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村上陽子 ·日本労働組合総連合会副事務局長

参議院厚生労働委員会(2024-05-07)での発言

第213回国会 ·第第11号号 ·4,628字
○参考人(村上陽子君) ありがとうございます。  連合で副事務局長を務めております村上です。本日は参考人としてお招きいただき、ありがとうございます。  今回の雇用保険法の見直しは、連合として求めてきた内容が全て実現したというわけではありませんが、労働政策審議会において、公益委員、使用者側委員、労働者側委員が議論し、合意点を見付けてきたものです。今後の課題はありますが、全体としては了としているものです。  このような前提の上で、雇用保険法等の一部を改正する法律案について、働く側の立場から、適用拡大、教育訓練給付、雇用保険の財源、育児休業給付に関する保険料率の四つの項目について意見を述べさせていただきます。  初めに、雇用保険の適用拡大についてです。  連合は、雇用形態にかかわらず全ての雇用労働者に雇用保険を適用しセーフティーネットを整備することが重要と考えています。適用対象を現在の週所定労働時間二十時間以上から十時間以上に拡大することは、雇用保険によるセーフティーネット機能の拡充に資する改正であると受け止めています。  働き方が多様化する中で、先ほどもございましたが、雇用保険の適用対象は徐々に拡大されてきました。その中でも、今回、週所定労働時間十時間以上まで拡大するということは、働く者にとっても、事業者にとっても、制度を運用する側にとっても、さらには雇用保険制度にとっても重要な改正であると考えます。  一方で、二〇二八年十月の施行に向けて検討いただきたい事項も残っていると考えており、三点申し上げます。  一点目は、複数就労の場合の雇用保険の加入や失業の定義の在り方についてです。  衆議院においても複数の事業所で働く場合の雇用保険の適用の在り方について議論いただきましたが、今回の改正で新たに適用対象となる労働者の中には、生計を維持するために副業、兼業をしている方もいることが想定されます。こうした中、雇用保険は、ほかの社会保険とは異なり、複数就労時は主たる賃金を受ける雇用関係のみが加入対象となり、兼業先は雇用保険に加入ができません。その結果、兼業先のみ失業した場合は、その部分の失業手当などを受けることができません。  一方で、二〇二二年一月から六十五歳以上に限定して試行中のマルチジョブホルダー制度という仕組みがあります。この制度は、二つの雇用の労働時間を合算して二十時間以上となる場合、雇用保険に加入することができるものです。労働政策審議会において、労働側委員は、この制度の検証と対象の拡大に向けた検討を行うべきことを述べてきました。しかし、その時点ではマルチジョブホルダー制度の利用者が累計二百十九人にとどまり、データが少ないため、引き続き施行後五年の二〇二七年をめどに検証することとなりました。この点、衆議院においては、早期に検証すべきという質疑に対して、施行後五年を目途に検証するとの御答弁でした。  政府におかれては、マルチジョブホルダー制度の利用者を増やすよう周知、広報に努めながら、施行後五年を待たずに早期にデータの収集や施行結果の検証を行っていただくことを要望します。その結果も踏まえ、兼業先を雇用保険の対象とすることを含めて、複数就労時の雇用保険の加入や失業の定義の在り方を労働政策審議会において議論いただくことが必要と考えます。  続いて、二点目です。  適用対象の拡大によって新たに被保険者となる週所定労働時間が十時間以上の短時間就労者について、労働政策研究・研修機構による調査では、雇用保険に加入したくないと回答している者も一定割合います。このような方も理解、納得して加入できることが重要です。  この点について、衆議院の審議では、加入のメリットを周知していくとのお答えがありました。実際にどの程度の負担増になるのか、モデルケースなどをお示しいただき、基本手当など失業時の給付だけでなく教育訓練給付や育児休業給付が受けられること、また、雇用調整助成金の対象となることで雇用維持につながることなど、加入のメリットを具体的に伝えることが労働者の納得感につながるのではないかと考えます。  このように適用拡大前の丁寧な周知を行った上で、適用拡大後に、実際に雇用保険加入を避けるための就労調整や就業形態の変更などの働き方の変化が生じていないか調査を行うことが重要と考えます。  三点目は、雇用保険の強制加入の対象から除外されている暫定任意適用事業についてです。  現在、農林水産業のうち、個人事業であり常時五人未満を雇用する事業については暫定任意適用事業とされ、雇用保険への加入は事業主の任意となっています。農林水産業は季節や天候などに左右されやすいからという理由もあると思いますが、近年、デジタル化や六次産業化が促進されており、農林水産業の働き方も変わってきています。また、農林水産業に興味を持ち、就職することを希望する若者に対して、雇用保険や労災保険の加入も含め、適切な就労環境を整備することは重要です。雇用者数で区別することの妥当性という観点からも、暫定任意適用事業を撤廃し、雇用保険適用に向けた検討が必要だと考えます。  以上、適用拡大に関連して申し上げました。  次に、教育訓練給付の拡充及び教育訓練休暇給付金の創設について述べます。  厚生労働省の能力開発基本調査などによると、自己啓発を行った者の割合は正規雇用の方に比べて非正規雇用で働く方の方が低いことや、企業によるオフJTの実施、教育訓練休暇制度の導入や利用が進んでいないという現状があります。  