○高久公述人 御紹介いただきまして、ありがとうございました。一橋大学の高久と申します。
このような場で意見を述べさせていただき、誠に光栄でございます。
資料に基づいて説明させていただきます。令和六年度予算についてという資料を御覧ください。
今般の予算、やはり目玉として注目されておりますのが、子育ての支援金の制度だろうと思います。この後、鈴木先生、西沢先生等から様々な御批判もあることかと思いますけれども、私なりの考えを説明させていただいて、その後、歳出改革や応能負担の徹底といった点について簡潔に話させていただければなと思っております。
三枚目のスライドを御覧ください。
支援金制度について多く御批判があることは存じ上げているところでございます。昨日の日経新聞の記事ではございますが、負担と給付のリンクが全くない、健康保険料を取って児童手当を配るの意味分からないよねというような御批判とか、企業の健保の自治を阻害するんじゃないかといったような御批判があるところ、正当な御批判という面もあるところではございます。
おおむね、支援金制度自体は社会保険制度と相入れない代物だというふうにメディア等で報道されているわけではございますが、これは私なりの理解を申しますと、そもそも、社会保障を拡充していきますとだんだんと子供を持つ必要性というのが薄くなってまいりまして、それ自体が社会保障制度の危機を生んでしまうというパラドックスがよく知られております。なので、社会保険制度自体をまず持続可能にするためにこうした制度に、各社会保険に協力をいただいているというそもそもの制度の趣旨というのをよく国民に理解していただく、周知徹底するということがまず必要なことであろうと思います。
それから、二番目に関しまして、そういう理念の問題を抜きにしましても、子育て支援の財源はそもそもどうあるべきかといいますと、消費税というのが第一感ではございます。消費税は高齢者の方も現役世代も平等に負担しますので、全世代で子育てを支えるという趣旨からいいますと、消費税というのはまず第一感として上がってくるところではあろうということなんです。
ただ、それで全ていいのかといいますと、もし財源が今よりも柔軟に考えられる状況であったとしても、子育て支援の受益者としてやはり企業というのは見逃せないところかと思います。小さいお子さんがいて、それで働かれている女性の方、そうした方々の献身的な働きによって企業も活動を支えられている。企業も受益者でございますので、その観点から、今回支援金を通じて企業への負担というのがある種明確になっているというのは、仮にもう少し財源が柔軟に考えられるんだとしても、これは大きなメリットなんだろう。なので、そういうメリットをしっかりと国民の方に周知して判断していただくような広報が必要なんじゃないかなと考えているところです。
社会保険制度の自治を侵害しているんじゃないかという御懸念もございますけれども、今現在、健保組合等は、この保険料の徴収の義務に関して、社会全体で子育てを支えるという点から貢献していこうというような文書も発表されているところかと思います。
また、そもそも論ではございますが、日本の社会保険制度、皆保険、医療は皆保険と言われますけれども、これは、税と保険のチャンポンだという理解が正しい理解かと思います。ですので、社会保険制度の保険らしさというのをどこまで重く見るかということについては多くの識者の間でも随分差があるところということは認識していただきたいかなと思っているところです。
その上で、五ページ目に行っていただきまして、ただ、新しい負担が増えるということではございますので、その財源をどうするのかというところで非常に不透明感が高い状況だ、それが国民の方々の御懸念を招いているんじゃないかなというところは、私も否定しないところです。
今現在、全世代型社会保障構築会議等で改革プラン、改革工程というのが策定されておりまして、そこにお示ししているのが主な改革工程表の記載内容です。
医療提供体制改革の推進、地域医療構想を二五年以降どうするのといった話であるとか、それから効率的で質の高いサービス提供体制の構築等々も話されているところです。しかしながら、加速化プランを二八年度に実施するまでに何か目立った歳出改革があるのかといいますと、やはりこれから話させていただく自己負担の問題というのを考えざるを得ないんじゃないかなというふうに個人的には考えております。
ですので、そうした点について次に説明させてください。資料の六ページ目になります。
日本の自己負担の割合、これは医療関係のデータ解析をしている者としては多く研究論文を書いたりする一番ポピュラーなテーマになりますけれども、日本の自己負担の水準、これを実効自己負担ベース、つまり国民医療費に占める患者負担の割合で見ますと、今現在一一%程度にまで下がっている。
自己負担制度、高齢者の方が非常に自己負担が低い状況ですので、高齢化を踏まえますと、何も改革をしないと自然と国民全体の自己負担率は下がっていくというような、自動的にいわゆる減税が行われるような制度になっているんじゃないかと思います。なので、自己負担の引上げは政治的に難しいというような意見もよく聞かれますけれども、引き上げないと自動的な引下げになるんだ、国全体としてみれば。そういう点はよく御理解いただく必要があると考えております。
