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本多滝夫 ·龍谷大学法学部教授

参議院総務委員会(2024-06-11)での発言

第213回国会 ·第第18号号 ·5,840字
○参考人(本多滝夫君) ただいま紹介にあずかりました龍谷大学の本多でございます。  大学におきましては、行政法と地方自治法を担当しております。また、これは偶然ですけれども、各自治体の情報公開・個人情報保護審査会又は審議会の委員、会長などを務めていますけれども、今参考人として意見陳述していただいた東さんが政策参与を務めておられます滋賀県の日野町におきまして、私、審査会の会長を務めているところでございます。これは全く偶然でございます。  そのようなことで、今日の意見陳述は、DXに関して、審査会の会長もしているということもありまして、その観点からも踏まえて知見を述べさせていただきたいと思います。  それでは、私の意見陳述は、私の陳述書冒頭にございますように、地方自治法の一部を改正する法律案第十四章において創設される特例及び法律案第十一章に新たに取られる情報システムの利用に係る基本原則、そのうち二百四十四条の五第一項について意見を陳述いたします。  陳述書が御覧のとおりかなり長いのでございますので、先に結論を申し上げることにします。  陳述書をめくって、七ページの最後を御覧ください。  日本国憲法が地方自治を保障しているにかかわらず、その施行後半世紀にわたり、地方公共団体の執行機関を国の下級の行政機関と位置付ける機関委任事務制度により、国と地方公共団体の関係は上下関係にあるかのように認識され、地方行政の実務はそのような運用の下に置かれました。  二〇〇〇年に施行された地方分権推進一括法に基づいて行われた地方分権改革は、国と地方公共団体は対等、協力の関係にあることを前提とし、機関委任事務制度を廃止し、国の地方公共団体に対する関与を制限しました。  具体的には、現行の法第十一章に、国の関与について法定主義を取ること、関与を必要最小限度にとどめ、できるだけ関与の基本類型によるべきこと、公正、透明の原則を適用し、行政手続法に範を取った手続によって関与を行うべきこと、関与に関する国と地方公共団体との間の係争は裁判所を含む第三者機関によって処理されることといった原則を定めました。特に関与法定主義と関与必要最小限度の原則は、個別の法律において設ける事前の関与を大幅に制限し、国が関与をする場合には一般ルールである地方自治法の事後的な関与、是正の要求や是正の指示といったものですが、これによることを明らかにしました。  法律案第十四章が国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における一般ルールとして新たに定める特例関与は、現行の消極的な関与から即応性を重視した積極的な関与へと関与の在り方を根本的に転換し、国の関与を抑える関与法定主義及び関与最小限度の原則を地方自治法の内側から壊すものと言え、現行の第十一章において取られている関与の仕組みの例外を定めるにとどまらず、日本国憲法に定める地方自治の保障を具体化した上記の地方分権改革の考え方を否定するものと言えます。  このことにつきましては、下の概念図のところで、現行の第十一章における通常の関与と、それから、現下、法律案として審議されております新しい十四章で定められている特例関与の関係を示しております。御参考いただければ幸いです。  続きます。  また、地方分権改革の根拠となった地方分権推進法第二条は、地方分権の推進の理念を、地方公共団体の自主性及び自立性を高め、個性豊かで活力に満ちた地域社会の実現を図ることを基本として行われるものとするとし、地方公共団体における個別最適の追求を掲げていました。  法律案第二百四十四条の五第一項は、全体的な最適化の下で情報システムにおける地方公共団体の自主性を損なうことを助長するものとなり得るだけでなく、地方公共団体の行政運営全体の自主性をも損なう契機になり得るもので、情報システムの利用に係る基本原則を地方自治法に組み込むことは望ましいとは言えません。  それでは、以下、かいつまんで所見を説明いたします。一ページにお戻りいただければと思います。  なお、時間の関係でかなりはしょった説明になりますので、一体今どこを読んでいるかというのはちょっとひょっとしたら追い付かない可能性がありますけど、その点はちょっと時間の都合で御容赦いただきたいと思います。  それでは、一ページの下の方から少し申し上げます、下から二段目からでございます。  これは、特例関与との関係で現行関与の法制の仕組みについて簡単に説明しているところでございます。  