○原田参考人 こんにちは。福岡県弁護士会の弁護士をしております原田直子と申します。
本日は、意見を述べる機会をいただきまして、ありがとうございます。
私は、法制審議会家族法部会の委員としてこの議論に参加してまいりました。今日は、部会という形で表現させていただきますが、ただいまの大村参考人、委員長の発言を否定するものではありませんけれども、法文上、部会で合意した趣旨を明確にするためには必要な修正を行うべきであるという意味で意見を述べた上で、それでも現時点で共同親権の導入は危険であるという趣旨で意見を述べさせていただきます。
まず、全体の、親権という言葉ですけれども、諸外国では共同親権と言われていますが、親権ではなく親責任とか配慮義務が主流です。今回、八百十七条の十二として親の責務が明記されたことは歓迎いたしますが、親権という言葉が残り、包括的な子に対する親の権利があるかのような誤解を生む可能性があります。権限は、義務を遂行するために必要な範囲での権限であるべきで、親権という言葉を使わなくても、例えば、居所指定権とか法定代理権とかいう形で、権限ごとに明確にすればよいのではないかというふうに考えます。
次に、八百十七条の十二に関して、親の責務についてですけれども、今回の法案では、「その子の人格を尊重するとともに、」となっていますが、子の意思の尊重という言葉にはなっていません。
部会の補足説明では、子の人格の尊重の中に子の意思の尊重も含まれるというふうに説明されましたが、子どもの権利条約の表現と合わせて、子の意思の尊重という言葉をきちんと入れるべきだと思います。
あっ、ちょっと言い忘れましたが、私が提出いたしました意見の趣旨の資料の一に、このように改正すべきだということをまとめておりますので、御覧になりながらお聞きいただければというふうに思います。
先頃改正されました民法八百二十一条に、同様の文言、つまり、人格の尊重という言葉が入っているのですが、八百二十一条に人格の尊重という言葉が入ったのは、懲戒権との関係で、子に体罰を与えてはならないということが主な趣旨でした。意思の尊重とは趣旨が違います。
子供は、自分のことが決められるに当たって、状況の説明を受け、十分に意見を聞いてもらい、そのとおりにならない場合には、その理由をきちんと説明してもらうことによって納得感を得られますし、それが子の利益につながるものと考えます。人格の尊重という言葉ではなく、意思又は心情の尊重とすべきだというふうに思います。
次に、八百十二条の十二の二項についてですが、さらに、父母は、「互いに人格を尊重し協力しなければならない。」という条文も提案されています。この条文は、フレンドリーペアレントルールを取り入れたものだと解釈される議員さんがいらっしゃいますが、それはその議員さん独自の解釈であり、法制審の部会の合意ではありません。
今回の法改正全体では、DVや虐待から子供を守るという視点が重要であるということは部会全体の一致点で、それをどのように条文にしようかということが議論され、お互いの人格の尊重という言葉を入れて、一方配偶者の他方に対する攻撃が違法であるという、裁判の際の規範にもなり得るような条文の作りにしてはどうかという意見を受けて盛り込まれたものと理解しております。
そもそも、フレンドリーペアレントルールというのは、相手の親と友好的な関係を築くべきというものです。別居、離婚の理由が、DVや日々どなり散らされるような精神的ハラスメントをしているような親であっても、例えば、年間百日面会交流させると主張した親に親権者を与えるといった極端な判決に見られるような考え方です。ひどい身体的暴力を受けていた場合はもちろんですが、毎日のようにどなられたり、監視されたり支配されたりしていたDV被害者に、子供のためとはいえ、友好的な関係を築けと言えるでしょうか。
このルールは、DV加害者に親権をよこせと言うためのルールにほかなりませんので、解釈上のみならず、法文上もこのルールを採用したものでないことを明らかにしておいていただきたい。例えば、DV、虐待等の父母間に生じたことの主張を妨げるものではないなどのただし書を入れるなどですね。昨日の答弁の中でも、一義的には言えないという言葉が何度も出てきましたけれども、DV被害者に加害者と仲よくしなさいなどと言うことがないように、明確にしていただきたいというふうに思います。
