○公述人(西川邦夫君) 茨城大学で教員をしております西川邦夫と申します。
本日は、公聴会で意見を述べさせていただく機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
私、大学では農業経済学、それから農政学の研究、教育に当たっております。フィールドワークに基づきながら、主に米政策を中心に研究を進めております。
本日は、お手元にあります意見のアウトラインも御参照になりながらお聞きいただければというふうに考えております。
私は、本公聴会におきまして、一次産業に関する意見の公述を求められているというふうに認識しております。そこで、本日は、先日閣議決定をされまして、そして今国会に提出されております食品等の流通の合理化及び取引の適正化に関する法律及び卸売市場法の一部を改正する法律案について意見を述べさせていただきたいと思います。非常に長い法律案になっておりますので、以下では適正価格法案と呼称して意見を述べさせていただきたいと思います。
ちなみに、同法案に関係いたしまして、農林水産関係の二〇二五年度予算案に計上されている額は、農産物のコスト調査ですとか、それから消費者の理解の醸成に向けた広報として五千二百万円になっております。また、二〇二四年度補正予算では六億円というふうな形になっておりますが、予算額以上の影響を日本の経済ですとか社会に与える可能性があるというふうに認識をしているところであります。今国会における農政関係の提出法案の中でも最重要なものであるというふうに考えております。
〔委員長退席、理事進藤金日子君着席〕
まず、本日は、農産物の、これから私が話す内容でありますけれども、農産物の適正価格ですね、これがポイントになってくるわけなんですが、それをめぐる生産者と消費者の認識について、違いについてまず御説明をしたいと思います。その後、同法案の特徴を簡単に整理いたしまして、最後に、法案が抱える課題について四点ほどコメントをさせていただきたいと思います。私の専門の関係から、米を中心としたコメントになるというふうなことを御容赦いただければというふうに思います。
あらかじめ私の意見の結論を申し上げますと、同法案は農畜産物の公正取引の確保を目指すという点では大変評価できる内容になっているというふうに考えておりますが、生産コストですとか流通コストが転嫁される消費者の家計に対する配慮を欠いているという点でやや問題があるのかなというふうに考えているところであります。
先生方も御承知のとおり、いわゆる令和の米騒動と呼ばれます昨年からの米不足、米価の高騰が世上をにぎわせているところであります。
総務省の小売物価統計によりますと、東京都区部におけるコシヒカリの五キログラム当たりの価格は、二〇二四年一月には二千四百四十円でございましたが、本年の一月には四千百八十五円へと七一・五%上昇しております。また、日本銀行が本年一月に公表いたしました経済・物価情勢の展望によりますと、米価の上昇が物価全体の引上げ要因になるというふうな、そんな指摘もされているところであります。
以上の米価の高騰は、一食料品の問題だけではなくて、広く日本経済と国民生活に波及した問題となっているということであります。価格の高騰が見られるのは米だけじゃなくて、青果物についても及んでいるところであります。
そして、今回の米価の高騰におきましては、その受け止め方が生産者と消費者によって異なっているという点が際立った特徴になっているのかなというふうに考えております。
生産者にとりましては、肥料や農業機械等の農業生産資材が高騰する中で、やっと一息つけるようになった価格になったというふうな、そういった意見が多く聞かれるところでございます。
農林水産省の農産物生産費統計によりますと、こちらは三年前の二〇二二年産のデータにはなりますが、生産費は六十キログラム当たり一万五千二百七十三円なのに対して、粗収益、こちらはおおむね生産者の手取り米価に該当いたしますが、こちらが一万二千円ということで三千二百七十三円下回っているというふうな状況になります。つまり、米価によって生産コストが償えていない状況にあるというのが現在の稲作の状況であるというふうなことになります。
一方で、消費者にとっては、米価の急激な上昇に対して戸惑う声が多く聞かれるということであります。物価の上昇に賃金の上昇が追い付いていない現状の下では、米価の突出した上昇が家計のやりくりを苦しくしているということであります。
