○公述人(東野篤子君) 本日は、貴重な機会をいただきまして、誠にありがとうございました。ただいま御紹介にあずかりました筑波大学の東野でございます。
本日、私の方からは、ロシアによるウクライナ侵略の経緯と現状、そして日本の取るべき方針についてお話をさせていただきたいと思います。
先生方のお手元には事前にお渡しいたしました資料が配付されていることと思います。十五分しか時間がございませんので、資料に関してはごくごく参考程度ということでお話を進めさせていただきたいと思います。
まず、ロシアによる侵略なんですけれども、よく三年目というふうに言われます。実際には十一年目でございます。ウクライナ人の方々に話を聞くと、全面侵攻が始まったのが三年目にすぎなく、本当の侵攻は二〇一四年のロシアによるクリミアの占領と、それからドンバスの戦い、これ以降からずっと十一年間続いているという理解でございます。ですので、この十一年目を迎えた侵攻に関して我々一体何ができるのかということを考えるフェーズに入っているというふうに考えます。
なぜこのような侵略がそもそも起こっているのかということなんですけれども、私は、いろいろな複合的な理由を多角的に見る必要はありながらも、やはり非常に重要な理由としてプーチン大統領の歴史観に深く根差した侵略であるというふうに考えております。
二〇二一年の夏にプーチン大統領は、「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」という論文を発表し、それは今でもクレムリンのサイトに英語でもロシア語でも掲載されています。それによると、本来、ロシア人とウクライナ人は文化も言語も同一であり、ウクライナのものと言われているものは本来的にはロシアのものであると、なのでロシアとウクライナは一体であることが歴史の正しい姿なんだけれども、今はウクライナが血迷って歴史の正しい方向に向かっておらず、EUやNATOなどに接近している、これはよろしくないという趣旨のことでございました。
つまり、ウクライナというのはロシアに従属した、ロシアに必ずくっついた存在でなければならないというのがプーチン大統領の歴史観である以上、例えばどこの領土を取ったらもうここで満足とか、そういった話では恐らくないのだろうというふうに考えます。
ですので、日本でこの問題を議論するときに往々にして、領土ぐらい割譲すればいいのではないかとか、占領ぐらい受け入れたらいいのではないかというような議論がありますけれども、恐らく問題はそうではない。領土のここを渡せばプーチン大統領は満足とかそういうことではなくて、恐らく目指しているのは、ウクライナの属国化でありますとか、主権の弱体化でありますとか、それから西側に一切依存しないウクライナでありますとか、そういった姿を求めているのだとすると、停戦をしたところで、停戦というのは非常に大事でありまして、停戦自体は歓迎すべきことではありますけれども、その更に先を見据えて考えていかなければならないのではないかと思います。
その際に、やはり現在のウクライナとして、軍事力をもって全ての支配された、ロシアに支配された領土を奪還することは非常に難しいということは、ウクライナ政府並びにゼレンスキー大統領も認めているところでございます。ただ、このときに、じゃ、占領や支配を受け入れるのかというふうに外部の我々が果たしてどれほど言うことができるのかというと、やはりそこは占領というものの実態をしっかり見ておくべきではないかというふうに考えます。
この三年間で明らかになったことは、占領を通じてロシア化が進む。このロシア化というのは、例えばロシアのパスポートをその占領地域の人々に配る、で、パスポートをもらうだけにはとどまりませんで、就職とか教育とか各種の行政サービスが、ウクライナ人としてではなく、ロシア人として受ける。そうでなければ、そういったサービスが受けられないというような状況が起こっておりますし、また、しばしば指摘されるところとして、子供の連れ去りが占領地域で起こってしまうということであります。
この占領の固定化をするということが一体ウクライナの将来にいかなる帰結をもたらすのか、そして安易に占領を進めてしまうような、あるいは占領を黙認してしまうようなことが国際的な秩序にとってどのような帰結をもたらすのかということについては、私たちはしっかりと考えておかなければならないというふうに思っています。
先生方も御関心を持って日々注視されていることと存じますけれども、トランプ政権の成立後のロシアによるウクライナ侵略がどのような帰結を迎えようとしているのかというところ、こちらは大変に重要な問題でございます。トランプ大統領が就任してから急激に停戦のフェーズ、段階に入ってきているということであります。
これは、やはりトランプ大統領の様々な、その秩序観とか、それから戦争をめぐる考え方が強く反映されているものだというふうに考えられますけれども、重要な特徴としてスピード重視ということがございます。このスピード重視というのは、やはり今言われている四月二十日のイースター停戦に向けて、多少細部が詰められていなくても、とにかく停戦に向けた動きをしていくということで非常に大きな展開を迎えているところでございます。