七ページ目に行ってください。
実際に、自己負担率、後期高齢者と現役世代、若者で比べますと、後期高齢者は八%、それから七十五歳未満は一九%でございますので、大きな差がある。一部には、高額療養費制度があるので自己負担が低いんじゃないか、つまり、ストップロスにかかる医療行為が多いので相対的に負担が少なくなっているんじゃないかということもございますけれども、高額療養費の総額というのは年間二・八兆円で、医療費全体の規模とはかなり差があるということですから、これは自己負担率設定そのものの問題というか、特徴として高齢者の方の自己負担は低くなっているということに留意していただきたいと思います。
八ページ目に行きまして、人口構成を踏まえますと、既に御案内のとおりですけれども、だんだんと七十五歳以上の人口も増えていくということですので、何もしないと国全体としての自己負担というのはどんどんどんどん下がっていくような構造にあるんだという認識でいていただきたいかなと思います。
九ページ目。じゃ、今現在、自己負担、国際的に見て日本の制度をどういうふうに評価できるかというと、非常に良好な防貧機能があると考えてよろしいんじゃないのかなと個人的には考えております。家計から見た自己負担額というのはOECD平均よりも低い水準で今現在推移しておりますし、それから、支払い困難な医療費に直面する家計の数、割合というのも低い水準なんだということで、非常に高い防貧機能を今現在のところは発揮しているところなんだということです。
それで、十一ページ目に行ってください。今現在非常に良好な防貧機能を発揮している自己負担の在り方というのを学術的にはどう評価できるのかということを少しお話しさせてください。
まず、制度論といたしまして、年齢という基準で自己負担を分けるという制度というのは、先進国では全く一般的ではないということです。かつ、年齢によらず負担して、年齢によらず必要な方に必要な支援をしていくといういわゆる全世代型社会保障の理念に照らし合わせましても、こうした在り方というのは再考の余地が非常に多いと考えられます。
今は理念の話ですけれども、実際、じゃ、これがどう機能しているのかということについては多くの学術論文があるところです。私自身も研究したり、これから話していただく鈴木亘先生もこうした御研究があるところです。
コンセンサスとして得られているのは、七十歳前後で自己負担の変化というのは日本ではあるわけなんだけれども、これは確かに、自己負担が減ると外来の医療費は増えますということです。外来の医療費は増えるけれども、医療保険の目的は第一義に国民の健康ですので、実際にこれで健康を担っているのかどうかというと疑義がついているような結果、つまり、様々な健康指標を見ましても、自己負担を高齢者の方に三割から一割に下げたからといってそれで健康になるのというと、そういう結果というのは得られていないというのがコンセンサスではないのかなと。
今現在、こうした自己負担の在り方について三十八文献ほど学術論文がございますけれども、そうした文献をレビューしても、自己負担を減らしたこと、それで高齢者の方が健康になって、みんなハッピーになっているというような結果というのは今現在得られていないと考えてよろしいところです。
もっとも、高齢者の方は複数の併存症を抱えられている方もいますので、自己負担を引き上げると、健康が悪化して入院がかさんで、医療費の観点からも問題が大きいんじゃないのというような報告もございますので、自己負担のことを考えるのであれば、年齢によらず統一する、その中で条件をつけて自己負担を軽減していくような包括的な仕組みというのを考えることで、歳出の改革等より納得感の高い負担の仕組みになるんじゃないのかなと考えております。
今現在、子育て支援財源として高齢者の自己負担、ちょっと少し期待されるところもあるわけなんですけれども、必ずしも子育て支援の財源ということではなく、全世代に必要な医療を届けるという観点から負担の見直しというのを是非積極的に御検討していただきたいというのが趣旨です。
十三ページ目のスライドがまとめになりますが、財源としてこれを考えるのであれば、後期高齢者の自己負担は一・四兆円ぐらい年間あるわけなんです。一割から二割負担に上げると二倍になりますので、それで一兆円ということなんです。
ただ、そうなりますと、例えば、九千億円財源調達をするために来年の実効自己負担率は二三・四%ねとか、一六・四六%ねというような話になりますので、これは財源として位置づけるのではなくて、あくまで全年齢の方に必要な医療を届けるという観点から包括的な自己負担制度にするという議論になってほしいかなと思っているところです。これが一つ目のトピックでございます。
二番目、予算に関しまして、今般の予算で特筆すべきところと私が考えているところは、財務局の機動的調査というのが非常にタイムリーな形で行われたことは御存じかと思いますが、それにより診療所の経営状況等が非常に明確に、明らかになった、それによって診療所の算定する報酬のある種の歳出の改革につながったということです。データに基づいた透明性の高い予算策定という観点からもこうした取組というのは非常に評価されるべきところで、今後とも継続していただきたいところです。