家計における食料支出を消費支出の合計で割った値をエンゲル係数というふうに呼んでおりますが、こちらは一般的に経済成長とともに低下をしていくというふうに言われております。総務省の家計調査を用いまして二〇二四年における二人以上世帯のエンゲル係数を計算いたしますと、こちら二八・三%に達したわけであります。ちなみに、二〇〇五年は二二・九%ということでありまして、理論上解釈すると、経済はだんだんと停滞しているというふうな、そんなことになってくるわけであります。食料支出が消費者の家計を圧迫しているということは明確なところであります。
〔理事進藤金日子君退席、委員長着席〕
以上のような状況の下で、令和の米騒動をめぐっては農産物の適正価格をめぐる生産者と消費者の捉え方の違いが浮き彫りになりつつあります。生産者にとっては、適正価格というのは自らの経営の再生産を確保することができる価格であります。一方で、消費者にとっては、家計の安定に資する価格でありまして、現在のように家計が苦しくなっている下ではなるべく安い方がいいというふうな、そんな状況になっているわけであります。
以上の状況の下で今国会に提出されましたのが、適正価格法案と呼ばれるものであります。
こちらの目的なんですけれども、生産・流通費の価格交渉における反映を通じまして合理的な価格が形成されること、それを目指しているのがこの法案というふうなことになっております。
ここで登場するのは、まず農林漁業者、こちらは生産者でありますけれども、それと食品等事業者というふうなことになります。食品等事業者とは、こちら法律の、法案の中身になりますと、食品等の製造、加工、流通又は販売の事業を行う者というふうに定義されております。
同法案は、これから述べます三つの柱から構成されております。
まず一つ目に、農畜産物の取引において、生産者と食品等事業者が持続的な供給に必要な費用への考慮や、商習慣の変更に関する申出があった場合に検討、協議をする努力義務が課されるというところであります。
二つ目に、農林水産大臣は、検討、協議が、その生産者と食品事業者の間でそういった検討、協議が適切に行われているかどうかの判断基準を示すというふうになっております。こちらの判断基準は行動規範というふうに呼ばれて、とも呼ばれておりますが、それに照らして不十分な場合は、指導ですとか助言又は勧告、公表等が行われるということになります。この判断基準は農林水産省令によって定められるというふうなことにもなっております。
そして第三に、農林水産大臣は、指定飲食料品等と呼ばれる品目につきまして、価格交渉の材料となる費用の指標を作成、公表すると、そうする団体を認定いたします。これらの詳細も農林水産省令によって定められるというふうなことになっております。
適正価格に関する議論が始まった当初は、こちらの農畜産物の生産・流通費が小売価格に転嫁される、いわゆる価格転嫁の面ばかりが注目されましたが、でき上がった法案は、不当な買いたたきですとか、それから廉売を防止するための公正取引の確保といった点にも目を配った内容になっておりまして、そちらの点は私は大変評価できるのではないかというふうに考えております。一方で、生産・流通費を取引を通じて結果的に小売価格に反映させることを求めているという点については変わりはないわけであります。
そこで、以下では今後の論点として四点ほど私が考えていることを指摘させていただければというふうに考えております。
まず第一に、同法案には消費者の家計に対する配慮を直接示す条項がないというところであります。
先ほど申しましたように、生産・流通費を反映した価格は最終的には小売価格へと転嫁されるわけであります。農林水産省において適正価格について議論してきました適正な価格形成に関する協議会というものがございますが、そちらの議事要旨等を見ますと、価格転嫁された食品を消費者は必ず購入するとは限らないと、また、消費者が購入するためには物価上昇を上回る賃上げが必要であるということが度々指摘されておりますが、提出された法案にはそういった消費者の家計に対して配慮する施策の方向性というものは示されていないということであります。
現状のままですと、その同法案の帰結といたしましては、小売価格の上昇を通じてエンゲル係数が更に上昇するか、若しくは、消費者が国産農産物を用いた食品の購入を控えて、外国産の原料を用いた食品の購入を増やすことにもなりかねないかなというふうなことは考えております。