同時に、トランプ大統領のウクライナをめぐる認識とか大国の意識、あるいは大国が小国に接するときの意識、あるいは平和観ですとかあるべき国際秩序、こういったものも非常に大きく影響を与えております。よく出てくる、力による平和とか大国による秩序ということが、恐らくロシアによるウクライナ侵略のアメリカの関与に関しては非常に色濃く反映された状況が生まれてくるかというふうに思います。
こうなってきますと、やはりやや注意して見ていかなければならないのは、ややもすると侵略されているウクライナの主権とか領土的な一体性に関して後回しの解決になりかねないということであります。日本は、G7の一員としてウクライナの主権や領土的な一体性の重要性を過去三年間訴えてまいりました。この方針とそごがないように、あるいは日本の外交の継続性とか透明性に関してやはり強く意識をする段階に入ってきているのではないかと思われます。
先日行われましたアメリカとウクライナの高官協議、そしてその結果出てきた共同声明に関しては、アメリカとウクライナの二か国でようやく停戦をめぐる議論のスタート地点ができたという認識で間違いないというふうに思います。これは、そのスタート地点ができると同時に、二月二十八日のトランプ大統領とゼレンスキー大統領の会談、非常に激しいものとなりましたけれども、あの状況から発生した冷戦状態が何とか一段落をしたというところでありまして、あらゆる意味でスタート地点であり、あの共同声明のまま事が進むわけでも全くございません。
これから何が大事になってくるのかというと、まずロシアはそれに合意するのか、合意した場合に守るのかということです。ですので、何かこう、何か一段落したかのような報道も多く見られますけれども、そうではなく、これからロシアがどのような条件で合意して、どのような条件できちんと履行するのか。これはもちろん停戦ということでありますので、ロシアとウクライナ双方の停戦の履行状況を見ていかなければなりませんけれども、しかし、まだまだ多くの段階があるということでございます。
また、日本でも多々報じられました鉱物資源合意をめぐる諸問題でございますけれども、こちらに関してはまだまだウクライナの認識とアメリカの認識が食い違っていると言わざるを得ません。つまり、ウクライナに関しては、将来的な安全の保証、つまりロシアが再度侵略をしてこないための様々な措置、これが欲しい。そのための一つのツールとして鉱物資源合意があるのに対し、アメリカは精算であります。過去のアメリカが支払ってきた支援を少しでも戻したいというような認識の下に鉱物資源合意に対して扱っておりますので、やはりまだまだ認識は埋まっていないと考えた方がよい。
ですので、先ほどから私がスタート地点と申し上げているのは、それでも将来的にアメリカとウクライナとの間で鉱物資源合意に関してまた話合いに戻ってくるということが言われて、これは歓迎すべきことではあると思いますけれども、それに関しても何かが決まったわけでもないということであります。
私は欧州の国際政治を専門といたしております。この欧州の国際政治ということを考えるならば、やはりトランプ後の欧州は非常に大きな衝撃を受けております。これまでは、ウクライナに対する支援と、それからヨーロッパが自分たちの身を守る、将来的にロシアが自分たちに攻撃を仕掛けてこないように自分たちの身は自分たちで守るということはある意味ちょっと別々の話だったわけですね。
ところが、トランプ大統領が出てきて、想像以上にトランプ大統領が、あるいはトランプ政権がヨーロッパを同盟国として守る意思が希薄なのではないかと、こういった意識がヨーロッパに衝撃を与えております。このために、今この段階では、ウクライナ支援とヨーロッパの自衛とかヨーロッパの戦略的自律性、こちらが合体したような、そういったフェーズが今生まれてきているということでございます。
つい先日合意されたばかりのEUの欧州再軍備計画というのはまさにそういうもので、ヨーロッパを軍事的に強くする、その枠組みの中でウクライナに対して支援を行うというようなことになっておりますので、ヨーロッパの危機感は非常に強い。これはまだまだ過渡期にありますけれども、今まで盤石な同盟関係であった米欧関係が今離れていきつつあり、むしろヨーロッパが脱アメリカ化している、そういったフェーズに今入りつつあるのではないかと考えております。
さて、このような中で日本はどのような道を取るべきなのかということなんですけれども、参考資料として出させていただきましたドイツのキール研究所の出しましたウクライナ・サポート・トラッカーというサイトがございます。こちらで、今年の二月の末までにどういった支援がなされ、そして日本はどのような立場にあるのかということがこちらから分かるわけでございますけれども、まず、日本の支援というのは世界第五位でございます。アメリカ、EU、そしてドイツ、イギリスに次いで日本は第五位の地位に出しております。
