙する中国の海警局は軍隊化され、軍艦を改修した転用船を多数就役させ、多くは機関砲を積み込んでいます。  現時点では、政府は、海上自衛隊が出向くと中国を刺激するという方針です。しかし、今後、中国の準軍艦の数が増え、重装備化が進み、その行動がより大胆になれば、いずれ海上自衛隊の出動を検討せざるを得ないのではないでしょうか。  ただ、その場合、自衛隊であっても、今の憲法九条の下では警察権の行使しか許されないため、警察官職務執行法に準じる形でしか武器使用はできません。このように準軍艦を相手にわざわざ自らを不利な立場に置くという自虐的な対応をどう説明したらよいのか。  また、仮に中国海警から本格的な攻撃を受けた際はどうか。防衛出動の命令を待つのか。目の前で自衛隊員が撃たれる切迫した状況にもかかわらず、これは九条の範囲で許されるのかどうか、内閣法制局の解釈判断を仰ぐまで待つのか。より本質的には、その解釈に必要な情報が果たしてそろうのか。  大体、戦場には、クラウゼビッツの言う戦場の霧がかかっています。完全に正確な情報は存在しません。敵と味方、自然現象、地形等により、情報は非対称的であり、刻一刻変化します。その前提で指揮官は軍隊の動きを決める必要があり、現場から遠い政府は、柔軟に現場の判断に委ねることが求められます。だからこそ世界の軍隊は、法律に縛られず、ネガリスト方式を採用しているのです。  一般論としても、九条の下では、不確実で目まぐるしく変わる緊急事態に直面しても、内閣法制局の、これは何事態なのか、これ事態なのかという緻密な法律論が延々と展開されかねません。これでは総理や現場の指揮官の決断が遅れてしまいます。とりわけ、今申し上げたグレーゾーン事態を踏まえれば、余りにも憲法と現場の実態が乖離しているのではないでしょうか。  以上、こうした観点からも、憲法九条が我が国の安全保障の現実に耐え得るのかを検討すべきだということを申し上げて、私の意見といたします。

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