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大村敦志 ·学習院大学法務研究科教授

衆議院法務委員会(2024-04-03)での発言

第213回国会 ·第第7号号 ·4,200字
○大村参考人 学習院大学で民法を担当しております大村敦志と申します。  本日は、このように意見を申し上げる機会をいただきまして、ありがたく存じます。  私は法制審議会家族法制部会の部会長を務めておりましたけれども、本日は、その審議に参加した一研究者としての個人的な意見を申し上げます。どうぞよろしくお願いを申し上げます。  今回の民法等の改正案は、離婚に伴う子供の養育に関する見直しを中心としつつ、あわせて、関連する諸制度の見直しを行うことを内容とするものでございます。  以下、三つのことを申し述べます。第一に、主な改正項目のうち、民法に関するものを取り上げて、その特色であると私が考える点を指摘いたします。第二に、今回の改正の全体としての特徴、そして第三に、二〇一一年以来の家族法改正の流れの中での位置づけにつき、私の考えるところを申し述べます。  あらかじめ一言で申しますと、今回の改正案は、全体として、子供の立場を重視するという観点に立った上で、父母と子供の関係に関する民法上の規律につき、個々の親子が置かれた状況の多様性に対応できる形で見直しを行うものであると理解しております。  初めに、第一点の改正項目の主な特徴についてでございます。五つの点を挙げさせていただきます。  一つ目は、親子関係の基本原理を明示した点です。  従来から、未成年の子供に対する父母の養育義務は、親族間の通常の扶養義務、例えば兄弟姉妹の間の扶養義務に比べると程度の高い義務であるとされてきましたが、これには条文上の明確な根拠がありませんでした。今回、明文の規定を置いて、未成年の子供に対する扶養義務が他の扶養義務とは性質を異にする義務であることを宣言したことの意味は非常に大きいと考えております。また、扶養だけでなく、養育全般につき責任を負うことを示したことも意義深い点です。  あわせて、子供の人格尊重、父母相互の間での人格尊重を求めるとともに、子育てに当たる父母の協力義務を定めたことも重要な点です。さらに、親子交流を親子関係一般の問題として捉えたことの意義も大きいと考えております。金銭面だけではなく人格面についても、重要な規定が提案されていると言えます。  二つ目は、親権、監護権につき従来不明確であった点を明確に規律した点です。  婚姻中、離婚後を問わず、父母が親権を共同行使することとされている場合、しかし、実際には共同で行使することが期待できないという場合にどのように対応すればよいのかということを示すとともに、監護を行う親、行わない親、それぞれの権限について整理がなされております。  三つ目は、父母が離婚した場合、あるいは、そもそも結婚していない場合の親権の行使に関するルールを従来よりも柔軟なものとした点です。  従来は、離婚後には、父母のどちらか一方が単独行使をするという選択肢しかありませんでしたが、これに父母の双方が共同で行使をするという選択肢が加わりました。あわせて、この選択肢を加えるに当たって、父母の一方か父母双方かという決定が適切になされるような工夫がなされております。すなわち、協議離婚については、不適切な選択がなされたときには裁判所に変更を求めることができるようにし、裁判離婚については、どの選択肢を選ぶかを決める際の判断要素を提示しております。  四つ目は、養育費支払いの実効化につき、幾つかの制度が設けられている点です。  まず、標準的な養育費相当額につき先取特権を付与するという形で強制執行を容易にし、次に、養育費支払いの合意がなされていない場合には法定養育費の請求ができることとし、さらに、裁判で養育費の額が争われている場合に、当事者の資産状況等につき裁判所は開示命令を出すことができるとしております。  五つ目は、関連の諸制度として、養子と財産分与につき一定の見直しをした点です。  今日では、離婚した父母の一方が子供を伴う形で再婚し、その子供と再婚相手が養子縁組を行うことが少なくありません。今回の改正において、離婚後の親子関係の在り方を見直すのであれば、その関係が子供と再婚相手との養子縁組によりどのような影響を受けるかという点までを視野に入れる必要があります。特に、養子の親権は養親が行うという規定はありますものの、子供を伴って再婚をした実親が養親とともに親権を行使できるかどうかは明らかではありません。今回、明文の規定によって、この点が明確化されております。  また、離婚後の親子の生活は、金銭面では、養育費だけではなく、離婚の際の財産分与によって大きく影響されます。今日、実務上は、いわゆる二分の一ルール、すなわち、結婚した後に相手の協力によって得た財産については、離婚に当たって、原則としてその二分の一を分与すべきであるという考え方が定着していると言われております。