よく支援の話をすると、日本の支援は世界にどのように伝わっているのかとか意識されているのかとか、そういった質問を受けますけれども、この日本の支援に関しては非常にすばらしいということで、ウクライナにおいても大変に高く評価をされています。
一方で、これ日本の支援、GDP比ということになってみますと、このホチキス留めを開いていただき、ちょうどこのような形になっているような資料を御覧いただきますと、GDP比では日本は第三十二位でございます。上位を占めているのがエストニア、デンマーク、リトアニアのようなヨーロッパの比較的小さい国々でありまして、日本はハンガリー、マルタ、アイルランドの下、三十二位でございまして、日本のGDPの総額の〇・二三%を占めております。
よくウクライナ支援の話をしますと、そういった支援はウクライナに使うのではなくて日本の中で使うべきではないかというような議論もしばしばお伺いいたします。それはそれで一つの正論ではあろうかと思いますけれども、しかし、日本のGDPの〇・二三%を使用したところで日本というのは揺らいでしまうような国だろうかとか、地方への支援ができなくなる国だろうかとかいうことは、冷静にファクトを持って考えていくべきなのではないかと私の方は考えております。
最終的に、その支援も含めて問われるべきは何かということを考えていきたいわけですけれども、問われるべきはやはり日本がどのような国でありたいのかということも含めた日本の姿勢なのではないかというふうに思っています。
昨今のトランプ政権のアメリカでは、価値ですとか規範、秩序とか法の支配などといったものを排除しないまでも極めて軽視する可能性が高いということは多くの方がお気付きなのではないかと思います。しかし、日本が同じようなことをやった場合にそれができるのか、そしてそれをやったときに日本は生き残ることができるのかということはしっかりと考えておく必要があると思います。
私は、むしろそういった価値とか規範や秩序に日本は守られてきた側であり、それを捨てることによって生き残る側になるのかということは大きな疑問を持っております。むしろそれらは、日本ですとか、今後日本が連携をしていかなければならないグローバルサウスなどの国々を守っていくものではないかというふうに考えられるわけです。
ですので、そのトランプ政権の行方と、そして日本にとっては非常に大事な同盟国であるアメリカと協調体系を取っていくことというのは大変重要ではありますけれども、捨ててはならないものとそれから見切りを付けるべきものに関して日本は冷静に考えて、どの方針を、いかなる方針を取っていけばいいのかということは今後真剣に議論すべき段階に入ってきたのではないかというふうに考えております。
私の話は以上とさせていただきます。
東野篤子 の他の発言
2025-03-13 · 参議院予算委員会公聴会
○公述人(東野篤子君) 臼井先生、再び貴重な質問をどうもありがとうございます。
ロシアの継戦能力あるいは経済状況につきましてですが、やはりインフレが非常に高くなっているというこ…
2025-03-13 · 参議院予算委員会公聴会
○公述人(東野篤子君) 臼井先生、貴重な質問をどうもありがとうございました。
ゼレンスキー大統領が独裁者であるという発言は、恐らくトランプ大統領だけではなくて、共和党の一部にあ…
2025-03-13 · 参議院予算委員会公聴会
○公述人(東野篤子君) 徳永先生、貴重な質問をどうもありがとうございます。
今後のその米欧関係の大きなピクチャーということで御質問いただいたのではないかと思いますけれども、まず…
2025-03-13 · 参議院予算委員会公聴会
○公述人(東野篤子君) ありがとうございます。
タイミングと申しますと、大変難しい問題でございます。全てのウクライナ国民は一日も早く、一時間でも早く停戦したいと思っていると思い…
2025-03-13 · 参議院予算委員会公聴会
○公述人(東野篤子君) ありがとうございます。
公明党さんはずっとOSCEの重要性について大変に強力に発信をしてくださっており、私も大変感謝しております。
というのは、日本…
2025-03-13 · 参議院予算委員会公聴会
○公述人(東野篤子君) 三浦先生、貴重な質問をどうもありがとうございます。
経済、エネルギーでいいますと、やはりこの全面侵攻の前後で何が一番変わったのかという話と、飯田先生の話…
2025-03-13 · 参議院予算委員会公聴会
○公述人(東野篤子君) 金子先生、貴重な質問をどうもありがとうございます。
まず一点目の御質問でございますけれども、私が御説明した例えばその歴史観であるとか国家観のようなものと…
2025-03-13 · 参議院予算委員会公聴会
○公述人(東野篤子君) ありがとうございます。
EUの将来、それを軍事的な側面からということでございますけれども、今回のロシアによるウクライナ侵略は、やはりEUも自前で自分たち…
API / MCP 利用
国立国会図書館 国会会議録 API を構造化
REST: /v1/diet/speeches/search?speaker=東野篤子
MCP: search_diet_speeches(speaker="東野篤子")