国の関与は法律で定めることになっています。もっとも、法二百四十五条の三第二項は、国会が法律に国の関与を定めようとするときは、三号関与ではなく原則として関与の基本類型の中から選ぶよう義務付けています。少し飛ばします。さらに、法二百四十五条の三は、第二項から第六項までの規定において、自治事務と法定受託事務の区分に応じて法律に定めることができる関与の基本類型を限定しています。  その結果として、自治事務において国が用いることができる関与の基本類型は、一般に、助言、勧告、資料の提出の要求及び是正の要求になります。これに対して、法定受託事務において国が用いることができる関与の基本類型は、助言、勧告、同意、許可、認可、承認、二ページに移ります、指示、代執行といったように、自治事務におけるそれより広く認められています。  少し飛びます。二段目下ぐらいです。  関与の規定を見て分かりますように、自治事務における是正の要求にしろ、法定受託事務における是正の指示及び代執行にしろ、その要件は普通地方公共団体の事務処理に法令違反又は著しく不適正なところがある場合に限定されています。すなわち、権力的な関与は、普通地方公共団体の事務処理の適正さを確保するために行われる事後的なものに限定されているわけです。  このような事後的な関与では普通地方公共団体の事務処理の適正さを確保できない場合やそれにとどまらない必要性がある場合にのみ、それぞれの行政分野において必要とされる立法事実に照らして、国会は、上記の法第二百四十五条の三に定める原則にのっとって個別の法律において関与を設けることができるとされているわけです。  それでは、特例関与と従前の関与法制の関係について説明します。  法律案では、第十四章という新しい章を設け、特例となる関与の類型を定めています。本章に定める関与のうち、資料の提出の求め及び各種の指示は関与の基本類型に当たりますが、意見の提出の求め、国による応援の要求は関与の基本類型に当たらず、いわゆる三号関与に当たります。三ページに移っております。  また、是正の指示以外の指示は、法第二百四十五条の三によれば個別の法律で定めることとされているにもかかわらず、事務処理の調整の指示、生命等の保護の措置に関する指示、国による応援の指示といった指示が地方自治法という一般ルールに定められています。それどころか、補充的指示と呼ばれるものがありますけれども、その指示のように、一般ルールが個別法を補うことを明確にしています。言わば主客が転倒した法制になっております。  指示については局限されていますが、自治事務において用いることができます。しかしながら、閣議決定によって指示権を創出する法案第二百五十二条の二十六の五第一項に定める指示は、当該行政分野における必要性に照らして個別の法律ごと、すなわち国会の議決に基づいて創出される、法二百四十五条の三第六項で限定的に許容されている自治事務の処理に関する指示とは異質なものです。  法律案第十四章に定める関与は、現行の第十一章に定める一般ルールに基づく関与についての特例となるものですが、一般ルールの存在意義、すなわち個別法律による権力的関与の創設の抑制を形骸化するもので、特例に収まるものではありません。  それでは、次の特例関与の補充性について説明申し上げます。  補充的指示の補充性について説明申し上げます。  法律案第二百五十二条の二十六の五の立法趣旨は、第三十三次地方制度調査会の答申に基づいているというふうに繰り返し説明されているところです。個別法の規定で想定されていない事態にのみ用いることが許されるという趣旨で、答申ではこの新しい指示の類型に国の補充的な指示という名称を与えています。  少し飛びます。四ページ目の冒頭に移ります。  ところで、第三十三次地方制度調査会の専門小委員会では、個別法の規定では想定されていない事態には三つのバリエーションがあり得ると指摘しております。  一つは、個別法が存在しないが、国の安全に重大な影響を及ぼす全国規模等の事態が発生し、国民の生命、身体、財産の保護のための措置が必要な場合、②個別法が存在するが、対象としている事態以外の想定外な国民の安全に重大な影響を及ぼす全国規模等の事態が発生し、国民の生命、身体、財産の保護のための措置が必要な場合、③個別法が存在し、対象としている国民の安全に重大な影響を及ぼす全国規模等の事態は発生しているが、用意された指示権の要件に該当しない想定外の事態であるため指示権が行使できず、国民の生命、身体、財産の保護のための措置が必要な場合、このようになっております。  少し飛びまして、四ページの一番下のところから話を始めます。  