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上山隆大 ·政策研究大学院大学客員教授

参議院内閣委員会(2025-06-03)での発言

第217回国会 ·第第19号号 ·3,448字
○参考人(上山隆大君) ありがとうございます。本日、参議院に提出され、審議されることになっております新しい日本学術会議法案について意見を申し上げる機会をいただきました。  私は、二〇一六年から九年間にわたって内閣府総合科学技術・イノベーション会議の、CSTIといいますが、常勤議員を務めて、その間に幾つかの場面で日本学術会議の在り方に関する議論に参加した経験も踏まえ、自身の見解を述べたいと思います。  私のアカデミックのバックグラウンドを申し上げますと、アメリカのスタンフォード大学の大学院を経て、上智大学、慶応大学での教員生活、そして政策研究院大学の副学長を務めてまいりました。その間の研究者としての関心はアメリカやイギリスでのアカデミアの歴史的変遷と科学技術イノベーション政策でしたが、特に米国と英国のアカデミーの歴史的状況についても関心を持っております。  以上の経験と知識から、法案の骨子である日本学術会議が政府の機関から離れ、独立した法人として再出発を支援するこの法案に賛成の意見を持っております。  以下、五つの点について陳述させていただきます。  第一に、私がこの法案を支持する最大の論点は、国を代表するアカデミーは決して政府の中に存在してはならないというアカデミーの根幹の大原則に沿うものだからです。  各国のアカデミーは、学問の自由、アカデミアの独立、自律性を堅持し、政府の政策に対しても十分な科学的根拠を持って自由に賛成あるいは反対の見解を述べることができる組織でなければならないという原則で貫かれています。各国のどの国においてもアカデミーが政府の中に入らないのは、アカデミーが行う科学的調査、分析について、国民の目からは政府の関与や政府への忖度が疑われてしまいかねない、それは避けなければならないという大原則を貫こうとしているからです。  このように申しますと、各国のアカデミーはそれぞれの歴史的な経緯を背負っている、我が国においても独自の歴史的背景があったのだというお答えが必ず返ってまいります。我が国においては、さきの大戦において科学者が戦争の遂行に心ならずも協力してしまったことへの強い反省が日本学術会議設立の精神であって、その目的を達するためには政府の中に存在しなければならないというお考えが返ってまいります。しかしながら、戦後既に八十年を経て世界に冠たる成熟したアカデミアへと変貌した現状において、それぞれの極めて見識のある科学者の自己判断で下した見解を組織としてまとめ上げるために政府の中にいることの影響力がどれほど大きなものであるのか、私には理解できません。これがまず申し上げたいことです。  第二に、日本学術会議の在り方については、現在のCSTIの前身である総合科学技術会議において平成十五年に「日本学術会議の在り方について」という意見具申が取りまとめられ、そこには、欧米主要国のアカデミーの在り方は理想的方向と考えられ、日本学術会議においても今後十年間に改革の方向の進捗状況を評価し、より適切な設置形態の在り方を検討すべしと記載されています。そのあるべき理想型とは、国から独立した政府組織形態ということにほかなりません。我が国の見識ある科学者が平成十五年に書き残しているメッセージは、紛れもなく世界のアカデミーの独立の理想型に近づけよというものであったと私は指摘したいと思います。  第三に、日本学術会議が二〇二一年四月の日本学術会議のより良い役割に向けてという声明の中で示された、ナショナルアカデミーの満たすべき五要件が発表されました。学術的に国を代表する機関としての地位、そのための公的資格の付与、国家財政支出による安定した財政基盤、活動面での政府からの独立、会員選考における自主性、独立性です。  私がこの法案に賛成するのは、政府の中にとどまっている限り、この要件は十分には担保されないだろうと考えているからです。それは、特に国家財政支出による安定した財政基盤と活動面での政府からの独立という部分に関わります。このことに関連して、一つの経験を申し上げたいと思います。  二〇二〇年五月のコロナパンデミックの真っただ中、アメリカのアカデミー・オブ・サイエンスもイギリスのロイヤルソサエティーも、所属する専門家の大規模なチームをつくって、コロナ感染症に関する科学的分析に基づく驚くべき数の提言を次々と発表し、その中には政府の方針への批判を含むものさえあったと記憶をしています。一方で、日本学術会議は、感染症についての特別委員会を設けて国際的動向に関連する論文の紹介はしましたが、諸外国のアカデミーの取組とは比較にならないほど静観したものでした。  当時、CSTIでこの問題に直面していた私は、日本学術会議の当時の会長に対して各国の取組を紹介し、学術会議の姿勢について質問をしたことがございます。その回答は、政府の専門家会議に物申すというのは現時点ではなかなかできにくいというもので、最終的には会長の一枚紙の談話の発表にとどまったと記憶をしています。政府の中にいることで、政府の政策、ポリシーに批判的視点を持って科学的に重厚な分析を付与しながら関与することの難しさがあるのだろうとその当時納得をいたしました。  第四のポイントはこの点と関わります。コロナ感染症の経験は今申し上げましたが、私は、日本学術会議が他国のアカデミーと比べて科学的助言に積極的にならなかったことを批判することはできません。それは、日本学術会議の財政的基盤が、そのような重厚な科学的分析に基づく提言を行うことができないほどに貧弱であると承知していたからです。  アメリカのアカデミーの場合、年間の収入は約四億六百四十万ドル、日本円にして六百億程度、予算の八五%は連邦政府の契約や助成金から、残りは民間財団や企業からの寄附によって賄われて、年間約二百本を超える重厚な報告書を発行し、科学政策に関する助言を提供しています。翻って、我が国の学術会議の予算は年間十億円、その半分は事務経費などの運営資金ですから、会議に参加している科学者をまとめ上げて真摯な科学的、学術的分析を行うほどの体力を与えられていないからです。  どの国でも、アカデミックな視点からの政策への提言をますます求められるようになっている。その基盤となるアカデミーは、政府や各省との真摯な対話を通して社会の課題を解決するための政策提言、これは助言よりももっと政策に直結するものだと思いますが、それを行う責務があります。それは、現代のアカデミーに求められているサイエンス・フォー・ポリシーです。そして、それを遂行するために、政府との対話によって様々な形の契約や助成金を政府から得る一方で、その活動への信頼を高めて民間からの寄附を募っていく。そのような強固な組織を自らでつくり上げていくためには、政府から独立した組織へと変貌することが不可欠であると信じております。  第五に、新法人において会員以外の外部の者で構成される四つの委員会、すなわち選定助言委員会、運営助言委員会、監事、評価委員会の導入が、学術会議の独立性を脅かす可能性があるという意見があるのは承知をしております。  この懸念の妥当性を論じるためにもう一つ付け加えたい必要な視座は、今後の学術会議を、より広範囲な国民の理解を得て大きな組織へと拡大、発展させていくべきだと考えているのか、あるいは、現状の小さな予算で政府の中にとどまって、世界のアカデミーと比べてもはるかに小さな社会的影響力しか持たない現状を維持したいと考えているか、このどちらかです。  私は、本来のアカデミーの使命を考えれば、より政府や国民の信頼を得て、科学者の集まりである学術会議がその時々に求められる専門知を迅速に提供する、そのためには、組織の財務と政府との信頼を確実なものにして政府予算をもっと拡大させ、また民間との連携を強めるべきだと考えています。さきに挙げた委員会は、それらのことを行うためのコミュニケーションのツールにすぎません。問題は、こうした委員会を通して深い信頼のコミュニケーションのネットワークを学術会議の外へと広げていくこと、それが法人化後に生まれてくる学術会議の更なる発展につながると確信をしております。  私からは以上でございます。

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