○小山公述人 日本エネルギー経済研究所の小山と申します。
本日は、貴重な機会をいただきまして、ありがとうございます。
私は、これから、イランの問題とそれから国際エネルギー情勢について、お手元の資料を基にお話をさせていただきたいというふうに思います。
二ページ目を今御覧いただきたいんですけれども、二月二十八日のアメリカ、イスラエルによる攻撃開始以来、トランプ大統領は直近で、戦争は終わりに近づいたというような趣旨の発言をされていますけれども、ここに至るまで、見たことのない未曽有の激しい攻撃が続いてきています。
そして、今回、何よりも私が重要というふうに考えたのが、攻撃の初日にトランプ大統領が、いわゆるイランの体制の転換、レジームチェンジを視野に入れるといったような趣旨の発言をされ、そこから攻撃が行われた。それがゆえに、イランはもはや捨て身の報復攻撃をしないといけなくなったということであります。そして、この捨て身の報復攻撃こそがホルムズ海峡の通航の実質的な支障、封鎖を生み出した最大の原因ということでございます。
通航の要路であるホルムズ海峡の実質的封鎖に加えて、周辺の湾岸産油国などにイスラエルの反撃が及び、その結果として、主要なエネルギーのインフラにも被害が発生、あるいは生産を停止するという事態が起きています。
この支障、インフラの損傷による供給の低下というのは、通航の停止とはまた違った意味を持つという点にも留意が必要です。一言で言うと、仮に通航が、明日にでももし安全が確保されて動くということになれば、通航の部分は回復する。しかし、もしインフラが損傷して本当に大きな被害を受けていれば、それは簡単に戻らない。つまり、この二つには違った意味があるという点は押さえておく必要があると思います。
これらのイランによる捨て身の攻撃は一体何が重要なポイントなのかというと、これはまさに、アメリカにとって、そしてこれから秋に中間選挙を迎えるトランプ大統領にとってのコストを上昇させるというイランの攻撃ということになります。アメリカ、トランプ大統領にとってのコストにはいろいろな要素が含まれますが、その中の一つがエネルギー価格の上昇であることは多分間違いないでしょう。とりわけ、アメリカにとっては、ガソリン価格の上昇は大変大きな政治的な意味を持ちます。
そうした中で、トランプ大統領としてはできるだけ早く決着をつける、その意味においても、更なる大規模な攻撃は十分あり得る。そして、それにイランがどう反撃するのか、今のところ、正直言ってまだ全く先は分からないということかと思います。
三ページ目を御覧いただきたいんですけれども、これまで、ホルムズ海峡という要衝については、もう長い間、封鎖の問題がずっと取り沙汰されてきました。しかし、これは実質的には一度も止まったことがなかったわけです。なぜかといえば、先ほど申し上げたとおり、これを、特にイラン側が封鎖すれば、まさにアメリカの強力な軍事介入を招いて、その結果として体制転覆につながるという意識をイラン側が持っていたからです。
しかし、先ほど申し上げたとおり、戦争の開始の段階でレジームチェンジという話になった以上、これはもうイランにとっては失うものはない捨て身の攻撃ということになりました。また、湾岸産油国のエネルギー施設も、先ほど申し上げたとおり、攻撃対象になっているということであります。
ホルムズ海峡を経過して通航しているエネルギーの量というのは、まさに巨大なものがあります。石油、これは原油と石油製品合わせてなんですけれども二千万バレル・パー・デー、そして年間LNGの輸送量は八千万トンで、世界の供給量の二割という数字です。これだけの巨大な数量を、どこかほかの国、ほかの供給者が代替できるのかといえば、これは全く不可能です。この代替が不可能だということをエネルギーの関係者あるいは先物取引をしてエネルギーを売買している人たちはみんな分かっているがゆえに、今回のような価格高騰が起きるということになります。
詳細に見ますと、まず、原油については、実はホルムズ海峡を迂回するパイプラインがあります。サウジアラビアの紅海側、レッドシー側にパイプラインがつながっていて、そこから輸送できる、あるいは、アラブ首長国連邦、UAEにもホルムズ海峡を迂回する原油のパイプラインがあって、これでおおむね四百あるいは五百万バレル、一日当たりの代替の迂回が可能ではないかと言われていますが、先ほど申し上げたとおり、一日当たり二千万というのには到底及びません。
その結果として、今、実際にはまだ通航はほぼ遮断されている状況なんですけれども、この期間が長引けば長引くほど、実際の需給逼迫懸念は強まります。石油二千万バレルのうち、仮に五百万バレル、迂回の原油パイプラインで出したとすると、一日当たりのロスが千五百万バレル。十日間で一億五千万バレル、二十日間で三億バレルという石油の供給が実際に失われていくということになります。
その結果として、原油も、後から少し詳しく申し上げますが、石油製品も、そして液化天然ガス、LNGも価格が大きく上昇し、これらは我々の暮らし、経済に必須のものであるがゆえに、そのインパクト、打撃はどんどんと大きくなっていくということになります。
