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山本隆司 ·東京大学大学院法学政治学研究科教授

参議院消費者問題に関する特別委員会(2025-05-23)での発言

第217回国会 ·第第7号号 ·5,160字
○参考人(山本隆司君) 山本と申します。東京大学大学院法学政治学研究科の教授として行政法を研究しております。  私は、昨年、消費者庁に置かれた公益通報者保護制度検討会、以下検討会と申しますけれども、の座長を務めました。また、令和二年の公益通報者保護法改正時には、消費者委員会に置かれました公益通報者保護専門調査会、以下専門調査会と申しますけれども、そこで座長を務めました。本日の林参考人も参加をしておられました。  本日は、今回の法改正案につきまして、令和二年の法改正と比較しながら意見を述べさせていただきます。  まず、昨年の検討会についてです。  検討会は、令和二年の改正法の施行状況と次の段階の法改正について検討する目的で設置されました。委員として、消費者団体や連合、経団連、商工会、公益通報に関わる実務に携わる弁護士、各法分野の専門家が参加をしました。  昨年末に報告書が取りまとめられ、報告書で具体的な方向性が示された事項は今回の法改正案に全て反映をされております。  検討会での議論及び今回の法改正案の全体について、三点申し上げます。  まず第一に、令和二年の法改正との関係です。  令和二年の法改正は、平成十八年に公益通報者保護法が施行されてから十四年後のことでした。長年改正されておりませんでしたので、専門調査会では非常に多くの論点について検討することになり、大変苦労いたしました。それでも、通報を理由とする不利益取扱いに対する抑止、救済の制度について意見がまとまらず、改正法に盛り込まれないなど、重要な問題が積み残されました。今回、令和二年の改正法の施行から二年もたたないうちに検討会が設けられたことにはこうした背景があります。  そして、令和二年当時に積み残されたテーマも含めて、昨年の検討会では、公益通報者保護制度の実効性を向上させる効果が大きいと考えられるテーマに集中をして議論いたしました。その結果、議論が大きく進展をしました。背景には、以下第二点として申し上げる通報者保護をめぐる国際的な潮流がありました。  平成三十年に専門調査会の報告書が取りまとめられた翌年の二〇一九年ですが、その十月にEUの通報者保護指令、以下EU指令と申しますけれども、が成立をいたしました。  日本に直接関わる国際文書としては、同じ二〇一九年に日本を議長国として開催をされた大阪サミットで、公益通報者保護のためのG20ハイレベル原則が採択されました。また、昨年の五月には、国連人権理事会ビジネスと人権作業部会の訪日調査報告書が公表され、日本は公益通報者保護法の見直しにより通報者の保護を強化するように勧告を受けました。  こうした国際的な潮流に沿った公益通報者保護制度の整備が、日本の事業者が投資家や取引先から国際的な信頼を得るために必要不可欠であるということが、昨年の検討会での委員の共通認識でした。  第三に、昨年の検討会で議論に当たり注意した点について申し上げます。  検討会は、幾つかの種類の違法行為に対して刑事罰を新設するという意見を踏み込んで示しました。ただし、刑事罰は重大なペナルティーですから、違法行為の中でも刑事罰を科すに相当するものかどうか、また、刑事罰を科される行為の範囲を法律で明確に定められるかどうかという点も慎重に検討いたしました。  また、刑事罰の話に限らず、一方で公益通報を保護、促進すること、他方で事業者の組織を適切に運営することを、個別に細かく調整しバランスを取らなければならない問題があります。さらに、公益通報に話を限ることができない大きな問題もあります。こうした問題について、公益通報者保護法に特別な規定を現時点でどの範囲で置くことが適切かという点も慎重に検討いたしました。さらに、公益通報者保護制度の中の各要素のバランスにも留意をいたしました。  以下では、具体的に検討会の報告書及び今回の法改正案の内容のうち、四点に絞って申し上げます。  第一ですが、事業者が公益通報を適切に扱う体制の整備義務です。  この義務の法定が令和二年の法改正の中心でした。その体制整備義務の制度の中でも中核が、公益通報対応業務従事者の指定義務、通報者を特定する情報についての従事者の守秘義務、守秘義務に違反した従事者個人に対する刑事罰でした。  