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長谷川敏郎 ·農民運動全国連合会会長

参議院農林水産委員会(2026-06-23)での発言

第221回国会 ·第第12号号 ·4,243字
○参考人(長谷川敏郎君) 農民運動全国連合会会長の長谷川です。発言の機会を与えていただき、ありがとうございます。  私は、島根県邑南町の中山間地で、繁殖和牛二頭、田んぼ一町四反の農家です。資源循環で生態系を活用したアグロエコロジーを目指し、家族で頑張っています。  今回の主要食糧法改正案について意見陳述を行います。  令和の米騒動を総括し、二度と米不足を発生させないために、国の果たすべき役割を再度明確にしていただきたいと思います。というのも、改正の目玉は、政府が米不足の責任を棚上げしたまま、私たち農家に需要に応じた生産を主体的に行えと努力義務を押し付け、国家責任を肩代わりさせようとしているからです。  今、農家が集まれば、米の在庫が過剰らしい、出来秋の米価は暴落だという話ばかりで、不安でいっぱいです。さらに、ホルムズ・ショックによる資材、肥料、農薬、燃油、飼料の高騰に苦しみながら生産を続けています。  米の民間在庫が四月末で二百四十九万トンに達した最大の原因は、二五年に放出した備蓄米五十九万トン分を買戻しせず、去年の二五年産米二十一万トンの買入れをしなかったからです。合計八十万トンを直ちに政府が市場から引き取れば、過剰在庫は解消し、国産米の備蓄、政府備蓄百万トンの復元にもめどが立ち、国民の皆さんは安心できます。政府がつくり出した過剰は、政府の責任で、一日も早く適正在庫にしてください。  ところが、農水省は、五月の二十二日にミニマムアクセス米、一般輸入米の入札を実施し、アメリカ米三万六千トンを落札しました。昨年六月に小泉農相が入札を前倒ししたのに続き、今年は更に一か月前倒しです。我々が作った国産米を買わずに、なぜアメリカの米の輸入を二十万トンも増やしたのか、怒りが農村に広がっています。  令和の米騒動は、需給調整を減反でぎりぎりの生産を行うよう、長年の需要に応じた生産政策の失敗にほかなりません。この反省もなく、需要に応じた生産を法律に明記するのは、恥の上塗りです。  稲作は自然を相手に一年一作であり、天候、災害により、豊作、不作は付き物です。農家が春先に需要見通しに基づく生産目安で作付けしても、出来秋に需要ぴったりの生産になることは元々困難です。高温障害など、近年の気候危機の中では殊更です。  また、需要は特に価格によって大きく変化し、トレンドによる単純な予測では困難なことが改めて明らかになりました。農民連は、コロナパンデミックで二十万トン過剰になり、米価大暴落のとき、何度も政府に買入れを要請しましたが、政府は受け入れず、需要は更に減少するとの見通しを発表し、二一年から二二年にかけて十七万五千ヘクタール相当、九十万トンの減産を求めました。  米不足をつくり出したのは政府です。逆に、農民連は二四年五月、早くから米不足を指摘し、備蓄米の放出を要請しました。九月に農水省前で要請集会も開きました。しかし、新米が出ればとか、米不足はないと、一粒たりとも放出しませんでした。政府が法に定める備蓄の機動的な運営や、米穀の適切な買入れ、輸入及び売渡しを法律どおりに実施しなかった怠慢の結果ではありませんか。法律が悪かったわけではありません。いわんや、農家が需要に応じた生産をしなかったからでもありません。  主要食糧法は、国家が需給と価格の安定に責任を持つと定めています。ところが、需給の安定を図り、及びこれを通じて価格の安定化に変え、需給と価格の安定を分離する、需給が安定すれば結果として価格も安定するだろうという、とんでもない無責任な考えです。  結果としての価格安定論は、どんな価格で安定するのか不明です。国民が買い続けられる価格か、高止まり安定か、それとも農家が生産を続けられない低価格安定か、全く不明です。さらに、スーパーに米が並んでも、貧困と格差の拡大の中で、食べたくても食べられない人々にとっては米不足と同じです。一年で二倍に高騰し、買いたくても買えないという消費者の悲鳴に一番心を痛めているのは私たち農家です。  さらに、できないことは条文に書かないとばかりに、現行法の十一か所ある価格の安定の用語は、ほぼ全て削除されました。鈴木大臣の市場に介入しないという答弁は、主食の需給と価格の安定に失敗した言い逃れです。それなら、去年、小泉農相が価格破壊する、じゃぶじゃぶにすると断言し備蓄米を放出したこと、また、石破前首相が米価五キロ三千円台が望ましいの発言は、価格への関与ではないですか。鈴木大臣は備蓄の放出の判断が遅かったと反省ですが、備蓄米放出そのものの効果や価格への影響については何一つ総括されていません。  米の生産を調整し、需給と供給のバランスを取り、国民生活に混乱をもたらさないよう価格を安定させる、不足なら備蓄米を放出し、過剰なら市場から隔離する。これは国家にしかできない、また、国家がやるべき最低限の仕事ではありませんか。政府は、主食の需給と価格の安定させる責任から逃れることはできません。  