○黒崎参考人 おはようございます。防衛大学校で国際法を研究しております黒崎将広と申します。
本日は、お招きいただき、誠にありがとうございます。
時間が限られておりますので、本日は、日本の能動的サイバー防御法制が国際法の模範事例となるためにと題しまして、早速お話に入らせていただきたいと思います。
ただ、まず初めに、これからお話しする内容は個人の見解であって、所属組織の見解とは全く関係がないものであることをお断りさせていただき、一学術研究者として公平を期しつつ、国会における建設的な議論に資することを目指して、僭越ながら私見を述べさせていただきたいと思います。
さて、今般の法案に対する私の見解でございますが、国際法の観点から申し上げますと、法案それ自体は、様々な問題についての熟慮と配慮が行き届いた内容を有しており、日本のサイバー安全保障法制の重要な第一歩であるとともに、国際社会における重要な模範事例となる可能性を有したものと評価することができると思います。このようにサイバードメインにおける外交、安全保障上の困難な問題対処を法制化するために御尽力されている関係各位に敬意を表したいと思います。
特に、プライバシーの保護とアクセス・無害化措置の問題につきましては、本国会では様々な懸念が提示されておりますが、その一方で、法案では、既存の国際基準を踏まえて抑制的なものになるよう慎重に工夫が施されていると評することができる点は、国際法の専門的見地からは強調しておく必要があると思います。
ただし、国際法からすれば、むしろ問題は、これが適切に運用され、そして、国際的な支持そして理解を得ていくためにはどうすればいいのかということにあると思います。実際、この点につきましては、有識者会議の提言でも、「意図せず、措置を行うことで達成しようとしていたものとは異なる結果に至った場合の対応についても十分検討しておく必要がある。」ということが示されております。
確かに、情報通信技術は日進月歩でありますし、また、世界の安全保障環境も急激に変化しているからこそ、他の分野に比して発展途上にあるサイバー分野の国際法もまた、そうした時代の変化に合わせて絶えず変わり得る、そういう認識を持ち、本法案とその実施がそうしたサイバー国際法の模範事例となるよう、国際社会に絶えず、平素から働きかけていかなければならないと考えます。
では、そのための課題とは何か。こうした問題意識から、これまでの国会審議でも議員の先生方が提起された主要な懸念も踏まえつつ、次のような課題を三つ申し述べたいと思います。
第一に、安全保障と人権保障の適正なバランスでございます。
国際法上、人権は、一般的に、安全保障などの正当な目的のために、必要な限りにおいて制約され得るとされています。ただ、そうした制約の中にあっても、今般の法案に目を向けますと、機械的情報に係る非識別化措置や、サイバー通信情報監理委員会の関与はもちろんのこと、特に、いわゆる通信の本質的内容や内内通信を機械による選別と分析から除外するという点で、本法案は、既存の国際基準に比してより抑制的になるよう配慮されていると見ることはできると思います。
もちろん、通信手段や安全保障の変化によってその国際基準は今後も変化し得るので、その動向を踏まえながら、日本でも、安全保障と人権保障、どちらも重要なものでございます、その適切なバランスの下、選別対象となる機械的情報の範囲やその選別基準を必要に応じて適宜見直し、その上で、日本の立場が国際的な理解を得られるよう、信用確保に努め、国際法を更に発展させていくことに貢献することが第一の課題として挙げられます。
同じことは、アクセス・無害化措置、特に域外の場合についても言えると思います。国会審議でも様々な懸念が指摘されているのは承知しております。理解できるところもあります。ただ、今回の法案では、禁止された武力の行使に至らないよう、十分な法的な歯止めがされていると考えます。これはもちろん憲法上の制約を踏まえてのことであると思いますが、他方で、国際法上、武力の行使について普遍的に合意された国際法上の定義はございませんので、日本の措置を武力の行使であるとして批判する国が、一般論としてではございますが、今後出てくる可能性は理論的には否定できません。
したがいまして、欧米主要国その他日本の立場に関心を持つより多くの国々の動向を把握しながら、日本の立場が抑制的な模範事例であるということを平素から辛抱強く対外的にも説明し、あらかじめ理解を得て、国際法を更に、日本を主導として発展させていくことが第二の課題として挙げられます。
ただし、他国からの理解を得つつ、日本の模範事例を通してサイバー国際法を発展させるといいましても、そのためには、本法案の実施を通じて、自国が国際法を誠実に履行する体制をしっかり構築しておかないと意味がありません。
この点につきましては、外務大臣やサイバー通信情報監理委員会が重要な役割を果たすよう規定されておりますが、しかし、これらに全て任せておけばよいという姿勢では不十分でしょう。専門官庁はもちろん、実際の対応に当たる現場の警察官や自衛官の方々が主体的にサイバー国際法の履行確保の構築を、組織内で構築することはもちろん、国会につきましても、国際法で適切に評価できる能力を有しておくべきだと考えます。
更に言えば、国民レベルでも、国民の生活、安心を確保する日本の能動的サイバー防御の各種実施措置が国際基準に照らして適切かどうか、日本は国際社会から見て変なことをしていないのだろうか、大丈夫なんだろうか、そういうようなことを自らの問題として位置づけ、様々な機会を通じて見ていくということも重要ではないかと思います。
そのためには、これらの人々が、それぞれの役割に応じて必要な国際法の知識を正しく知り、習得し、サイバー攻撃の脅威に備えておくことが不可欠であります。サイバー対応能力の向上のための人材育成、これについてはつとに強調されるところだと思いますが、サイバー国際法を遵守し発展させる能力を支える日本の人材確保もまた、広い意味でのサイバー対応能力の一つとして今後位置づけられるべきと考えます。
そして、サイバー分野における日本の外交、安全保障政策を広く支える人材確保や国民への普及に広く貢献するためにも、大学を拠点としたサイバー国際法の研究、教育もまた、日本のサイバー対処能力の構築のための官民連携の一つの在り方として、私個人としては重要であると考えております。この点で、日本のサイバー国際法の専門家の数は、他国に比して十分であるとは言えず、欧米主要国並みを目指すべきと考えます。
以上が、人材面の課題ということで、第三の課題と位置づけさせていただきました。
最後に、国家安全保障戦略でも、国際法に基づく国際秩序を維持、擁護することが我が国の国益であるとうたわれておりますように、国際法の遵守、発展は日本の国益であるということを改めて強調させていただきつつ、以上に提示させていただきました課題が、国会における本法案審議の少しでも参考になることを願い、私の話を終わらせていただきたいと思います。
御清聴ありがとうございました。(拍手)
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