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八代尚宏 ·昭和女子大学特命教授

衆議院厚生労働委員会(2025-05-27)での発言

第217回国会 ·第第21号号 ·3,950字
○八代参考人 昭和女子大学の八代尚宏と申します。  本日は、このような貴重な機会を与えていただきまして、ありがとうございました。  私は、以前、第一次安倍内閣、福田内閣のときの経済財政諮問会議の委員をやっておりまして、社会保障、年金問題も担当しておりました。そのときには本当に年金の改革、民主党の御意見も入れて大改革をやろうとしていたわけですが、そのときと比べて今回の年金改革案というのは、はっきり言って大きな問題を全部逃げている、非常に年金技術的な問題ばかりを議論されている、これがまず一番大きな問題だと思います。  一ページめくっていただきまして、なぜ年金給付が減額されなければならないのかということであります。  今、基礎年金がほっておけば三割減ってしまう、それをどうしようかということを議論しているんですが、そもそもなぜ基礎年金のような大事なものが三割も減らなければいけないのか、これが実は最大の問題なわけなんですね。  なぜかといいますと、日本は高齢者の寿命が世界一長いわけです。寿命が長いというのはいいことなんですね。日本はいろいろな問題を抱えていますが、少なくとも国民生活というのは最も世界でいい国なんです。ただ、この寿命が長いということに今の年金制度が対応していないということが非常に大きな問題です。  寿命が長いということは、高齢者の寿命が一年延びるということは一年分の年金給付が増えるということ。これをどう対応するか。  高齢者の方で年金を調整するためには、二つの手段があるんですね。一つは、世界標準のやり方。つまり、寿命が一年延びたら一年遅く年金をもらい始める、それによって生涯の年金を受け取る期間を固定化する。これが十分な給付の下で年金財政を安定させるグローバルスタンダードのやり方なんですね。  ところが、なぜか日本はこのやり方を取っていない。六十五歳に年金支給開始年齢を固定して、専ら年金を減額することで対応するという極めてひどいやり方を取っているわけですよね。  日本の年金水準というのは、私が以前勤めておりましたOECDの資料によりますと、G7の中で最も低い。この低い年金を更に減らそうというのがこの国民窮乏化案なわけですね。マクロ経済スライドという意味不明の名前を使っておりますが、これは年金減額スライド方式なんです。これをどこまで国民が理解されているかということです。  それからもう一つは、基礎年金なんですが、基礎年金の財政が極めて不安定である。第一号被保険者のうちで保険料を払っている人は半分にも満たないわけです。第三号は全く払っておりません。そういう形で、専ら被用者年金に負担がしわ寄せされているというのが現状なわけです。  もう一枚見ていただきたいと思います。そういう今の大きな問題を解決するためにどういう制度改革が必要かということなんですが、そういう議論を避けるために、今回の年金財政計算というのは極めて楽観的な推計をしているわけですね。  右のグラフを見ていただきますと、これは積立金の見通しなんですが、この場合、四つのシナリオがありますが、最初の二つは極めて楽観的です。なぜ楽観的かというと、何と、積立金が今後どんどん膨らんで、発散しそうな勢いなわけですよね。こんなに積立金が増えるのなら、何の改革も要らないわけです。  何で積立金が増えるかというと、これは足下で増えているからで、前回の財政検証時よりも、株高とかいろいろな状況によって、予想以上に年金が積み上がっている。それは結構なことです。それが今後五十年、百年続くと思うのか、これは誰が考えたっておかしいわけですよね。  それから、高齢者や女性の就業率が予想以上に上がっている。これも結構なことです。だけれども、高齢者の就業率が上がっているのは、六十五歳に年金が引き上げられるから、それに対応して上がっているわけですが、もう六十五歳以上は上げないと言っているわけで、何でそれにもかかわらず高齢者の就業率が同じペースで上がるのか。  それから、ひどいのは女性の就業率です。この前提では、子育て期の女性の就業率が男子並みに上がる、九〇%にまで上がるというすさまじい前提をしています。どういうケースで女性の就業率がそんなに上がるのか。これは未婚の場合ですよね。現に、未婚化が進んでいるから女性の就業率が上がっているんですが、もし子育て期の女性がみんな未婚になったら、何が起こると思われますか。子供が生まれません。それにもかかわらず、出生率の方はどんどん上がるという前提。こんな非論理的な、矛盾した前提に基づいた年金財政というのは本当にいいんでしょうかということです。  