○堀公述人 本日は、貴重な御機会をいただき、ありがとうございます。
東海大学の堀真奈美と申します。専門は、社会保障、公共政策、医療経済となります。
早速ですが、令和八年度予算についてというところで、社会保障についてお話をさせていただきたいんですが、そもそも社会保障とは何かというところから少しお話をさせていただければと思っております。
有識者だけではなく、テキスト的にもそうなんですが、社会保障の定義は、実は、時代、国、文化、そして価値観によって異なって、統一はされておりません。
抽象的な概念で捉えますと、個々人の生活上のリスクの中で、社会的リスクとみなすものに対し、社会的に対応する仕組み、公的責任において行う制度、政策とされますが、何をどこまで社会的リスクとするかにつきましては、国民的な合意が必要ということもありまして、国によって、時代によって大きく異なるということです。
日本の場合、第二次世界大戦後の社会保障制度審議会において規定されたものが中心になりまして、厚生労働省の資料ですけれども、日本の制度上の社会保障には、社会保険、社会福祉、公的扶助、保健医療、公衆衛生が含まれております。
国民の生活を生涯にわたって支える社会保障制度として現状では定着しているかと思いますが、社会福祉とは何か、社会保険とは何かというものにつきましても、国によって、時代によって必ずしも一様ではないということがあるかと思います。
日本の社会保障の変遷について簡単に述べさせていただきたいと思います。
戦後の混乱期は救貧というものがメインで社会保障制度が構築されておりますが、高度経済成長期は産業構造、社会構造の変化の中で国民皆保険というものが成立いたします。その後、オイルショック等、高度経済成長終了に伴い、少子高齢化への対応というものもございますが、制度が大きく変わってきたというのがございます。
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皆様御存じのように、既に人口ボーナス社会から人口オーナス社会と言われる社会になっております。これは、人口動態の、人口転換理論によりますと、将来的には定常化する見込みですが、その定常化に至るまでの間にどれくらい時間がかかるかに関しましてはいろいろなシナリオがあって、今、少子化対策等をされていることかと思います。
ここから、国民皆保険の持続可能性について少しお話をさせていただきたいと思います。
国民皆保険は一九六一年に成立しております。先ほどもお話ししましたが、高度経済成長期、平均寿命、男性六十六歳、女性が七十・九歳の時代に成立しております。
一九六〇年代前半といいますと、私自身もまだ生まれておりませんが、高度経済成長前期、所得倍増計画、東海道新幹線が開通する、カラーテレビ、公害が大きな問題となる、そして社会の経済産業構造が大きく大きく変わった時代です。その当時の社会経済構造に対応するように国民皆保険というのは成立しました。
非常にすばらしい制度であると思いますが、その当時の、国民皆保険成立時の暗黙の前提、多数の若年層、主に地方から都市に移動してきた方たちを含みますが、少数の社会的弱者とも言われる高齢者、あるいは地方にいらっしゃる方とかを支えるような仕組みとして成立した。
正規労働者が、正規雇用の人が扶養家族を支えることを前提というふうな形でもあったと思いますし、共働きの方が現在は主流になっておりますが、当時は主流ではなかった。
何が言いたいかといいますと、高度経済成長期以降の大きな日本の社会経済構造の転換に合わせるように成立した国民皆保険の前提が今現在も成立するかというと、非常に難しいところがあるかと思います。
とはいいましても、医療保険の持続可能性というのが懸念されるようになったのは今に始まったことではございません。先ほど申しました国民皆保険が成立する前においても、医療保険の財政的な問題というのは非常に大きな課題となっておりました。
そして、高齢化、医療の高度化により医療が増えていくということも、もうこれも今に始まったことではありませんが、構造的に増加していく状態があります。
本来は、そもそも医療費が増えることそのものが悪でも善でもどちらでもない、それは現象として増えるということかと思うんですが、医療における給付と負担の対応関係がうまくいかなくなってくると、当然なことですが、財政的に、構造的に悪化していきます。
医療費を増加させるプレッシャーとしましては、テクノロジーの増加、医療への患者の期待、後期高齢者の増加ということもありますし、そして、医療費を抑制するプレッシャーとしましては、人口減少であるとか、現役世代の負担をどうやって抑えなければいけないか、あるいは財政悪化をどうするかというようなことがあるかと思います。
これは、実は今に始まったことではなくて、非常に、数十年と言ってもいいくらい、構造課題として言われていることです。
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これまでにも、制度改革は、必ず、たくさんされてきたと思います。しかし、構造的な改革はもちろんありますが、非常に少なく、局所的な対応が多かったかと思います。
特に、医療、介護は、現物給付ということの部分がありますので、供給体制とセットで議論しなければなりません。ステークホルダー間の利害構造もありますし、ほかの社会保障制度以上に、なかなか構造的な改革というのは難しいというところがあります。