第二に、いわゆる技術的なことでありますが、先ほど申しました行動規範とか指定飲食料品等の指定等、こちらが省令によって決められるということであります。
例えば、食品等事業者のどういった行為が努力義務の違反になるかとかそういった点は、そういった実際の法律の運用は省令によって決められるということに今なっております。この点は、実際の価格がどういうふうにして決まってくるのかという非常に重要な点ではありますが、あくまで省令によって決められますので、その内容が国会における議論の対象となるのかというのは定かではないということであります。
私の、研究者の問題意識からすると、例えば、じゃ、その小売価格に反映されるべき国産農畜産物の生産コストの水準、そういったものが果たして合理的なのかという、そんな関心もございます。
例えばでありますが、国産米と品質的に競合するアメリカ・カリフォルニア州の米の生産費は、私の計算ですと、二〇二二年で六十キロ当たり五千三十三円と、国産米の三分の一になっております。つまり、国際的に見ますと、国産米の生産費は相当高いというふうなことになります。
何が適正なのかとか何が合理的なのかというのは、同法案の根本に関わるものとなっております。ですので、国会におかれましても、それらの点を含めて具体的な議論をお願いしたいというふうに考えております。
第三に、米政策に引き付けて考えますと、適正価格に関するこれまでの議論はいわゆる生産調整政策の継続を前提としてきたということであります。
先ほど挙げた適正な価格形成に関する協議会では、生産・流通費を反映した価格は需要に応じた生産が前提になっている旨の指摘がされております。これは、要は、需要に対して供給が上回っている供給過剰の下では生産・流通費を反映させることは難しいという、そういったことが背景にはあるわけなんですが、この需要に応じた生産とは、米の場合は生産調整のことを端的には指しているということであります。
そういった需要に応じた生産の下、政府は毎年、需給の見通しを公表し、それに沿って各道府県が生産の目安を策定しているというのが現状でありますが、つまるところ、同法案は、生産調整によって米の供給量をある程度絞った上で、生産・流通費を小売価格に反映させる仕組みに結果的にはなっているというふうなことを指摘しておきたいと思います。
最後に、日本が取っている農産物の輸入政策を前提といたしますと、国産農産物の生産費を小売価格にそのまま転嫁することは必ずしも妥当とは言えないということを指摘したいと思います。
現在、外国産米の輸入は国家貿易によって管理されておりますが、七十八万トンがミニマムアクセス制度によって毎年一定量輸入されて、それを超える量については枠外関税を徴収して輸入することは可能になっております。現在、米価が高騰しておりますので、枠外関税を支払っても外国産米が安くなりますので、相当程度輸入が見込まれるというふうなことも新聞等で報じられているところであります。
今述べた米の輸入政策は、外国産米の輸入に対する制限措置を設けて国内の稲作を保護しているわけでありますが、これは、消費者の視点から立ちますと、安い外国産米へのアクセスが制限されているという、そういう状態にもなるわけであります。消費者にとっては、選択肢が最初から狭められている中で生産・流通費に基づく価格が転嫁されると、言わばそれら費用が押し付けられるというふうなことにもなりかねないということを指摘したいと思います。
繰り返しになりますが、同法案が消費者の家計に対する配慮を明確にしつつ、農畜産物の価格形成に寄与するものとなることを期待しております。
私からの意見は以上です。どうも御清聴いただきまして、ありがとうございました。
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○公述人(西川邦夫君) 御質問ありがとうございます。
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○公述人(西川邦夫君) この適正価格とその合理的な価格ですね、こちらの違いというのは、私もこれも、何といいますか、農林水産省等の資料からの説明にはなりますけれども、合理的な価格とい…
API / MCP 利用
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REST: /v1/diet/speeches/search?speaker=西川邦夫
MCP: search_diet_speeches(speaker="西川邦夫")