この間の国会審議で政府参考人は、事態対処法等で定められている武力攻撃事態等への対応については、これは法律で必要な規定が設けられておりまして、本改正案に基づく関与を行使することは想定されていないものと承知しているところでございますと答弁しています。その答弁を額面どおり受け取れば、武力攻撃事態等は本項に定める指示を必要とする国民の安全に重大な影響を及ぼす事態には該当しないことになります。にもかかわらず、同政府参考人は同じ答弁の中で、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態から特定の事態を除外したものではございませんとも説明しております。  この答弁を整合的に理解することは私にとって非常に難しいところですが、頑張って考えてみますと、本改正案に基づいて関与を行使することは想定されていないとは、現行法では先ほど説明した③の場合はないという趣旨ではないかと思います。すなわち、特定の事態を除外したものではございませんというのは、なおも武力攻撃事態等には②の場合の余地があることを認める趣旨ではないかと思っております。  武力攻撃事態や重要影響事態において②の場合があり得るかといえば、私見によればあり得るし、現時点においても想定が可能な事態もあるのではないかと思います。仮にそうだとすれば、個別の法律である武力攻撃事態法や重要影響事態法の改正に取り組むのが筋で、政治的な困難が伴うからそれを回避して新たに地方自治法に設ける補充的指示でもって対処することは、関与法定主義を形骸化するものと言えます。  いずれにしましても、②の場合も③の場合も、想定されていない事態への対応としては個別の法律において定める指示につきバスケット条項を設ければ足りるとも言え、そうすることで通例の関与法制との同質性、連続性は維持されるのではないかと思います。そうしないのは、前述のように、そのような条項を個別の法律において設けることについての政治的な事情からか、それとも真に想定され難い①のような場合を本条の射程にしているからではないかと思われます。  時間の関係で、資料及び意見の提出の要求に関する特例関与の補充性については割愛いたします。  それでは、DXへの対応について御説明申し上げます。六ページ、下から二段目のところから説明申し上げます。  第三十三次地制調答申との関係に照らしますと、法律案二百四十四条の五第一項は、地方自治法が元々地方公共団体の事務処理に求めていた能率性、効率性の原則及び組織運営の合理化、規模の適正化の原則を情報システム仕様に適合させたものと見ることができます。  しかし、ここで注意しなければならないのが、答申が求めているのは、単なる個々の地方公共団体の情報システムにおける最適化ではなく、全体的な最適化という点です。  めくって、七ページの方に移ります。七ページ、情報システムの全体最適化が目指すもののところに移ります。  地方自治制度において全体的な最適化ないしは全体最適の用語を持ち出したのは、総務省が第三十二次地方制度調査会の準備研究会として設けた自治体戦略二〇四〇構想研究会ではないかと思っております。  二〇四〇構想研究会は、第二次報告で、新たな自治体行政モデルの考え方の一つとしてスマート自治体への転換を打ち出し、行政内部の情報システムについて、自治体ごとに開発し部分最適を追求することで生じる重複投資をやめる枠組みが必要であるとし、国全体での情報システムの標準化、共通化を通じて情報システム経費の軽減を唱えていました。  そして、その前提となる同研究会の基本的な発想は、これまでの人口拡大期には、独立した自治体における個別最適の追求が全体最適をもたらしたが、人口減少期を迎え、行政サービスの質や水準に直結しない業務のカスタマイズはかえって全体最適の支障となっているというところにあります。  また、同研究会は、第一次報告では、比喩的ではありますが、本研究会において議論すべきは、新たな自治体と各府省の施策、アプリケーションの機能が最大発揮できるようにするための自治体OS、オペレーションシステムの書換えであると課題設定をしています。  こうして見ますと、全体的な最適化は、地方公共団体における個別最適の追求、すなわち地方公共団体の自主性を抑えるための道具概念としての性格をも有しています。したがって、法律案二百四十四条の五第一項に定める最適化は、法二条第十四項及び同条第十五項とは必ずしも親和的なものではなく、逆に、全体的な最適化の観点からこれらの条項を解釈する契機にもなり得るのではないかと懸念されます。  以上でございます。どうも御清聴ありがとうございました。

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