○小幡公述人 慶応義塾大学の小幡と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
光栄なことに三年前にも呼んでいただきまして、そのとき、経済政策を話してくれと言われて、プレゼンした資料が、経済政策は要らないというプレゼンをして、かなり賛否両論だったんですが、今回は、非常にオーソドックスな、ごくごく普通な話をしたいと思います。
財政政策ということでお願いします。
一枚めくっていただくと、財政収支は一番重要なことではないんですね。三番目ぐらいに重要ですが、別の軸として重要だと。枚数は多いんですけれども、中身は余りないので大丈夫です。
二枚目が、債務残高GDP比。これも余り重要じゃないですね。これはもっと重要じゃないかもしれません。関係はもちろんあるんですけれども、直接的な話ではない。しかも、現在の日本にとっては余り関係ないということです。
もう一枚めくっていただくと、じゃ、一体何が重要なんだというと、当たり前のことですが、要は、財政政策で何をするか。その中身が重要なわけですね。だから、支出額とか支出する気合とかじゃなくて、何をやるかが重要だということです。
ちょっと話はそれますけれども、給付つき税額控除も、経済学者アンケートだとほぼ全員賛成なんです。ただ、それは、経済学者が、理論的な手法としてこれは優れているよということなので、イメージはみんな違うんです。イギリスのユニバーサルクレジットよりも更に何か先進的というか包括的な、すごく理想的なのをイメージしている。それで、やはり政治の現実は大分違いますから、その辺は、経済学者とこちらでの給付つき税額控除の議論の目的というか考え方は、大分根本から異なっている可能性があると思います。
一枚めくっていただくと、これはちょっとあれなんですが、要は、いい財政支出を余り私は見たことないです。少なくとも二十一世紀になってから、日本に限らず、これは日本が悪いと言っているんじゃなくて、成熟経済において、経済成長を目指した財政支出はほぼ無駄に終わっている。
一枚めくっていただくと、これはなぜかというと、高度成長期というのはやはり発展途上だったので利いたということ。ただ、あれは世界の歴史上にも類いまれなる、日本が誇る大成果なので、非常にアジア諸国からもまねされたわけですけれども、そうじゃない。今は全然違うんだ、成熟経済においてはですね。
一枚めくっていただくと、要は、民間にできないことは政府にはもっとできない。人、金、リスク、リスクが取れるという意味ですけれども、これが民間にはなくて政府にある場合。昔はそういう時代があります。お金がない場合、それで世界銀行から借りてくる場合もあります。ところが、今、民間には全部あるんです。アメリカの企業は国家予算よりも大きい支出をできます。
政府には、残念ながら年々リソースが減っています。特に、皆さんも感じていらっしゃると思いますけれども、官僚を始めとして、スタッフの人不足。その中で支出の目利きをするのは非常に難しい。これは誰がやるんだというと、誰もできないというふうに思います。
一枚めくっていただくと、いやいや、何を言っているんだ、海外ではやっているんだ、日本は負けていられないというんですが、これは、特にアメリカ、中国は成功しているものもあります。それはなぜかというと、勝ち馬に更に金を乗せるという、勝ち馬にレバレッジを利かせる、ブーストするという戦略なんですね。
つまり、アメリカの世界での勝ち組、中国での世界での勝ち組、主に中国マーケットですけれども、これが世界覇権を争っているときに、よし、中国の企業に負けるなといって、アメリカが一番勝っている企業に金を入れる、これはあります、勝ち馬を更に勝たせるという。ところが、日本の場合は、いや、米中に大分後れを取った、勝ち馬をつくれという政策なんですね。その場合は難しい。勝ち馬がいなくては金は乗せられない。
一枚めくっていただくと、要は、米中でも勝ち馬をつくったことはないんです。NASAがスペースXに負けている。中国ですら、民間企業に後から金を入れたり規制を入れたり、まあ、あめとむちを使いながらコントロールしている。韓国は成功したプレーヤーに癒着する。これは賛否はありますけれども、日本にはできないですね。日本にはできない。公平主義ですし、どちらかというと、弱い、衰退した企業を何とか支援するという方針ですから。
まあ、余りゼロ・ツー・ワンという言葉は個人的には好きではないんですけれども、ゼロからすごい企業を生み出すということは政府には無理なんですね。ですから、勝ち馬がいる、勝ち馬に乗せる。だから、今勝っているところに乗せる、勝ち馬がいない分野は悔しいですけれども諦める、そういうことです。