あともう一つ、価格高騰の問題に加えて、このスライドの最後に書きましたけれども、もしこの需給逼迫が本当に長期化していくと、どうしても必要だというふうに思う輸入国、消費国の間でいわゆる取り合い、争奪戦的なものが発生するおそれもなしではありません。これが、ある意味でいくと最悪の問題になるということかというふうに思います。
四ページを御覧いただきたいんですけれども、その結果として起きているのが、石油、LNG市場の著しい不安定化ということになります。
先物市場というのは、常に先を読んで売ったり買ったりしますから、先が不安だということになれば、それだけで買いが進み、価格が上昇する。それがまさに、この一両日の間に起きた、瞬間風速でいうと百十九ドル、一バレル当たり百十九ドルというところまでつけた。これは、ここから先どうなるか分からないという不安が買いを呼んだということであります。
ただし、先ほど遠藤さんの方からお話があったとおり、もう戦争が終わりに近いというようなトランプ大統領の発言を見ると、戦争が終わるんだったら供給支障が回復するんじゃないかということで、いきなり売られて八十ドル台まで下がる。終わり値は九十ドル台ということになっているんですけれども、この九十ドルという値段は決して安い価格ではない。
そして、あともう一つは、いまだに供給の実質的な支障は改善されていないというところは、これは見逃すことができない大事なポイントになります。先ほどから申し上げているとおり、この巨大な供給量、通航量を代替することはほかの人にはできないということを考えますと、これが長引けば、また価格が上昇していく可能性は否定できないというふうに思います。
あともう一つ、中東の産油国は、原油輸出国として有名ではありますが、実は石油製品の輸出も非常に大量に行っています。一日当たりの二千万バレルの通航量のうち、恐らく四百から五百万バレルぐらいは石油製品であろうというふうに言われていまして、その大多数はLPG、液化石油ガス、ナフサなどですが、あるいはディーゼルオイル、軽油とかジェット燃料のような中間留分もかなりあります。これらが、実は、原油の場合には代替パイプラインがあると申し上げたんですが、石油製品には全くない、それが全部止まるということで、実は石油製品市場の方が大きく価格が上がっているというようなことがあります。
例えば、ヨーロッパ市場では、ウクライナ戦争以降、それまではロシアから大量に買っていた石油製品を買えなくなって中東から買っていた、これが止まっています。その結果として、欧州では、石油製品価格の高騰の方が原油よりもより厳しいというようなことが起きている。
あともう一つは、LNGについては、これは後ほど日本の場合との対照、比較で申し上げますけれども、全体としての八千万トンに相当する供給が止まっているということになった結果、例えばスポット市場、あるいはヨーロッパ市場のように、天然ガスの需要と供給でガスの値段が決まる、そういう市場において価格高騰が極めて著しくなっています。ガスの需要と供給、それのみで価格が決まるとなったときには、この失われた供給の大きさに加えて、ガスの場合の備蓄の低さということも強く意識された、その結果として価格が高騰している。
いずれも一言で価格高騰というふうにくくられますけれども、原油、石油製品、LNGで、それぞれに特徴と違いがあるということもあります。
実は、日本は、LNGは、需要と供給のバランスで価格が決まるというよりは、大体は原油価格の値段に連動してLNGの値段が決まる方式を取っています。その結果として、しかも、この値段の決まる方式には、タイムラグ、おおむね三か月から四か月遅れて価格が決まってくるという仕組みを持っていますので、今の時点では、日本の場合、LNGの値段はそれほど上がらない。ここから上がるにしても、ヨーロッパやスポットのLNGに頼る人たちほど上がらないということにはなるでしょう。
しかし、いずれにせよ、エネルギーの価格が上昇していくことは、必須の物資の価格が上がる、すなわち、我々の可処分所得が皆失われ、低下していくということになって、暮らしを直撃することは間違いないということになります。
五ページは原油価格の推移を簡単に示したもので、申し上げたい点はごくごくシンプルで簡単でございます。
これは、最初は二〇二五年の最初から最近まで、直近までを取っているんですが、実は、二〇二五年はずっと傾向として原油価格は下がってきているんですね。昨年の六月のイスラエル、アメリカによるイラン核施設への攻撃、十二日間戦争といいますけれども、このときに一瞬わっと盛り上がったんですけれども、こういう例外を除くと基本的に価格は下がってきていました。これはなぜかというと、世界の石油市場に十分な供給が存在し続けて、その十分な供給が価格を圧迫して下げてきた。
しかし、実は、今年の一月ぐらいから、それが反転して上がり始めています。これは、年初にベネズエラへの軍事攻撃が行われて、トランプ大統領がまさにベネズエラという世界で有数の産油国を攻撃するといったところから潮目が変わってきた。一言で言うと、地政学リスクに市場が反応する、そういう状況が強まったということなわけです。