ただ、医療全体の問題を考えますと、診療所に対する報酬の傾斜は非常に高いまま続いておりますので、今般の予算の策定に限らず、継続的にこうした方向性について歳出改革の観点から検討する必要はあるんじゃないかと考えております。歳出をカットしろと言っているのではなく、必要性の低い予算から必要性の高い予算に振り向けないと予算の質全体が向上しないということです。
実際のところ、診療所の開業が非常に増えているところでして、この二十年でも一万三千ほど診療所が開業されていて、多くが東京や都市部に集中している。地方の医療アクセスというのは非常に懸念されるような状況にもあるんじゃないのかなと。その一方で、勤務医の方の非常に過酷な勤務というのが続いているような状況でございます。そうなっている背景というのは、やはり報酬の問題を抜きにして語れないんじゃないのかなと。
十六ページ目になりますが、今般、診療所の報酬というのが非常にメディア等でも注目されておりました。実際のところ、報道等でも、平均年収の五・五倍ぐらいは診療所の報酬、医師の報酬は高いというような報道もなされているところです。
OECD諸国では平均年収対比での医師の報酬というのを各国公表しておりますので、日本の水準というのがどれぐらいなのかというのはしっかりと分かる話なんです。これを見ますと、主に外来診療に当たる医師になりますけれども、日本の場合は自営で開業しますので、それは開業医ということですけれども、五・四倍ぐらいになっている、平均年収の五・四倍というのは、それほどの報酬を払っている国というのはほとんどない話なんだと。医療従事者の方は一生懸命やられていて、非常に国民の健康に対して貢献をしていただいているところではございますけれども、やはり、余りにも高い報酬ではないかということは、引き続き注視して見る必要があると考えています。
その一方で、非常に、小規模な経営でも高利益率というのが診療所の経営の実態ではございます。
十七ページ、ちょっと時間も少ないので説明をちょっと割愛させていただきますけれども、一人とか二人で開業するような形態というのが非常に長く続いておりまして、それでも会計処理に事務職員の方は必要なんです。現在のところ、診療所の雇用の四人に一人は事務の職員ということではございますので、こうした開業の形態自体もやはり見直していただいて、歳出改革の俎上にのせるということは必要になるんじゃないかなと考えております。
おめくりいただいて、二十ページ目。これまで話した内容というのは、子育て支援財源の評価と必要な歳出改革、これは改革することによってより必要な予算に我々の資金を振り向けることができるための改革ということですけれども、それと同時に、現在の国民負担で今後日本の社会保障を賄うことができると考えている識者は多くないんじゃないかなと思います。なので、負担を一定程度お願いするというような方向性というのはやはり心がけていく必要があるところです。
その観点で、社会保険料の負担の話、非常にメディア等でも盛り上がりましたけれども、現役世代の負担が上がるという報道が非常になされる中で、現役世代内の負担の格差というのは物すごく見逃されているんじゃないのかなと考えております。
二十ページ目のスライドで、実際に、組合健保と協会けんぽという形で、大企業と中小企業で保険が日本は分かれておりますが、協会けんぽは一〇%の保険料率なんですけれども、組合健保の保険料率の分布、これは公表もされておりませんで、民間の情報公開請求で明らかになって公表できるようになったものです。それを見ますと、六・五%未満というのが十五組合、平均でも九・二%程度になって、一%程度の保険料率の格差があるところです。
豊かな人たちが入っている組合健保ほど保険料率が安いというのは、日本の保険制度の中で厳然と続いている逆進的な構造だと言って差し支えないところです。一%程度の保険料の格差は余り大したことじゃないじゃないかと思うかもしれませんが、これは課税ベースが非常に広い話で、各保険者の標準報酬月額百兆円ぐらいございますので、百兆円の一%は一兆円になる。それぐらい、若年の負担が注目される一方で、世代内の負担の格差というのは、なかなか世論に届かなかったり、気づいていなかったりすることが多い。
そうしたことを見直していくことによって、子育て支援、また新しい財源ということで御負担をお願いするということになるんでしょうけれども、低所得者の方々の負担が余り高くならないように制度設計したりすることは十分に可能なはずなんじゃないのかなと。そうした形での方向性というのを是非前向きに御検討いただければなと思います。
以上、私からの話としては、歳出改革について、自己負担を引き上げたらどうか、診療所の報酬はどうか、それから、負担の在り方についても見直しの余地が多いんじゃないか、以上三点についてお話しさせていただきました。
御清聴いただきまして、誠にありがとうございました。(拍手)
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