次に、八百二十四条の二、親権の行使についてですが、共同か単独かは、どちらが原則でもない。つまり、共同が原則ではないということを条文上も明確にしていただきたいと思います。
改正案の条文について、離婚後も共同親権が原則であるとされたと主張される方がおられます。昨日の議論の中での大臣の答弁に対しても、私とは反対の立場の方の御感想ではありましたけれども、中途半端ですよねというような感想を述べられました。そう、中途半端なんです、この条文。
この条文は、婚姻中の親権は共同とされていた条文について、婚姻中という文字を取ったものにすぎません。にもかかわらず、提案されている条文では、ただし書として、「その一方のみが親権者であるとき。」と書かれているので、単独親権が例外規定にも読めてしまい、共同親権を原則とするかのような誤解が生じています。
しかし、法制審議会の部会では、共同親権を原則とすべきとの意見では一致しませんでした。共同親権が原則だという発言に対しては、そこまで合意した覚えはないという明確な反対意見も出されましたし、私、共同親権を原則とするものではないですよねという発言をしまして、どなたも反対意見を述べられませんでした。
ですので、誤解を引き起こさないように、あくまで単独か共同かは選択になるということを明確にするためにも、親権は父母双方が親権者である場合は共同して行うというふうにすべきだと思います。
次に、共同親権を選択しても一方の親が単独で親権を行使できる例外規定として、「子の利益のため急迫の事情があるとき」という文言が提案されています。これは何度も議論されているようですが、私はこれを改める必要があると思います。これでは、DV等の被害者が安全に逃げることができなくなってしまい、子供も危険にさらされます。
急迫という文言から皆さんはどのような印象を受けられますか。目前に迫った危険があるという場合というのが一般的ではないでしょうか。法制審議会では、父母の協議や裁判所の判断を経ていては適宜の親権行使が行えず、結果として子の利益を害するおそれがある場合となっており、暴力を振るわれたそのときという限定的な時間だけではなく、もっと広い概念とされていました。
部会の補足説明にはいろいろ書かれていますが、現在、最も論争になっているのは、離婚前に一方の親が子供を連れて家を出る場合です。この点、部会では、DVや虐待からの避難が必要な場合には、DVや虐待があった直後でなくても、別居のための準備をした後の別居でもよいとされています。つまり、別居するための協議、提案することすら困難なDVや虐待がある場合や、話合いができないような緊張関係がある場合、あるいは、子供の転校の時期などを考慮して準備の上別居する場合も急迫に含むとの合意があったと認識しています。しかし、急迫という文言では、このような事態を含むかどうか疑問となり、DVの場合には到底被害者や子の安全の確保はできません。
現在の実務では、一方の親権者が子を連れて別居しても、子を連れて家を出た場合と子を残して自分だけが家を出た場合とではどちらが子供のためになるか、あるいは協議の実現可能性があったかどうかという二点で判断されています。子を連れて出た方が子供の主たる面倒を見ていた人であって、子供を連れて出た方法が問題なければ違法とならないとされています。子供を連れた別居ができなくなれば、危険にさらされるのはDV等の被害者と子供です。急迫との言葉は狭過ぎるので、その文言を変えていただきたいと思います。
さらに、そもそもDVや虐待は、身体的な暴力だけでなく、大声でどなるなどの精神的DVやモラルハラスメントも含まれるというのが一般です。精神的DVでも保護命令が出せるようにDV保護法が改正されました。そして、保護命令は被害者が逃げるということを基本としていますので、共同親権の間は子供を連れて逃げられないということになったら、DV法との整合性が取れなくなってしまいます。このようなDV法の仕組みと整合性を明確にしておかなければ、行政やその他の支援者が支援する場合の判断基準に大きく影響し、支援が滞る可能性があります。