しかし、制度上、従事者を指定していない事業者に対する刑事罰は定めていないというアンバランスがありました。実態を調査したところ、非上場の事業者を中心に、従事者を指定していない従業員数三百人超の義務対象の事業者が一定程度存在し、中には従業員数千人超の事業者もありました。こうした状態に対応するために、今回の法改正案は、事業者に対する消費者庁の立入調査、命令、命令違反の場合の刑事罰を定めています。  さらに、検討会では、体制整備義務の対象を従業員数三百人以下の事業者に拡大すべきとの議論がありました。この点につきましては、今申しましたように大企業にも体制整備義務を履行していないところが一定程度あり、まずは従業員数三百人超の事業者による義務の履行を徹底するということが重要であると考えて、三百人以下の事業者への義務の拡大は提案しませんでした。もっとも、三百人以下の事業者にも体制整備の努力義務は法律上定められておりますので、消費者庁において、体制整備のための助言、指導、支援を更に進めていただきたいと考えております。  第二点ですが、通報を阻害する要因への対応、特に通報妨害や通報者の探索の禁止です。  こうした行為は民法上の公序良俗違反や不法行為になり得るものですが、それでも令和二年の法改正時には意見がまとまらず、法制化されませんでした。今回の法改正案では、これらの行為の禁止を明確に定めています。  昨年の検討会では、さらに、探索を行った事業者や行為者に対する刑事罰を規定すべきという意見もありました。しかし、不利益取扱いや、さきに述べた、従事者に限り刑事罰が科される通報者情報の漏えいと比較をして、探索それ自体では様々な行為が包含されることになり、刑事罰を科すことが相当な行為と言うのが難しいため、この点は合意しませんでした。  第三点ですが、通報を理由とする不利益取扱いに対する抑止、救済の制度です。  こうした制度について、令和二年時の専門調査会では主に二つの点を議論いたしました。一点目は、通報から一年以内の解雇について、通報を理由とするものでないとの立証責任を事業者側に転換することでした。解雇に限定をした議論でしたが、それでも委員の間で意見は一致をせず、実現に至りませんでした。二点目は、事業者の不利益取扱いに対する行政措置を定めることでした。しかし、そのために必要な行政機関の体制の構築にめどが立たず、これも実現しませんでした。  これらの点について、今回の法改正案では、通報があったことを事業者が知ってから一年以内の解雇及び懲戒について、通報を理由とするものでないことの立証責任を事業者側に転換する、また、通報を理由に解雇及び懲戒を行った法人及び個人に対する刑事罰を定めるということとしております。  もっとも、昨年の検討会では、ヒアリングの中で、実際の不利益取扱いとしては配置転換や嫌がらせが多いという主張があり、これらについても立証責任の転換や刑事罰を法定すべきではないかという議論があり、この点についてかなり集中的に議論をいたしました。  しかし、配置転換については、国際比較した場合の日本の特徴を考慮する必要がございます。日本の現状では、配置転換が、人材育成や適材適所の観点から、事業者の人事上の裁量により定期、不定期に頻繁に行われております。個々の事案で配置転換が不利益取扱いに当たるか否かの判断自体、容易ではございません。これに対し、アメリカやEU諸国では、個々の労働者の職務内容や勤務地などをあらかじめ定めるジョブ型の雇用がかなり広がっており、配置転換をする際には事業者に慎重な判断が求められると思います。  また、国際的に制度を比較いたしますと、日本は、通報が保護される要件が緩やかに法定されており、保護される通報をしやすい状況にあります。内部通報は、通報対象事実があると通報者が思料すれば、つまり考えれば、保護されます。行政機関への通報も、令和二年の法改正により、氏名等を記載した書面を提出すれば、思料するという場合にも保護することとされました。EU指令は、いずれの通報にも不正行為が真実であると信ずるに足りる合理的な理由が必要であるとされており、日本では要件が一段階緩やかに定められております。  こうした状況で立証責任の転換や刑事罰が制度化されますと、労働者が通報を理由とする配置転換であると主張する場合に備えて、事業者が配置転換の正当な理由を説明するために解雇や懲戒と同程度に準備をしておく必要が生じます。