一枚めくっていただくと、リスクは、今は民間のリスク許容度が高いので、リスクを取らないとすると、それはリスクがもう高いし、期待リターンでもマイナスだったケース。つまり、やってももうからない。リスクも高いし、もうからない、そんなのやっていられない、政府がやってくれるならまあ拝見という感じだと思います。
一枚めくっていただくと、政府による呼び水、誘導はあり得ないということですが、どの分野が有望でどのような投資が有望かは、やはり政府に目利きはできないと申し上げました。少なくとも民間の方が知っていると。
一番申し上げたいのは、実は民間にも全く分からないですね、何が本当に来るのか。今はAIだと後からみんなでわあっと入っていく、それはできますけれども、これを先んじて見抜くことはできない。政府が号令をかけたから乗るというのは、大変申し上げにくいですが、要はおつき合いということです。あるいは、優遇がおいしい、もらえるものはもらおう、そういうことです。
一枚めくっていただくと、私が今日一番強調したいところの一つですが、やはり日本政府は良心的過ぎるので引けないんですよね。だから、勝ち馬も勝ち分野も、民間でも誰にも分からないです。やってみて、ああ、やはり駄目だったなということばかりで、これは臨機応変というか、試行錯誤の繰り返しですね。
ただ、日本というか、日本だけじゃないんですけれども、政府予算の場合は、非常に慎重に議論をして、国民の税金を使って責任を持って支出しますから、ちょっとやってみたものの、うんっ、ちょっといまいちじゃないかという時点では引けないですよ。引いたら怒られるし、何でこんなのを出したんだと。それを続ければ続けたで、何で続けたんだと後で怒られる。
これは、だから、リスクの高い分野で未来のことに関して政府が意思決定をするのは一番不利なんですよ。なので、それは、悲しいというか、もどかしいですけれども、民間といいますかプレーヤーに頑張っていただいて、勝ち馬が出たらみんなで全力で応援する、そういうことなんですね。
複数年度の投資というのは、財務省が辛気臭いので、それよりはましだという可能性は、まあ、可能性としてはないんですけれども、これは引く機会を失うという問題があって、毎年だと、銀行でも、短期資金をロールオーバーするときに一応チェックできるので、何かおかしくなったらいつでも引ける体制を整えていくということはあるんですけれども、単年度は一応形式的にチェックが厳しく入るので、そうすると継続性、持続性が危ぶまれてという問題がある一方で、やはり引きにくくなる、引けないという一番の問題点を更に助長するんじゃないかというふうに思っています。
ファンドとか基金は、一種複数年度なんですが、ううんという感じだと私は思うんですけれども、結局同じことなんですね。
一個めくっていただくと、ディス・タイム・ディファレントというのは、ハーバードのケネス・ロゴフの有名な、金融危機とかバブルとかに関して、いや、今回はバブルじゃないよと言うんだけれども、結局やはりバブルで崩壊すると言うんですが、これは全てのものに言えて、何かいい例が思いつきませんけれども、二度と浮気しませんと言っても多分そういう人はするんですね。済みません、例が思いつかなくて、ごめんなさい。
だから、今までの財政支出と今度は違うといっても、いや、どうしてそんな革命的に今回だけ違うんだというのは、なかなか難しい。だから、財務省を排除するのは構わないんですけれども、じゃ、代わりに誰がやるんだと。じゃ、いい財務省をつくろうよと。まあ、財務省の名前、よくないか、何かいい機関をつくって、査定なり目利きをしてくれる組織をつくらないことには始まらないんですけれども、まだできていないと思うんですね。ですから、今まで経済成長の財政支出はうまくいかない。
次は、高圧経済というスライドですが、需要主導で、それで成長軌道に乗せるという戦略ですが、これは今はやはりあり得ないと思うんですね。
だから、一九三〇年の大恐慌というか、世界が凍りついているときに政府が、これはケインズが主張したことですけれども、世界を解かすためにがつんといく、それで引っ張り上げるというのがあるんですけれども、これは、今は、二十一世紀はあり得ない、とりわけ日本はあり得ない。
これは前に言われたことなんですけれども、私、最近スランプなんだよなと友達に相談したら、いつからスランプなのと聞かれて、いや、三十年前と言ったら、それは実力だと言われまして、まさに日本経済はそういうことなんですよ。三十年駄目ということは、景気の問題じゃなくて実力なんですね。