このような状況において、今回の雇用保険法改正などによる労働者個人への直接支援の拡充は、働く人自身による教育訓練やリスキリングの実施に一定の効果はあると考えます。しかし、雇用形態にかかわらず教育訓練のための時間を確保する意識を社会全体として醸成していくためには、まずは労働者を雇用している企業が非正規雇用の方を含む全ての労働者を対象に教育訓練の実施を推進していくことが重要であり、そのための支援が引き続き必要と考えます。  特に、中小企業などにおいては、リスキリングにより労働者の知識、技能が向上するとせっかく育成した人材が流出してしまうことを懸念しリスキリングに消極的になっているという声も聞きますが、むしろ人材育成に力を入れ、従業員一人一人に成長の機会を提供する姿勢を中小企業の魅力としてアピールすることも重要ではないかと考えます。  このような前提の下、雇用保険における教育訓練給付を効果的なものとするためには、法案で示された専門実践教育訓練の追加給付の要件である訓練受講後の賃金上昇がベースアップや定期昇給などによるものではなく訓練受講の結果であることを確認する方法の検討や、教育訓練の指定講座ごとの効果検証に基づく検討が引き続き必要と考えます。  また、教育訓練給付の指定講座は、地域や類型、科目により講座数の偏りがあります。例えば、専門実践教育訓練において、東京都では五百五十一講座あるのに対し、山梨県や鳥取県では六講座しかありません。同様に、専門実践教育訓練の類型や講座の科目においても偏りがあります。なぜこのような偏りが生じてしまうのかきちんと実態把握をした上で、講座ごとの効果検証と検証に基づく指定講座や基準の見直しの検討が必要だと考えます。  続いて、雇用保険の財源、国庫負担について述べます。  まず、基本的には、雇用保険の財源の在り方については、労使により保険料を拠出していることから、国庫負担と労使の保険料率との適切なバランスを当事者である労使が入る労働政策審議会で十分に議論し決定することが重要であると考えます。その際、雇用の維持、安定という雇用保険制度の趣旨を踏まえ、適正な収入と支出についても十分な検討が必要です。  こうした認識の下、三点申し上げます。  まず、今回の法案の介護休業給付に係る国庫負担を引き下げる暫定措置の二年間の延長についてです。  衆議院における審議では、令和九年度以降、安定財源を確保した上でできるだけ速やかに廃止するとのお答えがありました。国として仕事と介護の両立支援を推進しており、実際に受給者数や支給額が増加していることなど、介護休業給付の重要性が増していることを踏まえれば、介護休業制度全体の内容も含めた議論を行い、安定財源の確保や、二年後を待つことなく、暫定措置の廃止に向け労働政策審議会において検討を進めていただきたいと考えます。  二点目は、雇用保険の目的を超えるような施策の財源の在り方についてです。  雇用保険の主たる目的は、労働者の生活及び雇用の安定を図ることです。人への投資やリスキリング強化支援を目的とした教育訓練給付の拡充の施策については、本来の雇用保険の目的を超える国の政策としての側面も強く、雇用保険財源以外の一般財源や関係する省庁の予算での実施も引き続き検討する必要があると考えます。  三点目は、国庫からの機動的な繰入れ規定についてです。  既に雇用保険法六十七条の二で国庫からの繰入れ規定が設けられており、受給者の急激な増加など、また雇用保険財政の急激な悪化が認められる場合に繰入れが可能となります。しかし、その判断のためには決算を待つ必要があり、繰入れまでの迅速さに欠けてしまいます。  そのため、社会経済の急激な変化が雇用に悪影響を及ぼす局面において、国を挙げた支援として雇用保険を活用する際には、財政状況の把握などを待たずに、労働政策審議会による判断の下、迅速に国庫から繰入れができる仕組みの導入の検討が必要と考えます。  最後に、育児休業給付の保険料率の見直しについてです。  今回、労働政策審議会における法改正の議論の終盤に、育児休業給付の国庫負担を一年前倒しで本則に戻すことと併せて、保険料率の引上げと弾力的な引下げ措置の導入に関する案が示されました。  先ほど申し上げたとおり、国庫負担や保険料率については、本来、労働政策審議会において十分な議論が必要であり、そのことは二年前の失業等給付の国庫負担の見直しの議論の際にも労働側委員が主張してきたところです。  この点については、労働政策審議会の雇用保険部会の報告書においても、弾力的な調整を検討する際には保険料率が労使に影響を与えることも認識し、財政状況のみならず、育児休業給付の現状や見通しに基づいた丁寧な議論を行うべきであると記載がなされました。このことを厚生労働省としては重く受け止めていただき、今後の審議会の運営や議論において真摯に対応いただくことが極めて重要と考えます。  今後の育児休業給付の財政運営について、厚生労働省の試算によると、令和八年度に単年度赤字となり、それを受けて令和十年度から保険料率を引き上げる必要があると試算されています。実際に引上げが必要となるまでの間、育児休業給付の現状や見通しに加え、雇用保険制度における育児休業給付の在り方についても、労働政策審議会において丁寧な議論をいただくことが重要と考えます。  以上で私の意見陳述を終わります。御清聴いただき、ありがとうございました。

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