このことは事業者にとって大きな負担となり、人事の支障になるおそれがあると主張されております。対応できる企業もあると思いますけれども、不利益取扱いに関する立証責任の転換や刑事罰は中小企業も含めた全ての事業者が対象になるという点に留意をする必要がございます。  また、立証責任の意味は複雑ですので、一言御説明をいたします。  立証責任が通報者側にあるということの意味は、裁判所が審理を尽くしても配置転換が通報を理由とするものか否かが明らかにならないという場合に、配置転換が通報を理由とするものではないと裁判所が判断することにあります。逆に申しますと、配置転換が通報を理由とすることが明らかになれば立証責任は問題にならず、裁判所は通報者の主張を認めます。  また、裁判においては、立証責任がいずれの側にあっても、通報者、事業者の双方が事実や証拠を提出し、審理が尽くされた上で裁判所が判断するということは変わりません。仮に事業者が配置転換の正当性を根拠付ける事実や証拠を裁判所に提出しないということになれば、裁判所は事業者の主張の合理性を疑い、配置転換が通報を理由とするものと判断する可能性があります。  法案は、配置転換について立証責任の転換を定めておりません。しかし、解雇、懲戒について立証責任の転換が定められることにより、配置転換の場合も、裁判所が通報を理由とするものか否かを一層注意深く審理し判断するということを促す効果はあるのではないかというふうに期待をしております。  なお、嫌がらせについては、その範囲が不明確と言わざるを得ないというところがございます。公益通報を理由とする嫌がらせに限って立証責任の転換や刑事罰を制度化する理由が見出し難いという問題もございます。  第四に、昨年の検討会では、逆に濫用的通報者に対する刑事罰についても議論しました。令和二年の法改正時には議論されなかったテーマですが、EU指令が悪意ある虚偽の通報に対して罰則を規定したということが昨年の検討会での議論の背景にありました。  しかし、現実に問題とされている濫用的通報行為が刑事罰を科すに相当する行為かどうか、また、刑事罰の法定により抑止されるかどうかという点については、実態を踏まえた検討が必要です。それなしに刑事罰を定めますと、通報を過度に抑制するおそれがあります。そのため、昨年の検討会では、濫用的通報について、まずは実態調査を行い、その結果を踏まえて必要な検討を行うということを提言しました。  以上、四点申しました。  ほかにも、昨年の検討会で主要な論点とはされませんでしたが、公益通報者保護法の対象法律の範囲や定め方など、引き続き調査検討が必要な論点もあります。  ただ、法改正につきましては、必要な知見が全てそろい、全ての当事者が納得する形で法改正が実現する環境が整うまで待ってから行うという、言わば完璧主義のアプローチと、少しずつでも迅速に法改正をしていくという漸進主義のアプローチが考えられます。昨年の検討会では、全ての委員から漸進主義で法制度をより良いものにしていくという合意をいただきました。また、私は、令和二年の法改正時に大変苦労したという経験からも、漸進主義で考えております。まずは、この内容の法改正を早急に行い、国際的な動向にもキャッチアップをするということが重要ではないかと考えております。  国会の審議におきましても、こうした私たち委員の思いに御理解を賜れば幸いです。  私からは以上といたします。

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○参考人(山本隆司君) 御質問ありがとうございます。  先ほど議論がございましたように、公益通報者保護法というのはいろいろな面があると思います。つまり、労働者と事業者との間の関係…
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2025-05-23 · 参議院消費者問題に関する特別委員会
○参考人(山本隆司君) 今御指摘がありましたように、配置転換に関しましては、これはいろいろな意見がございました。  一つには、今回、その解雇あるいは懲戒について、立証責任の転換あ…
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2025-05-23 · 参議院消費者問題に関する特別委員会
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