特に、同居のまま裁判で協議するとした場合、最も被害を受けるのは子供です。家庭内別居状態の子供の生活、親の顔色をうかがい、会話のない冷たい家庭内での生活であり、それがお子さんにとってよいはずありません。済みません、何か想像してしまうと涙が出てきます。双方の親のメッセンジャーのような位置にある子供も珍しくありません。別居を決意される方は、親の紛争下に子供をさらすことがよくないと考える方も多くおられます。両親間の葛藤が子の利益に反することは一致した認識だと思います。午前の面会交流支援を行っていらっしゃる方も、子供の望みは親がけんかしないことだというふうにおっしゃっていました。
したがって、急迫ではなく、父母の協議や裁判所の判断を経ていては適宜の親権行使が行えず子の利益を害するおそれがある場合というふうにすべきだと思います。
もう一つ、DVは立証が難しいという問題があります。DVは、家庭内という狭い空間で行われ、被害者も自分がDVを受けていると分からないまま体調が悪化したり、病気になる人もいます。加害者から離れて初めて異常なことだったと分かるのです。とすると、そもそも証拠を確保することが難しいです。そんな場合にも、証拠がないからといって、子供を連れて避難できなかったり、裁判所により共同親権を強制されたりすれば、被害者はおろか子供も大変つらいことになります。したがって、家庭裁判所の充実と科学的知見を備えた専門家の配置が必要となることをつけ加えさせていただきます。
そして、八百二十四条の二、二項ですけれども、共同親権でも単独で行使できるとされているもう一つの場合、監護及び教育に関する日常の行為については親権を単独で行使することができるという案が示されています。しかし、まず日常行為というものの範囲が明確ではありません。日常行為が何かということをめぐって争いになるでしょう。それぞれの親が、それぞれ勝手に、子供の習い事とかの契約をすることになり、子供はどうしたらいいんでしょうか。学校や医療機関など第三者は、父母の同意をどう得たらいいのでしょうか。クレームを恐れてあらゆる場面で父母の同意を求めるようになれば、子供は当たり前の教育や医療も受けられなくなりかねません。
この点をめぐっては昨日も何度もやり取りがありましたが、国会でもはっきりしないで、そんなやり取りをいっぱいしないといけないような状況で、子に関わる第三者が慎重になり、その影響を受けるのは子供であり、それが子供ファーストなのでしょうか。
さらに、離れていても日常行為であれば単独で行為できるとすると、子や子の世話をしている監護親の知らない間に、何らかの行為がなされる可能性があるとも言えます。
この点、法制審の部会では、例えば、面会交流中の飲食などが例示されていました。つまり、継続的にでも一時的にでも、現に監護している親に関しては単独行使を認めるという趣旨でした。誤解なきように、現に監護している親と入れるべきだと思います。
そのほか、共同親権でも、監護者を決めて、共同親権者の意見が分かれたときに、家庭裁判所に行かなくても決めることができる人を決めておくということも、子供が生活上の不自由を来さないという意味で重要ではないかと思っています。
一方の親が反対するということは、拒否権を与えるということです。そして、裁判所を経なければ何も決められなくなり、一番困るのは子供です。
日本の裁判所は、非常に、人的、物的な体制が整っておりません。
附帯決議でも述べられていますが、現在でも、二百三ある支部のうち、四十四の支部に裁判官が常駐していません。大規模庁でも事件の審理に時間を要し、調停では裁判官がかけ持ちしているので、なかなか進行しないという実態があります。
調査官は本庁や支部でも大きなところにしかいないので、子供の調査に関する家庭訪問などの時間には制限がありますし、子供が家庭裁判所に呼ばれるときは学校を早退して行かなければならないという場合も多いんです。現在でもこのような状態で、今回の改正案で新設される家裁の役割を果たせるのか、本当に疑問です。
日本で九割を占める協議離婚、これに対する対策は何もありません。ここで全ての方たちが真摯な合意ができるのでしょうか。離婚しようとしている両方の父母が、対等、平等に協議して、共同親権を選択できるのでしょうか。選択だからいいとは言えない実態があることも是非考えていただきたいというふうに思います。
御清聴ありがとうございました。(拍手)
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