もう一枚めくっていただきたいと思います。  最も矛盾が起こっているのは、出生率なんですよね。私も昔、人口問題審議会に入れていただいていましたが、ここでは物すごく精緻な人口推計をしている。ただ、前提が問題で、出生率というのは推計じゃなくて前提なんですよね。過去六回の人口推計で五回、過大推計になっている。今回の出生率だって、今、どんどん子供の数が減っているわけで、むしろ加速しているのに、二三年を底にして、二四年は急速に上がって、今後は上がり続ける、上がって安定する、どこからこんな結論が出てくるのか。  間もなく、六月に二〇二四年の合計特殊出生率が出る予定ですが、これが多分一・一五と言われている。一・一五というのは、実は低位推計に非常に近い水準なんですよね。そこで止まるならいいんですが、本当に止まる保証もない。韓国では〇・八ぐらいまで下がっている。  そういう状況の下で、仮に、今中心となっている中位値を低位値に置き換えたらどうなるか。それが次のページでありますが、そうなると、厚労省が言っている前提が全部狂うわけです。所得代替率、これは厚労省の定義した所得代替率、専業主婦の基礎年金を含めた、水増しした代替率ですが、それが五〇%を切るわけです。  そうしたときには、要するに、財政再計算を見直さなきゃいけないというのが前回の附則にも書いてあるわけで、これを無視していいのかどうか。先日の国会の討議を聞きましたら、それは五年後に考えればいいということですが、足下で低位の水準まで出生率が下がっているときに、そんな悠長なことでいいんでしょうかということです。  もう一枚めくってください。これまで日本の財政をやってきたマクロ経済スライドというのは破綻しているんです。そんなことを誰も知りません。  右のグラフを見ていただきたいと思います。マクロ経済スライドというのは、二〇〇四年から始まったわけですが、本当はもう終わっていなきゃいけない。五〇・二%、二四年ですよね。それが六一・二%にまで上がっている。むしろ、二〇〇四年の水準よりも高い。この二十年間、マクロ経済スライドは全く機能していないんですよね。こんな大事なことがほとんど議論されていない。ですから、今後はこの積み残し分も含めて大幅な減額が必要だから、基礎年金が三割も減額されることになるわけです。  だから、それを厚生年金からどうするとか、そんな技術的な話じゃなくて、こういう状態にもかかわらず、今後ともマクロ経済スライドを続けるのか。支給開始年齢の引上げと併用することで、少なくとも減額のスピードを緩める、あるいは減額しないということを、本当は国会で議論していただきたいわけです。  次のページを見ていただきますと、年金支給開始年齢の高い国ほど高い給付水準で、これも私が昔勤めておりましたOECDの資料でありますが、個人単位で見ると、日本は何と三八・八%と最も低い水準で、この低い水準の年金を更に下げようというのが今回のやり方なわけです。  日本は世界一の寿命にもかかわらず、支給開始年齢が六十五のままになっている。なぜ、人の国並みに、アメリカやイギリスのように六十七まで上げられないのか。今年が六十五まで到達した年なわけです、男性について。このままのペースで六十六、六十七と上がるということがなぜできないのかということです。  最後になりますが、そういうことも踏まえまして、本来の年金改正案というのは、国民に負担を求める以上、多様な選択肢の情報開示をしていただきたい。支給開始年齢の議論は、年金審議会でも全く議論されませんでした。基礎年金の税方式も全く議論されませんでした。我々は厚労省の手の中で踊っているわけで、本来大事な年金改革案は全く議論されていない。こういうことも含めて、是非国会では議論していただきたい。  それから、福田内閣でやったときのように、厚労省じゃなくて内閣の下に、当時は社会保障国民会議というのを設けましたが、今でも全世代社会保障会議というのがありますので、そういうところで雇用制度も含めて議論していただかないとまずいわけです。やはり、高齢者がもっと働けるような状況にする、そのためには、いろいろな労働市場の整備が必要です。そういうことを踏まえて、一体的に年金問題を議論する。  先ほどの税方式になりますと、第三号の問題もなくなりますし、第一号の未納問題もなくなります、年金財政も安定化します。なぜ、この抜本的な議論、福田内閣のときには、これがあと一歩まで、できるところまで行ったわけですね。それが残念ながら潰されてしまった。今からでも遅くないわけで、是非、福田内閣のときに議論した社会保障国民会議の議論をもう一度やっていただきたいと思います。  御清聴ありがとうございました。(拍手)

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