一枚めくっていただくと、今風に言えば供給力ですね、需要よりも供給だと。こういう状況で、量的な需要喚起はマイナスなんです。なぜかというと、需要が足りないときは何でもいいから需要をやって回して活性化しよう、それはそうです、そういうときもあります。ところが、今みたいに供給力不足で、人あるいは部品とか流通とかそういうリソースが不足しているときは、どの需要に金を回すか、人をつけるかということが一番重要なんですね。
だから、やみくもに量を入れるんじゃなくて、量より圧倒的に質なんです。誰が何をやるのかが一番重要なんですね。だから、やみくもに量で高圧でというのは、今はもう百八十度逆だと思います。
一枚めくっていただくと、供給力強化はどうやるかというと、経済安全保障、大変恐縮ながら、これは経済にはマイナスなんですね。
なぜかというと、ほっておいてマーケットで要は負け組になって、日本は供給できません、あるいはコストが合わなくてできません、それを、じゃ、自分でつくるということは、明らかに劣ったもの、あるいは割高なもので我慢するということですね、日本産ということに限って。ということは、つくれないので、つくるプレーヤーがいない、あるいは、コストが合わないんだから、それはやればできるかもしれませんけれども、劣ったもの、遅れたもの、あるいは割高なものを使わされるということになります。
一枚めくっていただくと、TSMCを最後に呼んできて、これはいい政策だと思いますが、駄目なものしかつくれないから諦めて連れてくる、これはいい判断だと思うんですけれども、TSMCは、日本のために供給してくれと言ったんだけれども、結局、何か日本の需要は余りないなというので、世界的にもっと需要の高い、高度なものに工場を、予定を変更するというようなことになっていると。
一枚めくっていただくと、経済安全保障は経済成長にマイナス。これは、だから、社会構造支援というか社会政策としてはあり得ると思うんですよ。あるいは、防衛の観点からはもちろんあり得ると思うんです。ところが、経済合理性からいうと、要は負け組支援なので、負けた部品を使わされるメーカーは更に負けるということなんですね。
一枚めくっていただくと、物価対策は、ちょっとこれは、ここで言うのは大変勇気が要りますが、要は、ガソリンの暫定税率廃止は、あれは経済政策ではなくて政治政策なんですね。つまり、イランが起きて、今やるんだったら、もちろんこれは経済を平準化させるため経済政策としての意味がありますが、一バレル六十ドルで、ほぼ理由が円安で、ほかの世界的にはガソリンの値段が下がっているときにやるのは、これは政治政策だと思います。
もちろん、政治の現実が我々経済学者は分かっていないわけですから、こんな経済学者の言うことをと、全くそのとおりなんです。だから、政治政策に関しては我々は全く判断できませんから、皆さんというか国会で判断されると思うんですけれども、ただ、それは経済政策としては関係ないということなんですね。だから、根本から断たないと、経済的には物価対策にはならない。要は円安ですねということです。
一枚めくっていただくと、社会インフラというのは、これは社会政策として意味がある。これは繰り返しですね。
一枚めくっていただくと、軍事支出は、これはだから高圧経済と一緒で、需要は別に関係ないんですよね。むしろ、そっちに取られて、クラウディングアウトで、国民が、ほかに必要な民需のものがつくれなくなるということです。もしGDPが仮に一緒だとしても、日本国内に残ったものが、民需のものと、要は、国防、だから、国防政策上必要なものは絶対必要なので、これは経済を犠牲にしても、国民の生活を犠牲にしても防衛は必要です。私はそれは賛成します。ただ、それは経済政策にとってはマイナスだということなんですね。補助金も減税もうまくいかないし、減税で勝ち組はつくれないということです。
じゃあ何をやればというスライドに行っていただくと、私は、これは客観的というよりは私の意見ですが、国家百年の計で教育投資だと。経済の基盤は社会で、社会の基盤は人である。いい人が育てばいい社会になり、いい社会は長期的な経済発展をすると。
昨日、吉川里奈議員が公立学校の御質問をされていて、私は全面的に賛成なんですけれども、やはり公立学校。だから、大学、慶応義塾大学に一銭もやる必要はありません。私立大学は割高です。だから、それよりも初等教育に金を全部突っ込んだ方が国家百年の計としては絶対に正しい。慶応がなくなっても日本は困らない。だけれども、公立小学校が悪くなったら日本は困るんです。
結局、結論、これはちょっとあれなんですけれども、強い日本列島ではなく、強い日本人をつくろうよということです。