今回の案は、このルールの出発点となっている一九九六年の民法改正案、提案はされたものの実現を見なかったその際の分与規定を立法化することによって、実務の扱いを確認しております。  次に、第二点、今回の改正の全体としての特徴に触れさせていただきます。  今回の改正の経緯に関わる特徴といたしましては、親権、監護権の在り方をめぐって、様々な異なる意見が主張されたという点があると思っております。とりわけメディア等では、単独親権か共同親権かという対立図式が強調されることもありました。  しかしながら、一方で、現行法の下でも、離婚後に、父母の一方が親権、他方が監護権を有するということは可能であり、離婚後の親権は既に完全な単独行使となるばかりではなくなっているとも言えます。また、婚姻中は共同行使であるといっても、単独で行使することができる場合も定められております。  他方、学説等には様々な考え方はありますけれども、離婚後の親権を共同行使にするとしても、全ての事柄につき全ての場合に共同行使とするわけではなく、共同行使の対象となる事項、場面の設定には幅があります。どのような考え方に立つにせよ、単独行使となる場合を全く認めないということは考えにくいところです。つまり、ここで問われているのは二者択一ではなく、程度の問題であるということでございます。  法制審の部会では、最終的には、少数の委員が要綱案に反対の態度を崩しませんでしたが、様々な角度からの検討をした上で、異なる立場の意見を調整した案ができたというふうに思っております。今回の改正案はそうした検討を踏まえたものであると理解しております。  結果としてできた案のもう一つの全体的な特徴は、父母と子供との関係は、離婚の際に一度決められてそのまま固定するというものではなく、その後の状況の推移の中で変化することを前提に考えられているということでございます。父母の間で離婚時の緊張関係の下で共同行使と決めても、後になってこの決定が適切でなかったといたしますと、裁判所を通じて変更することが可能です。あるいは、当初は単独行使が適当であるといたしましても、時間がたって父母の関係が安定してくれば、共同行使への変更も可能になってまいります。  こうした制度は、変化する状況に柔軟に対応することを可能にいたしますが、当事者にとっても裁判所にとっても、適切に運用するのが難しいところもございます。そこで、一方では、当事者の決定をサポートする仕組みが様々な形で設けられることが期待されます。他方、裁判所は、特に制度のスタート時からしばらくの間、運用には慎重を期していただきたいと考えているところでございます。  最後に、第三点といたしまして、今回の改正案を二〇一一年以来の家族法改正の流れの中に位置づけておきたいと思います。  一方で法制審での議論に基づく改正といたしましては、二〇一一年の児童虐待関連の親権制度の改正、二〇一八年の相続法改正及び成年年齢引下げに伴う婚姻法の改正、二〇一九年の特別養子制度の改正、二〇二二年の実親子法及び親権に関する改正がございます。他方、それとは別に、二〇一三年の最高裁の違憲判断に基づく非嫡出子相続分の平等化、二〇二〇年の生殖補助医療特例法による親子法の特則導入などがございます。  これらに加えて、更に今回の離婚後養育を中心とした改正が実現いたしますと、二〇〇〇年代後半に民法学界において想定されていた範囲については、改正はほぼ一巡りしたことになります。一連の改正は、親子関係を軸に、カップルの在り方にも及ぶものでしたが、そうした構造を端的に示しているのが今回の改正案であると考えております。この改正が実現いたしますと、平成期の家族法改正はひとまず完成し、家族法改正は次のステージに入ることになります。その意味で、今回の改正は非常に重要な改正であると位置づけております。  また、今回の改正論議の中には、家族の将来像を探る視点も含まれていたように思います。  例えば、親一般の責務に関する規定は、差し当たりは父母のうち親権を持たない者も親としての責任は負うことを確認する規定として設けられておりますが、どの親も同等の責務を負うという規定は、実親二人、養親二人、合計四人の親がいるときに、養親二人だけではなく実親二人も養育の権利義務を同等に有するのではないかという問いを引き起こします。実際のところ、法制審の部会ではこの点に関わる議論も交わされました。また、子の養育以外の目的による養子縁組をどの程度までどのようにして認めるのかという問題もございます。  一言で申しますと、養子というものを通じてこれからの家族の在り方を考えていくということが将来の課題の一つとして残されているように思います。  この点はおきまして、十五年に及ぶ国会の内外での継続的な検討を通じて、試行錯誤を重ねつつ、家族法に順次改正が加えられて、現代の家族の状況に対する対応が図られてきたことの意義は非常に大きいと考えております。この先も、新しい時代の要請に応じながら堅実な改正の歩みが続くことを期待しております。  私の意見は以上でございます。御清聴ありがとうございました。(拍手)

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