特定の利害関係者に関心があっても、玄人的な問題がどちらかというと解決対象になり、それはそれで全く問題はないんですが、非常に一般の方たちはなかなか分かりにくいというところがあります。
メディアが大きく取り上げられるような問題に国民は関心を持つと思いますが、それも悪いわけではありませんが、ただ、そうなってくると、その全体像を俯瞰して、何が問題なのかというのを見るのがなかなか難しい状態になっているところがあるのではないかと思います。
そうした中、近年の改革の方向性としまして、社会保障と税の一体改革、団塊世代が後期高齢者となる二〇二五年を念頭に消費税を含む一体改革が行われたことは記憶にあるかと思います。その後、二〇四〇年を展望した社会保障・働き方改革、全世代型社会保障改革というふうに行われていきました。
徐々に改革というのは行われてはいるわけですが、二〇二五年問題、今年、既に二〇二六年になっております。団塊世代が既にもう後期高齢者に全てなっていますが、その当時の社会保障と税の一体改革のターゲットとなる年でありましたし、改革工程表に沿った改革はほぼほぼ実施されたかと思います。
ただ、残念ながら、全てが改革の進捗どおりになっているかどうかというと、まだまだ予測不可能な事態が、災害が起きたりとか、新型コロナパンデミックがあったりなどといったこともありまして、完全に二〇二五年問題そのものを全てクリアしているかというと、まだそうとは言えないところもある、課題もあるかと思います。
後期高齢者の増大がなぜ医療・介護需要に影響を与えるか、そちらについて、有訴率が高い、受療率が一般的に高い、救急搬送件数が高い、一人当たり医療費が高い、要介護認定率が高い、単身世帯の認定率が高いといったことがあり、地域医療構想、医療提供体制の改革、そして地域包括ケアの推進が唱えられ、それはそれで進められてきたと思います。
今後もその改革は進めていくことになるかと思いますが、まだ全て予定どおりになっているとは言えないところもあるかと思います。
何が言いたいかといいますと、社会保障そのもののレジリエンスが非常に重要になってくる。それは、二〇二五年問題がターゲットになっていた時代よりもより一層難しい。二〇二五年問題というのは、社会保障、あるいは公共政策や医療経済等の研究者の中でも、その時代をどう乗り越えるのかということが非常に問題になっておりましたが、その問題がまだある状態で、さらに、二〇三五、二〇四〇年、二〇四五年、団塊ジュニア世代が今後高齢期に入ってきますので、これまでの二十年とは全く異なる時代になると思います。
従来制度の延長線での持続可能性を検討することは当然重要ですが、それだけでは難しいところがあるのではないかと思います。
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給付と負担のバランスにつきましては、日本は、マクロレベルで見ると、国際的には給付に対して負担が低い国というところがあります。給付先行型の負担、中福祉・低負担になっているところもあります。
しかし、ミクロレベルで見たときには、受益感が乏しく、国民が当事者として給付と負担の在り方に向き合うような機運になっているとは思えません。これは、経済情勢の変化、人口動態が大きく変わる中で、非常に大きな問題となってくると思います。
当然ですが、給付も必要、だけれども負担はなかなかできないというふうになってきますと、給付の在り方を見直していく必要も出てきますし、そこのところを令和の構造的な課題に対してどういうふうに考えていくのかがこれから非常に重要になってくる、大きな歴史的な転換点なのではないかと思います。
増加が見込まれる需要と供給のギャップをどう埋めるのかというところで、現役世代の過重な負担を抑制するということは当然ですし、医療、福祉業界で就労可能な人口そのものも制約がございます。当然、イノベーション等も必要になってきますし、そこのところをどうするのかというところが非常に大局的には大きな課題なのではないかと思います。
ここから、令和八年度予算と社会保障というところについて、幾つか焦点となりそうなところだけ抜粋させていただきました。
歳出関係で見ますと、社会保障関係費が、三十九兆六百億円だったかと思いますが、過去最大の値となっておりますが、前年度プラスで七千六百二十一億円、診療報酬改定が、これも大きくメディアで取り上げられましたが、三・〇九%の増になりました。これは、規模云々というよりは、高齢化による増加分に、物価動向と、賃金の上昇も含めてですけれども、それを反映した金額となっているかと思います。
あと、持続可能性に向けた見直しということで、保険料負担を軽減するというところから、高額療養費制度の見直し、OTC類似薬を含む薬剤費自己負担の見直しなども図られました。
私自身が今回の内容を見て感じるところは、非常にめり張りといいますか、予算の金額の多寡というよりは、予算の配分の在り方というところに非常に着目するところがあるかなというふうに思っております。物価動向等に対する反映も非常に丁寧に、施設の種類別ごと、あるいは人件費に反映されるように目配りができているかなというところがあるかと思います。
高額療養費制度の見直しにつきましては、昨年度、議論となって、仕切り直しという形で、高額療養費制度の在り方に関する専門委員会が設置されたかと思います。