そして、それの、今の段階でいうと最も極端な例が今般のイランに対する攻撃であり、それが瞬間風速でいうと百十九というところまでいったということであります。終わり値では九十ドル台の半ばというところですが、先ほど申し上げたとおり、通航支障が本当に解除される、そしてタンカーの通航が通常の方に戻っていって、大量の供給に回復するというめどが立たない間は、市場には非常に不安定で価格を押し上げする要因が残り続ける。その点は決して安心できないということかと思います。
その次の六ページは、今度は、天然ガス、LNGのスポット価格、それから原油価格を横に並べてみたものであります。
原油の値段は、ブレントというヨーロッパ産の指標原油の値段。この緑の値段も最近ぐっと上がっているんですが、それ以上に赤い線、青い線が大きく飛び抜けて跳ねています。これは、先ほど申し上げたとおり、世界全体の供給量が大きく減少する中、スポットでLNGを買わなくてはいけない人たちが必死になって買っている、供給量が減少した中で大きく買いを入れるということをせざるを得ない人たちのその行動によって価格が上昇してしまっているということになります。
ここから先も、それぞれの市場の状況、構造によって価格動向というのは結構違いが出てくる。しかし、いずれにせよ、価格高騰の問題というのは見過ごせない、その可能性として我々は考える必要があると思います。
最後のお時間を使わせていただいて、日本の問題を七ページでまずお話ししたいと思います。
ここは皆さんも御案内のとおり、石油は相当、依存度をこの半世紀以降の取組によって下げてきました。五十年前の石油危機のときには七割あった依存度は、今は四割を切る。しかし、いまだに石油は最大のエネルギー源であることには変わりません。しかも、その石油について、原油の中東依存度は九五%ということで、著しく高いホルムズ依存度という状況になっています。もちろん、国内には二百五十日を超える備蓄があり、そして、国際エネルギー機関、IEA等との国際協力の体制というのも石油危機の教訓を踏まえて整備されてきました。
他方、LNGは、発電用の燃料として、これは今でも最も主要な発電用の燃料の一つでありますし、大手の都市ガス事業者にとってみれば、主要な都市ガス原料として極めて重要な役割を果たしています。
しかし、中東原油の場合と変わって、LNGはアジア太平洋からの長期契約による原油価格連動型の輸入が主体であって、ホルムズへの依存度は六%とかなり低い。しかし、逆に国内の在庫は非常に低い。これはひとえに、マイナス百六十二度という超低温で保存する必要があるということによる経済的なコストの大きさ、あるいは、物的なそういう特徴から、在庫、備蓄というのを大量に持つのが難しいということになります。
その結果として、一番下に書いたとおり、日本の企業が持っている長期契約、つまり、ホルムズ海峡経由でないところの長期契約での追加的な供給確保や柔軟性の高いLNGを市場から活用していくというのが重要になるということです。
最後、八ページに今後の影響と対応ということで、繰り返しになりますけれども、今後、今の九十ドル台から更に原油価格が上がっていくということは本当に深刻な影響をもたらすということになります。
あともう一つ、原油価格が上昇すると、ガソリン、灯油のような石油製品がまず価格が上がりますけれども、先ほど申し上げたとおり、タイムラグを伴ってLNGの値段も上がります。そして、LNGの値段が上がれば電力の値段も上がっていくということになりまして、原油の価格高騰は日本のエネルギーコスト全体を押し上げていってしまうという問題になります。
あともう一つ、これは本当に余り考えたくもない状況ではありますけれども、本当にこの問題が長期化して、通航支障が長く続くというようなことがあると、この量は日本にとっては非常に巨大なものになりますので、それを全て代替してどこかから持ってくるというのは恐らく難しい。このような場合には、極めて強力な総合的、包括的対策、つまり、思い切ったエネルギーの節減、原子力あるいは石炭火力等も含めた可能な分野での代替、あるいは備蓄の活用と国際協力、これは必要不可欠になるというふうに思います。
LNGの方は、これはホルムズ経由のLNGを代替するためには、先ほど申し上げたとおり、それ以外の、例えばオーストラリア、マレーシア、その他もろもろの国と持っている長期契約の中に、柔軟性を持って供給を増やす条項がある場合が結構あります。これをまず徹底的に行い、かつ、それに加えて、スポット価格での調達は価格高騰も招くという副作用がありますが、必要に応じてそれをやっていく。
先ほどから申し上げているとおり、在庫に限界がある以上は、特に発電用のLNGについては、発電事業者は自分の手のうちに例えば石炭火力のような代替電源を持っているということになりますから、徹底的なLNGの代替と、そして同じく節電、省エネといったことによって危機を乗り切っていくということが必要不可欠になるというふうに思います。
以上で私からの報告を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)
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