そもそも、戦時立法であった食管法がポツダム勅令で廃止されずに生き長らえ、不十分であっても主要食糧法に引き継がれた根本には、憲法二十九条の財産権を抑えてでも米の自由な販売、生産を制限できるのは、食管法が憲法二十五条、生存権規定の具体法として合憲であるとされたからです。  昭和二十三年の最高裁判決は、食管法は、国民食糧の確保及び国民経済の安定を図るため、食糧を管理しその需給及び価格の調整並びに配給の統制を行うことを目的とし、この目的を達成する必要な手段、方法、機構及び組織を定めた法律である、国家経済が、いかなる原因によるを問わず著しく主要食糧の不足を告げる事情にある場合において、もし何らの統制を行わずその獲得を自由取引と自由競争に放任するとすれば、買いあさり、買占め、売惜しみによって漸次主食の偏在、雲隠れを来し、したがってその価格の著しい高騰を招き、ついに大多数の国民は甚だしい主要食糧の窮乏に陥るべきことは、識者を待たずして明らかと述べ、同法は、国民全体の福祉のため、能う限りその生活条件を安定せしめるための法律であって、まさに憲法第二十五条の趣旨に適合する立法としました。  食管法は、一九九五年、WTO協定で米自由化受入れを理由に廃止され、主要食糧法になりましたが、生存権保障のための国家による主食の供給責任は依然として引き継がれています。そのため、現行法には、農家に対する米穀の売渡し命令や米穀の割当てや配給の規定も残っています。農家が命令に従わなければ、一年以下の懲役又は三百万円以下の罰金も定められています。  今回の法改正は、これまでの水田政策の終えんです。世界の食料需給が長期的に逼迫する中、食料自給率向上は喫緊の課題です。そのために、連作障害がなく半永久的に使い続けることが可能な食料生産基盤である水田を活用し、米の増産、自給率の低い大豆、麦、畜産のための飼料等の生産拡大が求められています。しかし、現行法第二条二項の、政府は、水田における稲以外の作物の生産の振興に関する施策その他関連施策との有機的な連携を図りつつ、地域の特性に応じてこれを行うよう努めなければならないという条文を削除します。  鈴木大臣は、第五条四項のその他の関連施策に含まれると強弁しましたが、政府の仕事を米穀の新たな需要創出、輸出拡大、生産性の向上をうたっているだけで、生産を生かした稲以外の作物の生産振興は消えました。この削除により、水田活用の直接支払交付金の予算措置の根拠を失います。この交付金がなくなれば、多くの農業者は米以外の作物を作っても採算が合わず、耕作を放棄せざるを得ません。大規模経営ほどこの交付金に依存し、経営は深刻になります。私のような小さな農家でも、牛二頭のために牧草のイタリアンを一・五反作っていますが、飼料作物支援として一反三万五千円の交付金があり、飼料高騰の中、大変助かっています。  また、地方公共団体や農協の役割は大きく変えられます。地方の特性に応じた農業振興が消えるため、水田フル活用ビジョン、令和三年度からは水田収益力強化ビジョンですが、地域再生協議会への支援も後退します。改正では情報提供するのみです。  島根県は令和二年から生産目安の配分をやめ、私が住んでいる邑南町も、町再生協議会による集落推進委員の会議がなくなり、情報提供のみになりました。その結果、JA担当幹部は個々の農家へほとんど情報が伝わらない状況と語り、それまでほぼ維持していた戸数や作付け筆数がこの五年間で二三%も激減し、受け手のない田が約二割を占めています。昨年、町内の集落営農の解散がマスコミで大きく取り上げられました。町の中心地にも耕作放棄地が出始め、町政座談会では町の責任が問われる事態です。先日、大屋光宏邑南町長と話をすると、これまで集落営農の大規模化、法人化だけで進めてきたが、もう引き受けられない段階に来ている、もっと個人の農業への支援を強めるべきではないかと語っています。  地方自治体や農協の役割を弱めれば、農家の生産意欲を支えてきたシステムが壊れ、崩れ、生産基盤が一気に崩壊します。規模拡大だけで農地を維持することは困難です。大規模農家に農地を集めれば米生産を維持できる段階ではもはやなくなってきています。直近五年間で農家全体の二四%に当たる二十六万の農家が離農しました。今や稲作農家の平均年齢は七十一・一歳、あと五年です。その後、一体誰が日本の米を作るのか。まさに非常事態ではありませんか。今必要なのは、規模の大小にかかわらず、全ての農家が安心して増産できるセーフティーネット対策をつくることだと思います。  昨年、農民連を初め、多様な農業、農民団体が集まり、令和の百姓一揆、トラクターデモを全国二十六都道府県で行いました。百姓一揆の要求は、農家への所得補償です。六生協の提言や、主婦連を初め多くの消費者団体が、農家への直接支払、所得補償で私たちの食料を守ろうと、運動はかつてなく広がっています。今急いで主要食糧法を悪い方向へ改正することを思いとどまり、いま一度、法律どおりにきちんと運用し、さらに農家への所得補償を実現していただくことをお願いして、陳述を終わります。

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