一枚めくっていただくと、実は、強い日本人というのはどうやって生まれるかというと、アメリカで私は留学させていただいて、大変いい教育を受けさせていただいたんですが、やはり多様な多数の留学生の雰囲気、そして自由な雰囲気、あれはもう圧倒的で、残念ながら、アメリカの大学院というのは、イギリスでもフランスでもどこでもつくれません、もう全然かなわない。今後どうなるかは分かりませんけれども。
だから、それも我々のやるべき初等教育で考えてみれば、初等教育も、広い視野を得るためには、やはり多様な社会をつくることが必要ではないかと思います。
付録に行っていただいて、あとは時間の許す限りと思ってあれなんですが、一枚めくると、永田町経済学と学界の経済学にはギャップがあると。さっきちょっとそういうお話をしました。目的が違うので、もし御関心があれば記事をということで。
一枚めくっていただくと、たまたま株が乱高下しているときなので、一番の専門は株価なのでやりますと、よく、株価は市場に聞けとか、株価が今日下がったということはこうだと解説するんですけれども、それは、株価は実体経済とは短期的には基本的には無関係です。何かというと、投資家の今の気分、状況を表している。投資家がまずいと思ったら売る、あるいは投資家が追い込まれていれば金がないから売る。だから、投資家の気持ちです。強気、弱気というものが状況をつくっている。
ですから、今みたいに一旦悪くなると、どんなニュースが出ても取りあえずネガティブに反応するんですね。みんながすごい楽観視しているときは、多少の悪いニュースは無視するんですね。楽観のときは、よく分からないニュースも無視するんですよ。ところが、弱気に一回なってくると、よく分からないニュースでも怖いから取りあえず売るわけですよ。
だから、株価というのはなかなか面白いんですけれども、これは投資家の状況を表すにはすごくいい指標なんですけれども、短期的には実体経済とは大分乖離します。政策の文脈でいうと、何か政策を打ち出してばあっと上がったときに、じゃ、この政策はいいんだ、株価が評価しているというのは、これは実は間違いで、一枚めくっていただくと、株式投資家はインフレ、円安が大好きなんですが、なぜかというと、短期に動かしているのは、日経平均先物を動かしているトレーダーなんですね。だから、一ドル百円から二百円に暴落して、日経平均四万円が五万円に上がっても、それをドルで見れば、四百ドルから二百五十ドルに下がっているという状況でも、日経平均は四万円で買って五万円で売れば一万円もうかるんです。一万円が一ドル百円のときは百ドルもうかるはずが、二百円になったら五十ドルしかもうからないから、これは損したように見えるけれども、差益でもうけるので、プラスかマイナスかの勝負ですから、五十ドルでもプラスなら何でもいいんです。
だから、彼らはやはりインフレとか名目値が上がることを物すごく重要視するんですね。だから、配当よりも自社株買いというのはそういうことです。配当すると上がらない、自社株買いだと名目で上がっていくということなんですね。
株式市場はあれなんですが、そろそろ時間もあれなので。
最初、財政収支と債務のGDP比は関係ないと言いましたが、これは財政の持続性にとっては極めて重要です。持続性は、GDP比ではなくて、問題は国債の買手がいるかどうかにかかっているんです。赤字ということは、新しい買手を呼んでこなきゃいけない。そういう意味で財政赤字やプライマリーバランスは重要である。
ちょっと時間もなくなってきましたが、インフレが一番やばいです。インフレというのは、インフレになれば名目金利は上がります、ということは、利払い費が増えるということです。
このときに、一枚めくっていただいて、日銀の政策金利の短期を幾ら抑えても、長期金利はインフレ予想に連動して上がりますから、そうすると、長期国債を発行するときには利回りが高くなって、まずくなる。
インフレになると、一枚めくっていただくと、インフレは投資家の売りを呼ぶ。これは円安も一緒なんですが、円安になる、インフレになるということは、アメリカにいる投資家で日本の国債を買っている人にとっては、値下がりを意味するんです。ということは、まだ値下がるから買わなくなるんです。ということは、どんどん値が下がっていきます。そうすると、国内投資家も、下がるんだったら待とうとなります。
ですから、円安、インフレは国債市場に決定的にマイナスで、財政破綻懸念といううわさが出ているときに出るというのは最悪で、しかも、健全性に問題がなくても買手がいなくなる可能性があります。
ちょっと時間なので、この辺で終わります。また後ほど、御質問あればよろしくお願いいたします。
どうもありがとうございました。(拍手)
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