こちらの、医療保険部会の中に設置されているこの専門委員会の議論を拝見いたしますと、昨年度との違いは、医療保険制度全体の見直しを踏まえ、高額療養費のセーフティーネット機能に鑑みというところが強調されているところかと思います。
非常に、昨年度の段階以上に丁寧な議論がされていると思いますが、多数該当の長期療養者や低所得者の経済的負担の在り方に配慮した見直しや、また、年齢に関わらない応能負担に基づく制度の在り方が検討されているかと思います。
さらに、見直し後の負担変化、外来特例の見直しのところ、それから外来特例の月額上限に該当する者の患者割合のところの資料は、高額療養費制度の在り方に関する専門委員会で、昨年度に比べますと非常に細かなデータが出ているというふうな印象を受けております。
さらに、OTC類似薬を含む薬剤費自己負担の見直しについても、こちらも、OTC類似薬だけを取り上げるというよりは、医療保険制度全体の中での議論をというところの中で検討されているのかと思いますが、保険外負担を求める新たな仕組みの創設、特別の料金の対象となる医薬品の範囲、特別の料金の設定、そして食品類似薬の保険給付の見直しなどが図られていたかと思います。
この内容につきましては、基本的にはその社会的リスクは何かというところの話にもつながりますが、給付と負担の在り方をどういうふうに考えるのかという意味では、一歩進んだ検討がされているのではないかというふうには思います。
一方、引き続き検討は、今回の予算だけではなく今後のことかと思いますが、まだ検討が必要な構造課題も、当然ですが、たくさんあります。医療保険は医療供給とセットで考えなければいけないところですし、ファイナンスだけではなくデリバリーも含めてセットで考えなければならない課題かと思いますので、そういう意味では、今後の人口動態、医療の高度化といった環境変化も含めて、さらに、給付の適正化というものも必要ですが、同時に、安定的な財源確保というのは安心した医療提供体制の構築のためには必要不可欠かと思います。
過去の社会保障と税の一体改革では安定財源確保のところが検討されておりましたが、前回の社会保障と税の一体改革は二〇二五年を目標としたものでしたので、ポスト二〇二五年、二〇二五年問題以上に非常に複雑で大変な課題かと思いますが、これまで以上に安定的な財源確保も必要だと思いますし、国民的な合意が得られるような検討が、この予算会議ではなく、予算会議とはまた別の形で、より長期的な構造課題のための検討というのが必要かというふうに思っております。
以下に参考資料を幾つか挙げています。
こちら、次の参考資料の一、医療費の給付水準の決定要因と、給付の適正化のアプローチというのを入れています。これは、あくまで理屈上のものであって、よしあしを述べていません。こういうやり方があり得る、それがいい悪いを判断するのは国民だと思いますので、あり得るアプローチというものを整理しております。
そして、参考資料二以下につきましては、現状の社会保障の給付と負担の基礎的な資料、社会保障給付費の推移であるとか、あるいは医療保険制度の体系について、そして国民負担率の状態、あと保険者の比較、それから、保健医療二〇三五といって、政策の流れの中の一つでもありますが、通常のものとは少し違う形の提言というのもありましたので、そちらも参考までに掲載させていただいています。
それから、構造的な課題、もうこれは十年、二十年ではなくて三十年、四十年近く続いている課題かと思いますが、固定化する地域格差の課題、それから医療資源が分散型になっている課題、そして患者の受診行動、ヘルスリテラシーが、まあ、不安があるということもあるのかもしれませんが、国際的に見て非常に高い外来受診回数というのがあります。コンビニ受診ということも各種報道等でもされているかもしれませんが、これをやめろと言うのは簡単なんですけれども、やめろと言う前にヘルスリテラシーを上げていく、どういうふうに患者自身が自分の健康課題に向き合っていくかということにも課題があるので、この教育的なものは重要かと思います。
そして、国保、国民健康保険につきましては、これは国民皆保険が成立したときの、国民皆保険を達成した時代の国保とは随分状態が変わっているということを示しているものです。世帯主の年齢、職種別の状態、国保加入者の変容について挙げていますが、実は、国保というのは自営業、農林水産業、無職という方が多いと言われましたが、見ていただくと、被用者の方もかなり入っていることが分かるかと思います。それから、保険料の算定方法も、保険制度によって、国保と被用者保険でかなり違うということも述べさせていただきます。
それから、これは、厚生労働省の令和七年度の労働経済の分析、労働力供給制約での持続的な経済成長に向けてで掲載されている資料ですが、医療・福祉業の労働生産性が相対的に低いということがあります。これは、制度との関係もありますが、そこをどういうふうにしていくのかというところを考えていく必要があるかと思います。
最後に、新しいサービスの提供の在り方。
要は、もう、ポスト二〇二五年を踏まえますと、これまでとは本当に時代の環境は変わっていきますので、プライマリーケアを重視するとか、タスクシフト、タスクシェア、デジタル化、DXなど、あるいは人への投資というのが一層重要になるのではないかと思います。
私からの意見は以上となります。早口で申し訳ありません。ありがとうございました。(拍手)
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